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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-015 日本人の宗教観は理解できないだろうなぁ


 この状況下でもクリスマスを祝うとは思わなかった。

 クリスチャン以外は俺とナナだけだからね。とはいえクリスチャンではないけど日本人はどの宗教も自分達に都合よく取り入れることができるのが最大の特徴だ。

 ニック達とモミの木を山から運んできたし、ナナは町から頂いてきたオーナメントをパット達と一緒になって飾り付けている。

 さすがに天辺の星はエディが脚立の上に乗って取り付けていたけど、どうやら天辺の星を取り付けるのは名誉な事らしい。

 1つ勉強になった感じだな。


「サミーもナナも洗礼を受けてないんだろう? 一緒に祝っても問題は無いのか?」


 エディの真剣な問いに笑みを浮かべる。

 やはり宗教は大事だと考えているんだろうな。その点日本人の宗教観はおおらかだからね。


「日本人に宗教は何だと問い変えたら、ほとんどの人が仏教だと答えると思うよ。だけどそれを信じてはダメだぞ。日本人は生まれたら、近くの神社にお参りするんだ。これは日本に古くから伝わる神教という宗教だ。そのまま順調に育てば、3歳、5歳、7歳の節目に再び神社にお参りする。健康に育つことを祈る神教の行事だな。

 ところが13歳に成ると、今度はお寺に向かうんだ。かつて日本の成人は13歳だったらしいのと、仏の加護を得る為らしいんだけどね。

 その後は20歳で現代の成人となった祝いになるんだが、神社とお寺が半々ってところだろうね。

 その後の儀式で重要なのは結婚式だろうけど、今の主流はキリスト教が多いかもしれない。最後に亡くなるとお寺からお坊さんがやって来て天国に送ってくれるんだ」


 俺の話をニック達が驚いた表情で聞いている。最後は呆れた表情をしてるんだよなぁ。


「それって、古代宗教、仏教、キリスト教が混在してないか? どれか1つにするのが宗教ってことになると思うんだけど……」


「俺達ならそう思う。だけどなぁ、ニック。サミーが今話したことを良く考えてみるんだ。日本人は、この世界の神を全て同一に考えていると思えば納得できるんじゃないか? そういう意味ではネイティブ達の宗教観に近いのかもしれん。サミーが朝起きて山小屋を出るのは、一服する為だけではないんだ。東の峰に対して軽く頭を下げるのを何度も見ているよ。サミーの事だから、あの峰々にも神が宿ると考えているんだろうな」


「確かに、聞いたことがあるぞ。昔狩をする際に、ネイティブの案内人を雇った時には、山に入る際に彼は祈りを捧げていたからのう。先進国で唯一原始宗教を信じているのが日本人なんじゃろう」


「それで良いってことか……」


 首を傾げているニック達に、ウイル小父さんが笑みを浮かべている。


「そんな宗教観を持ってるから、他の宗教に対して反感を持つことは無いんだ。クリスマスを信じる人達がいるなら、やはり俺もそれを祝えるからね」


「理想的に思えるけど……。その宗教観がなぜ広がらないのかしら?」


「キリスト教にとってもイスラムにとっても都合が悪いからじゃろうな。宗教家であるなら、自分の宗教観を広げたいだろうし、それには対立する宗教を邪教認定すれば良いだけじゃ。とは言っても、ワシ等はこのままキリストを信じるぞ。だが、サミー達の宗教にも理解は示すつもりじゃ」


 オリーさんの素朴な問いに答えてくれたライルお爺さんが、最後に俺に顔を向けてウインクをしてくれた。良い歳なんだからお茶目な仕草はしないで欲しいな。


「まあ、そういうことだから、サミー達をのけ者にする必要もない。俺達の神を信じてくれるんだからな」


 最後にウイル小父さんが、これで終わりという宣言をしてくれた。

 とはいえ、帰化したなら早めに洗礼を受けた方が良いのかもしれないな。ある意味、1つの集団である証とも言えるのかもしれない。


 夕食には大きなリブローストが出て来たし、俺達にもジョッキ1杯のビールが出てきた。

 最後のケーキにお菓子の家とロウソクが灯ってないのは、去年で諦めが付いてたからなぁ。

 リンゴサイダーを飲みながら食べるフルーツケーキはキャシイお婆さんとメイ小母さんの手作りだ。パット達が「私達も手伝った!」と主張しているけど、邪魔をしたの間違いだと思う。口には出さないけどね。



