H-168 色々と試してみよう
「オリーは生物学者だ。ゾンビの研究者としてはアメリカでもトップの人材ではあるのだが、軍事行動については全くの素人。オリーが具体的な対処案を出すことは無いだろう。
サミー、それはお前の担当に思えるのだが?」
レディさんの言葉に、思わず自分を指差してしまった。
だけど、ここには軍の経験が長い人達が大勢いるんだから、俺でなくても良いと思うんだけどなぁ……。
でもレディさんの言葉で、先程までオリーさんに向けられていた視線が俺に突き刺さるんだよね。
ここは思い付きを提案してみるか。
「肩書は准尉ですけど、いつの間にか海兵隊になっていた人物ですから、素人考えであることをあらかじめお伝えしておきます。
オスプレイを早朝から順次飛行場に着陸させて生存者を救出することになるのですが、飛行場の大きさから、時間差を設けての救出と言うことになるでしょう。
次々と飛来して飛び立つオスプレイを見た統率型ゾンビはそれを静観するでしょうか?」
「そこに最初の選択肢があるということだな? 物事は悪い方に考えておくのが作戦に基本だ。もし静観してくれるなら、何ら問題は無いのだからな」
レンジャーの少尉が答えてくれた。
俺もそう思うぐらいだから、皆が頷いているも納得できるところだ。
「さすがに最初の1、2機で動くとも思えません。動くとすれば3機目あたりからになるでしょうね。でも、そうなると比較的安全に脱出可能な人員は数十名と言うことになります。
すでにオスプレイ何機分に相当するかは計算されていると思うのですが、後になればなるほど、脅威が増すことになります」
「それが一番の問題に思える。脅威を低下させる方法としては、脅威の方向性をなるべく小さくすること、それに防衛の容易性にあるのだが……」
「それを少し考えてみました。ゾンビであっても元は人の姿をしていますし、案外段差が苦手です。となれば、襲って来たとしても全体の輪を縮めるような動きではなく、5割以上は道路に沿っての移動になると推測します……」
一般人がマラソンする時に速さは、時速8kmほどだろう。飛行場から一番近いゾンビの集結地点までの距離はおよそ2km。15分で飛行場に到達できることになるが、道はまっすぐでは無いし、密集した状態で走るとなれば当然遅くなるはずだ。
「動き出したとしてもそれだけ尤度があることになります。ゾンビは段差が苦手ですから、道に丸太を横にしただけで大渋滞を起こすでしょう。それを多段に設けてさらに到達時間を延ばします……」
「大渋滞を起こした場所にエアバースト弾を落とすわけだな。迫撃砲を並べておけばかなりのゾンビを倒せそうだ」
「次に、ゾンビの総数を減らすことも有効でしょう。グランビーから双発機で東方向のゾンビをハイドラで攻撃することは容易だと思います。すでにハンタードローンを使ったということですが、それによって取り囲んだゾンビの輪が縮まったとは聞いておりません」
「ハイドラなら期待出来そうだな。それで北はどうするのだ?」
「ジャックを使いましょう。夜間に行うことになりますが、スターライトスコープでのジャックの設置は可能に思えます。
最後に、西側ですが……。出来ればハンタードローンで囲んだゾンビの中でも統率型ゾンビが少ない箇所を攻撃し、ゾンビの情報ネットワークを遮断したいと考えています」
出来ればたくさんいるか所を狙いたいところですが、それに寄ってゾンビが動き出しても困りますからね」
「南は荒野を渡ることで、それなりに足止めできるということだな。アンドリュー、直ぐに軍曹達を集めて先ずは道路に邪魔物を設置させるのだ。それが終われば次は迫撃砲陣地の設営になるな。ハンヴィーのM2ブローニングを取り外してMk19を取り付ければ、それも有効に使えるだろう」
「それでは、オスプレイは予定通りでよろしいですね。サミー准尉の話にもありましたが、確かに滑走路の距離と幅がありませんから、20分ほどの間隔を開けて離着陸を行うよう依頼します。双発機についての依頼については海兵隊の余裕次第ということになるでしょう」
「よろしく頼む。住民の避難を最優先として、20人程の単位で区分けしてくれないか。2、3人なら増加しても問題は無い」
私服姿の男女に大尉がお願いすると、丁寧に頭を下げている。やはり住民の代表者だったみたいだな。
「それで、飛行場には何時に集まれば?」
「5時には乗り込めるよう待機して欲しい。2番手も一緒だ」
「了解しました。20分間隔ということですが、3番手以降についても5時半には飛行場に到着させます」
兵士達は、直ぐに集まるということかな?
