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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-251 シールズのシーダさん


 シールズがやって来て2日目の午後に、解毒剤が到着した。

 C12小型輸送機が強襲揚陸艦近くに空中から投下してくれたんだが、解毒剤の量は予定よりも多く50人分だった。

 多いに越したことは無いからね。ありがたく受け取って、生物学研究所にお礼の電文を送ったようだ。


「これで準備は整ったということになるかな?」


 司令官の言葉に、会議室に集まった俺達は揃って頷いた。


「シーバリーズ島への2度目の攻略手順ですが、再度確認をします……」


 副官のピーター少佐が、スクリーンに映し出された2つの画面をレーザーポインターで示しながら作戦計画を説明する。


 基本は前の計画と大差ないが、今回は2つの陽動を追加している。

 ポーツマス市中心部、島の上流の3つの橋の西岸地帯への迫撃砲による砲撃と、島に掛かる2つの橋の北側に対する砲撃だ。砲撃は揚陸艇に搭載した迫撃砲で行うことになるけど、散発的な砲撃であり且つ目標を定めない。橋及び給油場等の利用可能な施設を攻撃しないことが厳命されている。

 

「迫撃砲による攻撃は、0900時より行います。本艦に搭載したM777榴弾砲も加わるそうですが、本艦の場合は砲撃訓練としての参加です。

 同じく0900時にジャックをシーバリーズ島の4か所に設置。場所は……となります。ジャックの炸裂時刻は1000時。炸裂前後のゾンビの数を再度確認して島へのヘリボーンを行います……」


 ヘリボーンか所は前回と同じく、2つの橋近くの広場や駐車場だ。東の橋はシールズが担当し、俺達は西の橋になる。

 周辺のゾンビを駆逐して、橋の阻止線を作る陸戦部隊の到着を待つ。


「陸戦中隊の第2小隊が東の橋を、第3小隊が西の橋の阻止を担当します。前回はゾンビに囲まれたという連絡を最後に全滅していますから、橋の北だけでなく島の内側からのゾンビの襲撃にも留意してください……」


 陸戦部隊が橋の阻止を完了する予定が1200時。その後は俺達とシールズで建物を12つずつ制圧していくことになる。

 早めに橋近くの建物を1つ制圧して陸戦隊の拠点を作って上げねばなるまい。

 日暮れまでに建物の制圧が出来ない場合は、橋の上で一晩過ごすことになりそうだ。


「我々は、第2小隊に橋を引き継いだ後は消防署付近の建物を順次制圧する。目標は消防署になるな。屋上から周囲を警戒できそうだ」


「俺達は橋のたもとの建物2つを当座の目標にします。先に右手、次ぐに左手に向かうつもりです」


「先ずはそこまでで良いだろう。シールズには島の東、武装偵察部隊には島の西の建物を順次掃討して行って貰いたい。増援の1個小隊は最初の建物のゾンビを掃討出来てから送るつもりだ」


 増援部隊に橋の阻止を代わって貰い、第2、第3小隊は俺達が掃討した建物の警戒をすることになる。

 警戒といってもエントランス付近で迎撃できる体制を取ることになるから、1個分隊で十分に思える。分隊を派遣できない建物については、封印すれば済むことだ。再びゾンビが入り込むことも考えられるけど、侵入した形跡をしっかりと残しておくような対策は取れるだろう。


「確認ですが、ジェイス少尉の部隊に日系人はいるんですよね?」


「日系人と言うより日本人だ。しっかりとゾンビの声を聞き分けるぞ。だが、射撃は下手だから周辺警戒を後方で行って貰うことにしている」


「集音器の調整をする際に、通常のゾンビと統率型ゾンビの声を聴くことはもちろんですが、セミの声にも注意するよう伝えてください。戦士型はセミの声ですからね」


「了解だ。あの毒針を持っているという奴だな。サミー中尉は、いつもどうしてるんだ?」


「耳が2つありますから、通常型と戦士型を左右で聴いていますよ。聞こえたなら1つに統一して方向を探ります。それと狙撃担当に、音声映像装置を持たせていると思いますが、生憎といくつかの声を同時に表示させることが出来ないようです。日本人と常に行動を共にしていれば、ゾンビの毒針を未然に防げるかと……」


「探索と攻撃と言う奴だな。確かに有効だろう。ありがとう、感謝するよ。……そうだ! 夕食を共にしてやってくれないか? たまには日本語で話したいと嘆いていたからな。ついでに、ゾンビと対峙する上での注意点を教えてやってくれ」


「了解です。俺も日本語が怪しくなりかけてますからね。食後のワインでも飲みながら世間話をしたがっていたと伝えてください」


 どんな人なんだろうな? さすがに女性では無さそうだけどね。

 

 夕食後いつものように、エディ達とくだらない話をしていると俺よりかなり年上の男性が近付いて来た。

 少し肉付きが良いけれど、まぎれもないモンゴロイドだ。彼がそうなのかな?


「すみません、此方にサミーと言う方がいると聞いて来たんですが?」


「サミーは俺の事ですよ。日本人の名は発音しにくいらしく、皆からサミーと呼ばれてるんです。ひょっとして、シールズにいる日本人の方ですか?」


 俺の言葉に、安心したような笑みを浮かべている。ゾンビ騒動が始まった当時はこちらの大学にいたのかもしれない。それとも会社からの海外派遣かな?


