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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-148 腕が3本ある!


 未知のゾンビがいる可能性が出てきたことをウイル小父さんに報告したんだが、「先ずは落ち着け!」と言って、パットにコーヒーを頼んでくれた。


「サミーが確認したなら、それは存在するということになる。次は、どんな奴でどこにいるかだが……、サミーの推定では空港ビルと言うことになるんだな?」


「その推測で間違いないかと。確認したのはこのレストランの方向からなんですが、レストランの中を確認している時には、その音が聞こえませんでした」


 エントランスホールの真ん中に、ミーティング用テーブルを2つ合わせにしたテーブルが置いてある。ウイル小父さんがこの複合ビルと空港ビルのパンフレットを広げ、3階部分の配置図を組み合わせて、俺達を手招きした。


「空港ビルの3階はかなり広いようだ。奥に向かってかなり横幅のある回廊が伸びているし、左右にも小さなホールがあるんだが……。サミーの言う音源の方向はこっちだから、空港ビルではこの辺りになるな……」


 考えこんでいるウイル小父さんにパットがコーヒーカップを渡している。俺達も受け取り、少し遅れてやってきたエディも嬉しそうに笑みを浮かべて受け取っていた。

 まだ熱いからなぁ。冷めるまで一服を楽しんでいよう。


「サミー、その頭の装置を使えば、ある程位置を特定できるんだな?」


「可能です。ハンタードローンなら確実ですけど、あれを室内で使うのは少し大きすぎますが回廊の天井は高いですからクリスなら難なく使えるでしょう」


「ならハンタードローンを使おう。2台あるからなぁ。統率型ゾンビに設定されているようだが、サミーで設定変更は可能なのか?」


「プログラムを変えるわけではありませんから、大丈夫です」


「クリスと調整して進めてくれ。それで、サミーとしてはどんなゾンビだと思っているんだ?」


「さすがにそこまでは推定できません。ですが、ペンデルトンで遭遇した戦士型ならありがたいと思っています」


「音で分かるということか。だが新たな可能性もあるってことだな……」


 ウイル小父さんと別れて俺達はクリスのところに向かった。このビルの管理事務所の方にいるらしい。


「ハンタードローンを使うの? このビルなら何とかなるんじゃないかしら。天井近くを飛ばせば良いのよね。でも爆弾を落とせないわよ」


 あれは爆弾ではなく迫撃砲弾なんだけど、クリスにとっては爆弾と言うことになるんだろうな。

 確かに、使い方は爆弾なんだけどね。


 クリスに案内されて、ハンタードローンを置いてある場所に向かった。エントランスから駐車場に向かう回廊の壁に邪魔にならないように置いてあるらしい。今までは外で使っていたからなぁ。アクセスし易い場所に置いてあるということなんだろう。


「これよ。2台運んでくれたんだけど、どちらでも使えるわ」


「ならこっちにするよ。使うのは空港ビルの3階なんだ。ウイル小父さんの話では天井が高いらしいよ」


「天井の骨組みが剥き出しだからそんなに高くは飛べないのよ。でも身長の3倍ぐらいなら問題ないでしょうね」


 十分な高さに思える。ゾンビに邪魔されなければ良いだけだからね。


 さて、設定を早めに換えてしまおう。

 基本周波数と、帯域設定を4桁のダイヤル式スイッチを操作して変更したところでロックを掛けた。

 これで、あのセミの声の主が赤い輝点で示されるはずだ。


「これを運べば良いのか?」


「20kgはあるわよ。2人で運んでね。落としたら壊れちゃうから」


「大丈夫だって……。ニック、そっちを持ってくれ」


 エディ達がドローンを運んでいく。

 その後ろに着いて歩いていた俺達をウイル小父さんが呼び止める。

 運ぶのはエディ達に任せてウイル小父さんの元に向かうと、ついでに空港3階の回廊を調べて欲しいと頼まれた。


「調べる時間はたっぷりありそうです。この回廊に沿って3方向でよろしいですね」


「さすがに1階には降りて行けないだろうからなぁ。そっちは小型ドローンで十分だろう」


「了解です!」と答えて、エディ達の後を追う。

 早く行かないと始めてしまいそうだからなぁ。

 セミの声を持つゾンビがどんな奴なのか確かめないと……。


「待って! 私が行かないと困るわよ!!」


 パットの声に後ろを見ると、タブレットを抱えて追いかけて来た。

 確かに、画面は大きい方が良い。

 その場で立ち止まり、パットのタブレットを受け取って今度は2人で走りだした。

 

「遅い、遅い!」


 クリスが膨れているけど、パットを置いてきたら後が怖いと思うんだけどなぁ。


「御免、御免。でもパットがこれを持って来てくれたよ」


 タブレットを出すとエディ達に笑みが浮かぶ。

 やはり画面は大きい方が良いと思ったようだ。クリスの操作するコントローラーの画面を後ろから見られるのはせいぜい2人が良いところだ。


 空港ビルに続く空中回廊の一角に、エディ達がハンタードローンを置く。

 後はクリスが操作するんだが……、背負っていたナップザックから取り出したのは、ゴーグルのようなヘッドディスプレイじゃないか?

