H-020 反省会は必要だ
山小屋に俺達が戻ってくると、3班の人達が道路の柵を閉じてくれた。
さすがに此処までゾンビが来るとは思えないが、奥さん連中がしばらく見張ってくれるらしい。拳銃やM16、それに水平2連のショットガンで武装してるんだけど、何となく心配になってしまう。
たぶん俺と同じ気持ちなんだろうな。オリーさんやナナ達も残るようだ。
俺達はトラックを下りて、近くのテントに向かった。バリーさん達が集団で食事をする食堂のようだ。奥にはいくつもの調理台が置かれている。
テントの中に入るとテーブルの1つにウイル小父さん達が腰をおろした。俺達は少し離れたテーブル席に椅子を持ちよって集まる。先ずは反省会ってことになるんだろう。
若い奥さんが俺達にコーヒーを淹れてくれたけど、誰の奥さんなんだろうな?
「とりあえずは全員無事で良かった。集めて一気に倒そうとしたんだが、少し不味かったな。反省している」
ウイルさんが珍しく頭を下げている。
俺達にウイルさんを攻めるつもりは毛頭ないから、次の攻撃を上手くやる方法を皆で考えねばならない。
「目覚まし時計で集めるという案は良かったと思うよ。問題は集まり過ぎたってことなんだろうな」
「それに銃撃を加えても中々倒せないからなぁ。どうしても腹を狙ってしまう。途中で気が付いたんだが、揺れる頭を連射モードで撃つのはかなり練習がいるぞ」
「カービン銃は、良く当たってたぞ。やはり半自動ならば狙いが正確ってことだな」
「ショットガンは申し分ない。とはいえ至近距離になってしまうのが難点だ」
そんな意見が次々と出てくる。
明日もあるからだろう。今度は俺達2班が攻撃担当だ。さすがにショットガンということにはならないだろう。A1カービンを貸して貰おうかな。
夕食近くになると俺達若者3人組が道路を見張る。
あれだけ沸いて来たし、しばらくは後を追行けて来たぐらいだ。用心に越したことは無いということなんだろう。
「明日も目覚まし時計を使うんだろうな。俺が仕掛けに行った時にはゾンビはまるでいなかったんだ」
「戻って来る途中で現れたよ。近くにいても音がするまでは動かないのかな」
「やはり目覚まし時計だと思うよ。駐車場のトンネルに目覚まし時計がたっぷりと箱に入っていたからね」
グランドレイクの町から、去年は色々と運んできたからなぁ。その時に集めて来たのだろう。
ウイル小父さんの事だから、当時から今回のようなゾンビ掃討を考えていたのかもしれない。
そうだとすれば、銃声に対する対策も考えているはずだ。サプレッサーをある程度用意してあるのもその一環かもしれないな。
「それでエディは10体以上は倒したんだろう?」
「夢中でトリガーを引き続けたからね。あまり覚えてないんだ。途中参戦のサミーもそうだろう?」
ニックの問いに、エディが頭を掻きながら答えている。俺に話を振ってきたから苦笑いを浮かべて頷いたけど、かなり倒したはずだ。
ゲームではなくリアルのゾンビ狩りになってしまったけど、やはりショットガンは頼りになる。欲をいえば装弾数がもっとあれば良いんだけど……。
すっかり暗くなってくると、充電式のライト2つを使って道路を照らす。1ダースほど用意してあるらしい。椅子代わりに座っている木箱の中に予備が2個入っているから、今夜はこれで足りるだろう。
小さな焚火を作ってあるから、それも明かりとして使えるはずだ。
3人で焚火を囲んでいると、ゾンビ騒ぎが夢のようだ。
シェラカップのコーヒーを冷めないように焚火の傍に置いて、一服を始める。
タバコも最初は咳き込んでばかりだったけど、いつの間にか平気になってしまったな。
まだ2カートン以上持ってはいるけど、無くなったら調達できないんじゃないかな。それを考えると、我慢した方が良いのかもしれない。
「どうだ? やって来たか」
俺達に声を掛けてきたのは、現役陸軍のベントンさんとケントさんだ。奥さんのアニーさんも一緒みたいだな。
M16と水平2連のショットガンを手にしている。当然拳銃も下げているんだろう。
「全く来ませんね。静かなものです」
「交代するよ。夕食がまだだろう?」
「それじゃあ、後を頼みます!」
ベントンさんの申し出に、嬉しそうな笑みを浮かべてエディが答えてくれた。
さて夕食を食べるか!
今夜は皆が交代で見張ることになるんだろうな。
山小屋のリビングに入ると、すでに皆の食事は終わっていたようだ。
焚火の周りに座った俺達に、パット達が夕食を運んでくれた。ポトフに厚切りのハムとジャムが塗られたパンだ。
たちまち平らげてしまった俺達に、カップ半分のワインとビスケットを追加してくれた。ビスケットも8つ切りパンほどの厚みがあるんだよね。昼食はこのビスケット3枚で十分に思える。
「明日は2班だからな。ショットガンでなく、これを使え」
ウイル小父さんが渡してくれたのは、M1カービンだった。
「ワシが調整しておるから、当たると思うぞ。距離100mで照準器を設定しておるから、微調整の必要もない。銃床にマガジン2つを付け取るから、予備マガジンは6個で十分じゃろう」
「ありがとうございます。ショットガンは結構音が大きいですから、どうしようかと悩んでました」
ライルお爺さんにお礼を言った。先端にサプレッサーまで付いている。これなら音もかなり低下するだろう。
「明日は、試験的に2班全員がセミオートでの射撃で対処することにしたんだ。今日のようにゾンビが沢山沸いたなら、3班が介入するし、それでもダメだと判断したら、手榴弾を投げて撤退となる。お前達にも手榴弾は渡しているが、投げるのは本職に任せれば良い」
ウイル小父さんの言葉に俺達が頷いたけど、エディはお留守番じゃなかったか?
