H-287 課題と対応
「フリーダムについては順調と考えて良さそうだ。冬季はさすがに南進は出来まいが、先行偵察とエアカバー用の民間飛行場の奪回まで進めているのであれば、来春はいよいよメイン州になりそうだな。ところで第2線の状況は?」
「私が第2線を指揮しております元陸軍大佐アービンです。部隊規模は3個大隊。3つの南進部隊の後方50kmを進んでおりましたが、さすがはフリーダムに集った精鋭ばかり、半年間で我等が倒したゾンビは合計21体のみです。本体と我等の間を飛行船が遊弋しゾンビの捜索を行っておりますので、発見次第我等が倒す手順で進んでおります。現状での兵士の損耗はありません」
ほう……。皆が感心した表情でアービン元大佐を見ている。
まだまだ現役で活躍できるんじゃないかな。
飛行船によるゾンビ捜索は第2戦の後方についても行っているようだが、いまだにゾンビを確認していないところを見ると、これで十分なのかもしれないな。
続いては、レイルロードだ。
海軍主導だから太平洋艦隊を率いている海軍少将が状況報告を始める。
太平洋から大西洋に繋がる鉄道路の確保だからなぁ。これも大変な作戦にはなるんだが、一番の課題はバンクーバーになる。
なんといってもアメリカとカナダのアジア貿易の要ともなる港だからなぁ。人口も多いし鉄道路が都市の中心部を走っている。
それに、アメリカの大都市と異なりカナダでは都市への爆撃をあまり行っていないから、存部の数がかなり多いとのことだ。
急遽、バンクーバーとバンクーバーから東の鉄道路に区分して作戦を進めているらしい。
「バンクーバー都市部については、大統領閣下の御尽力により、線路左右1マイルの破壊を許可頂きましたので、現在爆撃と砲撃を継続中です。積み出し埠頭を含む港の一部を確保いたしておりますが、ゾンビのラッシュを度々受けておるところです」
「資材不足にはならんのか?」
「サンディエゴを確保いたしましたから、3年は戦えます。場合によってはハワイから運ぼうと考えておりますが、輸送船の稼働状況を鑑みると来年中に1度運んでおくべきかと」
「ハワイ、グアムの資材使用を許可する。運ぶだけで無く、生存者の確認も行ってくれよ」
「了解です」
さらに使える資材が増えるということなんだろうけど、問題はその量だろうな。さすがに日本は遠いか。沖縄基地ならたくさんありそうに思えるんだけどね。
次は俺達海兵隊が進めているロックフォート作戦だ。
今年の成果としてはデンバー空港の奪回が一番大きな功績になるんだろうな。
冬季に進めているのはソルトレイク攻略に向けての爆撃と、サンフランシスコから東に延びる鉄道路の確保を図るための砲爆撃だ。
「道路を使った兵站基地奪回を2度失敗しておりますから、今回の作戦は同じ過ちを繰り返すことが無いよう慎重に進めております。遅々たる進捗ではありますが来年中にはシェラネバダ山脈を越えることが出来ると推察しております」
「サンフランシスコからデンバーまでの鉄道路が使えれば、平原地帯の攻略が可能となるだろう。武装偵察部隊をいくつか引き抜いてしまったのも気の毒ではあるのだが、彼らの所属は君達の部隊だ。ある程度先が見えた段階で復帰させることが出来るだろう。それまでは現状の体制で進めてくれ」
「了解です。とはいえ彼らが必要なのはサンフランシスコでありソルトレイクにデンバーです。部隊派遣を長期化せずに2か月程度に区分して頂ければと考える次第」
「それは最後に調整したい。今回の作戦においても特殊部隊が色々と活躍してくれている。彼らを一元管理して運用したいところだが……、武装偵察部隊を特殊部隊と位置付けして良い者やらと考えてしまうよ。まぁ、それは状況報告を聞いてからで良いだろう。最後はオイルストライクだな」
「オイルストライクも順調に推移しているわ。メイポート基地は奪回できたし。駐留部隊がジャクソンビル近郊の製油所周辺を攻撃しているわ。攻撃は双発セスナを転用したコイン機だから燃料消費が少ないのが良いわね。既にタンカーを2隻をシーバリーズに向かわせたけど、来年も現状の2倍程度は輸送できるでしょう。
来年は、いよいよヒューストン石油基地の奪回を始めるけど、順序としてはギャル・ベストン島近辺から始める予定。現在は島の北部のペリカン島とギャル・ペストン島のゾンビ密集地区を砲撃しているわ。この砲撃で海軍大学は瓦礫に変わってしまうけど、将来は記念碑位は立てたいところね。砲弾と燃料は、途中の基地から運べたから砲弾は十分にあるわよ」
海軍大学を破壊したと聞いて、一瞬どよめきが上がったけど直ぐに諦め顔になった。
マリアンさんだから仕方が無いと思ったのかな? 案外良くない成績を付けられたからその仕返しなんてことは無いと思うんだけど。
