H-141 デンバー空港駅に着いた
5月1日。いよいよデンバー空港へとトロッコを進めることになった。
ストライカー装甲車が牽引するのは客車と無蓋貨物車が1両ずつになる。今までの実績から予備の機関車は必要ないとのことだった。
ストライカーにはライルお爺さん夫妻とエディとニックがクリス達と伴に乗り込んでいる。
ストライカーからドローンの制御も出来るようだから、七海さん達が帰ってきたら一緒に乗りこむに違いない。
中隊から派遣されてきた2個分隊の兵士は客車に乗り込んでいるし、予備の装備品や俺のバイクは無蓋貨車に積み込んである。
「これで準備は出来たかな。マック軍曹、よろしく頼むぞ」
「こちらこそ、デンバー空港1番乗りですからね。仲間達から羨ましがられて困りました。とはいえ、結構な荷物ですね」
「場合によっては、拠点を構えるつもりだからな。たっぷりと搭載したよ。とはいえ、空港のビル次第でもある。その辺りは向こうで再度皆で相談したい。それでは乗り込むか!」
客車の外で、状況を見ていたウイル小父さんがマックさんと一緒に客車の乗り込んできた。
中隊長まで見送りに来てくれたみたいだな。
ゆっくりと動き出した俺達にいつまでも手を振ってくれている。
窓から顔を出して俺達も手を振っているからだろうけど、互いに見えなくなるまで手を振り続けるに違いない。
やがてグランビーの駅が見えなくなる。
今度は周囲の連中と談笑する声で、結構賑やかだ。
列車で移動するなどめったにないのかもしれないな。まるで修学旅行に出発する雰囲気なんだよねぇ。
「サミー、クッキー食べる?」
ジュリーさんが、隣の席からやってきてクッキーを渡してくれた。
他の連中も、仲間達とお菓子を食べたり、コーヒーを飲んだりしている。さすがに酒は飲んでいないだろうけどね。
「なんとも、騒がしいですな。お恥ずかしい限りです」
「それだけデンバー空港に向かえるということが楽しみなんだろうなぁ。俺だってそうだ。ここまで3年掛かっている。今年はグランドジャンクションも空港までの道が何とかなるんじゃないのか?」
「そうしたいですねえ。統率型ゾンビを何体か倒したそうです。少しは安心できますが、空港までの道があまり良くないということでした」
町中を進むより、町の外側の道を選んだらしい。町を迂回するような道だからあまり車通りも内容で道路の整備が今一だったということかな。
だけどゾンビが何時飛び出してくるか分からない町中を走るよりは、かなり安全に違いない。
先ずは空港までの道を作り、ゆっくりと町のゾンビを駆逐することになりそうだ。
「空港まで行けるようになれば、今度はソルトレイクです。少しずつですが我等の生存圏が広がっています」
「兵站基地まではさらに2年は掛かりそうだな。東部の連中は兵器工場を何とかしたいと考えているようだ」
「それもありますね。現在の銃弾や砲弾はあちこちの基地からかき集めているようなものですからねぇ。これが尽きる前に兵站基地、兵站基地の資材が尽きる前に兵器工場ということになるんでしょうな」
なんか先が長そうだな。
銃弾ぐらいは簡単に作れるんじゃないかと思っていたけど、ライルお爺さんの話ではそうではないらしい。
品質に偏りが出来ないようにするためには、かなり大きな工場が必要だと教えてくれた。
「自動車だってそうだ。自動車工場はある意味組み立てだけを行っているようなものだからなぁ。部品工場の種類はかなり多いと聞いたことがあるぞ」
「航空機は自動車以上ですよ。双発エンジンの小型機ぐらいなら整備兵達が手作りしてくれるかもしれませんが、ヘリやジェット機は無理でしょう。戦闘機を作れるようになるのは次の世代でも無理かもしれませんな」
最新技術の結晶ということなんだろう。だけどしばらくは戦闘機はいらないだろうな。敵対するような国があるとも思えない。
それに、核技術もしばらくは封印されるだろう。核爆弾は定期的なメンテナンスを行わないと使い物にならないらしい。それは安心できることではあるんだが、発電用の原子炉はどうなるんだろう。停止中とは言え、核燃料は崩壊熱を出すということだからなぁ。冷却水が無くなったら、メルトダウンを引き起こしそうだ。
さすがに水素爆発は起こらないように日本での事故後に改良を行ったらしいけど、メルトダウンの状況次第では長く人間が立ち入ることが出来なくなりそうだ。
急に客車が暗くなって、天井灯が点く。
トンネルに入ったらしい。いつの間にか騒ぎが少し治まって来た感じだな。
だけどデンバーの街並みが見えたら、再び始まりそうだ。
「結構な速度が出ているようですね」
「それだけストライカーの馬力があるんだろう。転覆するようでは困るが、かつて走っていた列車はこれよりも速度を出していたらしいぞ」
自足60kmは出していないだろうけど、それに近い速度で走っているようだ。ハンヴィーよりもかなり速い。
デンバーまで2時間というところかもしれないな。
さすがに大曲では速度を落としたようだ。
大きく回りながら高度を落とすから、客車の窓に皆が群がっている。遠くにデンバーの町が見えるからもあるんだろうけど、片側により過ぎると転倒しそうな感じがするんだよなぁ。
