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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-178 キツツキの音が聞こえてきた


 七海さんがオリーさんの指示を受けながら、爆心地周辺のゾンビの状況を確認している。統率型と戦士2型の周波数域を変えながら調べているようだけど、地図を広げて何やら書き込んでいるところを見ると見付けたということになるのかな?

 パット達はもう1台のドローンを使って300mほど離れた交差点にジャックを仕掛けたみたいだな。ジャックの目覚まし時計の音に集まって来るゾンビを、高度を上げたドローンの映像で確認しているようだ。

 オルバンさんはワインズさん達と、階段室を見回りながら擁壁から周囲の様子を眺めている。


 俺はと言うと、最初に使った収音装置の収音マイクを傘の中心に取り付けて三脚に設置し、広範囲にゾンビの声を聴いている。

 試作品は可聴範囲が広いし、帯域フィルターの設定が簡易型よりも正確に出来るからね。これなら新たな音源を見付けることが出来るんじゃないかな。

 傘の向きをゆっくり水平に動かしては、周波数帯域を上げて行く。

 地味な作業だけど、こんな方法でしか新たなゾンビは探せないんだよなぁ。


 タバコを咥えながら、傘の方向を少しずつ変えて調査をしていた時だった。

 ヘッドホンに微かだが、コツコツと扉をノックするような音が混じってきた。

 共振周波数をゆっくりと変えていくと、28kHz付近で最大になる。帯域は……かなり狭いな。1kHzと言うところだ。

 傘の方向を双眼鏡で覗いてみたんだが、通りにはたくさんのゾンビがいるからなぁ。

 目視で同定することは出来ないな。


「オリーさん。新しいゾンビの声を聴きましたよ。キツツキが木を突いているような音なんですが、双眼鏡では声の主が分かりません」


「やはりいたということね。ナナ、ドローンを戻してくれない。バッテリーを交換して音声視覚装置の設定を変えて貰いましょう」


 ドローンが戻ってきたところで、音声視覚装置の設定変更を行う。結構簡単なんだよね。バッテリー交換の方が面倒に思えるほどだ。


「終了しましたよ!」


「なら、早速探してみましょう!」


「ちょっと、待ってくれ! 後数分でジャックが爆発するんだ。その確認をしてからでも良いんじゃないか?」


 俺達の会話を聞いていたエディが教えてくれた。

 オリーさんと顔を見合わせて互いに頷く。

 双眼鏡を取り出して、先ずは一服。

 七海さんが保温水筒に入れてあったコーヒーを、カップに注いで渡してくれた。


「300m程先でしたから、爆発後に確認した方が良いでしょう。破片が飛んで来ないとも限りません」


「爆薬の量だけで数kgなんでしょう? 砲弾並みの威力でしょうね」


「砲弾なら地中爆発でしょうが、ジャックの場合は空中ですからね。少しは被害半径が広がるのでしょうが、ゾンビの場合は頭部損傷を与えない限り倒すことが出来ないのが難点です」


 最初に作ったフットよりはマシなんだけどね。

 迫撃砲のエアバースト信管がどれだけあるのかを考えると、先行きが不安になってしまう。

 現代の兵器は精密機械そのものだからなぁ。最終組み立てを行う工場をゾンビから取り返したとしても、その工場に部品を供給する工場が無いなら生産は直ぐに止まってしまうだろう。

 現代産業をどれほど後退させることになるのだろう。

 一度後退させることになっても、技術の記録とその製品があるのだから復興には時間が掛からないとは思うんだけどなぁ……。


 突然、ドオォォン! と言う音で、我に返った。

 俺の悪い癖だな。考えると周囲を忘れてしまう時があるからなぁ。

 パラパラと降ってきたのは小さなコンクリートの破片だった。

 ヘルメットを脱いで帽子を被っていたんだが、数mmにも満たない破片だからけがをすることもない。


 擁壁に取り付いて、双眼鏡で皆が爆発か所の周囲を確認している。

 十字路のど真ん中に設置したから、4方向の通りに20mほどの範囲でゾンビが倒れてはいるんだが……。


「倒せたのは15m以内と言うところかしら? それより離れると、動き出しているのよねぇ……」


「人間なら重傷も良いところですよ。手足が吹き飛んでいるんですからね。失血のショックで気絶したまま出血死ということになるんでしょうが……」


「記録も撮ってあるから、研究所の皆に見せてあげるわ。頭を破壊しない限り倒せないと教えてるんだけど……、実際の状況を見たことがない人達ばかりなの」


 学者だからなぁ。ゾンビと死闘を繰り返しているような現場を見たことは無いのだだろう。そういう意味では、オリーさんは貴重な存在に違いない。


「まだまだジャックはあるけど、次は統率型を狩ることにするよ。近くにかなりいるようだからね」


「統率型はどんどん狩ってくれよ。2種類が確認されているからよろしく頼む」


 エディが、笑みを浮かべて頷いているから、余計な一言だったかな?


「さて、私達は、まだ見ぬキツツキの正体を調べないといけないわね。ナナ、お願い!」


 再びドローンが頭上を越えて飛んで行った。

 爆装をしているようだから、正体が分かったところで近くに落としてみるのかな?