ライルお爺さんの自慢話を聞きながら、ワインを楽しむ。
今日のワインは、余り甘くないんだよね。メイ小母さんに、甘いワインの銘柄を聞いておこう。雑貨屋で手に入るかもしれない。
パット達はコーヒーを楽しみながらモノポリーで遊んでいる。
テレビも無いし、ゲームを俺1人でやるのもねぇ……。しばらくはリュックの中においておくしかないな。
22時を過ぎたところで、ウイル小父さん達にお休みを言い、シャワーを浴びて寝ることにした。装備ベルトのショットガンの銃弾を入れたポーチを、カービン銃のマガジンを入れるポーチに換えるのを忘れないようにしよう。
・
・
・
翌朝は、雨だった。
結構降っているな。今日の攻撃は計画通り行うんだろうか?
とりあえず身支度をしてカービン銃を担いでリビングに向かうと、俺の姿を見たウイル小父さんが首を振った。
「今日は中止だ。さすがに雨の中ではなぁ……。天が与えた休日だと思って、のんびり過ごしてくれ」
「了解です。明日晴れたら、2班が攻撃で良いんですよね?」
「順番は変えないよ。とりあえず、装備ベルトと銃を部屋に置いて来るんだな」
俺達の銃は部屋のロッカーに置いてあるけど、ウイル小父さん達のライフルやショットガンはリビングのガンケースにおいてあるんだよなぁ。下の棚には銃弾の箱まであるから、異変があればすぐに銃を持って外に行ける。
その時に、余った銃を俺達が使えばいいのかもしれないが、リボルバーは何時でも腰のホルスターに入っているから、遅れをとることは無いだろう。
「ちょっと待て!」
リビングから出て行こうとする俺を止めたのは、ライルお爺さんだった。
振り向いた俺にカービン銃を部屋の隅に置いて席に戻るように言った。
「ワシも暇じゃからなぁ。お前達に銃の手入れを教えてやるぞ。手入れをすれば故障も少なくなるからのう。まぁ、それほど難しい事は教えぬが、発砲した後にやるべきことぐらいはあるからのう」
確かにね。リボルバーよりオートマチックの方が部品点数だって多いらしい。火薬の燃焼ガスは鉄を腐食させると聞いたことがあるから、早めに掃除をしておくということなんだろう。次に銃が手に入るのは何時になるか分からないだけに、今持っている銃を長く使えるよう手入れを教えて貰うのは俺達全員の為にもなるはずだ。
「よろしくお願いします。でもあまり器用な方では無いですよ」
「簡単な手入れだけじゃ。それすらしない兵士が大勢だったからのう。銃撃戦の最中に銃が故障して戦死した仲間もおったぞ。ベトナムは泥、イラク砂との戦いでもあったんじゃ」
「爺さんは砂だったか……、俺は砂と細かな土だったな。厄介な代物だ」
「そんなことで故障するような銃を使うからですよ。これなら砂の中でもそれなりに戦えますよ」
俺達のカップにコーヒーを注ぎ足してくれた、キャシイお婆さんが背中に背負った小さな銃を見せてくれた。
拳銃にしては大きいし、かといってライフルにしては小さすぎる。
「ウージーか! 確かにそれなら使えるが、良くもそれでカラシニコフと遣り合ったものだ」
小さく笑い声をあげてお婆さんは俺達から離れて行ったけど、あの銃はかなり使えるってことなのかな?
「あれは婆さんが大切に持っていたものじゃ。良くも持ち出してきたと初めて見た時には感心したが、倉庫にもう2丁あるぞ。サプレッサー付きじゃから、柵を見張る嫁さんにでも1丁渡しておこう」
「そんなに驚くな。あれはイスラエル軍のかつての正式銃だ。使う銃弾は拳銃弾なんだが、装薬を増やしているから有効射程は100mを越える。20発の銃弾を機関銃のように発射できるぞ。単発射撃ならバレルが拳銃よりも長いから50m先を十分に狙撃できる」
「あんな銃で、ですか? でも拳銃弾なんでしょう?」
「通常の拳銃弾も使えるから、銃弾に困ることは無いはずだ。もっと持って来ればよかったものを……」
「MP-5を3丁持ってきておる。手入れが面倒じゃからなぁ。ワシがやるしかなさそうじゃ」
それより良いものは高性能でも手入れが面倒ということか。
色々とあるんだなぁ。
俺はとりあえず、ショットガンとM1カービンで十分だ。
朝食を終えると俺達3人だけでなく、パット達も一緒になってライルお爺さんから簡単な銃の手入れを教えて貰うことになった。
俺達の手入れがあまりにも下手に見えたんだろうな。ウイル小父さんだけでなく、打ち合わせにやって来たテリーさんまでもが一緒になって教えてくれた。
途中でメイ小母さんがコーヒータイムを作ってくれたから良いようなものの、そうでもないと夕暮れまで厳しく教えられるところだったぞ。