車を使って移動しているだろうし、トランシーバーで連絡も容易だということだろう。それにオスプレイに搭乗するのは最後になるからね。
「さて、それでは初めてくれ。オスカー少尉、必要な品があれば、アンドリューに申し出てくれ。なるべき用意したい」
「ありがとうございます。それならMk19を搭載したハンヴィーを3台用意して頂きたい。エアバースト弾が足りなければ多用途弾でも構いません」
「直ぐに用意させよう。次はサミー准尉の方だが?」
「今夜、自由にハンタードローンを使う許可を頂きたい。狙いは先ほどの用途になります。東はゾンビが散開しているようですけど南は多いですからね。削減できるならその方が良いと思います。それと、バイクの燃料を満タンにして貰えませんか? 明日はあちこち駆けまわることになりそうです」
「了解だ。ハンタードローンは屋上から使うといい。砲弾を用意しておこう」
「早速始めるのね? 先ずはネットワークを構築している1体を倒して、様子を見ることから始めるのかしら?」
「そうです。変化があれば、統率型同士の連携はそれほど距離を持たないことになります。デンバーで遭遇した統率型はそれより長距離でしたから、進化したにしてはおかしな話だと思ってるんです」
「1つ1つ確かめるということかしら? 出来ればサンプルが欲しいところだけど、さすがに無理かもしれないわね」
「顔認証が出来るんでしたよね。場合によっては頭の一部だけでも搬送ドローンで持ち帰れるかもしれませんよ」
急にオリーさんの顔に笑みが広がる。
首だけ持ち帰るような感じなんだけどなぁ……。有能な研究者は、皆こんな感性を持っているのかな?
一瞬、木箱に乗せた首を眺めて悦に入った表情をしているオリーさんが脳裏に浮かんだから、慌てて頭を振って脳裏から追い出した。
戦国時代じゃないんだからねぇ。さすがにそんなことはしないだろう。
時刻は16時を過ぎたところだ。
夏の日暮れは19時を越えるから、ワインズさんに手伝って貰って汎用ドローンを屋上に上げる。
偵察型とハンタードローンを合体させたようなドローンなんだけど、今まで使用していたハンタードローンより少し小型になったようだ。搭載する迫撃砲弾も60mmが3本だからね。
それでも統率型を倒すには十分すぎる性能だし、偵察しながらゾンビの群れの濃い場所に投下することもできる。
組み立てを終えたところで、七海さんが折り畳み椅子に腰を下ろすとヘルメットのようなヘッドディスプレイを取り出した。
「これを被って操縦するんです。コントローラーは今まで通り、ゲーム端末と似てるんですけど、目の前に大型テレビがある感じでコントロールできるんですよ。それに情報の一部まで表示できるんですから」
俺がヘルメットをジッと見ているのに気が付いたんだろう。
七海さんが説明してくれた。
「こっちのモニターで私の見ている画像を見ることが出来ます。20インチと言ってましたから、ちょっと小さいんですけどね」
コンテナボックスの上に小型のモニターが乗せられた。コンテナ上部は小さなテーブルになっているから、メモを取るのも便利そうだな。
モニター前にワインズさんがベンチを運んで来たくれたから、オリーさんとレディさんが直ぐに座ってしまった。
俺達は後ろで見てることになるのかな?
一度下に戻って、学校に避難している兵士からベンチを1つ譲り受けて屋上へ運ぶ。
少し距離を置いて、3人を見守っていよう。
コーヒーでも沸かして、一服していればその内に何か見つけてくれるに違いない。
「迫撃砲弾を運んできました。24発ありますが、足りなければ屋上に控えていますから指示してください」
「ありがとう! 当座はこれで十分だろう。ワインズさん。ドローンにセットして貰えませんか」
「そうだな。俺が適任だろう。任せておけ!」
ドローンのバックアップはワインズさんに任せておこう。
「どうです。ここで一緒に見ませんか? コーヒーもありますし、タバコもここなら自由です」
若いと言っても俺よりは年上の兵士が笑みを浮かべる。
「椅子を探して来ます!」と言って下に降りて行ったから、過ぎに戻って来るに違いない。
「出発するわ! 先ずは西で実験するわね」
「了解です。1つずつ確認しましょう。情報は多いほど後に繋がります」
後はオリーさんと七海さんに任せておけば良い。
先ほどの兵士が背もたれの無いベンチを担いで戻って来た。
コーヒーを飲みながら、世間話をしてる俺達を屋上で監視をしている兵士達が首を傾げて見ているんだよなぁ。
最初のコーヒーを俺達とオリーさん達に渡したところで再びコーヒーポットでコーヒーを作る。監視兵が数人いるからね。彼らだって飲みたいんじゃないかな。




