H-250 準備を整えないと
オリーさんからの返信によると、狙撃ゾンビが放つ毒針のような弾丸の解毒剤を纏まって作るには少し時間が掛かるということだった。
それでも30人分は急いで送ると言ってくれたけど、それに掛かる時間が10日ということだった。
この場にしばらく足止めされてしまいそうだが、仕方がないだろうなぁ。
橘さん達は長くUS-2を係留しておきたくないということで、ドーバーに戻って行ってしまった。格納庫でワックスでも掛けるのだろう。
出発する朝方に釣り上げた魚を貰ったんだけど、クロダイに似た魚がいたんだよね。
厨房の兵士に1日冷凍して貰って、翌日解凍して刺身を作ったんだけど……。
「サミー、俺達は文明人なんだぞ。魚を生で食べるのはどうかと思うんだけどなぁ……」
皿に盛りつけた刺身を食べながらワインを飲む姿を見て、ニックが呆れたような顔をして呟いた。
テーブルを囲む他の連中も頷いているけど、これが一番おいしい魚の食べ方だと思うんだけどなぁ。
「ムニエルかフライにして貰えばよかったのに。私達はムニエルなんだよ」
ジュリーさんが、困った上官だという目で俺を見ながら呟いた。
「1度食べてみたら? 食わず嫌いは良くないよ」
「サミーが、それを言うのか? ブロッコリーとキノコは大嫌いだったはずなんだが」
エディが大笑いをしている。
あれは食材ではない。人間が食べるものから除外すべき代物だ。
「母さんも呆れていたからなぁ。結構偏食だと言っていたぞ」
それなりに話題に事欠かない。いつものように賑やかな夕食を取っていると、偶々通り掛かったロビーさんが、器用な手つきで割り箸を割ると、刺身を摘まんで口に入れた。
「出来ればワサビが欲しいところだな。やはり魚は刺身、酒は「サケ」が一番だ」
うんうんと頷きながら話してくれたから、恐る恐るマリアンさんが刺身にフォークを伸ばして口に放り込んだ。
「……甘いわ。触感も変わっているわね。これはバーボンに会うかも!」
マリアンさんの感想に、皆が一斉にフォークを皿に伸ばしたからたちまち無くなってしまった。
せっかくゆっくり味わおうとしたんだけど……。
「なるほど……。たしかにほのかな甘みがある。生だから臭みがあると思っていたが、まったくないんだな」
「新鮮だからですよ。時間が経てば臭みが出てしまいます」
また作って欲しいと言われたけど、ライルお爺さんが作ってくれたコンバットナイフで作ったんだよなぁ。これで戦闘したなら、刺身を作るのに躊躇してしまいそうだ。別のナイフを手に入れておこう。
「それにしても、急に暇になってしまったな。1日3回ジャックを島に仕掛けているが、集まって来るゾンビの数は当初の半分ほどだ。解毒剤が届く前に島のゾンビをジャックで駆逐できるんじゃないのか?」
ロビーさんも、俺達と同じような思いのようだ。
「それなら好都合だが、そうでもないから困っている。ゾンビは階段が苦手だからな。建物の上階にいるゾンビはジャックでは倒せない。ハンタードローンを使って島の北にある住宅街の統率型ゾンビはかなり倒したようだが、それでも倒しきれてはいない。サミーによるとポーツマス市の統率型ゾンビと連絡を取り合っている可能性があるとのことだ」
レディさんの話を聞いて、そんなものかと周囲の兵士達が頷いている。
急に声が途切れるのは、統率型ゾンビ相互のコミュニケーション手段に間違いなさそうだ。時間がたっぷりあったのでポーツマス市近くに揚陸艇で近づき、ゾンビの声をパラボラ集音装置で探ってみたらキツツキの音が聞こえてきた。場所は明確ではないが士官型ゾンビも存在するということになる。
シーバリーズ島のゾンビの駆逐にはあまり関わらないだろうが、ポーツマス市の奪回時にはちょっと問題が出てきそうだな。
ポーツマスの前にポートランドを攻略することになりそうだから、事前攻撃は手を抜くようなことはしないよう統合作戦本部に伝えておこう。
今までミサイルはあまり使っていなかったようだけど、温存しようなんてことは考えない方が良いはずだ。
どうせ使うなら効果的に使おうと、島であまり利用しそうもない建物の破壊を行おうとしているんだけど、案外横槍が入ってしまって纏まらないとの事だ。
それなら、士官達で破壊しても良い建物を投票で選べばいいと思うんだけどなぁ。
「今日も射撃訓練で終わりになりそうだな。頭部への狙撃は案外難しいものだ」
「どうしても腹に撃ち込んでしまいますからねぇ。50mほどなら当たるんですが、ゾンビとの距離が50mならかなり焦りそうです」
陸戦兵達は射撃訓練をしているようだ。50mは数秒でゾンビに襲われる距離でもある。冷静に狙うのは難しいだろうな。なら100mで訓練した方が良いのかもしれない。
「ミニミもあるんだ。ミニミを頼るのも問題だが、そう考えれば落ち着けるだろう。それにサミー中尉も言っていたはずだ。ゾンビは階段が苦手だとな。道路の通行止めのような阻止具を作っておけば、少しは安心できる。1つではなく幾つも並べればそれだけ効果が得られるだろう」
