H-291 ウイル小父さん達への報告
ドーバー基地に5泊し、1月2日にデンバー海兵隊少将と共に飛び立った。
デンバー空港でエディ達と合流し、1月3日にヒューストンに向かうことになる。
統合作戦本部での会議は、どちらかと言うと先行きを不安にするものばかりだった。
それでも前に向いて進もうとしているんだから、この国の将来はやはり明るいんじゃないかな。
ゾンビとの戦いがいつまで続くか分からなくなってきたけど、場合によっては堅固な壁を作ることで当座の住み分けを行うのも視野に入れるべきだろうな。
やはり安全な場所で子供達を伸び伸びと育てたいところだ。
年越しの夜は、大統領夫妻と夕食を共にすることができた。是非とも、と大統領夫人に誘われたら俺達に断ることは出来ないよなぁ。
オーロラを連れて3人でお邪魔したら、お子様連れの客が俺達以外にも2組いた。文系のお役人家族のようだから、ちょっと場違いな思いで食事を共にしたんだけど、やはりゾンビとの戦の様子が気になっているようで色々と質問されてしまった。
とりあえず上手く行ったゾンビとの戦いを説明してあげたんだけど、アメリカ軍が全力を出せばすぐにゾンビを倒せると思い込んでいるんだよなぁ。
「長く続きそうです」と話したら、士官がそんな弱気では勝てる戦も勝てないと言われてしまった。
そうは言ってもねぇ……。
「サミー君は私が知る中で一番勇敢な兵士だよ。何といっても、グリズリーと白兵戦をしたんだからね。その戦利品がオリー君のイヤリングなんだろう?」
大統領に言葉に市が笑いで頷いたんだけど、誰から聞いたんだろう?
ひょっとして、無我夢中で倒したけれどその後失神したのも聞いてるのかな。
「それなら尚の事、頑張って欲しい。グリズリーから比べたらゾンビはオオカミ程度に思えるんだがねぇ」
「ゾンビ相手では怪我をすることも出来ませんし、相手の数が多いんです。でも諦めることはしませんよ。オーロラにはロッキーの山々が見守る大地で伸び伸びと育って欲しいですからね」
「まるでネイティブの方々の思いを持っているのですね。私はグランドジャンクションの出なんですよ。そこで知り合ったネイティブの御老人がいたずらした私達に『誰も見ていなくともロッキーの山々が見ている』と言って諭してくれました」
「マリンがお転婆なのは、君の遺伝ってことかい? でも、サミー君の部隊がグランドジャンクションを開放したらしいから、私達も老後はロッキーの中で暮らしてみたいね」
そんな話で和んでいたんだよね。
平原や海岸沿いの暮らしも良いと思うんだけど、やはりロッキーはいつ見ても絶景だと思うな。
デンバー空港に着く前に、少将から頼まれたのは4月までヒューストンにいて欲しいということだった。
「春になれば、いよいよソルトレイクの攻略を開始することになるだろう。核を1発落としている。苦労はすると思うが鉄路の安全を確保してくれ」
「了解です。ソルトレイクからゾンビを駆逐するには2年では足りないでしょう。ですが機関車の安全な通過ができるまでなら今年中に何とかできると考えております」
「そういってくれると助かるよ。こちらもサンフランシスコを安全に機関車通れるまでにはしておきたい。それで兵站基地の資材を大陸中央、そして西に運ぶことができる」
大陸中央部のゾンビの駆逐はデンバーが拠点になるということになるようだ。そうなると、ヒューストンとデンバーの鉄道路も確保することになるんだろうから、気の長い話になりそうだ。出来ればデンバーを経由しないで西のサンディエゴまで燃料を運ぶ路線を作りたいところだな。
ロッキーは真冬だから、俺達の部隊と橘さん達が空港で合流するのかと思っていたら、ウイル小父さんとライルお爺さんが俺達を見送りに来てくれていた。
空港の複合ビルにある会議室で、統合作戦本部での出来事を話すことになったんだが、ほとんどレディさんが話してくれたから、隣で相槌を打つだけになってしまった。
やはり皆の関心事は、ノーススターの作戦状況と課題点ということになるんだろうな。
アメリカ以外のあちこちの現発が故障したらしいとの話を聞いて、大きく目を見開いていた。
「長く燻り続けるぞ。少なくとも数百年は人が近付けまい。アメリカにだって、それなりの数はあるんだからなぁ。それがいつ事故を起こすか分かったものじゃない」
「全く困ったことになったわい。それで原潜による偵察ということじゃな? ついでに資材を調達できそうな基地を巡って来るとは、中々考えておるな」
「ここでも測定した方が良くないか? 何台か線量計があったはずだ」
「そうだな。ついでにサンプリング装置を使って、ダストの測定も行おう。山小屋とデンバー空港の2か所だけでも統合作戦本部はありがたがるに違いない」
