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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-218 なぜここにUS-2が?


8月10日。デンバー空港に変わった形の飛行機がやってきた。

 胴体に、描かれたのはどう見ても日の丸だ。このズングリした形と下部構造は飛行艇であることを物語っている。

 US-2ってことか? それなら日本人が操縦しているんじゃないかな。

 思わず七海さんと顔を見合わせてしまった。


「あれって、自衛隊の飛行機ですよね?」


「間違いないね。だけど、どうしてアメリカにあの飛行艇があるんだろう?」


「おいおい、あれってサミーの国の飛行艇だろう? 大きいなぁ。あれで飛ぶんだから凄いとしか言いようがないな」


「かなり変わった飛行艇だと聞いたことがあるよ。武装はまるでないんだが、かなり波の高い海面でも下りられるらしい」


俺達の真上を飛び去ると、大きく弧を描いて滑走路に降りてくる。


「何だと! あんな低速でまだ飛んでるなんて……」


「変わった飛行艇なんだよ。特に低速性能が優れていると聞いたことがある。時速100km程度でも失速しないんだ。離陸時も300mほどで飛立てるらしい」


「飛行艇なら、水面が広いんだからそんなことに気を付けなくても良さそうに思えるんだけどなぁ」


 ニックの言葉に思わず頷いてしまった。確かに変わった思想で作られたに違いない。

 やがて、ほとんど止まっているかのような感じで滑走路に降り立つと、ゆっくりとこちらに向かって地上走行をしてくる。


「ペンデルトンからおもしろい飛行機を出すと言っていたが、あれがそうらしいな。自衛隊の飛行機だが、どうやら海兵隊で購入を検討していたらしい。デモの為に飛んで来たんだろうが、航続距離が4千kmと言うんだから、哨戒には最適だと考えたんだろう」


「自衛隊の識別マークがついていますから、搭乗員は日本人ということになるんでしょうか?」


「分からん。だが、かなり癖ある機体だと聞いたことがある。着陸がスムーズだったところを見ると、案外自衛隊員が搭乗しているかもしれんぞ」


「日本語が久ぶりに使えますね。たまに話さないと忘れてしまいそうです」


 ウイル小父さんの言葉に、七海さんと顔を見合わせて微笑んでしまった。

 七海さんと2人の時には、なるべく日本語を使おうと互いに約束してはいるんだけどね。

 母国語を忘れてしまったら、それは悲しいことだからなぁ。


 飛空艇が、俺達の乗ってきたピックアップトラックの50mほど手前で止まった。

 プロペラの回転速度が遅くなって、やがて止まる。

 側面の扉が横に開き、中からハシゴが下ろされる。そのハシゴを使って降りて来た3人は、1人が長身だけど2人はその肩までしかない。やはり日本人なんだろうな。

 俺達の所にやって来ると、帽子とサングラスを外した……。驚いた。3人とも女性じゃないか!


「海上自衛隊第81航空隊所属、橘二尉です。Three-legged crow部隊をドーヴァー空軍基地に移動するよう海兵隊ジョンソン少将より指令を受けてまいりました」


「ご苦労。私は海兵隊武装偵察部隊のレディ准尉だ。隣が我等Three-legged crow部隊の部隊長のサイカ少尉になる。隊員は我等を含めて9名になるが、あの飛行艇に全員搭乗できるのだろうか?」


「ご心配無用です。正規搭乗員以外に12名を搭乗させることができます。直ぐに出発できますか?」


「そうだな。それで案内して貰おう」


 挨拶は事前に全てレディさんに任せてある。

 七海さん達に手を振りながら、ダッフルバッグとM4カービンを担いで3人の後について飛行艇へと歩いていく。

 七海さん達に振り返ってもう1度手を振ると、ハシゴを登って機内へと入った。


 キャビンの側面にある折り畳みのベンチを下ろす。しっかりとセーフティベルトが付いているから、ダッフルバッグをベンチの下に放り込んで座ると、直ぐにセーフティベルトを締める。

 

「US-2の飛行速度はそれほどありません。目的地まで5時間は掛かるでしょう。トイレは後部にありますし、巡航時にはセーフティベルトを外しても良いですよ」


 やはり日本人だよなぁ。だけど。英語で流暢に説明してくれるんだから、大学は出ているに違いない。

 

「巡航時には、コーヒーや喫煙は可能なのか?」


「大丈夫です。あのランプが緑になったら巡航状態ですから、その時に喫煙してください。それではそろそろ出発します。後程、お話しましょう」


 橘二尉がキャビンから操縦席に戻って行った。この機体は何印で操縦するんだろうな。先程の3人ということなんだろうか。


「サミーと同郷みたいだね。でも、なんで日本の軍隊がアメリカにいたんだ?」


「俺も気になってるんだよなぁ。兵器の訓練にアメリカの基地を使わせて貰っている話は聞いたことがあるけど、この飛行艇は武装がまるでないらしいからね」


「アメリカ軍も昔は飛行艇を使っていたそうだ。広域監視は飛行艇が一番だと父が話してくれたよ。今では広域監視はレーダーを搭載した飛行機が行っているんだが……」


 原点回帰と言うことでも無さそうだ。

 それに飛行艇は案外値段が高いと聞いたことがある。アメリカ軍に見せびらかしてやろうなんてことではないと思うんだけどねぇ……。


「動き出したぞ! ……なんだこりゃ!!」


 エディが驚いているのも分かる気がする。オルバンさんも思わず窓の外を見ているぐらいだからね。


「4発エンジンだが、プロペラ機だろう? とんでもない性能だぞ!」


「自衛隊が誇るのも分かる気がするな。これならちょっとした直線道路があれば離着陸できそうだ」


 通常なら機首を上げて高度を上げていくんだが、この機体は期待が殆ど水平所歌で高度を上げていく。

 ジェット機のような加速感は無いんだが、何か不思議なこことがするなぁ。


 10分ほど経過すると、コクピットとキャビンを隔てるドアの上部に取り付けられたランプが緑になった。巡航状態に入ったということなんだろう。セーフティベルトを外して外を眺めてみた。

