表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
21/672

H-021 生存者を見付けた


 翌日は、朝から快晴だ。外に出て空を見渡しても雲1つ無い。

 そんな俺に近づいて肩をポン! と叩いたのは、ベントンさんだった。


「ウイルから使える奴だと聞いてるが、無理はしないでくれよ。それとよろしく頼む」


「こちらこそよろしくお願いします。銃より棒で殴る方が得意なものですから、足を引っ張るかもしれません」


「その内に手合わせをしてくれ。ウイルが負けたと言ってたからなぁ」


 海兵隊は脳筋揃いだとウイルさんが言ってたけど、陸軍もそうなのかな?

 それよりも……。


「さっきから気になってるんですけど、その棒は?」


「これか? ウイル達がかなりゾンビを倒したからなぁ。ゾンビを退かさないと車を町に入れられん。轢いても良いんだが、元は人間だ。それで、これを使って退かそうと思ってるんだ。サミーの分も作ってあるからな」


 3mほどの棒の先端に小さなフックが付いている。あのフックで引っ掛けて道端まで移動するってことかな?

 急に動き出して襲ってこないとも限らないからなぁ。それで長い棒を使うのか。


「殴るには少し細すぎますね。二人一組で、万が一を想定すれば移動できそうです」


 うんうんと笑みを浮かべて頷いているところを見ると、同じ事を考えていたに違いない。


「陸軍も良いぞ。サミーなら偵察部隊に推薦してやれるんだがなぁ」


「軍はどうなってるんでしょうね。俺達はデンバーの北西にあるバレナム市に住んでいたんですが、あの日はサマーキャンプでさらに西の郊外にいたんです。研究都市で事故があったと知らせを受けて宿舎で待機していると、通りを2回に分けて軍が西に向かいました。

 2日後に何とかウイル小父さんの家に行こうと移動したんですけど、西から戻って来る軍はありませんでした」


「俺も似たようなものだ。現隊に戻ろうとしても高速道路は通行止め、そして町中がパニックになるのに半日も掛からなかったよ。近くに住んでいたバリーさん達と一緒に避難したんだが、そこにいたのは数家族だけだった」


 混乱の最中、どこに避難したかでその後が決まった感じなんだろう。

 2日間動くなと言う指示を守って、いまさらながらに良かったと感じてしまう。


朝食を終えても直ぐには出発しない。

 道路が乾くのを待っている感じかな。既にピックアップトラックの準備は出来ているから、後は出発するだけなんだけどね。

 柵の近くに作った焚火の周りで、班長達が相談しているから、俺達は少し離れた場所で一服を楽しんでいる。

 ナナとクリスは同行する小母さん達とおしゃべりに興じている。

 よくもあんなに話題があると感心してしまう。


「まあ、あれで仲良くなるってことなんじゃないか? 俺達と同年代の男がいなかったけど、いたらやはりここで色々と話をしてると思うよ」


「他の拠点からさらに来るかもしれないよ。俺達3人だけでは面白くないからなぁ」


 後ろからエンジンの音が近付いてきた。

 なんだろうと思って振り返ると、工事用の車両がこっちにやって来る。

 あれってシャベルカーと言う奴じゃないのか? 穴掘りをするための車だと思うけど……。


「やってきたな。ウイルが運転するのか?」


「爺さんも運転できるが、今日は俺で良いだろう。エディを用心棒に乗せていく」


「このまま行けるか? 行けるならその後を付いて行く」


「ああ、それでいい。さすがにこれでは逃げ出すのが難しいから、その時は乗せて貰うぞ」


 エディが笑みを浮かべて、シャベルカーに乗り込んだ。と言っても、運転席だけの車だから後部にあるエンジンルームの上だ。しっかりと運転席のフレームを掴んでいれば落ちることは無いだろう。

