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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-182 屋上にゾンビが溢れ出した


 翌日俺達が起きた時間は9時を回っていた。

 どうやらぐっすりと寝ていたらしい。七海さんに体を揺すられて起こされたんだけど、身支度をしている俺の目に入ったのはエディの横腹にケリを入れてるクリスの姿だった。かなり過激な起こし方なんだが、あれぐらいでないとエディは起きないのかもしれないな。

 陸軍に憧れていたんだが、訓練初日からグランドを20周ぐらいさせられそうだ。

 ニックの方は、パットに鼻を摘ままれて起こされたらしい。 

 呼吸ができないから直ぐに飛び起きたんだが、あれもちょっとなぁ……。俺も早起きするよう気を付けておこう。クリスにしてもパットにしても七海さんの友人だからねぇ。感化されないとも限らない。


 朝食のカロリーバーとフルーツゼリーを頂きながらコーヒーを飲む。

 レディさんが、俺達の朝の姿に呆れた表情をしながらも状況を教えてくれた。

 それによると基本的な変化は無いとのことだ。

 と言うことは、擁壁の下の通りにはさらにゾンビが集まっているということになる。一服したなら、階段室の扉の向こう側を確認しながら下の通りを見てみよう。


「オリーと相談したのだが、昼までに新種のゾンビが見つからない場合は1日繰り上げてデンバー空港に戻ることにした。あれほどのゾンビが集まりとなると、どんな事態が生じないとも限らないからな」


「俺も同意します。一服を終えたなら、3つの扉を確認してきます」


「そうしてくれ。エディ達はクリス達を手伝ってやってくれ。案外ジャックをどこに設置するかで迷っているようだ」


「了解しました。そうなると、運んで来たジャックは全て使っても良いということですね?」


「少しでも減らしておくなら、明日に繋がるだろう。ゾンビの数は、これ以上増えないはずだ」


 その認識で良いのだろうか? 

 通常型のゾンビはこれ以上は増えないと思うんだけど、進化したメデューサは必ずしも人間の殻を被る必要が無いんじゃないかな?

 そうなればゾンビは減ることになっても、怪物的な存在の数が増すことに繋がりかねない。


 ヘルメットを被り、集音装置のスイッチを入れて扉の前でジッと中の声を聴く。


「どうだ?」


 急に声を掛けられたので思わず振り返ると、心配そうな顔をしたオルバンさんが立っていた。


「います。2体ですね」


「昨夜はいなかったと言ってたから、朝方までに上ってきたということになるな」


「3時までは、屋上を周回しながら聞いていましたから、オルバンさんの言う通りだと思います」


「他の階段室もそうなんだろうか?」


「次は北を調べてみます」


 結果は、北に2体でヘリポート下の扉の向湖側には10体以上ということが分かった。たぶんどんどん増えるに違いない。


 3か所の階段室を確認したところで、レディさんとオリーさんに集まって貰い、今後の調整を行うことにした。


「オリーの調査は、ここで中断しても問題は無いと思うが?」


「新たな発見も得たことだし、次があるということで納得しましょう」


「時間的にはそれなりの裕度があると思います。直ぐに危険ということではないでしょう」


「そうだな。まだ持ち込んだジャックや迫撃砲弾、それにグレネード弾や手榴弾もあるのだ。グレネード弾1発、手榴弾1個を残して使い切っても良いだろう。それだけゾンビを削減できるはずだ」


 蟷螂の斧にも似た攻撃ではあるが、数が少なくなることは間違いない。

 クリス達がジャックの残りを設置し、七海さんは統率型のゾンビ狩りを行うらしい。俺は……、手榴弾を通りに投げて行こうかな。


俺が提案すると、エディ達も協力してくれることになった。1度の手榴弾3個なら、それなりのゾンビを倒せるだろう。


「12時に迎えが来るようウイル殿に連絡する。1130時までには荷物をまとめてヘリポートに集合とする」


 さて、俺達は……。

 布バケツに手榴弾を入れて、擁壁に向かった。

 手榴弾を1個ずつ手に取り、安全ピンを抜く。

 3人で手榴弾を握った腕を伸ばし、エディの合図で手を開く。手榴弾から安全レバーが離れて落下していく。5秒後に下の方から炸裂音が届いたのを確認して擁壁から顔を出して通りを見るとゾンビがかなりの数倒れている。

 

「倒れている半数はまだ動くんだろうなぁ……」


「それは諦めるしかないよ。だけど、道路が見えないぐらいに群れてるね」


 エディ達の呟きが聞こえてきた。

 それでも数を減らせることは確かだからね。次は10mほど北に向かったところで行おう。


 15分も掛からずに手榴弾を使い切って作業を終了する。

 後は荷造りになるんだが、空になったジェリ缶も持って帰るのかな?