「あの大学には思い出もあったのだが、ゾンビの巣窟であれば仕方あるまい。その方向で対処して構わん。部隊の人的消耗が一番の痛手だからな。それを防げるのなら、多少の破壊は黙認せざるを得ないだろう」
本部長の言葉に、マリアンさんがうんうんと頷いているけど、旦那さんがジト目で見てるんだよなぁ。やはり性格もしくは大学時代の個人的な恨みがそうさせたに違いない。
各作戦を担当する指揮官達からの報告が一段落すると、丁度昼食時になる。
サンドイッチが運ばれ、コーヒーを飲みながらの雑談が始まる。
皿に4つ乗せられたサンドイッチは野菜サンドに卵サンド、それにハムサンドだった。
量が少ないから、後でカロリーバーを齧ることになりそうだ。
机上業務が主体だから、これで十分なんだろうか? 少なくとも前線でこれが出て来たなら、不満たらたらになることは間違いないだろう。
「それにしても武装偵察部隊の連中の逸話には、いつも驚かされるんだが……。その顔の傷を見る限り、現実に起こったということなんだろう? だがナイフ1つでグリズリーを相手に出来るのか?」
「出来たんでしょうなぁ。そのグリズリーの爪を娘がイヤリングにしているのを見ると、かなりの大物の様です。ですが、私なら銃を使いますよ。そこまで無謀ではありませんし、自分の実力も分かっているつもりです」
「確かに、知らせを聞いて驚いたよ。ここで1つ、統合作戦本部長からの命令を伝えねばならん。サイカ中尉については今後の熊狩りを禁止する。これは熊の目撃情報のあった区域での他の狩りについても同様とする。以上だ!」
「謹んで拝命いたします!」
席を立って敬礼をしながら答えたから、会議室に大笑いが広がってしまった。
「大型のグリズリーをナイフで倒したのだから、ある意味偉業を達成したとも言える。これでロッキーでは一人前の男と言えるんじゃないのか? それなら次のグリズリーを倒さずとも良さそうだ。獲物は熊だけではあるまい。他の狩りで腕を磨くことだな」
ジョンソン少将が憐れむように言ってくれたけど、そうなると鹿狩りということになるんだろうな。でも、まだ狩ったことが無いんだよなぁ。
俺を肴にして盛り上がっているんだけど、このまま推移するんだろうか?
時計を見ると13時5分前だ。
ちょっと心配になってきた時、本部長が大きな声を上げる。
「さて、午後の会議を始めよう。先程の報告で各オペレーションの状況については理解できたと思う。だが成果の報告であって、課題についての話が無かったのは、それは別に報告して欲しいとあらかじめ伝えておいたからに他ならない。
それでは課題を聞こうか? 順不動で良いぞ。現在は課題でなくともそれが生じる可能性が高いと見るべきだろうから、課題はある意味共通していると考えるべきだ」
「さて、誰が口火を切ってくれる?」
「なら、私からで良いでしょう。既に報告書は送っておりますが、サミー中尉が予言した事象を確認しました。ゾンビ同士が争う等、当初は考えられませんでしたが殴る蹴る、噛みつく……果ては何処から調達したのか鉄筋まで使っておりました。相互に投射武器を持っておりますから、正しくローマ時代の戦のような有様です。その結果ですが、意外なことにランチェスターの二次法則に結果は近似しておりました。我等は結果を見定めて、敗者を全滅させた次第です」
「それは、私も読んだんだが敗者を叩いた理由が分らなかった。たまたまと言うことではないはずだ」
「その理由は、私から話そう。私も疑問に思い、生物学研究所を訪ねたのだが……」
マリアンさんに、生物学研究所に報告書を送っておいて貰って良かった。急に、本部長が乗り込んできたなら、その要件に戸惑ってしまっただろうからね。
「我等なら多数が残った方を叩くだろうが、次の戦で勝つために進化する可能性があるとなれば、敗者こそ危険な存在ということになるだろう。大都市が近接している場合なら、ゾンビ同士の戦が今後起こる可能性が高いということだった。住民数が10万をこえる都市、その都市が100km程度の距離に2つ程ある場合はゾンビ同士の戦を考えねばならん」
「そうなると、大西洋沿岸に沢山ありそうです!」
「そうだ。都市への爆撃を行う際は、その周辺の偵察も合わせて行って欲しい。その兆候があったなら、結果を確認して敗者を叩いて欲しい」
「益々飛行機の需要が高まりますね。それを偵察機で行った際には直ぐに燃料不足に陥りかねません」
「その為のコイン機であり、レシプロエンジンを使う飛行機の調達も視野に入れておいて欲しい。ジェット燃料は早々手に入らんだろうが、ガソリンなら今のところは入手可能なはずだ」
1万t未満のタンカー2隻では、直ぐに燃料が無くなってしまいそうだ。
やはり小さくとも良いから、製油所を早めに稼働しないといけなくなりそうだな。