 いつも通り荷台に乗り込むと、シャベルカーの後を追うように進んでいく。

 シャベルカーは大きなタイヤを付けたものだから、キャタピラよりはスピードが出るようだが、それでも時速40kmに達しないらしい。

 運転席からぶつぶつと不満そうな呟きが聞こえてくる。


「だいぶ丸太を積んでますけど?」


「ああ、これか。ゾンビを道に退かすだけでなく、ついでに積み上げて燃やそうってことになったんだ。全部を燃やせるとも思えないが、元は人間だったからね。土に埋めれば土に返ってくれるとありがたいんだが、1年たってもまだあんなだからなぁ」


 腐らないってことか……。

 いずれは干からびてミイラになってしまうんだろうけどね。それでも動くとなれば、どんな原理で動いているのかと考えてしまう。


「宗教上の問題は無いんでしょうか?」


「核やナパームで焼いたぐらいだ。上の連中が考えてくれるよ。俺達はそれを踏襲しているだけだからね」


 あまり納得しているとも思えないけど、無理やり自分に言い聞かせているようだな。

 ここは話題を変えた方が良さそうだ。


「それにしてものんびりですね」


「全くだ。これでは1時間ほど掛かるんじゃないか? もっとも、ゾンビが前みたいに集まったら30分もしないで逃げ出すことになるんだろうけどね」


「その内に着くでしょう。それまでは……」


 3人揃って荷台で一服を始める。

 車内の3人の賑やかな話声が荷台の窓から聞こえてくる。

 グランビイ湖を過ぎて別荘街からそろそろ出ようとしていると、トラックが停まった。

 立ち上がって前方を見ると、ウイル小父さんがシャベルカーを使って道の真ん中に倒れているゾンビを退かしているところだった。

 その先にも何体か倒れている。


「この辺りまで追ってきたんだったな。俺達も手伝うぞ。最初はサミーが周囲の監視だ!」


 テリーさんの言葉に俺達は荷台を下りる。

 2人の後ろでM1カービンを構えて周囲を監視する。トラックの3人も見ているだろうし、その後ろのニック達も監視をしているはずだ。ゾンビが現れたらたちまち銃弾で制圧してくれるに違いない。


 俺達は荷台に戻らずに、そのまま歩いて、道路のゾンビを脇に退かしていく。

 だいぶ倒してたんだな。改めて感心してしまう。

 移動する前に、ゾンビを棒で突いているのは、死んだふりをしているかもしれないと思っての事だろう。それだけ慎重な作業だから、グランドレイクの町が見えた時には昼近くになってしまった。


 周囲を監視しながら、昼食代わりのビスケットとコーヒーを頂く。

 町まで距離は1kmほどありそうだけど、そこまでかなりの数のゾンビが倒れているんだよなぁ。

 あれを退かすだけで1時間以上掛かりそうだ。


「あまり倒すのも善し悪しだな。道路からゾンビを退かすのは結構面倒だぞ」


「ゾンビ攻撃は1回だけになりそうだ。まぁ、前もそうだったけど30分が勝負だからなぁ」


「サプレッサーを付けていても、数発連続して撃てば音は大きくなってしまう。じっくりと狙って、1体ずつ倒せば音を大きくしないでも倒せるはずなんだが……」


 ビリーさん達がそんな話をしているけど、確かに面倒なんだよなぁ。

 離れた場所から倒れたゾンビを棒の先で突いて動かないようなら、棒の先端に付けた金具でズボンや服を引っ掛けて道路わきに移動する。

 ゾンビは軽いかと思ったけど、結構な重さだ。数体移動したところで棒をニックに手渡した。

 

 M1カービンを手に、ゾンビの撤去作業をしている周辺に目を向ける。

 結構追いかけてきたんだが、町に戻ったんだろうか? ふらふらと動いているゾンビは何処にも見えない。

 まだまだ先があるからなぁ。このままだと今日の攻撃は出来ないんじゃないかな?

