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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-150 新種は進化と考えるべきだ


「こんな時代だから、選民意識に染まり易いのかしら? サンディーも気を付けなさい。もっとも貴方のお爺さんが注意してくれているとは思うけど……」


「ロジャーはずっとあの通りでしたから……。私は特に意識することは無いと思います」


「なら問題は無いわね。戻ったらあなたの友人を誘ってくれないかしら。やはり1人では大変だと思うわ。

 それと……、ウイルさん。レディとナナの姿が見えないのですが?」


 ロジャーの件は、これで終わりということなんだろう。いつまでも引き摺るようでも来なる話だからね。


「ああ、あの2人ならペンデルトン基地で訓練を受けているはずだ。1カ月は掛からんと思うから、もうしばらくすれば戻って来るぞ」

 

「パット達は、その後に?」


「いや、さすがに無理だろう。ナナはサミーとの付き合いがあるからな。今後一緒に行動するとなれば、必要な技能になる。ニック達もサミー達と行動するだろうが、さすがに付き合いきれるものでもない。

 それで、話を戻すことになるが、空港ビルの3階はゾンビがひしめいている。現在はこの複合ビルへの動線を遮断してビル内部のゾンビを掃討している最中だ。もう2日程待ってくれんか。そうしたら空港ビルへと俺達が動くことになる」


 2日あれば、何とか終わりそうだな。

 だが、直ぐに空港ビルに突入するとも思えない。事前にリトルジャックを仕掛けることは必要だろう。


「出来ればパット達と合流して、リトルジャックを仕掛けてくれませんか? 空港ビルの3階はゾンビがかなり多いんです。間引きしないと突入すらできません」


「それもおもしろそうだな。3階と言わず1階もお願いしたいところだ。それなら事前に戦士型ゾンビの姿も見られるんじゃないか?」


 ウイル小父さんが追認してくれた。確かに俺が依頼するのは問題があったな。以後気を付けないと……。


「ウイル小父さん、すみません。少し出過ぎました」


「気にするな。俺が気が付かなかっただけだからな。だが、そうなると……。オリー達は武装してきたのか?」

 

 ウイル小父さんの言葉に、オリーさんが笑みを浮かべてジャンパーの裾を少しめくった。

 しっかりとホルスターとマガジンホルダーがジーンズのベルトに付いている。


「私もサンディーもベレッタのシングルを護身用に常備してるわ。ライフルは22口径のボルトアクションをライルお爺さんが用意してくれたわ」


「山小屋と同じと言うことだな? 了解だ。それなら俺達の銃弾も使えるな」


「サンディーの射撃はかなり良いと思うんだけど、まだゾンビ相手に撃ったことは無いわ」


「ここで経験を積めば良い。パット達にも出来たんだからな。そのころのパットと同じ年代だろう」


 ウイル小父さん達の話を聞いて、サンディーさんが不安そうな表情をしているけど慣れるしかないんだよなぁ。

 とはいえ、元は人間と思ったらトリガーを引けないかもしれない。

 最初はあまりあてにしない方が良いだろう。パット達に注意しておいた方が良さそうだ。


「3日後には、サンプルが採れるのね。楽しみだわ」


「出来れば、オリーさんに確認して欲しいことがあるんです。ペンデルトンの戦士型は一見すると他のゾンビとの相違はありませんでしたが、ここの戦士型は外観すら異なります。そこで、動きについて一般のゾンビとどれほどの相違があるか確認してくれませんか?

 サンプルを取るともなれば、銃撃で倒すよりは白兵戦で倒した方が良いサンプルを得ることが出来るでしょう。でも、あの戦士型ゾンビにどこまで近づけるかが分かりません。特に、第3の腕は要注意です」


 うんうんと頷いているから、状況確認を何度も行ってくれるに違いない。

 なんか、違和感がかなりあったんだよなぁ。触腕を持っているだけでは無いんじゃないか?


「了解したわ。2日も時間があるんですもの。ちょっと私も試してみたいのよねぇ」


 後で整合を図った方が良いのかもしれないな。

 あまり危険な確認試験を行うようなら、止めさせないといけないだろう。


 レーションの夕食を終えると、オリーさんがお土産に持って来た甘口のワインを頂く。さすがにウイル小父さん達にはバーボンだった。

 軽い甘さだからパット達も喜んで飲んでいるんだよなぁ。


 オリーさんが東に向かってからの話をクリス達が教えてあげると、オリーさんも研究所の暮らしを色々と話してくれた。


「色々と協力して貰っているから、博士達が貴方達に生物学の学位を授けてくれるそうよ。さすがにハイスクール中退ではねぇ……」


「学士ってことだね。履歴書に学士と書けるぞ!」


「「ありがとうございます!」」


 皆で礼を言っておく。生物学の学位でも学位には違いない。権威主義にはそれで十分なんじゃないかな。


「エディ達も研究員に任命したらしいから、頑張ってね。サミー1人ではとても無理だと思うわ。貴方達がいるからこそ、サミーが動けるんだと思うの」


「確かに一人で無茶したがるからなぁ。後ろの援護は俺達に任せるんだな」


 オリーさんの言葉に、エディが俺の肩をポン! と叩く。

 信用に値する友人だからこそ、背中を任せられるんだよなぁ。

 俺1人では、サンプルの採取なんて出来ないだろう。


 「ところでサミーは、戦士型ゾンビの姿が変わっていることについて何らかの仮説をしてるんでしょう? 出来れば聞かせて欲しいんだけど……」


「推測と言うより、まだまだ想像の域を出ませんよ」


「なにもないよりは遥かにましよ。仮設その1ということになるでしょうし、検証していけばそれが正しいのかどうかも判断できるわ。どんな研究でも最初の1歩は、他の人が聴いたならバカげたことだと一笑するような仮設から始まるのよ」


