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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-144 拠点はホテルの事務所


 エントランスからの動線を一通り調べたところで、ウイル小父さんが軍曹達を集めた。

 兵士達がゾンビを片付けているけど、どうやら外でまとめて燃やすようだな。

 あれだけ大きな音を立てたんだが、エントランスやプラットフォームに向かって来たゾンビの数は10体にも満たなかったらしい。事前に使ったジャックが効果的だったのだろう。


「正面のカウンターはこのビルの案内所みたいだな。奥の事務所もそれほど大きくないし、事務所内にあったもう1つの扉は中央回廊だったからなぁ」


「ホテルのカウンター奥の事務所は、さらに奥に続いていた。どちらの事務所も中央回廊に出入り口はあったんだが、さらに別の回廊に繋がる扉もあったぞ。この上階にあるレストランなどの裏部屋に繋がるようだな。

 ホテルの事務所を仮の拠点とすれば、アクセスできる回廊が増えることになる。ゾンビが押し寄せて来ても、裏手から脱出できそうだ」


「拠点はホテル事務所か……。駅のプラットフォームに近いのも利点だな。そうなると荷物運びは早くした方が良いんじゃないか?」


 海兵隊2個分隊で無蓋貨車に搭載してきた荷物を移動することになった。


「今夜グランビーに戻り、次の部隊を運んで来ねばならん。拠点の防衛はオルバン軍曹とマック軍曹に任せたい。サミーが一緒だし、パット達がドローンを使える。とはいえ、回廊とエントランスの自動ドア付近にはクレイモアを仕掛けておいた方が良いだろうな」


 うんうんとオルバンさんが頷いているから任せておけば安心だな。


「遅くとも明後日には戻るつもりだ。デンバーの住宅街を通過するからなぁ。1個分隊を客車に乗せていくよ」


「偵察は可能な範囲で行いますが、この建屋からは出ないようにします。それほど心配はないでしょう」


「そうしてくれ。サミーの話では、近くにはいないようだが、このビル全体ではかなりの数がいるようだ」


 ウイル小父さん達がグランビーへと帰っていく。

 見送りをしたところで、ゾンビの襲撃に備えて簡単な柵を作る。

 柵と言っても、ソファーや椅子、机等を積み上げただけだけどゾンビは階段が苦手だからね。これで足止めできるんじゃないかな。

 マック軍曹の分隊が柵の向こう側にクレイモアを仕掛けているから、柵を越える時には注意しないといけない。


 俺達がそんな事をしている間に、パット達が昼食のレーションを温めてくれた。

 19時過ぎに夕食を取り、男性ばり4つのグループを作る。

 夜の監視はこのグループで2時間交代で行うとのことだ。


「先ずはオルバンさん達だな。その後は、ロジャーさんで俺達は3番目だ。……夜中の1時からになる。このまま起きているか。明日はのんびりできそうだからね」


 ニックの言葉に俺達が頷き、パット達が持参したモノポリーを楽しむことにした。


 たまに当番の人達に変わって、監視の手伝いをする。

 エントランスの中心で一服するだけでも、周辺の状況を見る事出来るからね。

 ゾンビの声にも変化が無い。このビルには統率型はいないようだな。


 真夜中になる前に、パット達が寝袋に潜り込む。

 残った俺達は、コーヒーを飲みながら世間話に興じることにした。

 話題は子の空港からゾンビを掃討して、他の部隊に引き渡した後についてだ。


「案外、西海岸に戻るんじゃないかな? ペンデルトン基地を足掛かりに他の基地の偵察辺りがこれからの仕事になるんじゃないかな」


「東海岸ということも考えられるぞ。あっちには陸軍基地が多いんだ。西に向かって新たな開拓時代が始まるんじゃないかな。その為にも陸軍基地の装甲車は魅力があると思うよ」


 エディの言う通り東海岸も気になるんだよなぁ。ウイル小父さん達は本来なら山小屋に集まるはずの仲間の状況も気になっているはずだ。

 山小屋の維持はライルお爺さん達に任せて、山小屋から連絡のついた友人達を改めて集めることも考えられる。


「この間、地図で調べたんだけど、アメリカ大陸を鉄道で横断するにはやはりシカゴがネックになるんだ。ポイントを溶接してしまったからなぁ……。改めてポイントを作ることになるんじゃないか?」


