表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
177/678

H-177 メディカルセンターのヘリポート


 出発10分前に、全員が揃った。

 遅れる者はいなかったようだな。オルバンさんの指示でワインズさん達が搬送用のプラケースに必要な資材を入れたようだが、それほど大きな荷物にはならなかったらしい。

 リトルジャックとジャックは、俺達を下ろした後に一旦ここに戻って運ぶらしい。


「屋上を一度旋回して、ゾンビがいないことを確認してからヘリボーンをするんだぞ。それと、線量率が高いようなら直ぐに引き返すんだ」


 見送りに来たウイル小父さんが、レディさんに念を押すように言い聞かせている。

 ウイル小父さんも慎重派だからね。ニックはそれほどでもないんだけど。


「了解です! それでは乗り込むぞ!!」


「「オオ!!」」


 大きく返事をして、ヘリコプターに向かって走っていく。

 上で回っているローターは身長よりも高いんだけど、思わず身をかがめてしまうんだよなぁ。

 エディ達がベンチシートに座り、俺開いている扉に腰を下ろしてソリに足を乗せる。にヘリに備え付けられたセーフティロープのリングを装備ベルトのシャックルに通して、扉近くにある鉄パイプをしっかり握っているから落ちることは無いだろう。

 

「出してくれ!」


 レディさんの声で、ヘリコプターのローターが勢いを増してふわりと地面を離れた。

 その場で20mほど上昇すると、デンバーに向かって速度を上げながらゆっくりと高度を上げる。

 最終的には地上200mほどの高さになった感じだな。

 速度もだいぶ上げている。体は機内に位置しているはずなんだけど風圧を感じるほどだ。


「デンバー動物園の西にあるメディカルセンターだ。デンバーで屋上にヘリポートを持つビルはそこだけだからな」


「核の衝撃波を受けてるんですよね。着地して異常を感じたなら、そのまま飛び立ちますよ」


「それでいい。降り立った私達はホイストで吊り上げて欲しいな」


「了解です。でも、それほど心配はないと思いますよ。重病人を運んで来るヘリポートなら通常よりも強度を成しているはずですし、検査も入念だったでしょう……。見えてきました。あれですね」


 扉から身を伸しだして前方を眺めると10階建てぐらいのビルの屋上にヘリポートがあった。

 ヘリコプターがメディカルセンターの周囲をゆっくりと巡る。

 屋上にゾンビはいないみたいだな。ヘリの音がうるさいから集音装置がつかえないのが不便だけど、聴くよりも目で見た方が間違いはないだろう。


「いないようだな……。機長、ヘリポートにヘリボーンを行う。10mほどの高度でお願いしたい」


「了解だ。ゾンビの巣窟だからなぁ。屋上にはいなくとも、直ぐ下の階にはたくさんいるんじゃないか」


 それが気にはなっているんだよね。とはいえ、ゾンビは階段が苦手だからなぁ。それにソーラーパネルも屋上に無いようだから、エレベータを使うことも出来ないだろう。


 ゆっくりとヘリポートに近づき高度を落として行く。

 ガンナーがウインチの腕木にヘリボーン用のロープを繋ぐと、下に向かってロープに束を投げ下ろした。


 10mいかに迄下げてくれてるようだ。

 後ろにいるレディさんに振り返ると小さく頷いた。


「OKか? なら、先に降りてくれ」


「了解!」


 セーフティロープをシャックルから外して、ヘリボーン用のロープを掴むとソリを蹴るようにしてヘリコプターから離れる。

片足をロープに絡ませ、ロープを掴んだ手の力を緩めながら降下を行う。

 直ぐにヘリポートに足が付いたから、上でロープを握っているレディさんに手を振った。

 同じようにレディさんが降りてきたから、ヘリポートの端にある階段を降りて屋上の偵察を始める。

 集音装置のスイッチを入れて、イエローボーイを構えながらの索敵だ。

 素早くヘリポート周囲を確認して、レディさんに異常なしとトランシーバーで報告する。

 

 次は、ヘリポートへの動線の確認をしないといけない。

 ヘリポートから眺める限りでは、北東それに南西方向に階段室が設けられている。

 屋上からヘリポートまでの高さは1フロアを越えていそうだな。屋上の南東方向に屋上からビルが突き出しているから、ビルの内部に繋がるエレベーターと階段があるのだろう。


 ヘリポートに目を向けると、着地したヘリコプターからエディ達が降りてくるところだった。とりあえず荷物を南東方向に移動しようと考えているようだ。

 エディ達がバッグを下ろしたところでヘリコプターが上空に飛び立つ。

 今度はオルバンさん達が降りて来るはずだ。


「レディさん。屋上の偵察に向かいます」


「オルバンが降りて来てからにしてくれないか。通りにもビルの中にもゾンビはいるようだからな。慌てる必要はないだろう」


 集音装置から聞こえるコオロギの合唱は、確かに遠いんだよなぁ。

 どう考えても、屋上にはいないだろう。

 そう考えると、ゾンビは屋上の直ぐ下にいるということになるんだが……。


 全員が揃ったところで、2手に分かれて屋上への動線を確認する。

 俺とレディさんが先行し、後続はエディ達だ。

 階段室の鉄扉越しに集音装置で聞き耳を立てると、扉の直ぐ向こう側にはいないようだ。それでもコオロギの声がはっきりと聞こえてくるから間違いなく下の階にはゾンビが沢山いるのだろう。

