表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
231/677

H-231 げっ歯類の歯が出て来たらしい


 リバティ島の東、自由の女神象の背中側にある芝生に大きなビニルハウスが作られていた。

 下からの誘導に従って2体のゾンビを下ろし終えると、俺達はゾンビの偵察拠点ビルへと急いで戻る。

 ゾンビ2体を生物学検収書の所長達に委ねたのは、偵察のオプションみたいなものだからね。後はケ江化を知らせて貰えば十分だ。


 エディ達に出迎えられてヘリを降りると、レーヴァさんがコーヒーを一緒に飲みながら俺達のいない間の出来事を話してくれた。


「まぁ、特に何もないと言って良いだろうな。そうそう、ヤンセン博士達は今夜遅くに帰るとのことだった。ゾンビの解剖を見学すると言っていたよ」


「詳細は研究所に帰ってからになりそうだけど、サミーの推測が正しいかどうかぐらいは分かるんじゃないかしら」


「2体運んだが、2体ともリバティ島で解剖をするのだろうか?」


「たぶん1体は氷詰めで研究所に運ぶんじゃないかしら。リバティではそれほど詳細な調査は出来ないでしょうね。メデューサの基本構造を確認するのが主目的になる筈よ」


 確かに、どのような代謝器官があるか知ることも大事だろう。敵を知り己を知らば……と言う言葉もあるぐらいだからね。


「それより、これを見て! 昨日使ったジャックの炸裂位置よ。炸裂後1時間後の画像と、今日の昼過ぎの画像になるわ」


 一目見て、オリーさんに顔を向けた。

 朝は数体が消えただけだったが、この画像では20体近く姿が消えている。


「どこに運んでいるんですか?」


「地下鉄駅を降りて行ったわ。地下鉄の排水装置は稼働していないでしょうから、地下鉄線路の半分は水没しているでしょうけど、下水路並みにゴキブリの養殖は可能じゃないかしら」


「直接的な共食いと言うことではないのだな?」


 レディさんの問いに、ちょっと首を傾げてオリーさんが考えている。


「ある意味死体の有効利用になるんでしょうね。下水なら富栄養化も高いでしょうから菌糸類なら十分に育つわ。でも地下鉄ではあまり栄養価が乏しいということかもしれないわね」


 菌糸類を育て、ゴキブリを養殖し、ネズミを育てているってことか……。

 それって、農業と畜産をしていると言えるんじゃないかな。既にそこまで知能を高めているということになりそうだ。


「もっと早めに、フリーダムを始めるべきだったかもしれないわね。ぐずぐずしているとさらに進化してしまいそうだわ」


「ゾンビを良く知らない状態で始めたなら、逸れこそ人類の終焉が訪れていたかもしれないよ。相手の弱点が分かったからこその反撃でもあるんだからね」


 冷たい口調で呟くように言葉を出したレーヴァさんだが、部隊の半分以上をゾンビに倒されたと言っていたからなぁ。

 反撃したくとも、その糸口が掴めなかったに違いない。


「今回知りえた情報は、オペレーション・ノーススターへの参加者に共有できるはずです。最後にどんな評価が得られるか、今から楽しみですよ」


 オルバスさんの言葉に、レーヴァさん達生粋の軍人が頷いている。

 今回の偵察でゾンビに対する効果的な攻撃方法が分かるかもしれないということなんだろうけど、現在までに判明した内容はどちらかというと長期戦になりそうな情報ばかりだ。

 とはいえ、偵察を始めたばかりだからね。これからわかることも沢山あるはずだ。


 2日目の夕食後、20時過ぎにオリーさんが状況説明を始める。

 先ほど戻ってきたヤンセン博士達は、レーションを食べながら席に着いている。俺達は紙コップに半分ほど注がれたワインを飲みながらだから、危機感がまるでないんだよなぁ。

 まぁ、悲観に暮れているよりは遥かにましだろうけどね。


「今日1日で分かったことから、情報共有を行います。先ず、ゾンビは動かなくなった……死んだゾンビと言うことになるのかしら? そんなゾンビを移動していることが分かったわ。デンバーでは見られなかったから、ニューヨークのゾンビが他の地域と比べて進化していると言えるのかもしれないわね……」


 運び去った場所は、地下鉄への入り口であること。その目的は推測ではあるが、ゴキブリ等の餌にする為かもしれないとオリーさんが言葉を繋げたので、皆が目を見開いている。


「地下鉄構内で何が行われているのか、これは後で調べてみるつもり。次に、今日の午後に通常型ゾンビを2体確保して、リバティ島で1体の解剖を行いました。最終報告はまだ先になるでしょうけど、簡単な概要をヤンセン博士が持ち帰ってくれた。

 それによると、内蔵器官が全て変異していたらしいわ。

 消化器官は胃に類似した器官だけみたい。イソギンチャクのようなものかもしれないわね。循環器系も確認できたということだけど、心臓というものはないそうよ。太い血管に相当するものが伸縮することによって体液の循環を行っているらしいから、やはり銃撃するなら頭部が一番ということになるのかしら……」


 専門的な話には付いていけないけど、途中途中で俺達が知っている生物に例えてくれるからどうにか付いていける感じなんだよなぁ……。途中で座をはずす兵士もいるみたいだけど、これはどうしようもないな。


