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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-275 山小屋の住人がどんどん増える


 ほぼ1カ月ぶりの山小屋だ。

 到着した俺達を、お腹が大きくなった七海さん達が出迎えてくれた。

 七海さん達が俺達とハグする姿を見て、橘さん達が目を丸くしてるんだよなぁ。妻帯していることは教えたけど、妊娠していることは教えてなかったからかな?

 

 リビングの中央にある焚火の周りに座って、先ずはワインを頂く。

 既に23時を過ぎているからなぁ。キャシーお婆さんのステーキは明日の夕食までお預けらしい。

 野菜サンドとコーンスープを頂きながら、七海さん達にメイポートでの出来事を話してあげた。

 一緒に行けなくて残念そうな3人だけど、来年も無理かもしれないな。

 2年ぐらいは俺達3人が頑張らねばなるまい。


「そうそう! オリーさん達が来週やって来るとのことでした。所長のお孫さん夫婦を案内してくると言ってましたよ」


「所長のお孫さん夫婦だね。約束を守ってくれたみたいだ。もっとも、お孫さん夫婦の望みもあるらしいんだけどね」


 俺より年上の2人を、お孫さんというのも考えてしまうところがあるなぁ。こちらに北なら名前で呼ぶことになりそうだ。それとも『ドクター』と言った方が良いのかな?


「1人ではなく、2人ということを聞いて、陸軍大佐も触発されたようじゃ。除隊を願い出て一緒に医院を作ろうと連絡を取り合っておるそうじゃ。産婦人科に内科と外科になるのう。医者が3人に専門の教育を受けたナースが2人、少し手が足りないとのことで、グランビーに避難してきた住民の娘さん3人に手伝って貰うらしい」


「それで場所は決まったんですか?」


「グランビーの診療所を手直ししておるよ。さすがに入院は無理じゃろうが、診察室だけでなく手術室まで作っておるらしい。2階は夫婦の住まいで、隣のログハウスが大佐の住居じゃな」


「さすがに除隊は無理だったらしいが、本来の医務官としてグランビーで兵士達の診療も行うらしい。大佐付きの衛生兵が2人着くそうだ」


 マッチョなナースってことかな?

 何といっても外科医だからねぇ。麻酔無しで、体を押さえつけられて執刀されそうだ。怪我等しないように気を付けないと……。


「US-2の5人は、3階の部屋で暮らしてくれ。2段ベッドが4つあるから全員寝られるはずだ。ロッカーが足りない時には、行ってくれれば直ぐに運んでやるぞ」


「お気遣いありがとうございます。使わせて頂きます」


「私達は外にあるキャンピングトレーラーを使うの。ワインズ達も一緒だから結構楽しいよ。サミー達はまだワインを飲んでいるんでしょう? なら先にサウナを使わせて貰うわね」


 ジュリーさんが女性を誘ってリビングを出て行った。さすがに七海さん達は参加できないようだな。レディさんまで一緒に行ったから、残った俺達はウイル小父さんと今後の話をすることになった。


「たぶんヒューストンには参加することになるだろうな。俺達の所は今のところ順調だ。ソルトレイクは手間取るだろうが、基本は鉄道路の確保だ。オプションとして空軍基地があるが、それは後回しでも問題は無いだろう。それに時間をかけるよりは兵站基地への鉄道路を確保すべきだろう」


「今のところ、サンフランシスコ、ロサンゼルス、それとサンディエゴのどれを利用するかで議論しているそうじゃ。全て東に大きな都市を持っておるからのう。今のところはサンフランシスコが濃厚じゃな」


 サンフランシスコからバンクーバーまでは船便ということらしい。となると輸送船の重油が問題だが、これはある程度余裕があるとのことだった。


「まぁ、足りなくなれば、良い場所があるんじゃ」


 そう言ってライルお爺さんが地図を広げて見せてくれたのは、パナマ運河だった。


「あの運河は何時でも渋滞じゃからのう。順番待ちの大型タンカーがさぞかし浮かんで折るに違いない」


「そこまで行かずとも、メキシコなら手に入るんじゃないか? さすがにメキシコ政府とは連絡が付かないそうだからなぁ。逃げ場所が見つからずに全滅したかもしれん」


 土地が広いなら、案外生存者がいるかもしれない。

 だが今探すのはさすがに出来ないだろうな。先ずは自分達の事を考えるのが、この場合は適切ということになるのだろう。

 宗教関係者は、今回の出来事をどのように評価するのだろうか?

 ヨーロッパもかなりひどいことになっているらしいからなぁ。英国の王族がカナダに避難してきたぐらいだからね。


「あれから、生存者の救出は行われているのでしょうか?」


「山小屋に残っている連中がワッチをしているんだが、たまにセスナで捜索している通信が入るらしい。ネイティブのグループを保護したということだから、グランビーに運んでくるかもしれないな。長くこの地で暮らしてきた連中だから、ロッキーで暮らす俺達にとって頼れる存在になるに違いない」