 扉そのものはしっかりと施錠されているけど、内側からならロックを外せるんじゃないかな。やはり簡単に溶接しておいた方が良いのかもしれない。

 2つの階段室を確認したところで、ヘリポートと同じ高さを持つ屋上に突き出した大きな構造物の前に立った。

 扉は1つなんだが、両扉なんだよね。

 他の階段室と同じかなと思っていたんだが……。


「4体いるようです。ざわめくようなコオロギの大合唱が聞こえますがこれは下階からでしょう」


「他の階段室と同じで内側からロックされているようだな。現状では問題ないということになるが、やはり溶接しておいた方が無難かもしれんぞ」


「出来れば突入口として残しておきたいですね」


「その時はプラスチック爆弾で破壊すれば良い。さて、もう1度周囲を探って戻ろうか」


 屋上階の確認が終わったところで、レディさんが簡単に状況を説明してくれた。

 ゾンビの脅威は現状考えられないが、オルバンさんに階段室の扉を溶接するよう依頼すると、ワインズさん達にはヘリポート下の柵を何か所か取り外すよう指示を出している。


「ヘリポートが良いテント代わりになるだろう。その下なら十分に雨を凌げるはずだ。風は簡単なシートを張って防げるようにして欲しい」


 残った俺達は荷物を屋上へと運ぶことにした。

 そんな中、1機のヘリコプターが近付いて来る。

 ジャックを運んで来たのかな? 1個20Kgはあるからねぇ。それに水も1日でジェリ缶1個では足りないはずだ。5缶程運んできたに違いない。


 結構重い物もあるけど何とか屋上に下ろしたところで、今度はヘリポートの下に移動する。確かに良い屋根になりそうだな。


「レディさん。ところで線量率はどの程度だったのですか?」


「そういえば、伝えていなかったな。7.5マイクロシーベルトだ。だいぶ下がっているな。これならデンバー市内で活動するに、何の問題は無いだろう。とは言っても、南西を見てくれ。核の衝撃波で破壊された廃墟はもっと線量が高いと考えるべきだろうな」


 俺達への影響の有無はオリーさんに後で確認してみよう。

 そんなオリーさんは、七海さんと一緒になって廃墟の方向に向かって何やら機材を組み立てているようだ。


 作業が一段落したところで、コーヒーを沸かす。

 屋上でプラスチック製のベンチを数個見つけたから、座って休むにも都合が良い。

 3機目のヘリコプターが折り畳み椅子を数個運んでくれたけど、これは屋上からの周辺監視に役立ちそうだ。


 コーヒーができたところで、シェラカップのコーヒーを飲みながら一服を楽しむ。七海さん達が座った位置から風下になるから、副流煙を気にする必要はないだろう。


「ナナ達には広域の偵察を行って欲しいわ。多目的ドローンだから爆装した状態で広域監視を行いながら統率型ゾンビを倒せると思うの。でも統率型ゾンビを見付けたなら、画像を拡大してゾンビの姿を映像で残してくれないかしら。案外、新たな統率型を見付けることになるかもしれないわ」


「ジャックの設置も1つ行いたいところだな。出来ればここから双眼鏡で観察できる場所にして欲しい。マリアンとジュリーはこの際だからクリス達からドローンの操作を学んでくれ。2か月先になると1年以上3人を休ませねばならん。その時にドローンを操るのはマリアン達になるからな」

 

 レディさんの言葉にマリアンさん達が首を捻っているから、後で七海さん達に確認して驚くんじゃないかな。


「私は、3か所の扉を適時確認しましょう。ワインズ達を使います」


「よろしく頼む!」


 オルバンさんの申し出に、レディさんが頷いた。これで役割分担ができたということになる。


 コーヒーを飲み終えたところで、屋上の擁壁から通りを彷徨っているゾンビを双眼鏡で観察することにした。

 オリーさんは七海さん達とドローンの準備をしているようだな。小さなタブレットだけでなく画像確認用の20インチほどのモニターも運んで来たようだし、電源は小型の発電機まで持って来たようだ。

 このまま、資材を投入すればデンバー市からゾンビを駆逐するための前線基地になりそうだ。


「それじゃあ、始めて頂戴!」


 オリーさんの声が背中から聞こえてくる。

 直ぐ俺の頭上を1台のドローンが越えて行った。あの方向は……、核の爆心地を探るということかな?

 通りだけでなく、近くのビルにも双眼鏡を向けると、割れたガラス窓越しにゾンビの動いている姿が見える。

 逃げ遅れて犠牲になったんだろう。

 通りも事故を起こした車があちこちに見える。これでは車での避難は出来なかったに違いない。

 走って逃げると言っても、ゾンビと違って人間はそうそういつまでも走れるものではないだろうからなぁ。

 溜息を吐いて双眼鏡をバッグに収めると、今度は集音装置を使って周囲を調べることにした。可聴帯域を2KHzに設定して共振周波数を20kHzから30KHzの範囲で可変すれば、また新しいゾンビの声を聴くことが出来るんじゃないかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