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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-241 急いで撤収しよう


 2個分隊が増えた屋上だけど、4面に分ければ5人ずつだからなぁ。さほどの増員ということではないようだ。手榴弾や手製爆弾を落としているからビルの周囲は阿鼻叫喚と言うところだろう。

 倒されたゾンビも多いようだけど、それにも増して集まって来るゾンビの数が多いと、レディさんに連絡が入っている。


「階段室でも動きがあるようだ。階段下から音が聞こえるとのことだが、我等が作った障害を破壊するような音ではないらしい。遠くから金属で床を叩くような音だと言っていた」


「戦士型?」


「たぶんそうでしょう。でも鉄パイプで叩いて破壊できるような障害ではないと思いますけどねぇ。3人とも手榴弾を持っていますから、慌てずに状況を確認してくれているはずです」


 階段を上がって来たか……。時刻は23時を過ぎたところだ。

 まだ撤退したくはないな。少なくとも明日の1時までは此処で状況を確認したい。


「さすがにビルの外を登って来るゾンビはいないでしょう。心配なのは屋外の非常階段ですけど、一部撤去しましたからこの階には到達できません。ゾンビ達が自らを階段にしたとしても、屋上の連中が銃撃すれば十分でしょう。やはりネックはビル内の階段です」


 うんうんとレディさんが俺の話に相槌を打ってくれた。

 やはり考えるところは同じらしい。「様子を見てくる!」と言って腰を上げて事務所を出て行ったから、3人の様子も一緒に見てくるつもりなのかな。


「45分後に砲撃が始まるのよね。サミーの推測は?」


「状況に変化なし……、という公算が高いかと。とはいえ、一時的にゾンビのネットワークが活性化するとは思っていますが、ビルを取りまくゾンビが南に向かうことは無いでしょう。ですが、このビルに押し寄せてくるゾンビの方向が変わる可能性もあります。それはドローンで確認したいところですね」


「それなら、24時5分前に屋上からの攻撃を中断した方が良さそうね。その方が変化を明確に確認できるわ。レディに伝えるけど良いかしら?」


「悩みますね……。そもそもがインパルス応答試験のようなものです。標準入力に外乱を混ぜるというのが俺の考えですから、できれば散髪的な攻撃は続行したいところでもあります」


 俺の言葉に笑みを浮かべる。

 そのまま近付いて来ると軽くキスしてくれた。


「電子回路の試験方法を生物にも適用しようなんて考えるのはサミーぐらいよ。でも、集団行動を客観的に見るなら、その試験方法は使えるわね。確か公式もあるんじゃなくて?」


「ありますよ。電気技師なら直ぐに計算できるでしょう。ですがゾンビの行動を数値化するのは難しそうですね」


「それは生物学者の得意とするところよ。所長に知り合いの工学博士を紹介して貰おうかしら」


 生物学研究所ではなくなりそうだな。その内に研究所の名前が変わりそうだ。

 ゾンビがひしめく画面を見ながら一服していると、レディさんが帰ってきた。

 ゆっくりと事務所に入ってきたところを見ると、階段室におおきな変化はなさそうだな。


「確かに下の方から物音は聴こえるのだが、周囲の音の方が煩いぐらいだ。揚陸艦から運んで来た手製爆弾はかなり威力があるようだな」


 たまにシェラカップのコーヒーに波紋が広がるのは、そういうことだったのか。

 もっと大きな爆弾だったら、ビルが崩れたかもしれないな。何事も適量と言うことが肝心ということになるんだろう。


「それにしても、だいぶゾンビを倒した気がするのだが?」


「ビルを囲むゾンビは推測で1万と言うところかしら? 続々やって来ているけど、倒した数は増加するゾンビを上回ることは無いわ。これを見て、完全に1階は埋まってしまったわよ。今見えている窓は2階の窓なの」


「窓からも入り込んでいるということは、3階辺りは既にゾンビで埋まっていると考えて良さそうだ」


 3階どころか4階も埋まっているんじゃないかな。10階の階段室で物音が聞こえるぐらいだからね。

 

「まだまだ撤退には早いということですね?」


「階段に積んだガラクタを破壊し始めたところで階段室から撤退、直ぐに救援ヘリを呼んで屋上に逃れれば十分に間に合うだろう。あのハシゴも屋上へ引き上げられるそうだから、直ぐに屋上に上がって来れるとは思えん。それに屋上への階段は、途中にクレイモアを2段に設置してあるそうだ」


 さらに屋上へ至る扉は、工兵隊が頑丈に溶接して行ってくれたからなぁ。あれを破るよりも壁を破壊した方が早いんじゃないかな。


「0時5分前よ。何とか持っているわね」


 オリーさんの言葉に、集音装置の音量を絞る。

 今度はジャックの爆発音は無いんだが、レーヴァさんの事だ。全員一斉に手榴弾を投げるぐらいの事はやるんじゃないかな。


レディさんのカウントダウンがゼロを告げると、案の定ヘッドホンに炸裂音鳴り響く。

ヘッドホンを外して大きく深呼吸……。キーンとしていた耳鳴りが少しは治まる。

 再びヘッドホンを着けると、今度は砲弾の炸裂音が聞こえてくる。

 これはちょっと問題だな。スペクトルアナライザーの波形を見た方が良さそうだ。

 

