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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
233/678

H-233 狙撃を防いで反撃するには


 屋上を捜索していた兵士が「これじゃないでしょうか?」と言って俺達に見せてくれたものは、22口径の銃弾によく似たものだった。

 オリーさんがハンカチに受け取って、大きな虫眼鏡で観察しているんだよなぁ。

 小さな代物だから、直ぐに分かると思うんだけどねぇ……。

 

 擁壁を背にタバコを楽しんでいたんだけど、俺達にオリーさんが急に振り返るから、吃驚して蓄えていたタバコを落としそうになってしまった。


「サミーが、進化の過程で飛び道具を手にするかもしれないと言っていたけど……。どうやら、持ってしまったみたいね。銃弾はキチン質、中心に小さな穴が開いているわ。毒が仕込まれていると見て間違いないでしょうね。どの程度の毒なのかは、残留物を検査して見ないと分からないけど、かなり強力だと思うわ」


「俺達の装備で止めらるのか?」


「ヘルメットなら弾くでしょうね。でも戦闘服は貫通すると思うわよ。先端が欠けているけど、かなり鋭いんじゃないかしら。毒を持たなくとも、パラボラの強化プラスチックを破損させたんだから、アーチェリーの矢ぐらいの威力はありそうね」


「確か、アーチェリーの矢の速度は秒速50mほどじゃなかったか? それほどの威力には思えんが」


「ライフル銃の銃弾も尖っているけど、あれよりも鋭いわよ。ナイフだって尖っているから刺すことが出来るんでしょう?」


 銃弾は弾速が速いからなぁ。その衝撃で体を貫通するんだけど、ゾンビの銃弾は低速だけど先端が鋭いということが問題だということか。


「皆を拠点に下ろした方が良さそうだな。対策を考えてから対処した方が良さそうだ」


「賛成するわ。立ち上がらずに、ゆっくりと下に降りた方が良いわよ」



 オリーさんの忠告に従って、身に付けられない装備はそのままにして拠点へと移動することになった。

 拠点に降りても、安心は出来ないんだよなぁ。飛んで来た方向からすると南西方向らしいんだが、その場所だけにいるとも限らない。

 荷を届けてくれることになっていたから、レーヴァさんが強襲揚陸艦に連絡を入れている。さすがにヘリの防弾ガラスを突き破るとは思えないが、結構ヘリの扉を開けたまま飛んでいるからなぁ。


 主だった連中が集まったところで、コーヒーを飲みながら対策を考える。

 方向を確認してその姿を見付ければ、M203出グレネード弾を放てば終わりになりそうだけど、その為に擁壁から体を出さないといけないのが問題だ。

 次が当たらないとは限らないからね。ゾンビの銃撃を自ら実証したくはないだろう。


「潜望鏡が2つある。サミーのパラボラは一部破損しているが、使えなくはないだろう。先ずは方向を確認することが一番だろうな」


「方向が分れば、そのビルを観察できる。潜望鏡は倍率が殆どないからなぁ。私の持っているものは2倍に切り替えられるが……」


「私のは、1.5倍だ。拡大画像よりは広角を優先した」


 ビルの状況監視は出来そうだが、相手を詳細に見ることは出来ないようだな。


「やはり、ドローンを頼ることになりそうね。ドローンのスターライトカメラは10倍ズームよ」


 それで位置を特定出来たとしても、攻撃時には体を相手に晒すことになる。

 何とかできないものなのだろうか?


「そういえば、警察には暴徒用に透明の盾を持っていましたね。あの真ん中にグレネードランチャーの銃身に合う穴を開けて貰えたなら、ゾンビの銃撃を受けても何とかなるんじゃありませんか?」


 提案者はオルバンさんだった。

 思わず顔を見合わせてしまったけど、しっかりと皆で頷いたんだよなぁ。


「ポリカーボネート製だったな。2枚合わせの代物は小口径拳銃弾の貫通をかなり防げると聞いたことがある」


「ニューヨーク市ならありそうだけど、ドーバー市にはあるのかしら? 治安の良い町と聞いたんだけど」


「ボルチモアやウイルミントン市が近くにある。近隣都市に応援を依頼するのはよくあることだ。となれば、当然ドーバー市の警察にも用意されているに違いない。問題はグレネードランチャー用の穴をどうやってあけるかだな。まぁ、それは工兵の連中が何とかしてくれるだろう。盾を数枚、それにHK69もしくはM79を運んで貰おう。M203ではカービン銃を縦からかなり突き出すことになるし、再装填時には銃を下げないといけなくなる」


 レーヴァさんの言葉に俺達は耳を傾けるだけだった。

 最後にすべてをレーヴァさんにレディさんがお願いすると、笑みを浮かべて頷いてくれた。


「これで処置はレーヴァに任せられるだろう。となると、我等はゾンビの狙撃手の位置を確認しなければならん」


「サミーとマリアンに任せたいけど、状況も見てみたいところね。それにアドバイスだって必要でしょう?」


 問題は、南の擁壁までどうやって近付くかだ。

 

「大まかな射点位置は分かるんでしょうか?」


 俺の問いに、レディさんがオリーさんにビルの周辺画像をモニターに映しだして貰い、銃弾の飛跡から推定される位置を教えてくれた。

 パラボラに位置と見付けた銃弾の位置をモニターで直線を引くと、通りを挟んだ反対側の西に1つ離れたビルになる。


「同じ階とは思えんな。少なくとも1、2階は上になるだろう。さらに上階と言うことも考えられなくはないが、発見された銃弾の位置がこのビルの中心より北側だ。入射角はかなり低い。もっとも、パラボラを破壊した後も銃弾が真っ直ぐに進んだと言う仮定での話だ」


