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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-181 統率型ゾンビを探せ


 先ずは西からと、擁壁に寄って眺めると直ぐに赤い輝点が見つかった。

 だが、だいぶ拡散した輝点だな。

 バイザーを上げて、統率型を確認したビルを見ると100mも離れていない。この距離なら腕を伸ばした先の50セント硬貨よりも輝点が集束するはずなんだが……。

 設定を確認してみると、統率Ⅰ型になっている。道理で集束が鈍いはずだ。

 改めて統率Ⅱ型に周波数を合わせると、先程より赤い輝点が集束する。

 それでも集束が鈍いと感じるのは、破れた窓ガラスが邪魔をしているのかもしれないな。

 

「オリーさん、暗視カメラを持っていますか?」


 手持ち無沙汰にコーヒーを飲んでいたオリーさんに声を掛けると、直ぐに有ると返事を返してくれた。


「見つけたの? でも統率型2型は……、目で確認するってこと!」


「今のところは、それしか方法が無いんですよね。屋上の西に用意して頂けると助かります」


「直ぐに準備するわ。ナナ、手伝って頂戴!」


 七海さんも暇だったのかな? オリーさんと一緒に準備を始めたけど、結構筒先が長いレンズを取り出している。

 望遠の暗視カメラと言うことなのかな?


「もう、見つけたのか? オルバン! こっちに来てくれ」


 俺達の様子を見ていたレディさんまでやってきた。攻撃はオルバンさん達が担当だから呼び寄せたみたいだな。

 オルバンさんがやってきたところで、先程の擁壁に向かう。

 近くでオリーさん達が機材を組立ているから、その間に2人に状況説明を行った。


「あのビルですか……。この屋上よりも2階分ほど位置的には高いですね」


「私達の動きを、はっきりと見ることが出来るに違いない。だいぶ窓が割れてはいるが、グレネード弾を撃ち込むことは出来そうだ」


「あの距離で狙いを外すようであるなら、訓練をやり直すことになりますね。ワインズ達ならあの部屋に初弾を撃ち込めるはずです」


 どうやら攻撃は可能なようだ。

 とはいえ、かなり拡散した輝点だからなぁ……。案外部屋の奥にいるのかもしれない。


「準備ができたわよ。どこを覗くの?」


 オリーさんの問いに、レディさんが位置を教えてくれた。

 七海さんが用意してくれたモニターをオルバンさんと見ていると、あちこち動いていた画面が1つの窓に固定される。

 緑のモノトーン画像が拡大すると、窓越しに部屋の様子を見ることができた。


「6体いるようですね……、アッ!」


「いましたね。やはり目を確認するのが一番ですけど、面倒ですよねぇ……」


 俺達の声に、レディさん達がやってきた。


「やはりいたか。どうだ? グレネードで倒せそうか?」


「動いていますから、狙撃も可能ですが、さすがに胸を狙うのは困難です。グレネードを叩き込むのが最善でしょう。3発同時に撃ち込みます。オーバーキルになりそうですが、確実ですよ」


「了解だ。後はオルバン達に任せるよ」


 レディさんにオルバンさんが笑みを浮かべて頷くと、直ぐに大声でワインズさん達を呼び寄せた。

 攻撃目標をしっかりと教えたところで、モニター画面を見せながら攻撃対象のゾンビを教えている。

 オルバンさんは新兵教育に向いている気がするなぁ。


「さて、お前達の腕を見せてくれ!」


「「了解!」」


 3人が擁壁に陣取り、M203の銃身後方を横にスライドさせてグレネード弾を装填する。

 M203専用のサイトをグイと上げてレンジ設定を行うと、オルバンさんに「準備完了!」と声を出した。


「良く狙えよ……、発射!」


 オルバンさんの合図で、シュポン! と言うちょっと気の抜けた発射音が続け様に起こる。

 2秒にも満たない間が開いて、統率型ゾンビのいる部屋から炸裂炎が起こり、残っていた窓ガラスが飛散する。


「結果はもう少し待ってね……」


 オリーさんの声を無視するように、俺達はモニター画面にくぎ付けだ。

 果たして結果は……。

 そうだ! 音声映像装置でも確認できるんだった。

 スイッチを入れて、先程の部屋を見る。

 輝点が消えているな……。攻撃成功と言うことだ。


「レディさん。輝点が消えました!」


「モニター画面にも動くゾンビは確認できない。どうやら倒せたようだな。次に取り掛かってくれ」


「了解です!」


 さて、次は……。今度は北を確認しよう。

 擁壁沿いに歩いていく。後方ではレディさん達がワインズさん達の射撃の腕を褒めているのが聞こえてきた。

 俺が撃ったら、果たして狙い通りにあの部屋に撃ち込めるんだろうか?