 ゾンビを穴に入れたところでガソリンを掛け火を点けたようだ。

 結構煙が上がっているんだが、人を焼く匂いはかなり臭いと聞いたんだがそれほどでもない。体の中まで乾燥が進んでいたのかもしれないな。


 そんな事を考えながら周囲の別荘に目を向けた時だった。

 少し奥の別荘に動くものがある。目を凝らしてみると、間違いなくゾンビだ。しかも10体程いるようにも見える。


 急いでウイル小父さんの乗るショベルカーに近づいて、ゾンビがたむろしている別荘を腕を伸ばして教えてあげた。


「確かにいるな……。今の内に倒しておいた方が良いだろうが、なんであの別荘だけなんだ? バリー、ちょっと来てくれ!」


 バリーさんだけでなくテリーさんまでやって来た。

 直ぐにゾンビがいる別荘の話をすると、双眼鏡を取り出して詳しく見ている。


「扉や窓を叩いてますよ。窓は内側から板を打ち付けてあるようです。入りたいということなんでしょうが……」


「まさか、生存者がいるってことか!」


「可能性は高そうです。良くもこの冬を越せたと感心してしまいますが……、助けますか?」


 確認するようにバリーさんが問いかけた。


「ここまで生きて来たんだ。見殺すようでは男がすたる。手伝ってくれるか?」


「「もちろんです!!」」


 俺達の心は1つだった。

 直ぐに仲間達を集めると、俺とウイル小父さんそれにバリーさんとテリーさんが一緒に向かうことになった。

 銃をトラックにおいて、ホッケーのスティックと拳銃だけで対処するとのことだ。ベレッタ92FSにサプレッサーを付けたから、発砲音は小さい。


 道路で皆が見守る中、バリーとテリーさん、それに俺の3人が慎重に別荘へと足を運ぶ。

 ちらりと後ろを見ると、ウイル小父さん達がM16ライフルを膝撃ちの態勢で構えていた。

 

 真ん中はバリーさんで左手が俺だ。

 ゾンビから数mまでの距離で俺達は止まり、互いに顔を見合わせる。

 スティックを構えたバリーさんが、小さな声でカウントダウンを始めた。

 3……2……1……GO! 

 一番近くのゾンビに駆け寄ると、その頭にスティックを振り下ろした。


 ゴツン! 何時も良い音がするんだよなぁ。頭蓋骨が割れる音なんだろうけどね。

 その場に倒れるゾンビがバタンを音を立てたから、数体のゾンビがこちらに顔を向けて腕を伸ばしていた。スティックを放り出して、拳銃をゾンビの頭に向けて発砲する。

 

 サプレッサーを付けなければ、ダァン! という甲高い音を立てるんだけど、今回は点けてるからね。バスン! というくぐもった音が出るだけだ。

 近くのゾンビは音に反応するけど、遠くのゾンビが集まることは無い。

 念の為に、道路で残った人達が監視をしてくれてるはずだ。


 バスン! バスン!……。

 左手のゾンビを倒して、別荘の壁の陰に隠れているゾンビがいないことを左手にゆっくりと歩いて確認する。

 壁もそうだけど、その奥、更に左手まで確認したところで右手を上げて、バリーさん達に知らせた。


 拳銃をホルスターに戻してスティックを拾うと、さてどうしたものかとバリーさんに顔を向けた。


「そっちも終わったか。大声を出しても良いんだろうかと考えていたんだが……」


「とりあえずノックは必要でしょう。軽く叩いて様子をみましょう」


 バリーさんが頷いてくれたので、玄関まで歩くと扉をノックした。


「すみません、救助に来たんですが、どなたかおりますか?」


 大声にならないように声を出したんだけど、果たして聞き取ってくれただろうか。

 もう1度声を掛けると、2階の窓が開く音がした。

 うしろを振り返ると、バリーさん達が2階を見上げている。誰かが顔を出したのかな?