「それもあったなぁ。工兵の人達が笑みを浮かべて溶接してたんだよなぁ。あれは絶対、後の事など考えていなかったに違いない」


 俺の話に、ニックが話を繋いでくれた。

 大量の物資輸送は、やはり鉄道に頼ることになるだろう。

 高速道路も使えそうだけど、未だに道路にはゾンビがいるからね。道路に停車している車を排除しながらゾンビを倒すことになりそうだ。


 ロジャーさんから監視を引き継いで、3人で回廊とエントランスホールを巡る。

 一回りしたところでエントランスのカウンターに腰を下ろし、正面の破壊された自動ドアを眺める。

 ここなら、プラットフォーム側から来るゾンビも監視できるし、左右の回廊も一部ではあるけど見ることが出来る。唯一出来ないのは奥に続く回廊だ。

 たまにゾンビの声を聴けば、遅れを取ることは無いだろう。

 ガスストーブでお湯を沸かし、シェラカップにインスタントコーヒーを淹れて飲む。

 昔、どこかでこうやって飲んでいたっけ……。

 ニック達とは4年以上の付き合いなんだが、昔から一緒に遊んでいたような気分になるなぁ。


「さて、一回りしてくるか。ゾンビの声は、相変わらず遠いんだろう?」


「ああ、少なくとも近くにはいないよ。だけど目で見て確認が基本だからね」


「ゾンビ相手にはそれで良いけど、車のギヤは止めとけよ」


 エディの忠告に頷きながら、カウンターから降りて歩きだす。時計周りで1周し、机を積み上げた柵の向こう側を確認していく。


 世間話をしながらの緩い監視だ。

 やはり、ゾンビは近付いてこないようだな……。

                ・

                ・

                ・

 翌日の昼過ぎに、ウイル小父さんから短波無線機に通信が入る。

 アンテナはエントランスの天井に下げられた照明器具に引っ掛けただけなんだけど、結構良く聞こえるな。

 通信内容をメモにして、オルバンさんに届ける。


「そういうことか……。第2陣を乗せて今夜出発するそうだ。到着は未明になりそうだな」


「増員規模は?」


「1個小隊だな。客車1両だからなぁ。中隊をウイル殿に預けるそうだが、グランビーの防衛もある。全員をこちらに送ることは出来ないだろう」


「最終的には、2個小隊に整備兵を2個分隊と言うところでしょうね。それに、列車の防衛も無しには出来ないでしょう」


「少なくとも倍以上にはなりそうだ。ゆっくりとゾンビを倒していくことになりそうだな」


 夕食時に、オルバンさんが、皆に明日の朝に増員を乗せた列車が来ることを伝えると、食事をしていた手を休めて歓声が上がる。

 2個分隊とちょっとだからなぁ。これでいよいよゾンビの掃討を始められそうだ。


 夕食が終わると、パット達と一緒にカードゲームを始めた。

 まだ監視の当番まで2時間はあるから丁度良い暇つぶしになる。

 事務所のあちこちでそんな輪が広がっているのは仕方のないことだろう。


「ところで、ドローンで偵察してゾンビを見付けた?」


「事務所側の回廊の先は外に繋がってたわ。ロータリーの先に、駐車場があるから結構いたわよ。そうねぇ……数十はいたかしら。大きい回廊の先の広場にもいたわよ」


「いくつかに分けて対処することになりそうだなぁ。サミーはこのビルを担当することになるんじゃないか? 俺達は、はっきり見える場所ってことかな」


「レディさん達がペンデルトンに行ったから、私達が頑張らないといけないのよ。22時からきちんと監視をして欲しいわ」


「きちんとやってるさ。一服するときだって、全体を見渡せる場所を選んでいるぐらいだからね」


「ほんとうかしら?」


 パットが疑いの目で俺達を見ているんだけど、コーヒーポットを運んで俺達のカップに注いでくれたから少しは感謝してるんじゃないかな。


「だけど、朝方には到着するんだろう? 今のところ安全なのはこの事務所と奥の事務所に2つだけなんだよなぁ。1個小隊が来たなら手狭になるのは間違いないぞ」


「明日中に1階のゾンビを措置すれば何とかなるんじゃないかな。この事務所に近い3部屋は確保したいところだね。その上で、今回廊に並べている柵を移動しないといけない。そっちも面倒だと思うな」


適当に積み上げてあるからなぁ。移動するのに苦労しそうだ。


「だけど昨夜もそうだったけど、今夜も結構静かだよなぁ。サミーの話では上階にはたくさんいるようだけど、空港の周囲にはそれほどいないということなのかな?」


「駐車場に車が沢山あったからなぁ。逃げ遅れた人達は大勢いたはずだ。ジャックを2回仕掛けて入るけど、あれで全滅したとも思えない。線路伝いに来ないのは、たまたまだと思うんだけどね。それに来るとしたなら南の回廊……」


 突然の銃声で話を止めると、M4カービンを掴んで事務所からエントランスホールに出る扉から飛び出した。エントランスにいた3人が南の回廊に向かって銃を構えている。


「やってきたんだ! 2体だったからとりあえず倒せたが……、建屋内はサプレッサーを付けても銃声が響くなぁ」


「驚きましたよ。でも後が来ないなら安心です。もう直ぐ後退の時間ですからこのまま俺達が監視を引き継ぎます」


 エディの言葉に、3人が笑みを浮かべる。

 ハイタッチをして監視を後退したところで、先ずは3つの回廊を一巡り。

 ゾンビが現れたという南の回廊も、今のところは問題は無いようだ。


「ニックがあんなことをいうからだぞ。あれはフラグだからな」


「そうそう、『静かだ……』なんて主役が言う時に限って、敵が襲ってくるんだよなぁ」


「別にフラグを立てようなんて思ってなかったんだけどなぁ」


 3人で顔を見合わせて大笑い。こんな会話が出来るんだから友人は良いものだ。

 ゾンビを確実にし止めたんだろうかと、恐る恐る柵の向こう側を覗いたら、顔の原型が分からないほど銃弾を浴びていた。

 これなら問題ないけど、ちょっとグロイな。

 パット達が見ない内に始末しておかないといけないだろう。

 でも片付けるのは明るくなってからだ。とりあえずエントランスからは見えないから、気にしなくても良さそうだ。


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