H-025 至近距離をライフル銃で
ゾンビの掃討を始める前に、エディが屋上を一回りして集まったゾンビの様子を見て来てくれた。
さすがは俺達のリーダーを自称するだけの事はある。
よく気が付いたとニックと感心してしまった。
「やはり駐車場側が一番だな。外はそれほど集まっていないよ。20体にも満たないからね」
「こっちはこんなにいるのにか? どう見ても150を超えていそうだよ。それに、ほら!」
ニックの指差す先には駐車場に向かって体を揺らしながら集めって来るゾンビの群れが見えた。群れといっても数体ずつの集まりが続いている感じだ。どこかに纏まって待機しているわけじゃないみたいだな。
「始めるぞ。ちゃんと耳栓は付けとけよ。マガジン1つ分を撃って、終わりにする。それで次を考えよう」
エディの言葉に頷くと、俺達は屋根の南側の中央、それと左右の端に陣取る。俺は左端だ。エディが中央でニックが右になる。
耳栓を付けてエディに顔を向けると、俺達の様子を見ていたエディが右手を上げて、俺達に再度顔を向けた。
俺達が頷いたのを確認したエディが右手を下ろす。
既にセーフティを解除してあるから、10mほど距離の離れたゾンビの頭にドットサイトの光点を合わせるとトリガーを引いた。
パァンと言う甲高い音が響くんだが、耳栓のおかげで少しは和らぐ。
ちゃんと命中したみたいだな。その場に倒れて動かなくなった。良く見ると後頭部が飛び散っているからこれで起き上がることは無いはずだ。
幸先良く1体を倒したところで、次のゾンビに狙いを定める。
数体を無駄玉なく倒すことができたから、このカービン銃は俺にあっているのかもしれないな。
気を良くして50mほど離れたゾンビに狙いを定める。
当たったことは当たったんだが、生憎と口の右端だった。銃弾は口の中を貫通して出て行ったようだ。脳幹に当たってくれたなら倒せたんだけどなぁ……。
距離が離れると、ゾンビの動きに合わせて狙いを定めるのが難しいようだ。
今度は20mほど先のゾンビに狙いを定める。
距離を変えながらゾンビを倒していると、それなりに慣れてくるのだろう。だいぶ倒せるようになってきたな。
銃を撃ったところで、スライドが開いたままになってしまったから、これで15発を撃ち終えたことになる。
先に荷物のある場所に戻って、燃料缶を使ってコッヘルでお湯を沸かす。
まだエディ達は射撃を続けているけど、向こうはマガジン内に30発だからね。もう少し掛かるんじゃないかな。
エディ達が、興奮した様子で帰ってきた。
沸いたお湯でコーヒーを作り、シェラカップに分ける。
直ぐにエディ達が手を出してきたから、やはり神経を高ぶらせていたってことだろう。
「9体を倒したよ」
「やるじゃないか! 俺は16体だ。ニックは?」
「13体だな。少し先を狙ってみたんだが……」
都合38体ということか。それほど倒せるとは思えなかったんだが。
「やはり安全な場所で、しっかり狙えるからだろうな。最初の時はそうじゃなかったからなぁ」
「まだ連絡はしないのかい?」
「15時が予定だから、まだ1時間近くあるよ。次はどうする?」
とりあえずは一服という事らしい。タバコに火を点けて雑談気味に意見を出し合った。
結論は再度呼び掛けて再び銃撃ということだから、これまでと同じだったけどね。
呼びかけを3回繰り返して、様子を見て再び呼び掛ける。
これを屋上の4方向で行うと、山小屋への連絡時間が迫っていた。
トランシーバーの電源を入れて、ウイル小父さんに呼びかけると、直ぐに返事が返って来る。
『……そうか! 38体とは大したものだ。町の掃討にも使えるな。こっちは心配がないが、銃撃時には気を付けるんだぞ。それと、しっかり食べるんだ! 次の連絡は20時にする。以上だ!』
『了解です!』と答えて、トランシーバーの電源を切る。
エディ達が笑みを浮かべているのは、ウイル小父さんが俺達の戦果を評価してくれたからだろう。
このまま明日まで続ければ200体を越えるゾンビを倒せるはずだ。
「それじゃあ、期待に添わないとな。場所は同じで良いかな?」
「それで良いよ。それと、呼びかけはまだ続けるのかい?」
「夕暮れまでだいぶ時間があるから、後2回はやっても良さそうだ。まだ生存者がいたなら2回目の呼び掛けには答えてくれると思ってたんだが……」
残念そうにエディが呟いているけど、俺もやるべきだと思う。それで俺達も納得できるからね。
新たなマガジンを銃に装填して、再びゾンビに銃撃を加える。
今度は11体だった。50m先を狙ったのが間違いだったが、こんな機会を上手く利用しないと俺には遠距離射撃の腕を上げられないからなぁ。
3人が集まり、再びタバコを咥える。
ニックが小さな手帳をポケットから取り出して俺達の成績を書き込んでいた。
「俺とエディが15体以上倒しているけど、サミーの11体は少ないというわけでもないな。使った銃弾数がサミーの場合は少ないからね。比率で比べるとサミーの方が高いよ」
「そういうことだ。あまり気にすることは無いよ。今度は36体だな。残ったマガジン数は……」
「俺と同じなら9本あるはずだ。2本は残しておくように言われてるから、7回は射撃を続けられるよ」
「拳銃も使えるよな? マガジン2つもあるんだから使わねば損な気がするんだよなぁ。2マガジン分を使ってみるか?」
倒せる時に倒しておこうという考えだな。
マガジン2個を残せば良いだけだからね。拳銃は装弾したマガジンを入れた状態にしておけば良いってことかな?