「集音装置はあまり使えませんね。砲弾の炸裂音が邪魔をしてます。一応、録音はしていますから、研究所に戻ったら、砲弾の炸裂音を除去して確認した方が良さそうです」


「常に良いことばかりはない筈よ。でも、ゾンビの動きに変化は無さそうね?」


「相変わらず橋を渡って来るゾンビが後を断たん。他の動線も同じだろう。攻撃ヘリは映像記録を残しているから、後程研究所に届けてくれるはずだ」


 変化なしか……。

 もう少し待ってみるか。攻撃ヘリは低空飛行をしながらの攻撃だから、動くと思ったんだけどなぁ。


 数発を連続射撃したところで、1分ほどの間隔を取っての砲撃が始まった。炸裂音が途絶えればゾンビの煩い声が聞こえてくるんだが、統率型と士官型の声は何か混乱しているように聞こえる。頻繁に音声が断続しているんだよなぁ。通常なら断続間隔がもっとあくはずなんだが……。


「ん? 通信だ。……そうか。了解だ。攻撃は継続して欲しい。以上!」


 トランシーバーではなく通信機のヘッドセットかららしい。相手は何処なんだろう?


「攻撃ヘリからの通信を揚陸艦が伝えてくれた。西の地下道を出たゾンビの群れが2手に分かれたらしい。1つは此処ではなく南だそうだ」


「このビルへの攻撃は継続と言うことですね。その上で予備兵力を回したということなんでしょうね」


「状況を見ると、そうなるだろうな。だがそれは、ゾンビが戦術を理解しているということに繋がるぞ。1方向だけを攻める軍ではないということだからな」

 

 それが分っただけでも来た甲斐があるということになる。

 ゾンビ……いや、この場合はメデューサと言うのが正しいだろう。メデューサがそこまで進化したことに驚くしかないな。

 既に初期の体組織が変わっているぐらいだから、DNAもかなり違っているはずだ。


「オリーさん。2年前にゾンビのDNAを調べてますよね? あれからDNAを調べたことはあるんですか?」


 俺の言葉に、オリーさんが電撃を受け高野ようにモニターを覗き込んでいた姿で固まってしまった。やがてゆっくりと俺に首を動かして顔を向けるんだけど……。暗がりだったら叫んでしまうほどのホラーな動きだ。


「あまりやってない……。急いで行わないといけないわね。たくさんの生物を取り込んで作られた人工生命体だけど、体があれだけ変異してるんだから当然変わっているはずだわ。既に群体生物から変わっているかもしれないわね」


 困った連中だという感じで俺達をレディさんが見てるんだよなぁ……。

 急にトランシーバーを取り上げたところを見ると、連絡が入ったのかな?


「レディだ……。そうか! 何時破られるか分からんから急いで退避してくれ。回廊側の扉の閂をしっかりと掛けてくれよ! サミー、ワインズ達からだ。積み上げた机をパイプや鉄骨で壊そうとしているらしい。直ぐに引き上げるぞ!」


「了解です! オリーさん、メモリーカードの回収を始めてください。レディさん、救援ヘリを至急手配してください!」


 席を立って、急いで集音装置やスペクトラムアナライザーを片付ける。スポンジに包んで専用のプラスチックコンテナに入れてしっかりとロックをしておく。

 メモリーカードは既に引き抜いて俺のポケットの中だ。

 ハシゴの傍に運んでいると、ワインズさん達が事務所に入ってきた。先にハシゴに上って貰い、ロープを下ろして貰う。

 ロープにコンテナを縛り付けて階段を滑らせて屋上へと運ぶ。コンテナ3つだけだからなぁ。直ぐに終わった。

 オリーさんとレディさんを先に上らせ、最後に俺が上る。

 俺が屋上に上ったところでハシゴを引き上げ、エディ達が銃を片手に開口部から事務所を覗いている。

 直ぐにやって来るとは思えないけど、用心に越したことはないだろう。


「救援ヘリを確認しました。どうやら4機ですね。最初に増援部隊を退避させます」


 オルバンさんがやって来て、退避の順番を教えてくれた。

 増援が2個分隊だから、そのまま2機に乗り込んで、後にやってきた2機に俺達が乗り込むということになる。そのままドーバー空軍基地まで移動するとのことだ。

 殿はレディさんとレーヴァさんがもめていたけど、やはりレーヴァさん達グリーンベレーが務めることになったようだ。

 手榴弾をレディさんがレーヴァさんに手渡しているけど、事務所にゾンビが入ってきたら投げ込むのかな?


 3分も掛からずにヘリに搭乗すると、直ぐにヘリが飛立ち上空で待機していたヘリが下りてくる。

 訓練の成果というんだろうな。次のヘリも直ぐに飛立っていく。

 3機目は俺達が搭乗することになる。エディ達とプラスチックコンテナを運び入れ、最後にヘリに乗り込んだらベンチシートに座る前にヘリが屋上から飛び立った。

 補強のパイプを掴んでいたから良かったものの、場合によってはヘリから投げ出されたかもしれないな。


「終わった……。これで色々と分かって来るはずよ」


「そうでないと困る。消費した弾薬もかなりのものだぞ。実際、威力偵察の枠を越えているはずだ」


「早目に速報版を作るわ。既に作戦は始まっているんですもの。どんな注意が必要かをアドバイスできるだけでも、今回の偵察の効果大きいと思う」


「出来れば、最後に話したことは研究所内で留めて欲しいところです」


「そうね……。でも、本部長と大統領には所長が内々で話すんじゃないかしら。推測ではあるけど、かなり大きな課題になる筈よ」


 出来ればバカげた妄想だと、笑って欲しかったんだけどなぁ。

 だけど、オリーさんは俺の推測を評価してくれたようだ。となると、それがいつ頃どこで起きるかが次の課題になる。

 それを確認する手段は飛行船を使えば良いと思うんだけど、その外にも手段があれば良いんだけどね。


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