デンバー空港も雪景色だからなぁ。ゾゾンビラッシュの可能性はほぼ無い状態だから、ちょっとした気分転換みたいな仕事になるんじゃないかな。
それにあちこちに核を落としているから、その残滓と区別がつかない可能性が高そうだ。
「それよりも、先程のレディの話の方が気になるところだ。早ければ3年というのは、それほど銃砲弾の消耗が激しいということになるのか?」
エンリケさんの問いに、レディさんが小さく頷く。
「我々もかなり使ってはいるが、サミー達の戦いを見たり聞いたりしているから、他の部隊よりは遥かにましだろう。ゾンビを見ると、オートで連射してしまう兵士が多いようだな。セミオートで確実に頭部を狙った方が早く倒せると思うのだが、弾幕を張るのはアメリカ軍の特徴でもあるようだ。銃弾の製造も始まっているようだが、実戦部隊に回すにはもう少し品質を上げる必要があると言っていた。数年後に安定した高品質の銃弾を製造できないと、いろいろと支障出てくるだろうな」
「でも、海兵隊の秘密を中将は明かしていませんでしたよ。ペンデルトンの秘密は今でも保ったままです」
「ペンデルトンには海兵隊の備蓄があることは誰もが知っているからなぁ。その量が公式の数倍だというんだから、笑ってしまうよ。そうなると、最後まで戦うのは俺達海兵隊になるかもしれんぞ」
「ペンデルトンの備蓄を使わなくとも、ロッキーの家々で回収した猟銃や銃弾もある。デンバー攻略に失敗したとしても、グランビーやグランドジャンクションは我等で守れるはずだ」
それが最後の砦になりかねないのが現状でもあるんだよなぁ。
ところで、ホーソーン基地にはどれだけ備蓄があるんだろう? 何度か輸送機で運んではいるようだけど、1万t規模であるのかな?
それと気になる点がもう1つ。備蓄基地を一か所にするのはいくら何でも問題があり過ぎる。もうなんか所かに集めているようにも思えるんだよなぁ。
案外、シャイアンマウンテンの地下施設辺りにため込んでいそうな気もするんだけどねぇ……。
「しばらくは南の陸軍基地と北の空軍基地から銃砲弾は運べるが、燃料が問題だな」
「航空燃料は空港にたっぷりとあるから、当座は問題ないだろう。それに、航空燃料を使っているのは連絡機ぐらいなものだ。デンバー市内の爆撃はレシプロの双発機だからな。1回の出撃でドラム缶1本も使わん。それに、ガソリンはタンクローリー4台とドラム缶数十本は確保したぞ。高速道路の車はまだ手つかずだ」
エンリケさんにウイル小父さんが在庫の状況を教えているけど、国際線を運行していただけにジェット燃料はたっぷりあるってことかな。
となると、俺達の部隊の当面の課題は、食料自給と銃砲弾の調達ということになりそうだが、オスプレイが使えるうちなら、2つの基地から当面運んで来れるんだよね。
「そういえば、ヒューストンで気になることが起きている。ゾンビが海岸で貝を取っているようだ。食料とするなら問題は無いのだろうが、サミーが場合によっては骨や表皮に変化が起こりかねないと心配していた。明日ヒューストンに向かう事を考慮して、M14DMRを10丁運んで来た。それと石油プラント内での戦闘に備える為にクロスボウとボルトも用意している」
「確かに石油臭い場所で銃撃はしたくない。それでクロスボウということなんだろうな。たっぷりと練習させる必要がありそうだが、基本はライフルと同じと考えれば良いだろう。
俺達もデンバーの精油施設を攻略しなければならん。エンリケ、俺達も用意しておいた方が良さそうだな」
「単発なのが問題だが、音は出ないし火花も散らん。ボルトは回収すれば何回か使えるはずだ。住宅や商店から調達した武器を調べておこう。無ければ作らねばならんな」
「その時はライル爺さんに頼もう。器用な爺さんだからなぁ。それと、M14を使うということは、5.56mmでは倒せないと予想しているのか?」
「その可能性があるなら、事前に用意しておくのが海兵隊だ」
レディさんの言葉に、ウイル小父さんが何度も頷いている。
「基地からの資材調達時に、俺達も用意しておいた方が良さそうだ。どれだけ調達できるか分からんが、上手い具合に猟銃は7.62mmが使える」
「ボルトアクションでは、ラッシュが辛くなるぞ。なるべく探すように言っておくよ」
多分ペンデルトン基地から、今後の対応に関わる指示書も来るのだろうが、その前に伝えておけば慌てずに済むだろう。
急にM14を用意するように言われても、調達できない可能性だってあるからね。
会議の概要を報告したところで夕食を食堂で取る。
夕食後はレディさんが、皆を集めてくれたからワインを飲みながらヒューストンの攻略について状況と今後の予定を話すことにした。
やはり全員分のM14DMRとクロスボウを用意したと聞いて、驚いているんだよなぁ。
石油プラントのあの匂いを嗅いだら、絶対銃を撃てないと思うんだけどねぇ……。




