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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-159 皆でショットガンを磨こう


 翌朝。俺を抱いていた腕が解かれてオリーさんがベッドを抜け出す。

 窓は西側だから朝日が差し込むことは無いけど、それなりに部屋を明るくしてくれる。

 時計を見ると、7時少し前だ。

 オリーさんの着替えを、体を起こして眺めていると「エッチ!」と呟いている。俺の目の前で着替える方が問題だと思うんだけどなぁ。

 オリーさんが着替えを済ませたところで今度は俺が着替える。

 ベッドのシーツをはぎ取るようにして丸めると、新しいシーツでベッドメイキングを始めた。

 

「先に降りているわ。まだ、誰も起きていないかもしれないけど、コーヒーぐらいは沸かしておきたいわね」


「そうですね。でもキャシーお婆さんは早起きですよ」


 俺に手を振って、オリーさんが先に部屋を出て行った。

 さて、着替えを少し持って行った方が良いだろうな。下着とシャツをロッカーから取り出して、ナップザックに詰め込む。タバコも数箱入れておこう。

 用意ができたところで、部屋を出る。

 リビングの薪ストーブ近くにある低い棚にナップザックを置いて、イエローボーイを立て掛けておく。

 リビングを出て、広場に出るとまだ朝日は昇っていないようだな。

 それでも稜線が輝きだしているところを見ると、間も無く日が昇るのだろう。

 一番高い峰に向って柏手を打ち、頭を下げる。

 短い祈りを終えたところで、タバコを取り出してジッポーで火を点けた。

 グランビー湖は波も無く対岸の景色を湖面に写し出している。

 なんか、今朝なら大物が釣れそうな気がするなぁ……。


 もう6月なんだけど、結構朝晩は冷えるんだよね。

 風邪をひかない内に、リビングに引き返そう。


 リビングに戻ると、薪ストーブ傍のベンチでキャシーお婆さんがオーロラを抱いて座っていた。

 優しい目で、見てるんだよなぁ。

 まるで聖母の像を見ているようだ。


「マリア様に見えてしまいました」


「あらまぁ! サミーの好きなクッキーを作ってあげないといけないわねぇ」


 俺の言葉に、俺に笑みを浮かべた顔を向けてくれたんだけど、直ぐにオーロラに顔をむける。


「どう? 我が子を見た感想は」


「やはり知ってたんですか?」


「直ぐに分かったわ。メイも分かったみたいね。この眼差しがサミーと全く一緒なんだから……」


「素直な良い子に育ってくれれば良いんですが……」


「それは、オリーと相談ね。この山小屋なら安全に暮らせると思うんだけど……」


「オリーさんは、しばらくは手元に置きたいと言ってました。でも東海岸がどれほど安全なのか考えてしまうんですよねぇ。オリーさんも研究所の奥で静かに研究をするタイプには思えませんし」


「それは良いことを聞いたわ。この子を育ててみたいと、ライルにも言ってるんだけど、首を振るだけなのよ」


 孤児ではないからね。しっかりとしたママがいるし、表にはちょっと出しにくいけど、ダディだっているのだ。

 デンバー空港のゾンビを掃討できたなら、たまにはオリーさんも山小屋に帰って来れるんじゃないかな。

 

「朝食は、もう少し待ってね。とりあえずコーヒーでも飲んでいなさい」


 俺にはマグカップにたっぷり入ったコーヒーだけど、キャシーお婆さんとオリーさんはハーブティーのようだな。ミントの香りが漂っている。


「零したら大変だから、後で飲ませて貰うわ。さっきねぇ……」


「サミーはクリスチャンじゃ無いですから、見たままを口に出したんでしょうね。聖母像は絵画で有名でしょうから」


「でも、嬉しかったわ。子を産めなくとも聖母に見られるなんてねぇ」


 なごり惜しそうにオーロラを抱きしめると、オリーさんにオーロラをやさしく返している。

 

「今日、帰るんでしょう?」


「予定ではそうなります。ペンデルトン基地から飛行機が来ると聞いてますから、昼過ぎになると思いますよ」


「何時でも、帰ってきなさい。私達はこの山小屋で暮らすことにしましたからね」


「私にとっても故郷です。オーロラも喜んでくれると思います」


 ここは皆の故郷ということになりそうだ。

 ロッキーに抱かれた湖傍の山小屋……。それだけで絵になるような、誰もが羨む俺達の故郷だからね。


「それで、サミーは今後どのように進化すると考えているのかしら?」


「想像ですよ。推測ではありませんからね?」


 俺の確認は聞いていないな。うんうんと頷いて俺に顔を向けてくる。


「全く、子供に聞かせるような話ではないですね」


 キャシーお婆さんが改めて、オリーさんからオーロラを受けとると、そのまま台所に行ってしまった。

 朝食の監修をするのかな? オーロラを抱いては、料理は出来ないだろうからね。


「さて、改めてサミーの神託を聞かせて貰おうかしら」


「そうですね。全てはメデューサの遺伝子変異ということになるでしょう。どんな生物の遺伝子を組み込んだか、早めに確認する必要があると思います。出来れば現在分かっている生物だけでも教えて欲しいところですね」


「ちょっと待っててくれないかしら。後で、中間報告書を送ってあげるわ。でも、私のタブレットに、リストがあったはずよ」


 リビングからオリーさんが出て行ったから、今の内に一服しておこう。さすがにオーロラがいるからリビングでは楽しめないな。


 リビングの扉の外で一服していると、オリーさんも出て来た。俺のポケットから煙草を抜き出して、火を点ける。


「皆良い人ばかりね」


「だから故郷なんでしょうね。故郷は良い場所、そして住む人も良い人だけです」


「理想ってことかしら? でも、そうかもしれないわね。俗世間から離れた、安全ない場所。何時帰って来ても、暖かく迎えてくれる家族……」


「本当の故郷は、遠く海の彼方……。ここは、新たな俺の故郷です」


「私にとってもよ。……それでは、続きを教えて貰いましょうか」


 リビングの戻ると、オリーさんがタブレットを見せてくれた。

 こんなに沢山あるってことか?