「それだけでも助かります。そうでないと近くのビルを全て調べないといけませんからね。だとすれば、屋上の真ん中を歩いて南の擁壁に向かうよりは、西の擁壁沿いに移動する方が危険は少なくなりますね」


「階段室にはタープが張ってある。階段扉の開閉を知る手段はゾンビは持っていないだろう。とはいえ、西の擁壁までには少し距離があるな」


 さてどうしようかと考えていると、オリーさんが机を横に並べては? とアイデアを出してくれた。

 事務机の上板はそれなりの厚みがあるし、トレイを入れる為に薄い鉄板が裏にも張ってある。秒速50mの鏃が貫通しなければ良いだけだから、案外使えるかもしれない。


「それで行くしかなさそうだな。10個も並べれば十分だろう。これはオルバンに頼みたい」


「了解です。エディ達にも協力して貰いますよ」


 これでどうにか対処できそうだな。

 温くなったコーヒーに熱いコーヒーを注ぎ足して貰って、一服を始める。


「それにしても厄介だな。ゾンビが飛び道具を持つとはなぁ……」


「しかも無音です。ゾンビの体温は周辺と同じですから、かなり厄介な狙撃手になりますよ。今は、集音装置でその存在が分かりますが、この先どうなるか予断は出来ませんね」


「通りの反対側からだとしても、100m程度なら十分に人間を倒せるでしょうね。毒の種類を急いで特定しないといけないわ」


 解毒薬を作ることが出来るということかな?

 簡単に作れるようなら、それほど脅威ではなくなるんだけどなぁ。


 オルバンさん達が屋上の階段室から北の擁壁まで10個近くの机を横にして回廊を作ってくれた。

 その回廊を伝い、小型カメラで南西方向の撮影を行ってくれたから、皆でモニター画面を拡大しながらゾンビの狙撃探しが始まった。

 小型カメラとはいえ、画素数が多いのだろう拡大してもそれほど画像が荒れることがない。

 窓を1つ1つ確認していく地味な仕事なんだが、誰もモニターから視線を外そうとしないんだよなぁ。

 俺が最初に飽きてしまったことに、自分ながらも集中力の無さを恥じてしまう。

 皆から少し距離を置いて、タバコに火を点ける。

 

 多分、戦士型に違いないだろう。3本目の腕を持たない初期の戦士型から始まって、だいぶ戦士型のバリエーションが増えてきた感じだ。

 次に出てくるのは装甲型だと思っていたんだが、狙撃型とはねぇ。ちょっと予想が外れてしまったな。

 待てよ……、案外腕を増やした戦士型とは別系統になるのかもしれないな。

 飛び道具を持つメデューサは、装甲を持つ必要が無さそうだ。そもそも接近戦をしないで良いんだからね。腕を増やしたメデューサの枝の先に装甲型はいるに違いない。それが見当たらないのはまだそこまでの進化に到達していないということになるんだろうか?


「こいつか!」


「たぶんそうじゃないかしら……。サミー! ちょっとこっちに来て頂戴」


 オリーさんが、俺を見付けて大きな声を上がる。


「皆が頑張って探しているんだから、後ろの方で休んいるのはどうかと思うわよ。……それで、これなんだけど」


 小言を言われてしまった。素直に頭を下げて、モニターに拡大されたゾンビを眺める。

 ちょっと分かりずらいが、こっちに顔を向けている。動画モードでも顔の向きが変わらないな。他のゾンビは俺と同じで落ち着きなく動いているんだが……。

 姿そのものは標準型に見えなくもないが、直ぐに相違点に気が付いた。

 立っているんだがこちらに向けて太い腕を伸ばしている。これは、第3の腕と言うことになるんだろう。背中の方から体の前に伸びているから、触手のように動かすことが出来るようだ。

 その腕の先端が4本腕のゾンビや3本腕のゾンビとは明らかに異なる。4本腕の場合は先端が少し平たくなってかぎ爪があるし、3本腕の場合はセンタに行くほど細くなっている。

 このゾンビの腕はそれほど長くないし、先端が丸みを帯びているようにも見える。

 何か付いているようにも見えるんだがよく分からないな。


「腕の千切れた3本腕のゾンビにも見えますが、それにしては腕の先端が丸みを帯びていますね。これ以上倍率は上げられないんですか?」


「生憎とこれが最大になるわ。何か気になるところがあるのかしら?」


 オリーさんの言葉に、席を立ってモニターの傍まで歩いていく。

 画面に映し出されたゾンビの腕の先端を指差しながらオリーさんに顔を向けた。


「黒いものがあるんですが、デンバー空港で腕を切断した時にはこんなものはありませんでした。退役を循環させる血管のようなものだとしたら、数が多いですよ」


「汎用ドローンならもっと接近できるし、拡大画像も撮れるわ。試してみましょうか?」


「それなら、ついでに声も聞きたいですね。たぶん戦闘型ゾンビと同じ種類なんでしょうが区別できれば探すのも楽になります」


 急にガヤガヤと騒がしくなってきた。

 さっそく始めることになるんだろうけど、その前に夕食じゃないのかな。

『腹が減っては戦は出来ぬ』という言葉もあるぐらいだ。先ずは落ち着いて食事を取ってからにした方が良いと思うんだけどなぁ。


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