「そうそう、先ほど言った胃に相当する部分から、げっ歯類の歯が出てきたそうよ。ゾンビが人を襲えなくなったことから、ネズミを食べているということが立証されたわ。これでサミー上級研究員の推測である、ゴキブリをネズミが食べて、そのネズミをゾンビが食べるという食物連鎖が成り立つの。いずれはエネルギー不足でゾンビが活動を終えるという考えは排除されたことになるわ……」


「倒さない限り、俺達の前にいつまでもいると?」


 エディの大きな声に、オリーさんがしっかりと頷いた。

 ちょっとガヤガヤし始めたな。

 残ったワインを飲み終えたところで、タバコに火を点ける。

 オリーさんも、手元のシェラカップに入れたコーヒーを飲んでいる。


「次に、新たなゾンビの話をしましょう。今までのゾンビは超音波に近い私達には聞こえない音で周囲を見ていたり情報の交換を行っていたけど、ここで始めて私達には聞こえないほどの低音領域を使うゾンビの存在を確認したわ。

 今までのような方法ではその存在位置が確認できなかったんだけど、マンハッタン島を取り囲むようにしてその発信源を探った結果がこれになるわ。私達に分かるのはその音の発信方向だけだから、ヤンセン博士達が警備艇を使って確認したんだけど……」


「歴史博物館にユニオンスクエア・パーク! 2つもあるのか!!」


「今夜から調べてみるつもり。先ずはユニオンスクエア・パークからにするわ」

 

 オルバンさんの言葉にオリーさんが答えると、ヤンセンさんが手を上げた。


「ですが、あの公園には大きな建物などありませんよ。隠れていないということになるんでしょうか?」


「あるんだ。あまり一般的ではないんだが……」


 レーヴァさんの話によると、冷戦時代の地下壕が公園の下に作られていたらしい。

 ゾンビから逃れようとして、誰かが地下壕の扉を開いたのだろうか?


「ゾンビは地下にもいると……。かなり厄介ですね」


「地上なら爆撃でどうにでもなりそうだが、地下となると面倒この上ない。バンカーバスターを使っても安心は出来んだろうな。そういう意味では、ニューヨークのゾンビを掃討するのはかなり時間が掛かりそうだ……。

そうだ! 私からも報告があるぞ。サミーからこちらをジッと眺めているようなゾンビを探せということだったが、北のビルで見つけた。オリー博士に確認して貰い、統率型と言うことだったから、グレネードを撃ち込んだ。その後に通りを注意して見ていたが、ゾンビの数が増えた様子はなかった」


「統率型ゾンビ狩りはマリアン達も始めたわ。あまり通りにはいないみたいだけど、確認できた統率型を4体倒したわよ」


 統率型だけでなく周囲にいた通常型ゾンビも合わせて倒しているに違いない。

 少しでもゾンビの数を減らすことには寄与できたけど、精々今日1日で100体に届かなかったんじゃないかな。やはりビッグジャックの方がゾンビを減らすためには使えそうだな。


「迫撃砲弾は10ケース運んで貰った。半分はエアバースト弾だから、まだまだ統率ゾンビ狩りを続けられるぞ」


「オルバン、明日も継続だ。サミーは、我等を御監視している統率型を見付けてくれ。これだけ周囲にビルがあるんだ。1体と言うことは無いだろう」


「そうですね。明日は本来の偵察を行いますか」


 報告会を終わりにして、深夜の探索を始める。

 俺はパラボラ型の集音器をあちこち動かしながら、昨夜と異なるゾンビの音を探し始めたし、オリーさん達も汎用ドローンを使って赤外線発光装置を付けたジャックを仕掛けるようだ。


 1時間ほどかけて4方向の音を確認したんだが、代わった音は無かったな。

 とはいえ、相変わらず低周波の音がすることに変わりはない。こっちの方は少し大きくなった気がしないでもない。

 ここから一番近いのはユニオンスクエア・パークになるんだが、昼に感じたよりも肌に響く気がするんだよなぁ。

 サンディーからコーヒーを受け取って、しばしの休憩を取る。一服を終えて再び南の擁壁に戻った時だった。

 先ほどよりも、体に感じる低周波の響きが強くなったようにも思える。

 急いで、パラボラの向きを変えながら感度メーターの針を眺めると、ほとんど振り切れるまでに強まっていた。


「エディ! ちょっと来てくれ!!」


 俺の声に、エディ達ばかりかレディさんまでやってきた。


「どうした?」


「確か、スターライトスコープを持ってたね。この方向を調べてくれないか。既に感じてると思うけど、かなり肌に感じるだろう?」


「なるほど……。正体が分かるってことか! ちょっと待っててくれよ」


 エディとニックがバッグから装置を取り出して少し小さめの三脚のセットしている。

12インチほどのモニターを取り出したところを見ると、スコープを直接見るんじゃなくて、モニターで見られるということらしい。

 その方が、俺達にも都合が良いな。


「方向は、こっちだな。なるほど昼とはまるで違うな」


「私にもはっきりわかるぞ。まるで大きなスピーカーの前に立っているようだ」


 そんな2人の感想を聞きながら、モニターに視線を移す。

 ニックが色々と調整をしていたが、やがて身のトーンの画像が鮮明に映し出された。

 

「たぶん隣の通りなんだろうと思う。目の前の通りなら良かったんだが……」


「分からないか……。なら、ドローンを使うぞ」


 レディさんが、オリーさん達の所に向かっていく。

 ドローンは2台だけど、オリーさん達の偵察に使われているんじゃないかな? その内の1台を横取りすると、オリーさんが怒りだすように思えるんだけどねぇ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