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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-184 オリーさんが帰って行った


 会議が終わると俺と七海さんをハグして、オリーさんがグランビーの空港にヘリで向かった。

 山小屋で一泊して、明日の早朝にオーロラを連れて東海岸へと向かうようだ。

 サンプルも取れたし、映像記録も沢山あるからなぁ。研究所はさぞかし賑やかになるに違いない。

 ヘリが見えなくなるまでプラットホームの端で見送りを終えると、何となく寂しく感じるのは俺だけなんだろうか。


「帰っちゃいましたね……」


「帰っちゃったね。次は何時会えるのか分からないね。でも……、七海さんのお腹の子には、オーロラを合わせてあげないとなぁ」


「正光さんと一緒に行動できるのは2年後の春になるかもしれません」


「体を大事にしてくれよ。でも七海さん1人ではないから、少しは安心できるよ」


 パットやクリスも陽性だったらしいからなぁ。ゾンビとの戦いを続けるわけにもいかないだろう。

 夏の終わりまで2カ月半というところだから、その頃にはマリアンさん達のドローン操縦も上手くなるんじゃないかな。

 今回だって、何度かジャックを設置したり、上空から迫撃砲弾を投下していたらしいからね。

1つ心配なのは近くに産婦人科の病院が無いんだよなぁ。レディさんに相談してみようかな。


「これからは空港のゾンビ相手になりますね」


「空港ビルがまだ終わっていないからね。地上12階地下3階なんだから、本当に大きいと感心してしまうよ。空港ビルからコンコースまでは地下交通システムを使うというんだからねぇ。もう少し小さく作っても良さそうに思えるんだよなぁ」


「国民性の違いなんでしょうか? 成田でさえ大きいと思っていたんですけど」


 少なくとも成田空港が4つは入るんじゃないかな。

 大は小を兼ねるとはいえ、限度があると思うのは俺達が元日本人だけなんだろうな。


「レディさんが、明日はとりあえず休養だと言っていたぞ。サミー達も疲れたんじゃないのか?」


 一緒に見送りに来たエディが俺に声を掛けてくれた。


「体力的には問題は無いんだけど、何か気疲れした感じだな。それなら明日はのんびり朝寝ができそうだ」


「昼過ぎには親父のところに顔を出した方が良いぞ。場合によっては次の仕事を仰せつかる可能性もありそうだ」


「だよなぁ……。まだまだ空港ビルのゾンビを全て駆逐下わけではないだろうし、周辺のビルやコンコースだって手を付けていないはずだ」


七海さん達はパット達とおしゃべりをしながら歩き、俺達3人もいつものように話をしながらエントランスへと向かう。

 状況的には複合ビルは完全にゾンビを駆逐しているし、空港ビルの半分ほどは何とかした感じだからなぁ。

今まで冬季の作戦は雪に閉ざされて出来なかったけど、複合ビルを拠点とするなら冬季の作戦も遂行できそうに思える。

問題は輸送手段が航空機になることになってしまうことだけなんだが……。


「冬前には終わらせたいとウイル小父さんが言っていたけど、さすがに無理だと思うな。だけど、それを冬季に挽回するかもしれないよ」


「冬もゾンビを狩り続けるということか?」


「外は寒そうだけど、建物の中なら案外可能だろうな。俺もサミーに賛成だ。やはり早めのデンバー空港を開放すべきだと思うよ」


 エディも俺と同じ思いのようだ。早めにケリを付けて次に向かいたいということなんだろうが、俺達が向かうのは何処なんだろうなぁ……。

                 ・

                 ・

                 ・

 夕食を終えると、5階のラウンジで七海さん達を交えてセブンブリッジを楽しむ。

 少し離れたテーブルではレンジャー部隊の隊員がポーカーをやっているようだ。

 ワインを飲みながら、初夏の夜が更けていく。


「やはりサミーは呼び出しを受けたな」


 ゲームを終えて、女性達がシャワーを浴びに出掛けた。

 残った俺達はワインを酌み交わしながら一服を楽しむ。


「とりあえず聞いてくるよ。10時集合だから、少しは朝寝が楽しめそうだ。レディさんが一緒だから、明日の夕食後にいつもの場所で説明してくれると思うんだ。さすがに明後日も休めるとは思えないからね」


「頑張れよ!」とニックが俺の肩を軽く叩いてくれたけど、一つ気になるのはオリーさんの持ち帰る情報なんだよなぁ。

 ある程度研究所内で議論した後に、統合作戦本部に報告書を送るらしい。

 その結果を基に、大統領を交えたアメリカの高官達がどのように判断を下すかが予想がつかない。

 このまま少しずつ確実に残された人類の生存圏を拡大するのか、それともある程度の生存権を確保したところで生存圏拡大を中断するのか……。

 前者は資源不足が問題になるし、後者は次の反攻時のメデューサがどのような怪物になっているのか予想すらできない。


「どうした? 一人で囮をするようなサミーにしてはだいぶ沈んでいるなぁ」


「これからどうなるんだろうと考えてたんだ。オリーさんが持ち帰える情報は、統合作戦本部でさえ予想できないことだと思うんだよなぁ。そうなると、生き残った俺達がどのように今後を生きているかについて、改めて議論されると思うんだけど……」