多段の阻止具ということだな。最前列にクレイモアを仕掛けても役立ちそうだ。
もっともロビーさんの事だから、それぐらいは考えているにちがいない。
「ブローニングM2でバラバラにするなら効果もあるだろう。ミニミなら架台を調整して頭の位置に合わせるべきだろうな」
「なるほど、左右に振ればゾンビをまとめて倒せそうだ。時間があるから、ハンヴィーに取り付けておくか」
レディさんの提言に、ロビーさんが頷きながら周囲の兵士に話を向けた。
現在ハンヴィーに搭載しているのはMk19グレネードランチャーのようだ。エアバースト弾が使えるし、30発を連続発射できるからね。
エアバースト弾と汎用弾を交互に撃ちだせるというから心強いだろうな。その上に、ミニミもしくはブローニングを搭載するというんだから、十分に橋を防衛できるに違いない。
あまり多くのゾンビが集まったなら、揚陸艇から迫撃砲を放つこともできる。
橋に2個分隊ずつ派遣して、残りの2個小隊で確保した建物の防衛を行えば良いだろう。当初は分隊単位でゾンビの掃討が進めば班単位にすることもできそうだ。
「面倒なのは、病院とホテルですね。たぶん大勢ゾンビが潜んでいると思います」
「それでミサイルで破壊しようってことだな? 出来れば病院は破壊したくはないな。だが上階は病室ばかりだろうから、3階以上を破壊するというなら問題は無さそうだが」
「殿建物も残したいというんですから困ってしまいます。でも、将来の好秒維持を図る上で必要な建物は壊せませんからね」
ロビーさんもホテルは必要ないと言ってくれるんだけど、士官達はそうではないんだよなぁ。出来れば工廟と工廟の関連施設以外は全て破壊したいところなんだけどねぇ。
直ぐに工廟を動かせるとも思えないから、その艦に工廟で働く人達の住宅を作っても十分に間に合うように思える。それに単に食事と寝る場所が問題となるなら、客船を運んで来た方が良いんじゃないかな。
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数日が過ぎて、ミサイル駆逐艦と貨物船が強襲揚陸艦の傍に停泊する。貨物船と強襲揚陸艦の間にワイヤーを渡して、補給物資を受け取るようだ。
一緒にシールズの1班が強襲揚陸艦に乗り込んできた。指揮はジェイス少尉ということだが、部下は軍曹と伍長の肩書揃いのようだ。
護衛艦の艦長も副官を伴って挨拶に来たのだが、「手伝えることは無いか?」との話に司令官が飛びついた。
「シーバリーズ島の建築物を破壊して貰いたい。場所は……」
司令官の話にちょっと驚いていた艦長だったが、話を聞くうちに何度も頷いている。
やはり俺と同じでホテルは必要ないと感じていたようだな。その他にもいくつか事務所があったけど、Mk45と呼ぶ127mm単装砲塔を持っているからね。破壊するだけなら20発も必要ないかもしれないな。
「出来れば、ミサイルをこの位置に落としてくれんか? 少しでもゾンビの数を減らしておきたい。M777でも可能だろうが、既にシールズを2班に陸戦兵を1個小隊失っている。次の掃討作戦に備えて温存しておきたいのだ」
「戻れば補給も出来ますからお任せください。GPS誘導ができますから、ポーツマス市の攻撃目標となる建物を教えてください」
司令官の示した建物は、市庁舎と2つのホテルだった。
聞いただけでゾンビが沢山いそうな場所だ。
「了解しました。ハプーンを4発放ちましょう。明日の午前にシーバリーズ島のホテルと周辺の施設への砲撃。午後にポーツマス市庁舎と2つのホテルに対してミサイル攻撃を行います。明日中には資材の移動も終わるでしょうから、明後日の昼過ぎに出航いたします」
司令官と握手をして、ミサイル駆逐艦の艦長と副官は会議室を後にした。
残ったシールズの指揮官に、現在進行中の作戦を説明する。
仲間を2班失っているから、かなり真剣な表情でピーターさんの話を聞いているようだ。
「直ぐに島のゾンビを駆逐するわけではないということですか?」
「海兵隊の武装偵察部隊が来てくれた。慎重に状況を見守っているよ。それに、急ぐ必要もないだろう。シーバリーズ島の奪回を終えたなら、工廟の再生をせねばならん。それが我等の使命だよ」
「直ぐにでも始めると思っておりました。明日にでも出撃できる準備は出来ております」
ジェイス少尉の言葉に司令官が俺に視線を向ける。
俺が答えないといけないのか……。
「まだジャックにゾンビが集まる状況です。ポーツマス市にミサイルを撃ち込んだ後の様子をドローンで確認してから、掃討作戦の決行日を決めましょう。今度の作戦に失敗したなら、この島の奪回作戦はしばらく出来なくなります。日本の諺に『石橋を叩いて渡る』という言葉があります。慎重に進めて行きましょう」
『石橋を叩いて叩いて渡らない』とか『石橋を叩いた後に橋を架ける』なんていう言葉もあったなぁ。
慎重なことは良いことだと思うけど、あまり慎重すぎるのも善し悪しということなんだろう。




