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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-274 デンバーに帰ろう


 2日後に、統合作戦本部から俺達の一時休暇の許可が下りた。

 マリアンさんに挨拶をして、US-2でデンバー空港へと飛び立つ。

 マリアンさん達は、もうしばらくメイポート基地に逗留するらしい。そういえば155mm2連装砲塔を持つ軍艦を受け取るような話をしていたからなぁ。その回航を待っているということかな?

 

「これで海軍は補給基地と整備工廟を持つことが出来た。後は燃料を賄えるヒューストンということになるのだろう」


「まだまだ港には、小さなタンカーがあるようですね。今回もタンクへの油送待ちのタンカーを手に入れたぐらいですから」


「大型タンカーは原油だからなぁ。製品ともなれば小型タンカーってことなんだろうね。それに製品輸送はタンクローリーや鉄道輸送がメインだとジュニアスクール時代に習った気がするぞ」


 エディの言葉に、気がするだけか? と突っ込みを入れたのはニックだった。

 ニックによれば沿岸石油基地への輸送が小型タンカーで、その後はタンクローリーが主流との事だ。アメリカの鉄道網は案外不便らしい。だけど主要な都市部にある石油基地までなら鉄道輸送が行われていると教えてくれた。


「それで、デンバーの石油基地には引き込み線があるんだな?」


「そういうことになるね。案外貨物列車の大型タンクには軽油やガソリンがそのままになっているかもしれないよ」


 それはそれで食指がうごくなぁ。

 停車した貨物列車が再び動かないような事態も、沢山あったに違いない。

 立ち往生しているような貨物列車を見付けたら、位置を記録しておいた方が良さそうだ。


「9月下旬だからなぁ……。山小屋に着いたら、さっそう出掛けてみるか?」


「キャシーお婆さんのステーキは格別だからねぇ……。お土産に、香辛料をたっぷりと仕入れて来たよ。あのコンビニに置いてあった奴だ」


 うんうんと皆が笑みを浮かべて、俺の戦利品を称賛してくれた。

 コーヒーを運んで来たくれた桜木さんが、何の事か分からずにキョトンとしてるんだよなぁ。


「桜木達の宿舎をウイル中尉が用意してくれたらしい。山小屋の3階だ」


「皆さんとご一緒出来るんですか!」


「同じチームと言う括りになるみたいだな。統合作戦本部がその考えを持つ以上、今後は我等の移動だけではなくなるかもしれん。桜木達は海上自衛隊だったから、我等海兵隊との縁もある。よろしく頼むぞ」


「こちらこそ、よろしくお願いします……。となると、私達もゾンビに銃を向けて戦うことになるのでしょうか?」


 たぶんそうなるだろうな。少なくとも俺やエディ達よりは軍隊としての訓練を受けているだろうから、案外短期間で終わるんじゃないか。

 射撃訓練ぐらいはきちんとしておかないと、ゾンビを倒せないからね。


「今年の冬は賑やかになりそうだ。やはり冬に備えての狩りは早めにしないといけないと思うな」


「俺にも撃たせてくれるんだろう?」


 俺の言葉に、皆が一斉に話を止めて俺に顔を向ける。


「サミー、まだ野望を持っていたのか?」


「5発撃てば1発は当たりますし、セミオートで素早く2発撃てば、1頭ぐらいは狩れるのではないかと……」


 今度は、俺の言葉に皆が溜息を吐くんだよなぁ……。


「やはり弓を仕入れるまでサミーは不参加ということにしよう。狩りは最初の1発が勝負なのだ。2発目を撃とうなんて考えている間は連れて行けないな」


 2の矢というのは銃での狩りではタブーなのかな?

 良い考えだと思っていたんだけどなぁ……。

 待てよ、M4カービンで考えていたのが拙いのかもしれない。エディ達が持って行くのはボルトアクションの猟銃だからなぁ。

 次弾を放つには若干の遅れが生じるから、それで逃げられてしまうということなんだろう。

 その点、弓は音をあまり立てないからね。

 弓の有効射程は100m程だろうから、案外俺に向いているかもしれないな。

 レディさんが弓を探してくれるというなら、それを待って練習してみるか。


「弓は少し習ったことがあるんです。でも、こんな弓がアメリカにはあるんでしょうか?」


 メモを取り出して簡単な絵を描く。

 レディさんに渡したら、目を見開いて見てるんだよなぁ。

 エディ達がそのメモを覗き込んで、また溜息を吐いている。


「サミー。いくら絵が下手だからと言って、グリップに上下の長さがまるで違っているのは問題だと思うぞ」


「いや、それで良いんだ。出来れば長さは1.8mは欲しい」


「歴史で、軽装騎馬弓兵を効果的に使ったのは騎馬民族だったらしい。唯一、重装騎馬弓兵を使ったのは日本だと聞いたことがあるが、これが彼等の弓ということか!」


「鉄砲が伝わってからも、それなりに需要はあったらしいですよ。馬上から当時の銃を使えば1発だけですからね。弓ならその場で何度も放てますし、有効射程はさほど変わりません」


