H-019 銃弾が足りなくなりそうだ
さすがに凸凹道を直しただけの事はある。
今回はすんなり国道に出たけど、その内にまた凸凹になるんだろうな。
先行するトラックを見失わないようにバリーさんがトラックを走らせて行く。
緑に包まれたグランビイ湖の西岸を巡るように10分ほど走ると、湖が消えて別荘が両側に並びはじめた。
事故があったのは夏の終わりだからなぁ。この辺りにも避暑客が残っていたかもしれない。
別荘街を抜けると再び湖が見えてくる。湖の西岸を走って湖の北にあるのがグランドレイクの町だ。
グランドレイクの町に近づくと、トラックの速度が落ちる。
ベントンさん達は銃を手に、周囲に目を光らせ始めた。
「ウイルさんから連絡が来たわ。町の南から始めるそうよ」
「しばらく出番が無さそうだから、周囲を見張ってるよ。ナナも応銃の準備はしといた方が良いよ」
「出来てるわ。パネラさんが教えてくれたもの。そっちも頑張ってね」
ナナの銃はM1カービンだ。俺が使ってたものなんだけど、俺よりは……と言うウイル小父さんの裁定なんだよなぁ。3倍の照準器が付いているから、俺にも少しは当たるんだけどねぇ。俺よりナナの方が、射撃の腕が上だったからなんだろうな。
そういえば、ベントンさん達のM16にも照準器が付いてるんだよなぁ。さすがに俺のショットガンには付いてない。
帰ったら、ライルお爺さんに付けて貰おう。少しはマシになるかもしれないからね。
「ん? サミーの友人が荷台から降りたぞ!」
テリーさんが小型の双眼鏡を覗いている。
荷台から前方を見てみると、此方に前を向けたウイルさん達のトラックが停まっていた。
直ぐに逃げられるようにしているのだろう。そんなトラックの荷台から降りて、最初の十字路に歩いていく。荷台から銃を構えているのはライルお爺さんに違いない。元気だなぁ。
「なにか持ってるな。何だろう?」
「分かりました。たぶん目覚まし時計だと思いますよ。大きな音をたてるとゾンビは集まってきますからね。そこを狙ってゾンビに銃弾を撃ち込むんじゃないかと」
「なるほどね。……バリー、俺達も車を回しておいた方が良いかもしれんぞ。どうやら一気にゾンビを集めるつもりらしい」
ベントンさんが車内に声を掛けている。
直ぐに車が向きを変えた。荷台側に1班のトラックがあるから、様子を見るにも都合が良い。
エディが辺りをキョロキョロと見ている。ほっとした仕草をしているところを見ると、ゾンビの姿は無いようだ。
ゆっくりと箱のような物を道に真ん中に置くと、急いでトラックに駆け戻った。
さて、どれぐらいで、鳴り出すんだろう?
タバコに火を点けて荷台で様子を見守っていると、ジリジリジリという大音響が鳴り響く。
どんな奴の為に作ったんだろうと思うぐらいの大きな音だ。あれで起きない奴はいないんじゃないかな?
もっともニックは目覚まし時計が鳴っても、ベルを停めて二度寝するからね。
あれを使っても、ニックはダメかもしれないなぁ……。
「なるほど、考えたもんだな。出てきたぞ……」
ベントンさんが腕を伸ばした先には、数体のゾンビが国道と交わる道の両側から出てきた。国道の北の方からもやって来ている。
俺達も慌てて周囲を眺めてみたが、周辺に家は無いからね。とりあえずは安心できるけど、たまにフロントや左右も見ないといけないな。
「ちょっと多すぎるんじゃないか? 30は超えているぞ!」
「これだけの町だ。住んでる人間は2千人ほどいたと思うぞ。まだまだ集まるはずだ」
助手席と後部座席の窓からも銃身が後方に伸びている。
後は、攻撃のタイミングを待つだけだな。
突然激しい銃撃が開始された。
200mほど離れて車を止めているから、タタタン! タタタン! という3連射の銃声が重なって聞こえてくる。甲高い銃声だが、耳を傷めるほどではない。荷台の上はさぞかし煩いんだろうな。
耳栓を探しておいた方が良いかもしれない。
「かなり集まってしまったから、ここまで移動すると言ってるわ! こっちは荷台の3人で応戦して頂戴!」
「了解だ! 遠くは俺達。近くはサミーだ。良いな!」
「了解です!」
ショットガンのセーフティを解除して、アクションレバーを手前に引き初弾を薬室に装填した。ベルトのポーチから1発銃弾を取り出してチューブマガジンに入れておく。
これで6連射できるぞ。
銃を構えても、トリガーガードの中に指はいれない。暴発させると厄介だからね。
移動してきた1班のトラックが、俺達の右手に止めた。
ウイル小父さんが少し開けた窓から俺達に大声を上げる。
「ちょっと集め過ぎた。手伝ってくれ。エンジンは掛けとけよ。危なくなったら、とっとと逃げるからな!」
ゾンビとの距離はまだ100mほどはありそうだ。それにしても集まってるなぁ。100体以上はいるんじゃないか?