「たまに日本語で話をしたいと思いまして……。同じシールズのいた2人が亡くなってしまいちょっと心細かったところでもあるんですが、サミーさんは俺より年下でも頑張っているのを見て恥じ入るばかりです」


「友人に恵まれましたからね。上手くホームステイ先の家族と一緒に難を逃れることが出来ました。エディ、少し席を外すよ。俺だってたまには日本語で話したいからね」


「日本語ねぇ……。あの難解な言語を操れるんだから凄いと思うよ。ゆっくり話をしたらいい」


マリアンさん達も頷いてくれたから、少し離れた席に青年を招いて座り直した。

 そんな俺達に、ジュリーさんが紙コップに入れたワインを運んで来てくれた。

 これからの無事を祈って先ずは一口。先に話を始めたのは青年の方だった。


「私は、篠田薫しのだかおると言います。今年28歳なんですが、大学で経営学を学んでいたところであの災害に遭いました。どうにか学友と避難できたのですが、避難先で確認したところ級友で助かったのは私達4人だけでした。他の避難民達と原野の開拓を行っていたんですが、2カ月程前に日系人の兵員募集があったのです。たぶん日本は滅んだのだろうということで、応募したのですが……」


「検査結果で、特殊部隊に配属と言う事ことになったんですね。ゾンビの出す高周波音を変換するとまるで虫の声に聞こえます。それが分かるのが日本人だということになるんです。募集に応じた日本人の中で、特に聴力に秀でた人達を優先的に特殊部隊に配属したようです。でも、前に出すようなことにはならないと思っています。それだけ音でゾンビの存在とその種類が分かる人間は貴重ですからね」


 俺の話を聞いて頷いているから、特殊部隊の訓練も適当に済ませているんだろうな。とりあえず体力があればなんとかなるということなんだろう。エアボーンだって、タンデムで降下するなら降りられるし、降下するとしてもヘリボーンくらいなものだろう。


「2週間以上射撃訓練とマラソンの日々でしたよ。その甲斐あって、どうにか的に当たるようになりました」


「俺なんか100mでどうにかですよ。でもこれからは、150mで練習をすることになりそうです」


あちこち脱線しながらゾンビとの戦いの話をすると、少し表情が変わってきた。


「サミー君は、先頭になって戦っているのか? 私も、そんな目で見られるのだろうか?」


「さすがにそれは無いと思いますよ。日本人は平和ボケした民族だというのが米国人の常識みたいですからね。俺が動いているのは、篠田さんが使う集音装置のアイデアを出したからですよ。上手く使えばドア越しにゾンビの数や位置を確認できますからね。それが分れば扉を蹴破ってゾンビの頭に一撃をお見舞いできます」


「部屋に飛び込んで銃撃するのはかなり難しいよ。1度訓練施設でやったんだが、教官が溜息を吐いてたくらいだからなぁ」


「銃撃じゃなくて、棒で殴るんです。その方は確実ですよ。それに空振りしても棒でゾンビを突き離せますからね。そんなことになれば後方から友人が銃で対処してくれます」


「訓練所で、見せて貰った映像があるんだが……。あれって、君の事だったのか! ジェイス隊長が、あれは俺でも無理だと言っていたぞ」


「道場に通ってましたからね。それで何とかなってるみたいです。確認ですが、篠田さんはコオロギとスズムシの音を聞き分けられるんですよね?」


「出来るよ。あれがノイズというんだからアメリカ人には呆れてしまったよ。それにセミの声も問題ない。セミには種類があるようだね」


 かなり良い耳を持っているようだ。

 それならと、ゾンビの種類ごとに類似した虫の名前と、その能力を教えてあげた。


「十分注意しないといけないのは、統率型と戦士型と言うことになるのかな? 統率型は頭の破壊だけで終わらないというのが面倒だね。戦士型の場合はゾンビが一撃必殺の銃を持っていると考えれば良いようだね」


「それ以外にも、キツツキの幹を叩く音や、反対に低い音でコミュニケーションを取るゾンビもいるんです。たまに周波数を変えて、変な音が混じっていないかどうかを確認するようにしてください。それと、戦士型の存在を検知できたなら、直ぐに狙撃手に知らせてやってください。後は射撃の名人に任せれば良いと思います」


「マーカスの傍にいてくれ、と言われてるんだ。マーカスは狙撃手で、変なゴーグルを付けているんだ。音が見えると言っていたんだが、私がゾンビの種類を告げれば、マーカスが狙撃できるということか。なるほどね。私達は責任重大ってことだ」


「篠田さんを安全に、移動させるのがシールズの役目でもあります。通常ゾンビであれば、篠田さんの言葉に従って隊長が殲滅を部下に指示しますよ。ある意味、お客さんと割り切った方が気が楽になりますよ。でも、マーカスさんとは仲良くした方が良いですね」


「歳が同じなんだ。それに、アニメ好きでもあるから気が合う奴だよ」


 なら問題ない。篠田さんは良いチームに迎えられたみたいだな。

 最後に、俺と同じでシノダというのは発音しにくいのだろう。チーム内では『シーダ』と呼ばれていると教えてくれた。


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