「グリップの上下の長さを変えるぐらいなら可能だろうが、これほど変えられるかは分からんぞ。オリーに頼んでみよう」


 手に入るかもしれないなら、ありがたい話だ。それまでは仕方ないからバイクでウサギ狩りでもして過ごそう。ウサギのシチューも美味しいからね。


 メイポート基地からデンバー空港までは3千km近い距離がある。

 高度6千m程の高さを毎時500kmで飛んでいるから、およそ6時間のフライトだ。

 やはりプロペラ機だから速度は出ないみたいだな。

 メイポートを10時に出たから、16時には到着するんだけどね。

 昼食は、カロリーバーをコーヒーで頂く。

 コーヒーをお代わりして、タバコに火を点ける。

 この高度では窓を変えることは出来ないけど、機内はコクピット方向から緩やかな風を感じる。煙がキャビンに籠ることは無さそうだ。


 14時を過ぎたところで、デンバー空港の管制塔との相互通信ができるようになった。

 まだカンザス州上空らしいんだが、もう直ぐ付きそうだな。

 

「ウイル中尉からの電文が届いてます!」


 桜木さんがレディさんにメモを手渡している。直ぐに桜木さんがコクピットに戻ったのは着陸までそれほど無いということかな?


「1800時にデンバーから汽車を出すそうだ。夕食は山小屋で取れそうだぞ」


「全員一緒なんですよね?」


「US-2のクルーも一緒だ。今夜はサウナを楽しめそうだな。シャワーも良いが、やはりサウナは格別だ」


「そうよねぇ。サウナの後に湖に飛び込むのが気持ちいいのよね」


 女性達も飛び込んでいたとはなぁ。ちょっと感心してしまった。湖面まで3m程あるし、水深も俺の背丈よりもあるんだよなぁ。


 デンバー空港に着陸したのは、16時20分過ぎだ。

 ほぼ時間通りということになる。飛行場の格納庫俺達が降りると、US-2が牽引車に曳かれて格納庫へと向かって行った。

 整備士達がきちんと整備してくれるだろう。

 エンジンはアメリカ製らしいからね。電子機器は日本製だけど、アメリカの技術が取り入れられているらしいから、整備士達にも理解できるのかもしれないな。

 整備マニュアルも英語版を用意してきたらしいから問題は無いだろう。


 GMのバンに乗って複合ビルの元事務所奥にある会議室に向かうと、ウイル小父さん達士官が集まっていた。

 帰還の挨拶をレディさんがしてくれたから、その後で席に座る。

 基地の様子を話しているところに、橘さん達が会議室に入ってきた。

 これで全員だな。


「良く戻って来てくれた。ゾンビ同士の争いがあったと聞いて驚いたぞ。デンバーもその可能性がありそうだな」


「南のコロラドスプリングスと北のフォートコリンズには注意が必要でしょう。距離がありますから爆弾を投下するついでに確認するぐらいで十分かと」


「それぐらいしか出来んか……。だが、潰し合いをしてくれるなら俺達にとって都合が良い。それで、そんな群れを見付けたら、群れの小さい方を叩くんだったな」


「その方向でお願いします。ところでデンバー市の方は?」


 ニカッと笑みを浮かべたウイル小父さんが、壁に取り付けたスクリーンにプロジェクタ―で映像を映しだしながら説明してくれた。

 どうやら、石油基地を奪回すべく動いているようだ。

 西に30km程離れた場所に大規模な石油基地がある。周囲は工場と住宅地だから、装甲列車を作って石油基地の周囲を更地にしている最中らしい。

 装甲列車といっても貨車の周囲に柵を作り、M252迫撃砲を3門搭載したものらしい。81mm砲弾だからなぁ。かなりの威力があるらしい。

 

「お前達のおかげで砲弾はたっぷりある。無くなったらまたオスプレイで調達できるのも都合が良い」


「ソルトレイク用に保管していると思ってましたが?」


「三分の一をこちらに回している。向こうもグランドジャンクションの掃討を終えたから、此処と同じような装甲列車を作ったらしい。もっともこちらは1両だけだが、向こうは2両を使ってM252を6門搭載しているな」


 航空支援を伴えば、ソルトレイクに前進基地を直ぐに作れるんじゃないか?

 こっちの作戦は今のところ順調らしい。

 最後に、レディさんがメイポート基地の掃討の様子を、画像を交えて説明したところで御開きとなった。

 個別に問い合わせを受けることもあるだろうから、俺達が山小屋で休養することを伝えると、今度はウイル小父さんと共に駅に向かう。

 既に待機していた汽車はストライカー装甲車がけん引する3両編成の列車だ。

 かなり速度を上げられるらしいから、6時間も掛からずに山小屋に到着できるだろう。


「最初のトロッコ列車が懐かしいな。これは殆ど客車だからねぇ」


「それだけ、俺達が頑張ったからじゃないのかな。夜だけど月明かりで見る周辺はかなり破壊が進んでいるよ」


「ほとんど瓦礫だな。何か所かで火が出ているよ。燃やしてしまった方がゾンビの接近を直ぐにすることが出来るからね」


 かつての街並みは見る影もない。改めてデンバーの町が復興するまでには長い年月が掛かるんだろうな。


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