 だいぶ低いところを飛んでいる感じがするな。高度3千というところかな。

 この状態で5時間か……。退屈しそうな気がしてきた。

 

「エディ! トランプをしない?」


 ジュリーさんのお誘いに座席を移動しようとしていると、コクピットから橘二尉が現れた。

 手に紙コップと保温水筒を持っているから、コーヒーを差し入れてくれるのかな。


「コーヒーです。皆で分けてください」


「ありがとうございます」とニックが頭を下げて受け取っている。

 レディさんより少し年上に見えるけど、肩で切りそろえた髪が綺麗だな。顔は美人の範疇に入るんだろう。でも七海さんほどではないね。


 ニックからカップを受け取った橘二尉が、俺の反対側のベンチに腰を下ろして俺の顔をジッと見ている。


「サイカ少尉は2世なのでしょうか?」


「いえ、帰化したばかりです。生まれは茨城ですけど、実家は和歌山になります」


「なら、日本語で話せますね」


 やはり、日本語で話したかったのかな?

 しばらく世間話をしていたんだが、なぜアメリカにUS-2があるのかが分かった。

 やはり売り込みの為のデモにやってきたらしい。

 その最中にゾンビ騒動が始まってしまって、帰国できなくなったということのようだ。


「クルーの中で生き残りは2人だけでした。空軍の中から3人出して頂いて飛べるんですけどね」


「でも、アメリカは飛行艇を廃止していたんですよねぇ」


「このUS-2型の性能をかなり評価しているみたいですね。今時4千kmの航続距離を持つ飛行艇はそれほどありませんし、何といっても短距離の離着陸が可能です。それに海が荒れていても、波の高さが3m程度なら離着陸ができます。救難飛行艇として欲しかったのかもしれませんね」


 湖のような静水面なら着水できる小型のフロートを持った飛行機はたくさんあるんだけど、大型はないんだよなぁ。

 軍が興味を持ったなら、何機か試験目的で購入してくれたかもしれないな。


「それで橘二尉は、これからどうするんですか?」


「Three-legged crow部隊の足になってやってくれと、少将殿から頼まれました」


 思わず目を見開いた。それって俺達専用機ってことじゃないか!


 日本語はまるで理解できないという目で俺達を見ていたレディさんに、その話を伝えるとやはり驚いているんだよなぁ。


「本当なのか? この機体を我等で使えると?」


「さすがに近場の移動は控えたいですけど、少将殿の指示があったみたいです」


「飛空艇だから、当然水の上にも着水離陸ができるはずだ。となると……。サミー、アメリカ大陸中に我々は移動して任務を行うことになるぞ。オルバン! ちょっと来てくれ」


 レディさんからオルバンさんにこの機体の話をすると、やはり大きく目を見開いている。


「ほんとうですか! この機体は気に入りましたから嬉しいことではありますが、他の部隊から羨ましがられそうですね」


「それだけの働きを期待されているということになるんだろうな。オペレーション・ノーススターの下には4つの大きな作戦がある。さらにその下のオプションを考えると、移動方法はあった方が間違いないだろうな。統合作戦本部ではどの部隊もサミーを欲しがっていたことは確かだ。統合作戦本部としては、長期は無理でも短期的な協力ということで部隊の指揮官を納得させたということなんだろう」


「アメリカ中を移動することになりそうですね。これは楽しくなってきましたな」


 オルバンさんの顔に笑みが浮かんで来た。

 それだけ喜んでくれているようだ。エディ達にはオルバンさんが伝えてくれるに違いない。直ぐにエディ達の肩を叩きながら話を始めたようだ。


「橘二尉も、日本とは連絡を試みたんでしょう?」


「9月上旬までは何とか通信ができました。下旬にはいくら呼び掛けても応答がありません。他の部隊のチャンネルも試みましたが、結果は同じでした」


「俺はアマチュア無線を使ってみたんだけど、9月上旬で途絶えました。日本と言う国は既に無くなってしまったのかもしれません」


「帰る手立てもありませんし、これからはお世話になった空軍に恩返しをしようかと考えていましたが、協力する相手が日本人だったとは思いませんでした」


「若いですけど、妻がいるんです。彼女も日本人ですよ。これで橘さん達と4人になりました。アメリカには仕事や旅行、それに留学で大勢の日本人がいたはずです。その内に会えるかもしれませんね」


「保護した民間人は私達とは別の場所にいましたから、会ったことが無いんです。そうですね。確かに私達4人ということはないでしょうね。サイカ少尉とはたまにお話をしたいですね。日本語で話すなんて本当に久ぶりなんです」


 それは分かる気がするな。

 ん? ちょっと待てよ。橘二尉ならゾンビの声を聞き分けられるんじゃないか?

 オリーさんと合流したら、早速試した方が良さそうだ。

 US-2を操縦していない時だってあるんだから、その時に協力して貰えるかもしれないぞ。


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