 後をオリーさん達に任せると、傘を取り付けた三脚を手に場所を変えて新たなゾンビの声を探ることにした。


 15時を過ぎたところで、レディさんが俺達を集める。

 集まったのはオリーさんと俺にオルバンさん、それにレディさんの4人だ。

 コーヒーを飲みながらの、状況共有と言うところだろう。


「メディカルセンターと言うより、このビルの周辺監視と階段室の確認を継続中です。階段室は全く異常はありません。周辺のゾンビはジャックを使用したことで、少し動きが出たように感じますが、このビル周辺のゾンビの数に目立った変化はありません」


 退屈な任務なんだろうけど、継続してくれるからありがたい。


「オルバンよろしく頼む。次は私だな。ジャックを使った結果は皆も知っている通りだ。現在は統率型ゾンビを駆逐している最中だが、Ⅰ型とⅡ型が混在しているようだ。数はⅡ型の方が少ない。比率としては1対3と言うところだろう。生憎と2つの周波数を同時に確認できない。これは将来的に考える必要がありそうだな。倒した統率型は15時時点で4体になる」


「次は私の番ね。新たなゾンビを確認したわ。画像を見せた方が良いわね……」


 レディさんの報告が終わると、オリーさんがタブレットを取り出しながら説明を始めた。

 タブレットに写し出されたゾンビを見て、皆の表情が固まってしまった。


「これは……、ゾンビとは言えないのではないのか?」


 絞り出すような声で、レディさんがオリーさんに問い掛けた。


「元々ゾンビと言っていたのは、映画やゲームなどの影響があるからなんでしょうね。最初からゾンビはいなかったの。メデューサと名付けた人工生命体がたまたま人間の体を利用していたにすぎないわ。これからどんどん形状が変化するかもしれないわね」


 ぼろぼろの衣服をまとった緑色の棘の無いサボテン……。虹色の目が3方向に付いている。頭のてっぺんには触手のようなものが蠢いているんだよなぁ。手と足はまだ人間の形を取っているけど、それすら今後変化しないとも限らないだろう。


「統率型と言うわけでも無さそうだが、かといって戦士型とも異なるように思える……」


「何らかの能力はありそうね。それが分からない内は、特Ⅰ型と呼ぶことにします」


「最後はサミーだ。周囲のゾンビの声を聴いていたが、特Ⅰ型以外にもあるのだろうか?」


「現状では、特Ⅰ型のみです。日暮れと、深夜に再度確認するつもりです。ゾンビに目ができましたから、彼らの活動が昼と夜では異なる可能性を探るつもりです」


「了解だ。引き続き監視と統率型ゾンビの間引きは継続する。私の方で簡単な報告書を作り、ウイル殿に送るが、報告文についてはオリーが一読して欲しい。以上だ。次は夕食後に情報共有をしよう」


 さて、次は何を始めようか? と考えていると、オリーさんが俺を手招きしている。

 なんだろう? と近くに寄って行くとベンチを指差しているから、座れということなんだろう。

 とりあえず腰を下ろすと、七海さんもオリーさんの隣に腰を下ろす。

 密談と言うことかな?


「特Ⅰ型を調べようかと思うんだけど、方法を一緒に考えてくれないかしら?」

 

 急に言われてもねぇ……。


「刺激を与えて反応を見るというのが1つの基本だと思いますよ。この場合は、近くに通常の迫撃砲弾を投下して見て、その反応を調べてはどうでしょうか? 画像の確認はオリーさん達お願いします。その時の声に変化があるか否かは俺の方で記録しましょう」


 電子回路のインパルス応答試験の応用だ。

 アナログ回路の回路特性を調べる時に行う手段らしいんだけど、今はデジタルの時代だからねぇ。

 

「おもしろそうね。早速試してみようかしら。ナナはドローンをお願い。迫撃砲弾のセットは私がオルバンに頼んでくるわ。1発で良いのよね」


「倒したらダメですよ。反応を見るのが目的です!」


 よくわからない物は早めに対処するのが軍の基本ではあるんだが、今回は今後に繋げるための試験だからね。

 オリーさん達がベンチから腰を上げたのを見て、俺もパラソル付きの三脚を用意して集音装置の準備を始める。

 共振周波数を合わせて、帯域を5kHZに広げる。通常時と異なる音を出すこともありそうだからなぁ。

 帯域を広げたことで、戦士Ⅱ型の波長と少し被ることになったから、キツツキの音に混じってセミの声が聞こえてくる。

 やはりいるようだ。それもかなり多いように思えるんだが……。改めて双眼鏡を取り出してパラソルの開いた方角を詳細に確認する。

 6倍の双眼鏡だから、見える範囲に戦士Ⅱ型の姿が見当たらない。もっと遠くにいるのか、それともビルの中なのか……。


「準備ができたわ。サミーの方は?」


「出来てますよ。特Ⅰ型付近に戦士Ⅱ型の声がするんですけど、俺の双眼鏡では確認できませんでした」


「迫撃砲弾を落とせば、案外出て来るかもしれないわね。ビデオの準備も出来てるから、ナナ、始めて頂戴!」


集音装置からケーブルを伸ばして、モニター画面を見ながらゾンビの声を聴く。

 南西方向に飛び立ったドローンが地上を映し出している。やがて上空から手で圧し潰したような建物の瓦礫が見えてきた。爆心地付近と言うことなんだろう。

 どうにか形を保っているビルの近くにドローンが移動すると、画面が切り替わった。

 青色の画面の中に赤い輝点が現れる。

 どうやらその輝点が特Ⅰ型ゾンビのようだ。


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情報の蓄積だけあったところで、材料と道具がなければ… 第二次大戦の時の我が国などは、材料となる物資はもちろん、精密工作機械も敵国から買い入れていたような工業力の劣る国だったから、敵対したところで勝てる…
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