 リビングを去る際に俺達はウイル小父さんから、パット達はメイ小母さんから紙包みを受け取る。

 ちょっとしたサプライズだけど、クリスマスはこれも楽しみの1つだ。

 部屋に戻ってから開けようと、俺達は顔を見合わせて頷いた。


 部屋に入って扉を閉めると、床に座り込んで包みを解く。

 中に入っていたのは、狩で使うボーイナイフだった。柄は鹿の角かな? 俺のイニシャルが刻んである。革のケースはネイティブの人が刻んでくれたのかな? 細かな図案が施されている。


「俺のイニシャルだ! お前達もか?」


「ああ、これって結構高いんじゃないのか?」


「ライルお爺さんの店では手に入らないだろうな。親父も思い切ったものだ」


 ありがたく頂いて、早速装備ベルトに取り付ける。

 これでゾンビを相手にすることは無いけど、持っていれば役立つに違いない。


「来年のクリスマスは期待できそうもないから、これが最後になるかもしれないな」


「案外、あるかもしれないぞ。だけど、来年は俺達からも贈りたいね」


 俺の言葉に2人が頷く。

 そうなるとちょっと気になるのが、パット達が何を貰ったかということなんだよなぁ。

 明日になったら、直ぐに聞いてみよう。

                ・

                ・

                ・

 新年を迎えると日本なら正月を祝うんだが、ここはそうでもないようだ。

 軽く新年の挨拶を済ませて終わってしまう。

 閉じこもってばかりだから、駐車場の一角で体を鍛えることにした。

 ウイルさん達が簡単な道具を持ち込んだり作ったりしていたから、それを借りての練習だ。

 蒸気機関のボイラーはたまに見に行く程度で良いことが分かったから、案外気楽なものだ。

 石炭を注ぎ足したところで、水量計の確認をすれば1時間ほど暇になる。

 縄飛びをしたり、腹筋をしたりしていると、たちまち時間が過ぎていく。


「良し! 水を補給したし、石炭はスコップ3杯を入れたからな。次は昼食前で良いだろう」


 エディがボイラーの窯の蓋を閉じながら呟いた。

 

「またやるのか? ちょっと疲れたよ。次は午後で良いんじゃないか?」


 ニックが疲れた表情で告げたから、ここで一服ということになってしまった。

 

「ところで、この辺りの雪解けは何時頃になるんだろう?」


「4月初めは、まだロッキーの山々は銀色だからなぁ。雪解けは4月中旬ってことじゃないか? だけど国道が通れるとは限らないぞ」


 ここよりも標高が高い場所が結構あるからなぁ。とはいえ、それなりの装備をすれば走れないこともない。

 ゾンビや暴徒達がやってくるのは4月下旬ということになるんだろう。それまでにはだいぶ時間がありそうだ。


 アメリカの国内状況は、更に深刻化している。やはりミシシッピー西岸でゾンビを食い止めることが出来なかったようだ。

 東海岸に向けてひたすらゾンビが人間を追い込んでいくようにも見える。

 今年中には東海岸に達してしまうんじゃないかな。避難している人達は最後の砦をどこに設けるんだろう。援助もなく飢えに苦しむ姿を俺には想像できないんだけど……。


「去年はアイオワ州の放送局をラジオで聞けたけど、年明けからは全くないそうだ。代わりに雑音交じりにミシガンの放送が入ると聞いたよ。ミシガンの南に防衛線を築いたらしい。近付く者に銃撃してまで他の州からの人の出入りを停めたという話だけど……」


