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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-242 報告書をまとめるまでが作戦のようだ


 結局、逃げ帰った感じだな。

 長期にわたる偵察と言うか観察だったけど、それなりの成果は得られたから俺もオリーさんも満足しているんだけど、エディ達はちょっと物足りない感じがしているようだ。

 ゾンビ討伐は本来の軍に任せて、俺達のような戦時徴集組はその手助けをすれば十分だと思っているんだけどなぁ。

 もっとも、ウイル小父さんのような元軍人は、それなりにゾンビと戦っているんだけどね。


「少なくとも、1年は研究テーマに苦労しないわね。研究中であっても、随時分かったことは統合作戦本部に報告されると思うわ。でも、とりあえずは簡単な報告書をまとめることになる筈よ。1週間は掛かるんじゃないかしら」


「海兵隊中将に報告をすることになるだろう。状況報告で済ませられそうだ。なるべく早く纏めて欲しい」


 オリーさんとレディさんの会話に、思わずレディさんに顔を向けた。

 そんな俺に、笑みを浮かべて頷いているんだよなぁ。

 中将への報告は決定事項ということになるのかな? 面倒なことにならないと良いんだけど……。


 真っ暗な空を進むこと1時間。ヘリがドーバー空軍基地に降り立った。

 俺とオリーさんは資材を入れたプラスチックコンテナをピックアップトラックの荷台に乗せて、研究所へと向かう。

 エディ達は空軍基地内の宿舎に厄介になるらしい。レディさんはお母さんのところに行くと言っていたけど、明日の18時に迎えに行くと俺達に念を押していたんだよなぁ。

 時刻は4時を過ぎたところだ。


「数時間は横になれそうね。でもその前に、暑いシャワーを浴びたいわ」


 トラックの運転はハンセンさんだった。

 俺達の会話に笑みを浮かべているところを見ると、昨日帰って来てやはり最初に向かったのはシャワー室だったに違いない。


「ラッシュを引き起こしたと聞きましたよ。データーは得られたんですか?」


「当然! でも、考えることが色々とあるわよ。明日は午後から会議でいいかしら? サミーにも同席して貰うけど、軍への報告があるみたい。あまり長くは出来ないわ」


「そうでしょうな。さすがにあれほど進化というか変異していたとは思いませんでしたからね。所長も、もっと早めに行うべきだったと悔やんでいましたよ」


 過去は変えられないからなぁ。過去を振り返ることがあっても、それは未来に繋がる教訓を得る事だけにしたいところだ。悔やんだところで何も生まれはしない。


 研究所に到着すると、積荷をヤンセンさんに任せて、ナップザックを手にオリーさんの部屋へと向かう。

 ナップザックの中身は殆ど衣服だから、オリーさんが自分の衣服と一緒に洗濯してくれるらしい。戦闘服から装備を外して、戦闘服も一緒に洗って貰う。明日は中将に会うことになるらしいから汗臭い衣服ではねぇ……。


 オリーさんと一緒にシャワーを浴びると、カロリーバーを齧りながらワインを頂く。

 昼食はサンドイッチなんだろうが、このままだとお腹が空いて眠れなくなりそうだ。


「これで、次はどこに行くのかしら?」


「たぶん、レディさんが教えてくれると思います。今日は、研究所で会議でしたよね。レディさんはレーヴァさんと共に統合作戦本部に向かうと言ってました」


 案外、フリーダムの応援要請辺りが来る可能性がありそうだ。

 長期間にならないと良いんだけどね。

 