「相変わらずだなぁ。それは上の連中が考えてくれるさ。俺達は俺達に出来る事しかできないんだ。あまり考え込むのはサミーの悪い癖だぞ」


 ニックの言葉が耳に痛い。

 確かにそうなんだよなぁ。自分のできる範囲を越えて考えても、仕方のないことだ。

 とは言っても、ゾンビ騒動が起こってから3年が経過していることも確かだ。現在までに判明したことを基に、これからの事を考える良い機会でもあるんだよなぁ。


「さて、そろそろ俺達もシャワーを浴びようぜ。明日は朝食と昼食が一緒になってしまいそうだけど、サミーはちゃんと起きてくれよ」


「そこまで寝るつもりはないよ。エディこそ夕食まで一緒になるようなことはしないでくれよ。ここには俺達以外にもたくさんの人がいるんだからね」


 ニックと一緒に笑っているけど、あまり恥をかかせないでくれよ。

 本来なら、客室のシャワーがつかえるんだが、さすがにそこまでユーティリティの整備が進んでいないようだ。トイレがつかえるだけでもましだと思わないとね。

 おかげでフィットネスクラブに併設されたシャワー室を皆で使うことになっている。

 男女別だけど、兵士は男性が多いからなぁ。満員の時には休憩室で一服しながら時間を潰すこともあるんだよね。

 今夜は遅いから、直ぐにシャワーを浴びることができた。

 昨夜はシャワーを浴びていないからね。入念に体を洗っておこう。


 シャワーを浴びて、休憩室に常備しているコーヒーを頂く。

 ちゃんと砂糖が用意されているんだよなぁ。俺以外にも正義を信じる兵士がいると思うと、つい笑みが浮かんでしまう。


「何だ? だらしない顔をしているぞ」


 俺がコーヒーを持ってテーブルに向かおうとしてると、奥のテーブルから声が聞こえた。

 声の方向に顔を向けると……、レンジャー部隊のバクス准尉だった。

 手招きしているから、コーヒーを持って傍に行くと数人の兵士が一服を楽しんでいるところだった。


「こいつが、例の命知らずだ。武装偵察部隊とは聞いていたが、俺達を逃がすために一人でゾンビの大群を相手にしたんだからなぁ」


 先ずは座れと言われたので、ここは軽く皆に頭を下げて開いていた席に腰を下ろす。


「日系人か? 陸軍にもいるんだが、そこまで無茶はしないぞ」


「いるなら、彼らに確認しても良さそうだ。サミーはゾンビ騒動の前に帰化して海兵になったらしいが、ゾンビを扉越しに確認できるらしいぞ」


「「本当か!」」


 驚いた表情で俺を見てるんだよなぁ。

 だけど、日系人がいるなら試してみても良いかもしれない。


「集音装置と言う特殊な装置を使うと、ゾンビの声を聴くことができるんです。指向性のあるマイクを使って音を集めますから、それで扉越しにおおよその位置を知ることができます。ですが……、1つ問題があって虫の無く声を分別できないと、ただのノイズを聞くことになってしまうんです」


「虫の声に変化があるのか? まぁ、野原で聞く騒音とセミの騒音が違うことぐらいは俺にも分かるが……」


「サミー達と一緒の女性兵士も聞き取ることができるそうだ。試してみても良いんじゃないか?」

 

 上手く行ったなら、これからのゾンビ狩りが容易になるだろうし、ダメだったらこれまで通り。今より悪くなることは無い。


「しかし、あんな化け物がデンバーの中心街にいたとはなぁ……」


「ある程度は予想していたんですが、予想を超えてました。現在はそれほどの数にはなっていないでしょうが、将来はゾンビではなくあのような怪物を相手にすることになろうかと……」


「俺達も見せて貰ったよ。背中のバッグにグレネードを1発予備に入れることにした。Mk14を使ったらしいが、俺達はM4カービンだからなぁ」


 怪物相手では、5.56mmの銃弾は不足に感じるんだろうな。

 だけど、今のところは倒せそうに思えるんだよね。


「将来は威力不足も考えないといけないんでしょうが、今のところはM4で十分かと思いますよ。俺なんて357マグナムですからね」


「サミ―が使うのはイエローボーイだからなぁ。レディが近距離狙撃は得意だと教えてくれたぞ」


「M4カービンの方が威力はあるだろうに?」


「拳銃弾だから、それだけ正確に狙えるということだろう。銃弾の運動エネルギーは半分ほどだろうが、口径は大きいからなぁ。ゾンビの頭蓋骨を粉砕出来れば十分と言うことだな」


「そうなんです。9mmパレベラムでも頭蓋骨に穴を開けられますからね。室内戦でゾンビを倒した後は、頭部の確認を行ってますよ。悩む時にはワルサーで頭部に1発撃ち込んでいます」


「案外慎重なんだな。だが、急に足を掴まれるなんて話を聞くこともある。俺達も拳銃は下げているんだ。見習うべきかもしれんな」


「バクスさん達も空港ビルのゾンビ狩りを行っているんですか」


「そうだよ。本部に連絡したら、ここでしっかりと学んで来いと言われてしまった。サミー達の活躍を知っているからだろうな。サミー達が帰って来るのを待っていたんだ」


 俺達と一緒に行動するということかな?

 だけど、結構いい加減なところがあるんだよなぁ。そもそも戦闘訓練なんて受けてないからねぇ。

 だけど、結果だけをみるならそれなりの戦績をのこしているということになるんだろう。もっともゾンビ限定なんだけどね。


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