「政府の関係者はまだワシントンにいるのかな? セレブ達は既に避難しているんだろうけど、どこに向かって避難しているのか考えてしまうね」


 自給自足ができる場所ということになるんだろうな。

 それを考えると島が一番に思えるけど、島で自給自足をするとなればかなり少人数になってしまいそうだ。

 

「やはり、阻止できないんじゃないかな? 既にゾンビだけになった場所からゾンビを始末する方法でないと、アメリカに人間がいなくなるんじゃないか?」


「今ならバレナム市からゾンビを駆逐できるってことか? だけど、近くに核を落とされてるんだぞ」


「広島や長崎はそれほど長く無人化しなかったよ。とはいえ爆心地近くに住み始めた人達はそれなりに被爆したかもしれないけどね」


「放射線量次第ってことになるのか? まぁデンバーから始めるよりは、周辺の衛星都市ってことになるんだろうけどね。案外バレナム市から、なんてこともあるんじゃないか?」


 バレナム市の人口はおよそ5万人ほどだ。核は落としていないだろうけど、爆撃は受けたらしい。ゾンビの数はかなり減っているはずだけど、全てを倒したわけではないだろうからなぁ。


「かなり難しい作戦になりそうだよ。少人数ではゾンビに飲み込まれそうだし、かといって堅固な拠点となる建物が残っているとは思えないからね」


 その辺りは、まだ政府が機能しているなら十分に話し合いが行われているに違いない。

 武器を製造している企業がまだ機能している間に、反撃できるだけの資材を生産できるかも課題になるだろう。

 武器にも使用期限があるだろうから、保有している銃弾や砲弾の備蓄も考えないといけないだろうな。さらにその備蓄場所にゾンビが跋扈している可能性だってありそうだ。

 

「俺達が考えてもどうしようもないな。出来るとすれば、町のゾンビを狩るぐらいだろうけど、ウイル小父さん達の話だと2千はいるだろうということだったからなぁ」


「物資調達で少しは倒したんだが……」


「全部合わせても100体に届かないよ。ほとんど殴っての戦果だからなぁ。銃を使ったのはあまりなかったんじゃないか」


 エディが残念そうに言ってるけど、銃を使うより殴った方が早いからね。それに銃声で集まってくるんだよなぁ。

                

 春分が過ぎたとライルお爺さんが教えてくれたけど、外は相変わらずの雪景色だ。

 ウイル小父さんがニック達にマーシャルアーツをトンネル内で教えているんだけど、エディはまだしもニックはまだまだだな。

 

「サミーはやらないのか?」

 ウイル小父さん相手に練習をしていたエディが汗を拭きながら訓練を見ている俺達に問いかけてきた。

 ニックも同じ思いなんだろうな。パットからタオルを受け取りながら頷いている。


「サミーは必要ないんだ。俺も無理だからなぁ」

 ウイル小父さんが苦笑いで呟いたのを、皆が不思議そうな顔をして俺とウイル小父さんの顔を交互に見ている。


「ある意味最強の白兵戦技術ってことになるんだろうな。ナイフでは役立たんぞ。一服したらやってみるか? 俺もあれから鍛えているぞ」


 ウイル小父さんの挑戦に、苦笑いを浮かべながら頷いた。

 ウイル小父さんの家にやって来て数日後に芝生で対戦したんだよね。

 道場に通っていたと話したんだが、空手や柔道だと思っていたんだろう。

 マーシャルアーツは空手に似ているからね。俺の腕を見たかったのかもしれないけど、結果は組手にもならなかった。

 俺の体に一撃も与えられずに、芝生に倒れていたからなぁ。

 さすがに3度繰り返すと、俺の技に疑問を持ったようだ。


「サミーの通っていた道場は、何を教えているんだ?」


「合気道と言う武道を教えてくれる道場です。10年近く通ってました」


 俺の言葉に頷いて、立ち上がったんだが合気道については少し知っていたようだ。

 だけど、それもかなり偏った知識だったから、間違った考えを修正するのに苦労したんだよなぁ。


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