 時代は進んでいるんだなぁ、と感心しているとどうやら設定を終えたようだ。


「あそこに椅子を持って来て。椅子の上にタブレットを乗せれば皆で見ることが出来るでしょう」


 パットの指示を受けて、ニックが直ぐに椅子を運んで来た。

 なるほど、これなら皆で見てられるな。


「何が始まるんだ?」


 オルバンさんが俺達の所に偵察にやってきた。

 理由を話すと、笑みを浮かべて俺達の後ろに座り込んだ。

 整備兵も何人か座ってるんだよなぁ。ゾンビがやって来てもジュリーさんがいるから倒してくれるんだろうけどね。


「何時でも行けるけど、サミーがガイドをしてくれるんでしょう?」


「俺?」


 クリスの言葉に思わず自分を指差してしまった。


「確かにサミーしか分からないんだよなぁ。クリス、こっちに来て座ってくれ」


 さすがに俺の隣には座らないんだよなぁ。エディの隣に座ったところで、「ドローンが飛ぶよ!」と大声を上げた。


「先ずは回廊を真っ直ぐだ!」


「了解。40分は飛べるから、それほど速度は出さないよ」


「十分だ。高度も丁度良い感じだな」


 床上5mほどの高さを、歩くほどのスピードで回廊を進んでいく。

 柵を越えて……、倒れているゾンビを眺めながらドローンが飛んでいく。


「空港ビルのホールに出たわ。真ん中が空いてるのね? ドーナツみたい」


 クリスの言葉に、俺のお腹が鳴ってしまった。

 途端に皆が噴き出すんだからねぇ。困った人達だ。


「サミー、ちょっと緊張感が足りないんじゃないのか?」


「クリスがドーナッツなって言うからだよ。ずっと食べてないんだぞ」


「はいはい、今度作ってあげるから……。次は?」


「右に回廊が伸びてるはずだ。少し高度を上げて、向かって欲しい。それと音声視認装置を作動してくれないかな」


「了解!」


 クリスの言葉と共に、ピンクのフィルターを通したような画像に変わった。

 

「凄いな。ハンタードローンは下向きに音を見ているはずなんだけど、これは斜めで見ているんだ。それでもちゃんと機能するんだからね」


「カメラの角度に合わせて収音器が動くの。この方が色々と便利でしょう」


「そうだね。さすがに当時はこんなことまで考えなかったからなぁ。七海さんが使っている偵察ドローンにも、この機能を付けときたいね」


 南に向かって進んでいるドローンの画像の中に赤が濃さを増していく。

 やがて1体のゾンビに赤く輝点が集束された。


「見つけたぞ……。あいつだ。今度は音声視認装置を切って、あのゾンビを拡大してくれないかな?」


「了解。とりあえず倍率は3倍よ」


 ゾンビがはっきりと映しだされた。顔まではっきりと見える。ゾンビになる前はかなりのイケメンだったに違いない。

 さて、他のゾンビと比べて違いを見てみるか……。


「サミー、あのゾンビ……棍棒を持ってるぞ!」


「んっ? ……持ってるね。戦士型と言うことかな。クリス画像はメモリーに落としているんだろう?」


「もちろん! エディ、それだけじゃないみたい。あのゾンビちょっとおかしいわ」


 クリスも気が付いたみたいだな。

 他のゾンビが傍にいるから、たまにしか見えないんだが腕が1本余計だ。


 成人男子、年代は30歳代と言うところだろう。ウイル小父さんのように体がガッチリとしているが、兵士とは異なるようだ。ジム通いでもしていたんだろうな。アメリカ人はスーパーマン指向だからねぇ……。

 シャツの右腹部分が裂けて黒く汚れているのは血の跡かもしれない。肩付近にまで避けたシャツから伸びているのは……、触腕ってことか?


「クリス、もういいよ。俺の確認は完了した。ついでだから北の回廊と奥に伸びる回廊も確認してくれると助かる」


「まだバッテリーの余裕は十分よ。でも、目的が達成できたなら、さっさと終わりにさせるわ」


 後はクリスに任せておこう。

 ガイドは隣のエディがしてくれるはずだ。

 それよりも、先程の画像の方が気なってしょうがない。

 疑問は2つかな?

 1つは、ペンデルトンで確認した戦士型ゾンビは触腕なんて持っていなかったが、先程のゾンビはそれを持っていた。

 2つ目は、ペンデルトンではなぜ戦士型のゾンビの持つ声を確認できなかったのだろう。あれ程特徴的なセミの声だからなぁ。聞き逃すなんて考えられないんだよね。


 戦士型にはこの2つの疑問があることをオリーさんに伝えておこう。画像も一緒に送れば、偉い人達がその原因や理由を考えてくれるに違いない。


 少し離れた場所で一服していると、エディが俺を呼ぶ声がした。目を閉じていたから分からなかったけど、どうやらドローンを回収したみたいだな。


「ウイル小父さんが驚くんじゃないか? 早く見せてあげようよ」


 嬉しそうに、ドローンをニックと一緒に持って行ってしまった。

 クリス達もその後についていくんだけど、俺を忘れていないか?

 困った連中だと思いながらも、腰を上げて後を追うことにした。

 

 ウイル小父さんが軍曹を集めると、再度状況説明をするよう俺に頼んできた。

 俺達の小隊長なんだから、頼み込むよりも指示をしてくれた方が、周りから奇異な目で見られずに済むと思うんだけどなぁ。

 クリスがドローンで撮影した映像を見せながら、戦士型ゾンビについて知っていることを話したのだが、やはり皆の疑問は3つ目の腕に見える触腕だよなぁ。


「俺もここで初めて見て驚きました。ペンデルトンでは確認できませんでしたからね。どのような機能があるのかまるで分かりません。他のゾンビ同様に頭に穴を開ければ良いと思っていたんですが、両胸にも銃弾を撃ち込んだ方が良さそうです。それと、あの特徴的な触腕ですけど、どれほど伸びるかが分かりません。離れた位置からし止めてください」


「了解だ。だが、あの戦士型はサミー達に頼もう。オリーがサンプルを欲しがりそうだからなぁ」


 確かにそうだよなぁ。

 あちこちの体組織をサンプリングしないと、お代わりをされかねない。

 グランビーからサンプルが取れる道具と保冷容器を運んで貰わないといけないな。



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