再び皆が席に着くまで、冷や汗が浮かび通しだった。
「東には雪がありませんね。これがデンバーですか……」
「デンバーを取り巻く住宅街だ。線路近くは廃墟にしてしまったが、それは仕方がないところだな。デンバーの中心街はこの辺りから10kmほど南になる。偵察機の写真は見たことがあるだろう?」
「核を使ってあの通りですからなぁ。爆弾の跡もかなりありました。それでも偵察機の写真にはゾンビが映っているんですから驚きです」
「この戦は人間相手とは異なる戦だということが良く分かったよ。サミー達の世代に苦労を掛けてしまいそうだ」
体が半分に千切れても、上半身が腕の力だけで移動してくるんだからなぁ。
今のところ有効な倒し方は頭を破壊することだけだ。
ジャックのような兵器を作ってはいるけど、それでも集まって来たゾンビの3割程度を倒すことが出来るだけだからねぇ。
繰り返して仕掛けることで数を減らして入るんだけど、デンバーのような大都市ともなると別の方法を考えなくてはならないだろう。
出発したのが9時少し前だった。今は12時を少し過ぎている。
昼食はビスケットにコーヒーだったから、休憩を取らずにこのまま先に向かうんだろう。
昼食時の休憩に良く利用した無人駅を通り過ぎたからね。
13時半を過ぎると、少しずつ左右の住宅がまばらになって来た。今は東に向かって進んでいるが、このさきひだりに曲がる筈だ。そのまままっすぐ北に進めば終点のデンバー空港になる。
荒野の真ん中で列車が止まる。
ウイル伯父さんがトランシーバーでストライカーと話をしながら、壁に取り付けられたモニターのスイッチを入れた。
どうやらドローンによる先行偵察を行うみたいだな。
ドローンが映し出す映像を見ようと皆が群がって来た。
「線路に異常は無いようだな。あれが空港か……」
「周辺にもゾンビがいるようですね。これが新たに作った複合ビルと言う奴でしょう。駅と合体しているようです。プラットフォームの一部が見えてますが、やはりゾンビがいますね」
『このまま線路伝いにあの建屋内部に入れないか? 制御途絶が起こりそうなら、無理はしないで良いぞ』
さらにドローンが進んでいく。
ガクンと連結器を鳴らして、俺達を乗せた列車もゆっくりと空港に向けて動き出した。
複合ビルの直ぐ傍で再び列車が止まる。
ウイル伯父さんが軍曹に、近寄ってくるゾンビを倒すよう指示を出した。
数名が客車の屋根に上がって、狙撃準備を始めたようだ。ストライカーでもエディ達がM4カービンを手に屋根に乗っているんじゃないかな。
ドローンが終点のプラットフォームの映像を映し出している。
数十を超えるゾンビがいるようだが線路上にはいないようだな。
「やはりたくさんいるようだな。空港ビルの手前あたりか……。どうする。この数なら、何とか出来そうに思えるんだが?」
「リトルジャックを使ってみるか。室内専用らしいがクレイモアだからなぁ。半数を倒せるだけでも突入が楽になるだろう」
次はリトルジャックか……。
一旦ドローンが引き返してくると、今度は搬送用ドローンが駅に向かって飛んで行った。
タイマー設定は30分ほどらしい。
その間はちょっと暇になりそうだ。コーヒーを頂いて、ジュリーさんに断わりながら一服を楽しむことにした。
「線路近くのゾンビは、狙撃して倒している。リトルジャックが炸裂したら、状況確認に向かってくれないか?」
「あのビル近くで状況を確認します。ビル内部には入りませんが、エントランス近くで中を探ってきましょう」
「十分だ。一緒に行くのは……」
「私達です!」
ジュリーさん達が名乗りを上げる。一緒に偵察をしてきたからね。これで5人だ。
ウイル小父さんが少し首を捻っていたが、1つ後ろの席に声を掛けた。
「ベントン、同行を頼めるか?」
「ああ、良いぞ。2人を連れて行く」
都合7人ということになる。エディ達が悔しがりそうだけど、何時でも後退できるように準備していないといけないだろう。
装備を調えて、何時でも出発できるようにしておく。
俺達はM4カービンだけど、ベントンさん達はM16を使うようだ。銃身が長いから命中率は良いということなんだけど、なぜか海兵隊はM4カービンにシフトしているんだよなぁ。
集音装置が取り付けられたヘルメットをかぶり、ゴーグルをつける。
トランシーバーの電源を入れて、ハンドセットを付けた上にヘッドホンを付ける。レシーバー部分が外に開くから、けっこう便利に使えるんだよなぁ。銃撃時には耳栓代わりにもなるからね。
ドォン! と鈍い音が聞こえた。
「出るよ!」
最初に俺がプラットフォームに降り立って周囲を素早く見渡す。
ゾンビはいるけど、かなり遠いな。
乗車口に待機しているベントンさんにゴーサインを出すと、次々と皆が降りて来た。
俺とベントンさんが先を歩き、左右をジュリーさん達が俺達の後ろで確認する。最後尾のテリーさん達は後方の確認だ。
ゆっくりと駅と合体した大きなホテルへと足を運ぶ。
銃にはサプレッサーが付いている。サーチ・アンド・デストロイでエントランスへ向かえば良いだろう。