「それより、エディ。数が増えてないか?」
「そうだね。俺もそう思ってたよ。300はいるんじゃないか?」
「やはり、あの大音量の呼び掛けが効いてるのかもしれないな。銃撃時間はそれほど長くは無いからね。1つ良いところは集まったゾンビの多くが駐車場側だという事ぐらいかな。さっき一回りしてみたんだが、前よりも数が減ってるようにも思えるんだ」
「呼びかけを4方向で行っているからなぁ。次を最後にしても良いんじゃないか? それ以降駐車場以外のゾンビが減っているとしたら、俺達の呼び掛けが原因だ」
確かに……、なんてニックが呟いている。
それじゃあ、確かめようと最後の呼び掛けを4方向に行うことにした。
呼びかけを終えたところで、プラケースにスピーカーとアンプを収納して紐でしっかりと縛っておく。次もあるからね。機械は大切にしないと……。
「後は、銃撃だけだな。だいぶ日も傾いてきたけど、今まで通りにマガジン1つ分で良いだろう」
「夜間も銃撃をするってことだな?」
「マグライトの小さい奴を持ってたはずだ。それをバレルにテープで取り付ければ20mほどの距離なら狙いを付けられるんじゃないかな」
確かに持っている。最初からではなく、ライルお爺さんの店から頂いてきた物なんだよね。
LEDライトだから長時間使えるんじゃないかな。
夕暮れが始まったところで夕食の準備に入る。
燃料缶でコッヘルにお湯を沸かし、レトルトのパックを温める。
飲み物は、ニックが持ってきたオレンジジュースだ。コーヒーは夜になってからになるかな。
灯油ランプを取り出して明かりを点ける。
懐中電灯は電池だからね。周囲を明るくしてくれるランプの方が都合が良いし、なんて言っても灯油はたっぷりあるからなぁ。軽油でも代用できるらしい。
レトルトの封を切って、そのままスプーンで食べる。中身はビーフシチューだ。結構量があるし、味も中々だ。
出来れば厚切りのパンに、たっぷりとジャムを付けて食べたいところだけどね。生憎とカロリーバーを食べながらだからなぁ……。
「今頃パット達は、美味しい夕食を食べてるんだろうな」
「食べられるだけ幸せだよ。ナンシーさん達は満足に食べることができなかったらしいからね。そんな住民がまだいないとは限らない。俺達の仕事は重要だと思うぞ」
ニックの呟きに、エディがやんわりと諭している。
脳筋な人物とばかり思っていたんだが、そうでもないようだ。海兵隊に入るよりは政治家になった方が良いんじゃないかな?
お腹がいっぱいになったところで、ジュースを飲みながら一服を始める。
既にカービン銃の銃身には小型のライトを取り付けてある。どれほど遠くまで狙えるか楽しみだが、あまり遠くを狙わずとも建物傍にはかなりのゾンビがひしめいている。
「手榴弾を使ってみようか?」
「真下ってことか! 面白そうだな。1個ずつ持っているけど、別れ際に1個貰ってあるんだ。先ずはそれで試してみよう」
俺の提案にエディが笑みを浮かべて賛成してくれた。
10体位は倒せるかな?
次の攻撃は最初に手榴弾を試すことになった。
ニックが小さな鏡を取り出してナイフの先にテープで取り付けている。
角度を付けて取り付けたのは、それで真下を覗き込むつもりのようだ。
片手で懐中電灯を使えば真下の確認ができるという事かな?
準備が出来たところで、俺達は擁壁から離れた。
エディが手榴弾のピンを抜いて、下に落とす。
次の瞬間、ドォン! と大きな音と爆炎が下から起こった。
直ぐにニックが屈みで下を覗く。ゆっくりと俺達に顔を向けると笑みを浮かべて頷いている。
「かなり効果があったぞ。下に取り付いていたゾンビの一角が無くなったからね。10体以上は確実だ」
「なら、最後に3人で落としても良さそうだね。でもその前に!」
「ああ、銃撃で倒していこう!」
カービン銃を手に、左手に歩いていく。
バレルに取り付けたライトを点灯して狙いを付けると、結構遠くまで狙えそうだ。50m以内なら問題なく狙えるだろう。それに俺が狙うのは20mほど先のゾンビだからね。
エディに顔を向けて合図を待っていると、エディの上げた右腕が下ろされた。
ドットサイトを覗き、最初のゾンビに狙いを付ける……。