「人間にクラゲ、粘菌は2つの種類があったわ。クマムシにカブトムシ、さらにはトカゲまであったみたい。昆虫があったのは意外だったわ。でも遺伝子のDNA 構造は案外似ているのよね」


「確かに昆虫は意外でしたね。クマムシは昆虫とは異なるのでしょうが、かなり生物として外部環境に対する耐性を持っていると聞いたことがあります。 

 無いのは、魚類と鳥類ということなんでしょうか……」


「組み込み易いように思えるけど、目的には必要なかったということかしら?」


「やはり、外骨格を持つゾンビは現れるんじゃないでしょうか? ちょっと厄介な相手になりそうです」


「メデューサの体組織だけでは体を支えることが出来ないということね。今は犠牲者の骨を支えにしているようだけど、それでは彼らの進化に制限が加わるということかしら?」


 外骨格であっても、その制限はあるんだろうけどね。だが、脱皮と言う手もあるんだよなぁ。それに、サナギと言う形態をとることによって、まったく異質な姿に変わることもできそうだ。


「キチン質はたんぱく質でもあるから、銃弾は貫通しそうだけど……」


「カルシウムを使うかもしれませんよ。カタツムリの殻はカルシウムでしたよね」


「案外、複合構造を取るかもしれないわ。9mmパラベラムを跳ね返すことは難しそうだけど、深い傷を作れないかもしれないわね」


 それが一番気になるところだ。今はスコップに柄を繋いだ棒で頭蓋骨を破壊出来ているんだが、跳ね返されそうでもある。


「とはいえ、想像しているだけですからね。今のところは戦士Ⅱ型でさえ9mmパラベラムで倒せると思いますよ」


「アメリカからゾンビを全て排除するのは長く掛かると思っていたけど……。時間が経てば経つほど新種が現れる。やはり、研究所に籠っているのは問題かもしれないわ」


「俺は安心できますよ。オリーさんの興味を引くゾンビは俺達で見つけられそうです」


「オーロラが大きくなるまでは、そうならざるを得ないわねぇ……」


「朝食ですよ!」


 俺達を呼んでくれたのは、メイ小母さんだった。キャシーお婆さんはオーロラに離乳食を食べさせているようだな。

 案外早くミルクを卒業してしまうんだなぁ……。


「まだ、降りてこないのよ。パットが起こしてくれると思ったんだけど……」


「向こうでは、いつも朝早く起きてますよ。ここは安心できますからね。これまでの分を取り返そうと2人で寝てるに違いありません」


「エディ達もそうじゃからなぁ。サミーの言う通りじゃろうな。サミーは偶々じゃろう」


 ライルお爺さんの言葉に、諦めたような表情でメイ小母さんが首を振っている。

 まだまだ躾がいるという感じだな。

 でも、パットがしっかりと躾けているように思えるんだけどね。


「午後に飛び立つんじゃったな。オーロラとはしばしの別れになるが、オーロラの花嫁姿を見るまでは絶対にくたばらないからのう」


 そんなことを言って、お婆さんの腕の中のオーロラを撫でている。


「オーロラだけではありませんよ。ニックやエディ、それに俺の子供達の晴れ姿を見るまでは元気でいて貰わないと困ります」


「100歳を越えそうじゃわい。まぁ、和紙の曽祖父さんは110まで生きたらしいからのう。ワシも見習わねばならんな」


「私の曽お婆さんは収容所を生き延びて長生きしたと聞きました。私も頑張って長生きしなければなりませんねぇ」


 確か70歳を過ぎているということだけど、100歳ぐらいなら俺達の子供達の晴れ姿を見ることが出来そうだな。


「とりあえずは、ショットガンを磨いて過ごすのも悪くないわい。確か、カモ撃ち用の銃弾で良かったはずじゃ」


「ウイルを撃った銃弾はスラッグ弾でしたよ。肩をかすったらしく、今でも跡が残ってるんです」


「ほう……、銃弾に決まりはないと言うことじゃな。しかもすれすれに撃つとなれば……。婆さんや、やはりメガネは直さんといかんようじゃ」


「眼鏡屋さんが無くなってしまいましたからねぇ。グランビーの町で探すことになりそうですよ。それでも見つからない時には、大尉さんに頼んで軍の支給品を頂いたらどうですか?」


 サンディーが興味深々に聞き耳を立ててるんだよなぁ。

 ボーイフレンドができたのかな?

 人口が減ってるんだから、物騒な習慣は止めといた方が良いと思うんだけどなぁ。


「俺も、今からマスターキーを磨くことにします」


「あれはダメじゃ! 冗談では済まなくなるぞ。ワシが見つけて来てやろう。エディ達も欲しがるじゃろうからなぁ」


 バリーさんがかなり気にしていたからなぁ。やはりゾンビ限定と言うことになるんだろう。

 そんな話をしながら朝食を終えた頃に、ようやくニック達がリビングに現れた。

 間が悪いなぁ……。朝食の準備が終わるまで、メイ小母さんのお小言が始まりそうだ。


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