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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-032 考えるほどにゾンビは不思議な存在だ


 夕暮れが近付いてきた。

 4回目の呼び掛けを行ったが、やはり反応はない。

 スピーカーとアンプをプラケースに仕舞いこんで軽く荷造りをしておく。

 これからは集まってきたゾンビを倒すことだけを考えれば良い。


「だいぶ倒してはいるんじゃが、150体前後とはのう……」


「仕方あるまい。何といってもボルトアクションの猟銃だからなぁ。これの上位が軍の使っている狙撃銃だろう? 爺さんの持ってる奴だ」


「まぁ、狙撃は相手を沢山倒せば良いということでは無いからのう。目標を確実に倒すことが使命ではあるんじゃが」


 1体ずつ確実に倒しているってことか。それに比べると俺はたくさん倒そうとしているんだよなぁ。おかげで無駄玉も多いんだけど、もう少し良く狙いを付けてみるか。


 そんな話を軍のレーションを頂きながら聞いている。

 夜間戦闘に備えて、駐車場を照らすLEDライトが3つ準備されていた。

 バッテリーで使用するみたいだけど、ウイル小父さんの話では一晩中点灯させることができるらしい。

 俺の方は、ウインチェスターのバレルとパイプマガジンの溝を利用してマグライトをテープで留めてあるから、この明かりが頼りなんだよね。

 近距離だけで十分と言われているから、これで十分だろう。前回はこれより小型のLEDライトを使って銃撃していたぐらいだ。


「クリップ3つで一休みといこう。サミーも無理はするなよ。それと、あの扉に注意しといてくれ。ガラクタで塞いであるとはいえ、ゾンビは力があるからなぁ」


「了解です。でも、扉は溶接してあるんですよね?」


「一応はな。だが、それぐらいで安心するようでは、戦場で生き残れないぞ。戦場では予想外の事が、いつでもどこでも起こるんだ」


 ウイル小父さんの話を真剣な表情で聞いているのは現役兵士の2人だ。ライルお爺さんは苦笑いを浮かべている。

 そんな事態に何度も遭遇したことがあるってことかな?


「戦場で信頼できるのは、自分の分隊だけじゃな。場合によっては味方の分隊が他の分隊を囮にしないとも限らないんじゃ」


 ライルお爺さんが苦笑いを浮かべたまま呟いている。そんなことが何度もあったということかな?

 それもなぁ……。味方同士一丸となって、というわけにもいかないのが戦場ということなんだろう。


 ウイル小父さんが腰を上げたのを合図に、俺達も腰を上げる。

 先ずは手榴弾での攻撃だ。後方に下がって様子を見てからにしよう。

                ・

                ・

                ・

 深夜0時に銃撃を終える。

 明日の朝まではなるべく音を出さないようにしないと、駐車場やハンタークラブの建物の中に入ったゾンビが姿を消さないからなぁ。

 でも、姿を消したゾンビは何処に行くんだろう? どこかにゾンビが集まるような場所があるんだろうか?


「これで俺達の仕事は終わりだが、山小屋に戻るまでは油断しないでくれよ。下にはたくさんゾンビが蠢いているんだから、何が起こっても不思議じゃない」


「何度か扉に耳を付けてみたんですが、音はしてましたけど上にはやってきませんでしたね」


「不器用ってことかもしれんぞ。すでに死んでいるんだから知恵があるとも思えん。ガラクタで塞いだだけだが、それを越えられないということになるな」


「玄関の扉を無理やり開けたのをみましたよ。かなり力はあるんでしょうが、知恵は無いということですか」


 俺の一言が呼び水になったようで、コーヒーを飲みながら話に興じる。

 それに、ゾンビは何故ゾンビを襲わないんだろう?

 ちょっと不思議なんだよなぁ。どうやって生きている人間とゾンビを区別しているのか分からないけど、そこには知恵というか判断を下すだけのものが無いといけないんじゃないか?

 匂いかな? それなら襲われてゾンビになるまでの間に食い尽くされてしまいそうだ。

 噛まれてからゾンビになるまでの時間は早くて数時間、遅い場合は1日以上経ってからになるようだ。

 その差がどうして生まれるのかも疑問ではある。

 死んでいるのに動く不思議さに比べれば、小さなものかもしれないけどね。


 俺の疑問を話すと、皆が感心して聞いてくれた。

 それほど大きな声で話しているわけじゃないから、駐車場のゾンビには聞こえないと思うんだけどね。


「言われてみればその通りってやつだな。それにゾンビの眼を見たか? 濁った眼をしているから視力はあまりないんじゃないかな。深い霧の中で周囲を見ているようなものだと思うんだが」


「それだから音に敏感なんだろうと思うぞ。耳で相手の動きを感じるんじゃないか」


「俺もサミーと同じことを考えていたんだ。ゾンビはゾンビを襲わない。それが分かれば良いんだがな。……ひょっとして、匂いか?」


「匂いと言うより、ある種のフェロモンのようなものじゃないか? ミツバチは同じ巣箱のミツバチを襲わないだろう。あれは女王バチのフェロモンが付いているか、付いていないかで判断していると聞いたことがあるぞ」


