H-026 2割は倒せたかな
『……そうか! 174体とは凄い数だ。明日の迎えだが、予定は11時。荷物をまとめて置くんだぞ。それと、一番大事なことだが……、明るくなったら、銃を使うな。向かえに行くまで数時間音を立てなければ、ゾンビはそこから散るに違いない。明日の朝8時に連絡を待ってるぞ!』
ウイル小父さんからの連絡を受け、俺達は顔を見合わせる。
現在の時刻は10時を少し過ぎたところだ。まだ銃撃に使えマガジンが3個ほど残っている。これを明日の朝にでも使おうと思っていたんだが……。
「残りを前部使ってしまおう。マガジン2つは別にしておくんだぞ」
「かなり集まっているからなぁ。どこに撃っても当たりそうだけど、頭を当てないとダメなんだよなぁ」
「目標は70体で良いんじゃないか? それからはジッとしていようよ」
だけど、このゾンビの大軍が本当に此処を去るんだろうか?
残りの銃弾の数を遥かに超えているからなぁ。
「さっさと済ませて、眠ろう。直ぐに朝になるはずだ」
エディの言葉にカービン銃に新しいマガジンを取り付ける。エディに顔を向けると小さく頷いた。
今回の作戦の最後の銃撃だ。
マガジン2つをリュックのポケットに入れて、残り4つのマガジンをポケットに入れて、俺の持ち場に向かった。
「最後だからな。しっかり狙って倒してくれよ!」
「「オオォ!」」
声を上げて、銃撃を開始した。
マガジン4つならば、1つは遠くのゾンビを狙ってみるか。
うまい具合に月も出ているからね。100m先ぐらいなら問題なく狙いを定められる。
ゾンビの頭にドットサイトの光点を合わせて、トリガーを引く。他の事を考えずに機械的にそれを繰り返す。
100mほど離れたゾンビを相手にしての銃撃では、3体を倒せただけだった。
しっかり狙ったはずなんだけどなぁ……。
次のマガジンでは50mほど先にゾンビを狙い、次は30mほどに近場を狙う。
最後のマガジンを使って再度100m先を狙ってみた。
結果は4体だから、少しは慣れたのかもしれないな。
15発マガジン4つを使って、倒せたゾンビは27体。ニック達はどれほど倒したんだろう? ちょっと気になるところだ。
マガジンの装弾数が少ない俺が一番先に終わるのはいつもの事だ。もう少しマガジンを持ってくるべきだったかもしれないな。
寝る前にコーヒーを飲むのは考えてしまうが、だいぶ冷えてきたからね。
エディ達の射撃が終わるまでに、お湯を沸かしておこう。
「これで終わったなぁ!」
やってくるなり、エディがそんな事を呟きながら俺からコーヒーを受け取る。
2人でノックの後ろ姿を見ていると、ライフルを手にニックが立ち上がった。ニックもマガジンを全て消費し終えたということなんだろう。
コーヒーカップを俺から嬉しそうに受け取ると、ドカリと座り込む。
「それで何体倒したんだい?」
ニックが手帳を取り出して鉛筆を持った。
俺達の数を記入して、計算をしている。
その様子を見ながら俺とエディはコーヒーを飲む。
「凄いな! 今日1日で275体だよ。グランドレイクの町の住人は2千人らしいから、この間の数と合わせれば2割近くは倒せたんじゃないかな?」
「町の住人以外に別荘にいた人達だっていたはずだよ。こんなに別荘があるんだからなぁ。ホテルだってあるらしいよ」
2人の会話を聞いていると、少なくとも3割以上数字が上乗せされてるんじゃないか?
まだまだゾンビを掃討するには時間が掛かりそうだ。
それは皆で考えることにして、今夜はこれまでだ。
リュックから薄いブランケットを取り出して体に巻き付けて横になる。リュックが丁度良い枕になるな。
雨が降らなくて良かったと思う……。
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眩しさで目が覚めた。
体を起こして、いつものベッドでないことに気が付く。
両手で頬をパンパンと叩いて意識をはっきりさせる。隣を見ると、エディとニックはまだ夢の中だ。ムニャムニャ……と寝言を言っているところを見るとそろそろ起きるかな?