「もしかして、救助隊の人達ですか?」


 声の主は若い女性のようだ。

 

「救助隊ではありませんが、この街のゾンビを倒そうと考えている者達です。よろしければ我々と行動を共にしませんか? さすがに此処で暮らすのはどうかと思います」


「ありがとうございます。私と娘の2人なのですが……、それと、1階の出入り口は窓を含めて固く閉じてしまいました。簡単に出ることができないんです」


 ゾンビ達がドアを叩いてもびくともしなかったし、窓は内側にいたが貼ってあったからね。かなり頑丈に打ち付けてあるに違いない。


「玄関扉をショベルカーで壊す。そっちは荷物をまとめて何時でも出られるようにしといてくれ。荷物が纏まったら、合図してくれ!」


 成り行きを見ていたウイル小父さんが窓の女性に向かって呼び掛けると、直ぐに女性が手を振って窓の中に引き込んだ。


「まぁ、成り行き上仕方ないだろう。この別荘に残っておる食料だって先は無いだろうからなぁ。これからも生存者が見つかれば保護することにしよう」


「そうですね。その方が士気も上がるでしょう」


「なら、俺は戻って車を移動してくるからな」


 しばらくすると、ウイル小父さんがショベルカーに乗ってやってきた。

 まだ荷造りは終わらないのかな?

 少し離れて周囲の様子を見ながら窓に目を向けていると、若い女性が顔を出した。オリーさんより少し年上に見える。でも娘さんがいるって言ってたからね。

 この国の女性の年齢は、案外分からないんだよなぁ。


「終わりました。何時でも移動できます!」


「なら、その場所で待っていてくれ。1階にゾンビはいないんだろう?」


「だいじょうぶです。塞いだ所は毎日見てますから」


「了解だ。始めるぞ!」


 ショベルカーのアームが振りあがり、勢いよく扉に打ち付けられた。扉を貫通したところで先端を曲げて扉を引き壊している。

 半分ほどの穴の開いた扉に、もう1度アームが撃ち込まれ今度こそ扉が引き壊れた。


 ドカン! バリバリ……、と結構大きな音がしたから、俺達は一斉に週に目を向ける。

 やってこないみたいだな。

 ウイルさんがショベルカーを道路に戻していく中、バリーさんが2階の窓に声を掛けた。


「終わったぞ。直ぐに出て来てくれ!」


「分かりました」の声が聞こえ、階段をガタンガタンと何かを落としながら降りてくる音が奥から聞こえてきた。

 背中にリュックを背負い、大きなスーツケースを引いた女性は、小さな女の子の手を引いて現れた。

 女の子も小さなリュックを背負っている。着替えかな? それとも玩具かもしれないな。


「道路で手を振っている女性がいるだろう? 彼女のところに向かってくれないか。トランクはサミーが運んでくれ。……お嬢ちゃん、あそこまで歩かるかな?」


 テリーさんが屈んで女の子に確認している。首を振ったら抱っこしてあげるってことかな?

 生憎と首を縦に振ってお母さんと一緒に歩いて行ったから、俺達に顔を向けて残念そうに首を振っている。

 ちょっと強面だからねぇ。俺達は顔を見合わせて苦笑いだ。


 大きなトランクは思った通りの重さだ。良く階段を下ろしてきたものだと感心してしまう。

 そのまま道路まで引いていき、トラックの荷台に積み込んだ。

 オリーさん達女性が2人の体を改めているらしく、パット達が俺達を見張ってるんだよなぁ。そんなに信用がないってことかな?


「これで、今日は終わりにしよう。ショベルカーはこのまま残しておくぞ。確か車庫に一輪車があったはずだ。あれを少し改造すればゾンビを運ぶのも少しは楽になるんじゃないかな」


「とりあえず良かったと思いましょう。まだ無事に残っている人がいるかもしれませんね」


「そうだな。場合によっては、家毎に確認した方が良いのかもしれん。それにしても良く冬を越せたと感心してしまうよ」


 運が良かったという事だけではないはずだ。たぶんかなりの苦労がその後ろにあったに違いない。

 寒さ対策に食料問題、更にはゾンビだからねぇ。あの騒ぎが起きた時にどんな行動を取ったんだろう?

 こっちから聞くのは簡単だけど、かなり事情もありそうだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