 トロッコから50mほど先の住宅に向かって撃ったことはあるけど、狙い通りとはいかなかったからなぁ。

 やはり何度も反復訓練が必要なんだろう。


 日付が変わるまでに都合3か所で俺達の様子を窺っていた統率型ゾンビを倒すことができた。

 暗視カメラで見た限りでは、それでも続々とゾンビが集まって来るんだよなぁ。


「私達を監視していた統率型は倒したが、通りにゾンビを集める統率型がまだいるということになるのだろう。だが、このビルに入り込もうとするゾンビはまだいないようだ」


「俺達の脱出路を塞いだことで満足しているのかもしれませんね。いずれは通りに出てくると考えているのかもしれません」


「さすがに空を自由に移動できるとは思っていないんじゃないかしら。現状での安全性は担保されていると考えても良いと思うわ」


 俺の言葉にオリーさんが言葉を繋ぐ。

 レディさん達が頷いているところを見ると、状況的には問題が無いと考えているのだろう。


「エディとワインズ達6人で交代しながら監視を継続してくれないか。3時間ずつ行ったところで私達を起こしてくれ。変化があったなら直ぐに全員を起こして欲しい」


「「了解です!」」


 レディさん達がヘリポート下のシートでシュラフに潜りこんだところで、残った俺達はエディとワインズさんがジャンケンを始めた。負けた方が後の監視を担当するらしい。

 結果はエディの勝ちだったから、俺達が最初の監視を行うことになった。

 ワインズさん達は、ベンチで横になって仮眠を取るらしい。


「それじゃあ、頼んだよ!」


 横になる前にワインズさんがエディに言葉を掛ける。エディが片手を上げて答えると直ぐに横になってしまった。


「さて、一回りしてみるか。スターライトスコープは俺とニックが装備している。サミーは声を聴いていて欲しいな」


「そうするよ。でもエディ達が仕掛けたランタンがまだ燃えているところもあるからなぁ。通りを見るぐらいは俺にもできそうだ」


 エディ達とくだらない話をしながら擁壁沿いに屋上を一回り。

 大きな変化は無いが、気になることが1つ出てきた。ヘリポート下の扉から聞き耳を立てると、ゾンビの数が増えていたんだよなぁ。

 数は7体程になっている。ここにやってきた時の2倍だからね。小さなホールをうろついているだけで、扉を叩くようなことは無い。

 叩くような行動を始めたなら、皆を起こすことになりそうだ。


 何度か屋上を周回した時に、エディからスターライトスコープの付いたヘルメットを借りて、ビルの真下の通りを眺めてみたら道路を埋め尽くすほどにゾンビがひしめいていた。

 3千体を越えているんじゃないか?

 だけどゾンビの動きを見る限りではビルの中に押し入ろうとする者がいないんだよなぁ。

 ただ、集まっているだけらしい。


「何だろうね? これだけ集まっているのはある意味壮観な眺めに思えるよ」


 エディにヘルメットを返しながら呟くと、エディ達も頷いている。


「全くだな。ここが屋上で良かったと思うよ。あれだけ集まっても、この屋上まで上がるにはかなり苦労するはずだ。その間にデンバーから救援のヘリが来てくれるはずだからね」


 デンバー空港で待機していると言っていたからなぁ。さすがにアイドリング状態での待機ではないだろうけど、このヘリポートまでなら20分程度でくるんじゃないか? 

 その間3つの階段室の扉を守るだけなら、何とでもなりそうに思えるんだけどなぁ。


「一服したら、もう1度巡視に行こうぜ。後はワインズさん達に後退すれば良い」


 ニックの言葉に、ベンチに腰を下ろしながら頷いた。

 もう直ぐ3時間経つからね。コーヒーを温め直して、タバコに火を点ける。

 季節的には初夏なんだけど、夜はやはり冷えてくる。

 戦闘服の袖を昼間は捲っていたけど、夜は袖を下ろして丁度良い感じだ。


「さすがに、山小屋よりは冷えないね。それでもデンバー市の標高は1600mはあるからなぁ」


「デンバーの夏は案外過ごしやすいよ。暑くても33度を超えることは無いからね。湿度もあまりないから、俺にとっては清々しい暑さなんだよなぁ。日本の夏は気温が35度を超えるんだぞ。その上湿度は高いと来ているからなぁ。だが日本にはエアコンと言う武器がある。室内は案外快適なんだ」


「エアコンを持つ家は少ないと思うなぁ。俺の家にも無かっただろう。昼はそれなりに熱いけど、夜は涼しいからね」


 まったく羨ましい限りだ。

 俺もアメリカ国籍を持ったんだから、過ごしやすい場所をこれから七海さんと探してみよう。

 とは言っても、山小屋の暮らしも良いんだよなぁ。

 確かに冬は寒いんだけど、薪ストーブがあれば温かな暮らしができるんだからね。


「俺達がいつまでも一緒に暮らせるとも思えないんだが……。可能な限り、近くに住みたいな」


 ニックの言葉にエディと一緒に大きく頷いた。

 俺達も友達同士だし、付き合っている女性達も友人同士だ。さすがに同じ家に住みたいとは思わないが近所であるなら、毎日のように庭でビールを酌み交わせそうだ。


「どこが良いかなぁ……。ロッキーも良いところだし、サンディエゴの海も良いところに思えるんだよなぁ」


「カンザス、テキサス、それにオクラホマは止めておこう。見渡す限りの平原だからね。それに竜巻が怖いところだ」


「そうかなぁ……。俺達3人で牧場経営もおもしろそうに思えるんだけどなぁ」


 ニックの否定的な考えにエディが異議を唱えている。

 牧場ねぇ……。エディやニックのカーボーイ姿は様になるだろうなぁ。


「釣りができるところがいいな。海でも湖でも構わないけどね」


 俺の言葉にエディが笑みを浮かべる。

 賛同してくれるみたいだな。


 10年は軍隊での暮らしが続くに違いないけど、ゾンビから解放される土地はこれからどんどん増えて行くに違いない。

 暗い話よりも、明るい将来像を皆で考えることにしよう。


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