 研究の切り口を探しているのかもしれないな。

 それなら……。


 30分ほど掛けて、俺の推測と言うか想像した戦士型ゾンビが2種類いることの理由を話した。

 皆がジッと聞いているんだよなぁ。

 たまにオリーさんが、俺に視線を向けて声を出しかけたけど、慌てて口をつぐんでいる。

 サンディーが素早くメモ書きしているのが気になるところだ……。


 俺が話を終えて、残っていたワインを飲み始めると、皆が呆れた表情で俺を見てるんだよなぁ。だから、まだ想像の域を出てないと断ったんだけど……。


「通常の進化と環境変化によって1つ飛び越えた進化ということになるのね……。人工生命体の進化速度は確かに予想がつかないわ。通常なら10万年を必要とする進化が年ほどで起こるということを否定することは出来ないわね。進化の加速因子と言うものがあるのかしら? もし本当にそれがあるのだとしたら、ノーベル賞はサミーのものよ。

 その真価をさらに加速したとするなら、核の影響も否定することが難しくなりそうね。

 ……また、皆が頭を抱える姿が目に浮かぶわ。

 サンディー、そのメモの開示は少し待ってくれないかしら。研究所が爆発しかねないわよ」


「とはいえ、想像も良いところですよ。何といっても確証がないんですからね」


「1つあるわよ。ペンデルトンから送られたサンプルの分析に時間が掛かっているけど、案外サミーの推測を裏付けてくれる可能性がありそうだわ。それに、ここでサンプルが得られたら比較評価を進められるでしょうね」


「もう1つ方法があります。爆心地付近での長期観測です。ゾンビの進化が戦士型だけとは思えません。他にも従来型ゾンビと異なる姿のゾンビがいないとも限りませんよ」


「爆心地近くの線量が問題ね。どれほど低下しているか分からないけど、放射線による遺伝子変異が起こっているとなればそれが一番の方法なんでしょうけど……」


「人工衛星の技術を使えば良さそうに思えます。宇宙なら大量の放射線を浴びてるはずですが機器の作動にそれほど影響はないようです。それに、爆心地付近の線量状況の把握も出来ますから、将来の有人偵察にも寄与が出来ると思います」


「動力は太陽光。移動が可能で、望遠撮影が出来る。放射線量の観測も出来れば良いわけね」


 再確認しながら俺に向かって手を出してきた。

 しっかりと握手をしたところで笑みを交わす。


「それは私の方で何とかするわ。東海岸の都市にもいくつか落としているから、複数個所で調べるのもおもしろそうね」


「よろしくお願いします。もし確認できたなら、映像を見せてください」


「もちろんよ。私達も考えてはみるけど、サミーの洞察力に期待したいわ」


 オリーさんがタバコに手を出したところで、ジッと俺達の話を聞いていたウイル小父さんが口を開いた。


「つまり、どういうことなんだ?」


 エディ達がうんうんと頷いているんだよなぁ。理解できかねるということなんだろうか?


「場合によっては次々と新種が現れる可能性があるの。メデューサは人工的に作られた生物なんだけど、人工的だから私達のように何億年もの時を経て進化した生物とは異なる進化を行う可能性があるのよ。

 それはサミーの推測ではあるんだけど、納得してしまうのよねぇ……。

 今は、単純に棒を持つだけのようだけど、次に段階ではそれを加工することも考えられるわ」


「石器を使うってことか?」


 それはないだろうという表情でウイル小父さんが呟いている。

 そんな小父さんに、真顔でオリーさんが頷いているから表情を硬くしているんだよなぁ。


「あり得るわ。さらに火の使用も視野に入れるべきでしょうね。統率型ゾンビは犬以上の知能と博士達は言っているけど、『以上』という言葉は、犬の知能を越えるということよ」


「時間経過が、必ずしも俺達に有利に働くわけではないんだな?」


「時々刻々と悪くなると考えるべきでしょうね。……ところで、サミー。転機は何時頃と考えているのかしら?」


「ここで話して良いんですか? 後程メールで伝えようと思っていたんですが?」


「おいおい、出し惜しみは良くないぞ。俺達は親友だと思って点だけどなぁ」


 エディが俺の脇腹を突きながら、苦笑いを浮かべた顔を向けてくる。

 親友だったら、俺の車の運転に同乗してくれても良いと思うんだけどなぁ。近頃は誘うとニックと一緒に尻込みするんだから困ったものだ。まぁ、俺の運転技術に迫れるとは思えないけど、少しは見習おうとしても良さそうに思えるんだけどねぇ……。


「3年……、早ければ来年には最初の転機が訪れる」


 急に場が静まった。

 俺は預言者ではないから、それほど気にすることも無いと思うんだけど……。

 だけど、そんな気がしてならないんだよなぁ。


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