まだ残っているペットボトルのジュースをカップに注いで一口飲む。
タバコに火を点けて、グランビイ湖を眺めながら一服していると、後ろの方で2人が起き出し、大きく体を伸ばしながら深呼吸をしている息づかいが聞こえてきた。
「なんだ。サミーはもう起きてたのか」
「すこし前だよ。2人が起きたなら、コーヒーを作るよ」
燃料缶に火を点けて、コッヘルを乗せる。
沸く前に、3人のシェラコップに粉末コーヒーを入れて、角砂糖を1つ入れた。俺の好みは2つなんだけど、朝食のカロリーバーが甘いからなぁ。1つで十分だろう。
「一回りしてきたよ。だいぶゾンビが減っているぞ。やはり音で集まるということなんだろうな」
「音がしなければ、どこかに去っていくってことか? 今7時だろう。迎えに来るのは11時だから4時間でゾンビがいなくなるとも思えないんだけどなぁ」
ニックも心配性だな。激減しているのは俺も気付いていたけど、まったくいなくなったわけではない。
駐車場には数十体のゾンビが徘徊しているし、他の方角にも何体かゾンビの姿を見たからね。
「計画では、離れた場所で大きな音を立てるんだ。目覚まし時計が最適じゃないかな。ここまで聞こえてきたなら、ゾンビはそっちに向かうに違いない」
「その隙に、俺達を迎えに来てくれるってことだな。たぶん親父の事だから、他にも方法を考えているとは思うけど……」
「悩んでも、どうにもならないさ。それより朝食だ。後は屋上から降りるだけだから荷物も纏めておかないといけないぞ」
確かに俺達に出来ることは無いんだよね。
カロリーバーの封を切ってもぐもぐと食べ始める。結構喉が渇くから、途中でコーヒーを追加することにした。
カロリーバー2本が本日の朝食だ。
まだ残っているカップのコーヒーに、お湯を注いで薄味のコーヒーを楽しむ。
咥えたばこで荷造りを済ませ、カービンにマガジンを押し込んでおく。今撃ったら、再びゾンビがやってきそうだが、用意はしておかないとね。
8時丁度に山小屋に通信を送ると、ウイル小父さんが直ぐに応じてくれた。無線機の前で待っていた感じだな。
簡単に状況を説明すると、再度銃を撃つなと念を押されてしまった。
『まだ数十ほどいるなら、用心するに越したことは無い。俺達は10時前に山小屋を出るつもりだ。10時にはお前達の近くで待機することができるだろう。10時15分に連絡を入れて周囲の状況を教えてくれ』
『了解です。3人でのんびりタバコを楽しんでますよ』
通信を終えると、2人荷顔を向ける。
「まあ、そうなるよなぁ。何もすることが無いんだからね。次に同じことをする時にはゲーム盤の1つぐらい用意しとこうぜ」
「退屈だけど、仕方がないね。帰ったら先ずはシャワーだ。その後で昼寝をするよ」
ニックの言葉に俺も笑顔で頷いた。
まったくその通りだ。昨夜は緊張して直ぐに眠れなかったし、今朝は早く起きてしまったからなぁ。
3人で取り留めのない話をしながら、タバコを楽しむ。いつもより本数が多いようだから帰ったらあまり吸わないでおこう。
だいぶ手に入れたけど、なくなったらすぐに手に入れる事も出来ないんだよなぁ。
荷物を少なくするということで、ペットボトルのジュースを全てカップに取り分けた。
少しずつ飲んでいれば、ウイルさん達が来るまでこれで我慢できそうだな。
「ンッ! 聞こえるか? あっちの方角だ」
エディの声に俺とニックが耳を澄ます。
直ぐに音の正体に気が付いた。あれって目覚まし時計の音じゃないか!
「あっちからだな。けっこう遠い感じがするけど……、ゾンビも気がつたみたいだぞ」
駐車場に目を向けると、ふらふらした足取りでゾンビが音のする方向に歩いていく様子が見えた。
そういえば……。慌てて時計を見る。
10時丁度だな。俺達を救出するために昨日の内に仕掛けておいたんだろう。
連絡が15分後ということは、目覚まし時計に上手くゾンビを向かわせることが出来たかを確認するために違いない。
「全部のゾンビが歩いていくけど、あの歩き方ではなぁ……。駐車場から姿を消すまでにしばらく掛かりそうだ」
「駐車場以外のゾンビもそうなのかな? ちょっと見て来るよ」
ニックが他の方角を確認しに出掛けたから、残った俺達は駐車場のゾンビ達の様子を見守ることにした。
「これからは小声で話した方が良さそうだね。あの目覚まし時計の音以上の音を出したら、ここに居座るかもしれない」
「後1時間足らずだろう? それぐらいなら我慢もできそうだ。……ニック、どうだった?」
簡単に周囲を見て来たニックにエディが問いかけると、笑みを浮かべて頷いてくれた。
「北には2体いたが、他の方向にはいなかったよ。北の2体も目覚まし時計の方角に向かって進んでいるよ」
それならかなり安全に俺達は下りることができそうだ。
10体程なら、サプレッサを付けたライフルを使ってウイル小父さんなら簡単に倒してくれるだろう。
10時15分に通信を送ると、待っていたかのようにパットが応えてくれた。
『……ゾンビは移動してるのね? まだ駐車場に20体程いるなら、もう少しここで時間を取ると、ウイル小父さんが言ってるわ。電源を切らないで、そのままにして頂戴。トラックを動かす前に再度連絡するわ』
交信を終えると、2人に顔を向ける。
直ぐにやってこないと知ってがっかりしているかと思ったんだが、そうでもないようだ。
「まだ残っているからなぁ。俺達が屋上から降りる時に物音を立てたら、直ぐに集まってきそうだ。しばらく待つことに、俺も賛成だよ」
「それほど待つとも思えないよ。それより、まだ目覚まし時計の音が聞こえないか? 電池切れまで鳴るってことかな?」
「案外そうかもしれないぞ。電池は2本使うぐらいだろう。1時間以上はなり続けるんじゃないかな」
俺の素朴な疑問に答えてくれたのはニックだった。
賑やかに鳴り続けているなら、それだけ安心が増すからね。ウイル小父さん達がやって来る頃までは、このまま鳴り続けて欲しいところだ。
交代で周囲のゾンビの動きを見ていると、駐車場から全てのゾンビが消えていた。
他の方向にも動いているゾンビはいないんだが、駐車場にかなりの数のゾンビが倒れている。
ジッと見ていても動かないところを見ると、全て頭部を破壊しているということになるのかな?
トランシーバーからパットの声が聞こえた。
急いで応答すると、こっちに状況を確認する内容だった。
『駐車場に動いているゾンビはいない。他の方向からもゾンビの姿は消えている。駐車場にかなりの数のゾンビが倒れているけど、屋上から見た限りでは動かない。以上だ』
『了解……。ご苦労だったな。そちらに移動するが、周囲の監視は引き続き実施してくれ。トランシーバーは切らずに、何かあれば直ぐに連絡を頼むぞ!』
『了解しました。待ってます』
さて、後は待つだけだ。
3人で顔を見合わせて小さく頷く。
タバコを咥えて、エディが再び屋上の擁壁沿いに周辺の監視を始めた。
俺とニックは、駐車場のゾンビが動かないか、よく見ていよう。