手を前に伸ばして俺達に向かって歩いて来るんだが、さまようような動きではなく明確にこちらに足を速めて進んでくる。
5人がM16を乱射しているから、耳が痛くなる。
しっかりと狙っているようだけど、頭に当たるのはそれほど多くは無い。
動いている物に銃弾を当てるのは難しいということなんだろう。
たまに、ターン! という音が聞こえてくるのはM1ガーランド辺りかな? その度にゾンビが倒れるから、しっかりと狙っているに違いない。それとも、オートで3連射することで狙いが不正確になるのかもしれないな。
さらにゾンビが近付いて来る。
さすがに近づけばそれだけ狙いが正確になるようだ。次々と倒れていくけど、倒れたゾンビを踏みつけるように後から後からやって来る。
更にゾンビが近付いてくる。トラックまで20mほどだ。
銃床を右手で抑え、トリガーに左指を掛ける。
頭に狙いを付けて……、トリガーを引いた。
ドォン!
ライフル銃とは異なる腹に響くような銃声と共に、狙ったゾンビの頭が吹き飛んだ。
ほぉ! 思わず見とれてしまったが、テリーさんが背中を叩いてくれたから直ぐに放心から覚めた。
「すみません!」
「気にするな。次も頼むぞ!」
アクションレバーを引いて、次弾を装填すると次のゾンビに狙いを付ける。
トリガーを引くたびにゾンビの頭が弾ける。
至近距離だと狙いにそれほど気を付けなくても良いようだ。
5発撃って、4体倒せたんだから中々なものだな。
ポーチから3発取り出して素早くチューブマガジンに入れると、再びゾンビに狙いを付ける。
クラクションが3度ならされた。
同時にトラックがゆっくりと別荘街に向かって走り出した。ゾンビとの距離が100mほどになったところでトラックが停まり、再び銃撃が始まる。
あまりにも近づきすぎたんだろう。
荷台から数mまで近づいたゾンビがいたからね。
そんな攻撃を3回繰り返したところで、グランビイ湖までトラックが移動する。見通しの良い場所でトラックを停めたから、ここでちょっと休憩ということなんだろう。
ナナが渡してくれたポットからシェラカップにコーヒーを注いで、タバコに火を点ける。
ショットガンの残弾数を確認し、今度は5発入れておいた。ショットガンの銃弾の箱を空けてポーチにも銃弾を補充しておく。
「4マガジンを使ったよ。予備を持って来て正解だった」
「少し集め過ぎだったな。次は、バックして向かうのかもしれんぞ」
「それにしても銃声は耳に堪えますね。耳栓を探しておくべきでした」
「ならこれを使ってくれ。俺の予備なんだが、かなり違うぞ」
ヘッドホンのような耳栓ではなく、小指の先1間接ほどのウレタンの棒だ。無くさないようにとのことか、少し太い糸で両方を結んでいる。首に掛けておけばいいのかな? ありがたく受け取って礼を言った。
「屋外では、慣れればそれほど気にならないんだが、屋内で銃を使うときは耳栓が必要なんだ。サミーの友人にも帰ったら渡しておくよ」
「案外、気が付かないものなんでしょうね。銃と銃弾は手に入れましたが、今まではホッケーのルティックで殴ってばかりでしたから」
「それなら、ゴーグルも付けて置いた方が良いぞ。マスクは……バンダナで鼻と口を覆えば問題ないだろうが、ゾンビの体液が付くのはなるべく避けた方が良いからな」
それもあるな。やはり他の人達と交流することで、安全にゾンビを倒す方法が色々と分狩るかもしれない。
「そろそろ第2段だって! バックしながらゾンビに近づくらしいわ」
「了解だ。銃弾の補給も済んでるからな。見つけ次第倒していくよ」
ショットガンはかなり使えるぞ。
装弾数が少ないのが問題だけど、ゾンビを一撃だからね。
カップに残っていたコーヒーを飲みほしたところで、バックし始めた荷台から前方を眺める。
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2度目の攻撃でベントンさん達はマガジンを全て使い切ってしまったようだ。最後は拳銃を使っていたからね。
昼前に引き上げることになった。少し走ったところでゾンビが追ってこないか待っていたんだが、ある程度距離が開くと追ってはこないようだ。俺達をどのように認識しているのかと、3人で首を傾げながらの帰還となった。
「どれだけ倒したかが分からないんだよなぁ。2班で200というところか?」
「それぐらいかもしれないな。300には行ってないだろうし、どう考えても100以上は確実だ。2千体いるとなれば、同じような戦いを後9回行えば良いってことになるんだが、そうなると銃弾が心配だ」
かなりばら撒いてたからなぁ。やはり半自動で1発ずつ確実に、と言うことになるんだろう。
ナナ達も結構倒していたからね。あれは照準器と拳銃弾のような装薬量の少ない銃弾だから反動があまりなかったためだろう。
ショットガンは発射後に銃弾が広がるからだろうな。かなり良く命中してくれた。これからはこのショットガンを使い続けた方が間違いなさそうだ。