「ワシ等人間には分からん匂いのようなもの……、と言う事じゃな。ゾンビが嚙みつくことで、そのフェロモンが相手に移るということかのう」


 安全な後方でそんな研究を、大勢の科学者が行っているんだろうなぁ。

 俺達に出来ることは、それほど多くは無い。

 とりあえず頭部を破損することでゾンビの動きを止められる。

 死者は土に還るもの。その摂理を離れた存在だからなぁ。倒したゾンビを放っておけば朽ちてくれるかと思ってたけど、そうでは無さそうだ。

 たまに誰かに倒されたゾンビを見ることがあるんだけど、まるでミイラのような姿で横たわってたからなぁ。

 焼いて灰にしたなら土に還ることができるだろう。

 でもそれをやるためには、まだまだゾンビを倒さないといけない。

 気の長い話に思えてきたけど、国を亡ぼすほどの脅威であり現在も進行中だ。

 少なくとも、呼びかけや目覚まし時計の音でゾンビが集まらなくなるまでは、放っておくしかないないだろうね。


「交代で寝るぞ。最初は爺さんとサミーに頼みたいが?」


「構わんぞ。サミー相手に昔話でもしてやるさ」


 それなら直ぐに時間が過ぎてしまいそうだ。ウイル小父さんに大きく頷いて了承を告げる。


「そうだなぁ。5時まで頼めるか? 迎えが来る頃に起こせば良いだろう」


 4時間ほど寝られそうだな。

 俺達がもう1度頷くのを見て、3人はブランケットに包まって直ぐに寝息を立て始めた。かなり気疲れしていたのかもしれないな。


 ライルお爺さんに顔を向けると、俺の施栓に気が付いてニヤリと笑みを浮かべる。


「そうじゃのう……。何をきかせようかのう」


「それなら1つ、あちこちの地名について教えてくれませんか? イギリスにも似た名前があるようですけど」


「似ているというより、それにあやかってということじゃな。『ニュー何とか……』という名前は間違いなくその名がイギリスにあるぞ。最初の移民がイギリスからじゃからのう」


「昔はイギリス領だということですか?」


「最初からアメリカという国では無かったんじゃ。独立してアメリカ……、ワシ等は合衆国と言っておるがのう……」


 いわれを語ると、結構脱線しながら教えてくれるんだよなぁ。中には、その街を作った人物の名前だったり、先住民の呼んでいた地名をそのまま使っている場合もあるようだ。


「まぁ、重複しなければ問題は無いじゃろう。それとじゃ。国道にもおもしろい取り決めがあるんじゃ……」


 本線と支線の違いってことかな?

 結構色々とあるんだな。

 たまに擁壁沿いに周囲を監視に出掛ける。静かになると、少しずつゾンビが減っていくのが分かる。

 倒れたままのゾンビは、もう動かないと信じたいところだ。


「だいぶ減ったのう。前もこんな感じじゃったか?」


「そうですね。0時に銃撃を止めて、目覚まし時計が鳴る頃には照っているゾンビはどこかに行ってしまいましたよ」


 コーヒーばかり飲んでは交代した後で眠れないということで、今はココアを飲んでいる。

 甘さが結構効いている。角砂糖を2個入れただけなんだけど、お湯を注げば出来上がるというココアの粉末に、最初から砂糖が入っていたみたいだな。

 

 話が銃の歴史に及んだところで、東の空が白み始めた。時計を見ると、5時15分前だ。

 最後に一服しながら、残ったココアにお湯を注いで飲み干す。


「そろそろ起こしてやろうかのう。その前に……。なるほど、立っているゾンビが全くおらんな」


 ライルお爺さんが腰を上げて駐車場を見ながら呟いた。

 俺は他の3方を急いで見て回る。やはりゾンビの姿が消えているんだよなぁ。だが、建物の中にまだ残っているかもしれない。それは目覚まし時計に期待するしかなさそうだ。


 ウイル小父さん達を、ライルお爺さんが叩き起こしたところで、簡単に状況をライルお爺さんが話してくれた。


「そうか。やはり消えるってことだな。バリー達への報告は俺達がやるから、ゆっくり休んでくれ」


「そうさせて貰うぞ」


 今度は俺達がブランケットに包まる番だ。

 明るくなってきたからテンガロンハットを顔の上に乗せる。これなら何とか眠れそうだな……。


 体を揺すられて、目が覚めた。

 そのままブランケットに包まろうとしていると、今度は頭を叩かれた。


「寝起きは悪いようだな。まぁ軍に入れば直ぐに矯正して貰えるだろう。バリ―達が来ているぞ。撤収だ!」


 ウイル小父さんの言葉に、現状を理解して飛び起きた。

 隣で寝ていたはずのライルお爺さんの姿が見えないんだよなぁ。キョロキョロ周囲を見ている俺に、とっくにトラックに下りているとウイル小父さんが教えてくれた。

 俺だけ最後まで寝ていたってことか!

 急いで、荷物を持つとハシゴを降りてトラックの荷台に乗る。

 最後に下りてきたのはウイル小父さんだった。忘れ物がないことを確認してきたらしい。

 後部座席から、ニックが暖かいコーヒーとサンドイッチを手渡してくれた。

 ありがたく頂いたけど、ちょっと最後が締まらなかったなぁ。


「だいぶ倒したようだね」


「貰った銃は中々良い品だったよ。もっとも、駐車場のゾンビはウイル小父さん達が倒したゾンビだけどね」


「あの猟銃を使ったんだろう? ボルトアクションだから1体ずつじっくり倒したんだろうな」


「今度は、ニック達だからね。頑張ってくれよ!」


「ああ、任せとけ」


 俺達の会話の中、トラックは山小屋に向かって走り出した。

 今日は、昼食を終えたら昼寝を楽しもう。


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