 とりあえず、ヘリポートに運んで置いたけどね。

 オリーさんも観測装置をプラスチックコンテナに入れたようだから、エディと一緒に運び上げた。コンテナ3つも運んでくるんだからなぁ。中には今回使わなかった品も入っていそうだ。

 最後の迫撃砲弾を投下したドローンも運び上げたし、シュラフやマット類は七海さん達が運んでくれた。

 残ったのは俺達がモニターを見るために使っていたベンチぐらいだ。これは残しておいても良いだろう。

 時刻は11時少し前。

 荷物運びが終わった俺達は、ベンチの腰を下ろして一服を楽しむ。

 残り1時間と言うところだ。今回の遠征は無事に終わりそうだな。


「準備が終わったようだな。30分ほど早めて貰おうか」


 後はヘリが来るのを待つだけだからなぁ。俺もそれに賛成だし、皆も頷いている。

 もう直ぐヘリがやって来ると、皆が安心した表情をしていた時だった。


「ねぇ、何か聞こえない?」


 ジュリーさんが、異変に気が付いた。

 慌ててヘルメットを被り、何かを叩き音がする方向に歩いて行った。

 集音装置のスイッチを入れた途端に煩いくらいのセミの声が聞こえてくる。さらにジュリーさんが気が付いた音の正体は、金属製の物体で扉を叩く音だった。


 急いで皆のところに駆け寄って状況を話す。

 異常を知ってからの行動は早かった。一斉にヘリポートに移動を始める。最後にエディ達とオルバンさん達が座っていたベンチを担いで上がってきた。

 即席の柵として使うつもりなのかな?


「急ぐように再度連絡してある。扉は溶接してあるからしばらくは持つだろう。だが出てきた時には一斉射撃で対処するぞ!」


「了解です。先ずはグレネード弾をお見舞いしますよ。階段の途中からなら扉の奥を狙えます」

 

 グレネード弾と手榴弾は1発ずつ残してあるからね。それだけでも時間を少しは稼げるに違いない。さらにはこのヘリポートまでは結構長い階段になる。一度に上がって来れないはずだからじっくりと狙って確実に倒して行けるはずだ。


 ヘリポートから降りる2つの階段に中ほどに、オルバンさん達とレディさんが銃を構えてその時を待っている。

 時計を見ると11時15分を回ったところだった。

 ヘリコプターが来るのは北東の方角だろう。まだエンジン音が聞こえてこないんだよなぁ。もう少し掛かるんだろうか?

 

 緊張感が半端じゃない。イエローボーイを手に持って、タバコに火を点ける。

 タバコを吸いながら緊張感を解そうとしている時だった。ヘリパート下にある扉がガシャンと音を立てて外側に倒れる。その瞬間を待っていたようにグレネード弾が扉の中に向かって放たれた。

 さらにグレネード弾が撃ち込まれる。

 2回に分けて撃ったみたいだな。それでも倒れたゾンビを乗り越えておくからどんどんゾンビが現れる。

 その光景を見ながら、オルバンさんがグレネード弾を放つ。

 銃を背にして、手榴弾を手に持った。ゾンビの動きを見ながら手榴弾を投げると、ヘリポートの上に上がって来る。

 運んで来たベンチをひっくり返して簡単な柵を作り、今度は俺達と一緒になってヘリポートへの階段を上るゾンビを狙撃し始める。


「手榴弾を投げますよ!」


 大声で叫ぶと皆がヘリポートの中心に移動する。避難を終えたことを確認して手榴弾を階段下に投げると素早く身を屈めてイエローボーイにマグナム弾を給弾した。

 手榴弾が炸裂したところで再び銃撃が始まる。

 特徴的なエンジン音が聞こえてきた。どうやら救援のヘリが到着したようだ。

 少し離れた場所にヘリの1機がホバリングをすると、ガンナーが機銃でゾンビを薙ぎ払っていく。

 最初のヘリが着陸すると、マリアン達が荷物をどんどん積み込んでいく。それが終わったところで女性達が乗り込んだ。

 ヘリは役割を後退して再び機銃掃射をする中、着陸したヘリに残った俺達が急いで乗り込む。


「そのバッグにグレネード弾があるぞ!」


 ガンナーの言葉に、オルバンさん達が直ぐにM203にグレネード弾を装填して、屋上に集まってきたゾンビに向かってグレネード弾を放った。

 皆で同時に撃つから、屋上に爆炎が広がっている。床が無事なら次も使えそうなんだけどなぁ……。


「出してくれ!」


 拭き操縦士の肩を叩いてレディさんが告げると、俺達を乗せたヘリは一路空港に向かって飛び立った。


 それにしても、不思議な動きだったなぁ。

 急にゾンビが増えたのも理解できないし、そもそもゾンビは階段を苦手としていたはずだ。

 ひょっとして……。通常型ゾンビ自体の運動能力も上がっているということなのか?

 デンバー空港ではそんなことは感じなかったし、陸軍基地も通常型は通常だったよなぁ。

 となると、この周辺だけということになるのだろうか?

 通常型も、その形態を保ったまま進化したということになりそうだな。


 20分ほど飛行すると、前方にデンバー空港が見えてきた。

 駅のプラットフォームの端にヘリが着陸して俺達を下ろしてくれる。

 思わず笑みが浮かんだのは、命拾いしたからなんだろうな。

 

 エントランスに入るとウイル小父さん達が待ち構えていた。

 大隊本部のルーマン曹長までいるんだよなぁ。やはりデンバー市の状況は気になるようだ。グランドジャンクションのゾンビを駆逐したなら、次はソルトレイクだからねぇ。規模はデンバーの三分の一ほどだけど、核を落としているからね。かなり類似していると考えているのだろう。


「全員無事で何よりだ。詳しい話を別室で聞きたいのだが」


「了解です。私とサミー、それにオリーとオルバンで説明したいと思います」


 レディさんの言葉に、隣にいたニック達がホッと息を吐いている。

 レディさんとオルバンさんだけでも良さそうに思えるんだけどなぁ……。


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