「サミーを見たら、どこの部族かと問われるじゃろうな。何と答える?」


「『ヤマト』と答えてください。日本の古い国名です」


 だけど、ネイティブの人達と俺とでは容姿がかなり違うんだけどなぁ。俺よりも遥かに精悍だ。隣に立ったら俺が貧相に見えることは間違いないだろう。


「グランビーの人口がだんだん増えて行きますね」


「来年には間違いなく3人増えるだろうからなぁ。今後も増えていくだろう。アメリカの未来は暗くはならんな」


 亡くなった人達はたくさんいるけど、生まれてくる子供達も多いということだな。

 とはいえ、子供は天からの授かりものだからなぁ。急に増えることはないだろう。ゆっくりと人口が増えていくのを期待することになりそうだ。

 生活様式はライルお爺さんの話によると100年以上後退しているらしい。再び自動車を作り道路を走るまでには数十年以上掛かるだろうとのことだ。

 だが、医療技術や製薬技術をあまり後退させたくはないな。

 大統領もゾンビ対策だけに力を入れているわけではないのだろう。民生関連にも力を入れなくては俺達の平均寿命が短くなってしまいそうだ。

 先ずは衣食住の確保と医療に充実。それが大統領の肩に重くのしかかっているのかもしれない。

 ゾンビに対する対処は、統合作戦本部にフリーハンドを与えているのかもしれないな。

 定期的に状況確認をして、大規模行動の際にはその決断をする。その決断も、苦渋に決断が多々あるに違いない。

 生半可な人間では、アメリカという国の大統領は務まらないということだろう。

 

 女性達がサウナを出たところで、今度は俺達がサウナに向かう。

 結構ワインを飲んでいるからなぁ。悪酔いしないようにサウナではなく湯船に軽く浸かって早めに寝ることにした。


 翌日。七海さんがベッドを出る動きで目が覚めた。

 暖かそうな服装に着替えをしている俺の視線に気が付いたのか、ちょっと顔を赤らめている。


「おはようございます。まだ8時前ですよ。ゆっくりと寝てください」


「そうもいかないよ。二度寝をしたなら起きるのが昼過ぎになってしまいそうだからね。だいぶお腹が大きくなってきたけど、辛いことなどないのかな?」


「一時、つわりが酷かったんです。その時にはキャシーお婆さんが隣にいてくれたんです。まるで亡くなったお祖母ちゃんが傍にいてくれたように思えて……」


 七海さんは案外我慢するタイプだからなぁ。つわりが酷くても、こらえていたに違いない。

 俺からも礼を言っておかないといけないだろう。


 急いで着替えたところで、階段を下りる七海さんの前を下りることにした。

 前にいれば足を踏み外しても下まで落ちることはないだろう。手を取ってあげようとしたら、「それは過保護です!」と言って断られてしまった。

 できればあまり動いて欲しくはないんだけど、メイ小母さん達からなるべく体を動かすように言われたらしい。

 適度な運動はお腹の赤ちゃんにも良い影響を与えるとのことだ。

 大きなお腹を抱えて歩いているご婦人を昔見かけたことがあるけど、あのご婦人もそうだったのかな?

 七海さんがダイニングに向かったのを確認して、外に出る。

 先ずは東の峰に手を合わせて頭を下げる。

『何事もなく無事に元気な赤ちゃんを授かりますよう……』

 言葉に出さずに心の中で祈りを捧げる。

 ゆっくりと頭を上げたところで、俺を見ているニックさん達に足を向けた。


「相変わらず山に祈るんだな。リーザが感心していたよ。「俺よりも信心深いってな」


 そんなことを言いながら俺にカップを渡して、コーヒーを注いでくれた。


「貴方と一緒に教会に行ったのは片手で足りるわよ。もう少し信心深いと思ってたんだけど……」


 リーザさんの告げ口に、ニックさんが頭を掻きながら謝ってるんだよなぁ。力関係を確認できたけど、アメリカ人が一様に信心深いわけでもないというのが面白いんだよね。


「貴方も、もう直ぐパパね。どんなパパになるのか皆が楽しみにしてるわよ」


「あまり変わらないと思うんですけど……」


「どうかしら? 仲良し3人組で、子供の自慢が直ぐに始まりそうだと、皆が話してたわよ」


 何となく想像出来てしまうな。

 日本では謙遜するんだけど、アメリカでは反対に自慢をすることが多い。

 普段無口なニックが饒舌になるんじゃないか?

 そんな未来を想像すると楽しくなってくる。


「よいしょ!」と言いながらリーザさんが立ち上がったから、首を傾げて彼女に目を向けた。

 いつもと違ってゆったりとしたロングのワンピースにカーディガン姿だけど、ガンベルトは外しているんだよね。

 傍に置いたショットガンを担いだ時に、それがはっきりと分かった。


「リーザさんも、おめでたですか?」


「あら? わかっちゃったかしら。ニック意外には教えてないんだけど……」


「だいぶお腹が大きくなってきたからなぁ」


 予定日は来春らしい。年代が近いも共たちが増えるのは俺達にとっても良いことに違いない。

 改めて2人に「おめでとうございます」と祝いを述べた。


 そうなると、山小屋が手狭になるんじゃないかな?

 ウイル小父さんの事だから、それも考えているに違いないけど、俺達にだってできることがあるかもしれない。

 今年の冬は、山小屋の増築計画が発表されるんじゃないかな。


 ニックさんにコーヒーのお礼を言って、山小屋に戻ることにした。

 ライルお爺さんなら山小屋には詳しいはずだ。どんな話が上がっているのか聞いてみよう。


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