 ベビーベッドは空だから、大統領夫人が面倒を見てくれているに違いない。どうお礼をしたらいいか迷ってしまう。

 オリーさんに聞いてみると、そんな心配をするのは俺ぐらいだと笑われてしまった。


「どこに連れて行っても恥ずかしくないレディだと言ってたわよ。あまり手が掛からないみたいね」


「とは言っても、重責を持ったご婦人ですから……」


「大統領も、一緒になって散歩を楽しんでるみたい。早く一緒に歩きたいものだと言ってたわ」


 それもなぁ……。本来なら俺の仕事に思えるんだけどねぇ。

 外がまだ暗い内にベッドに入る。

 疲れているんだろう。直ぐに睡魔が襲って来る……。


 目覚まし時計の音で目が覚めた。時計を見ると11時過ぎだ。5時間以上は睡眠がとれたはずだ。

 オリーさんも、さすがに目覚まし時計の音で目が覚めたみたいだな。一緒にシャワーを浴びて、乾燥まで済んだ衣服を洗濯機から取り出して着替えをする。


「次の作戦に向かうとしても、明日以降でしょう? 荷物はこの部屋に置いていきなさい」


「そうですね。さすがにライフルを持って行くのは考えてしまいます。私服を持って来てませんから、戦闘服で参加します」


「私服も揃えておきましょう。政府の高官もやって来る時があるのよ。海兵隊の礼服もあるんでしょうけど、休暇中なら私服で問題ないと大統領も言ってたわ」


 ジーンズにスタジャンとはいかないんだろうな。あまりフォーマルな衣服は似合わないんだけど……。


ベッドに入る前に飲んだワインの残りを味わいながら、窓を開けて一服を楽しむ。

 さて、どんな話になるんだろう。

 時計を見ると12時を少し過ぎている。

 オリーさんと食堂に向かい、想像した通りのサンドイッチとコーヒーを頂くことになった。


「夕食は研究所と言うわけにもいかないでしょうね。きっと招待してくれると思うわ」


「大統領との晩餐はさすがに恐縮してしまいますよ。でも俺を招待してくれる人なんているんでしょうか?」


「レディのお母さんよ。かなりサミーを気に入ってくれてるみたい。レディが後5歳若ければ……、なんて私のところにやって来て嘆いていたわ」


 レディさんにはレーヴァさんがいるからちょっと安心できるな。さすがに2人の仲を壊そうなんて考えてはいないだろう。


「でも、確か作戦前のはずですよ?」


「だから、余計にサミーの意見を聞きたいんじゃないかしら」


軍艦の編成やゾンビと一戦するための陸戦隊での相談なんだろうか? それなら夫婦で色々と議論すれば良いと思うんだけどなぁ。


 会議は13時と言うことだから、ここでゆっくりとコーヒーを味わうことにした。

 朝食抜きだとオリーさんが食堂の小母さんに話をすると、ホットドッグを作ってくれた。

 熱々のソーセージが挟んであるから、たっぷりとケチャップを付けて頂く。

 結構大きなパンだから、これなら会議中にお腹を鳴らすことは無いだろう。


13時10分前に食堂を出る。

 カウンターの向こうにいる小母さんに頭を下げると、軽く手を上げて応えてくれた。

 

 会議室の扉を軽くノックして、先にオリーさんを入れる。後ろ手に扉を閉めると、所長に向かって軽く一礼をした。


「来てくれたね。今回の成果は予想以上だったよ。座ってくれたまえ、まだ集まってはいないが時間に遅れる者はいないはずだ」

 

 テーブルをよく見ると、ネームカードが置いてある。

 檻さんの椅子を曳いて座らせると、隣の席に腰を下ろす。レディファーストは中々難しいんだよなぁ。俺がやると取って突けたみたいな感じだから皆が失笑するんだよなぁ。


「サミー君の危惧が現実になっているね。その洞察力には、皆が驚嘆しているよ」


「それぐらいで驚いているようでは困ります。2日程前からもっと驚く推測をしているんですから、私も聞いた時には頭が真っ白になりました」


「ほう! オリーでもそれほどの衝撃を受けたということか……。ヒントは?」


「サミ―がニューヨークの中心部のゾンビに対して、おもしろい表現をしています。『ローマ軍』だそうですよ」


「ほう……ローマ軍か。バイキングではなく、モンゴル軍でも無いのだな? その言葉を頭に置いて会議に望めば見えてくるということか……」


 博士達が揃っているからなぁ。頭の体操みたいなちょっとした問題を解くのは研究所職員達の楽しみなのかもしれない。

 ウイル小父さん達ならしっかり説明しないと分かって貰えないし、さらに質問が飛んで来るんだよなぁ。


 次に入ってきたのはヤンセンさん達だった。その後にサンディー達が入ってプロジェクターの準備を始めていると、数人が纏まって会議室に入って来る。

 時計を見ると13時3分前。席が埋まったから、これで全員が揃ったということなんだろう。


「さて始めようか。サミー上級研究員が提言してくれたニューヨーク中心部の偵察、10日間を無事に終了した。最後はゾンビラッシュと呼ばれるゾンビの集団の襲撃にあったらしい。そのラッシュを人為的に引き起こしたとも言えるのだから成果はかなりのものだろう。さて、そろそろ始めてくれないかな。まだ分類できていない事象もあるだろうから、偵察の概要報告を先ずは行って欲しい」


「分かりました。それではプロジェクターの画像を皆さんに見て頂きながら説明したいと思います」


 最初の画像は、ニューヨーク市の現在の航空写真だ。その写真を使って俺達が拠点としたビルの位置とマンハッタン島を監視する部隊の所在を、レーザーポインターを使って説明を始める。


「ビルの大きさは10階建てですからニューヨークでは比較的低い部類になるでしょう。かつての摩天楼は核の洗礼を受けて使用に耐えません。それに屋上にヘリコプターが離着陸できるビルは案外少ないようです……」


 ゾンビ2体の確保や新たな種類のゾンビの発見……、結構色々とあったんだな。

 

「特に狙撃兵となずけたゾンビの存在は、今後の戦に多大な影響を及ぼす可能性があります。倒した狙撃兵の腕を得ることが出来ましたから、すでに脅威の評価は行っていると思います。また、サミーが新たな脅威として認識し、どうにか姿を捉えたゾンビがこれです。既に人間の姿ではありませんが、このゾンビの特徴は長距離情報伝達の能力を持つと推測しています。私達には聞こえない低周波信号で連絡を取り合っているものと考えられます。最後に、わざと拠点ビル周辺のゾンビを攻撃して、これらゾンビの反応を調べました。ゾンビの流れがマンハッタン島だけでなくマンハッタン島に至る動線を続々と伝ってきました。その時のゾンビの声も録音ができています」


 結構長い説明だったんだけど、誰もが真剣な表情で聞いている。

 報告書の提出は1カ月ぐらいは掛かるらしいが、概要報告は10日ほどでまとめる必要があるらしい。

 概要報告に記載すべき事項が次々とパソコンに入力されて画像に表示される。

 数枚の報告書だと思っていたけど、結構分厚くなるかもしれないなぁ。


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