H-133 戦士型ゾンビと名を付けたらしい
ちょっとした騒ぎになってしまったけど、俺達の所属は現状通りということになった。
とはいえ、100体を越える建屋については、突入時に同席することになったのは致し方の無いことだろう。
「まだまだ数字の付いていない建屋が多いですね。これは今後、追加されるということですか?」
「彼に片端から確認して貰うつもりだ。ところで大佐殿。サミー伍長が春にはロッキーに戻るような話をしていたと部下から聞いたのですが?」
オーベル大尉の言葉に、大佐が溜息を吐く。
「とりあえず戻さんといかんだろうな。統合作戦本部からウイル少尉に下された指令もある。彼はウイル少尉の部下であることに変わりはない。現在はウイル少尉達が雪に閉ざされていることから、作戦遂行が出来ない状況でもある。そこで此方に来て貰ったのが真相なんだ」
「大佐の権限で移動させるのは容易に思えるのですが?」
「大統領の署名入りの命令書だ。ワシでは覆せんよ。それにそんなことをしたなら、直ぐに統合作戦本部が彼を東海岸に移動させるに違いない」
「作戦遂行が出来ないなら、所属をそのままにしてこちらに常駐しても良いように思えるのですが?」
「それは無理だな。彼らの目的はデンバー空港までの道を作ること。すでに9割方それが終わっているんだからかなり優秀だよ。デンバー空港が使えるなら、東との中継点として活用できる。空港建屋の掃討を行うともなれば、サミー伍長は欠かせない人材となるだろう」
ウイル小父さん達の事だから、雪に閉ざされてもあの焚火に座って皆で作戦を練っているの違いない……。ダメだ。どうしてもバーボンを飲んでいる光景しか目に浮かんでこない。
ちゃんと計画を立てているんだろうか? ちょっと心配になってきた。
「そうそう、忘れん内に渡しておくぞ。研究所からのメールだ。まだここで連絡が取れないからな。指揮艦で傍受したメールをプリントしてきたよ」
封書に入っているようだけど、中身は読んだんだろうな。
後でゆっくり読むとしても、概要だけは確認しておこう……。
「どうした? 急に真顔になって……」
「これは皆さんにもお知らせすべきでしょう。私信部分もありますが、この研修建屋にいた統率型ゾンビと、未確認ではありますが武器を持ったゾンビのサンプルを研究所に送って頂きました。その分析結果が掛かれています……」
統率型ゾンビについては推定通り、頭蓋骨、左右の胸部から採取したメデューサは同一形態である。このことから、統率型ゾンビは他のゾンビと比べてかなりの知能を持っていることが推察できる。
武器を使える可能性のあるゾンビ、これを戦士型ゾンビと呼称する。戦士ゾンビのメデューサの個体の大きさは従来のゾンビの十分の一以下。現在DNAの変化について調査中だが、知能の向上が予想される。武器を使う事を覚えるのは時間の問題と推測可能……。
「状況確認しか出来なかったが、別の視点から信憑性が上がったということか……」
「武器を持っていただと? それは初耳だが」
「実は……」
少尉が大佐に説明してくれたけど、結構厳しい表情で少尉に視線を向けているんだよなぁ。
「彼は、大統領直下の研究施設の研究員でもある。東の連中が欲しがるのはその推測能力もあるのだ。彼の推測は、推測だと明言した上で私にも伝えて欲しい。……それで、サミー伍長。これからのゾンビ戦に変化は生じるのだろうか?」
「生じると考えた方がよろしいかと。とはいえゾンビが銃を持つということにはならないでしょう。鈍器を振りかざして襲ってくるのではないでしょうか?」
「まるでズールー戦だな。イギリスはかなり苦戦したらしいぞ。いや、イギリスの連中のほうがましかもしれん。相手が人間なら銃撃で倒せるだろうが、此方は頭に穴を開けん限りは倒せんのだからな……。ん? どうした。他にもあるのか」
俺の表情を見たんだろうな。ちょっと失敗したと考えていたところだった。
「失敗しました……。脳内のサンプルだけを採ったんですが、筋肉組織も採取すべきだったと……」
「ゾンビは我等よりも力があるのは誰もが知っているはずだが?」
「そうです。俺が心配だったのはその筋肉と言うか筋肉に相当するメデューサ組織なんですが、反応速度の変化についてです」
「走れるということか!」
「走れるだけではありません。場合によっては動きが良くなっている可能性があります。あの時はスタングレネードを使ったので分かりませんでした」
「それは可能性だけだな? 確度の高い推測では無いんだな?」
絞り出すような大佐の声に、「前者です」と答える。
俺の言葉に深いため息を漏らしているんだよなぁ。幸せがどんどん逃げていきそうだ。
「当然対処方法について考えたのだろう?」
レディさんの問いに小さく頷く。
その途端に皆の視線が俺に向けられた。
「対策と言えるかどうか……。鉄パイプや棍棒のようなものを持ったゾンビを優先的に狙撃すれば良いと思っています。現状では戦士型ゾンビの個体数はそれほど多いとも思えません」
「頭蓋骨が固いというわけではないんだな? 要するに近付かなければ良いということだから現状とあまり変わらんな。だが優先順位は理解したぞ。統率型が最優先で次が戦士型、最後が通常型のゾンビということになる」
「統率型と違って、武器を持つというのが分かりやすい。目撃したなら記録を取っておこう。他の仲間にも教えられるからな」
「そうしてくれ。本部には私から伝えよう。それにしても現場でないと分からんことが色々とあるものだな」
「大佐殿。出来ればこの基地から研究所に連絡する手段を作って頂けるとありがたいのですが」
俺の注文に、ロバートさんが笑みを浮かべる。
どうやら、次の便でやって来る整備兵と通信兵が基地の通信機能を復旧してくれるらしい。
海兵隊の人達は軍艦暮らしではなく地上で暮らしたいらしい。
その点この基地は大きいし、何といっても海軍基地とそれほど距離が離れていないからね。この基地に海兵隊の拠点が映されるのは時間の問題なのかもしれない。
「さて、それでは失礼するよ。やはり海兵隊が一番だな。他の軍と一緒ではどうしてもストレスが溜まってしまう。そうそう、これはあまり知られていない情報だ。ゾンビ掃討過程で考慮して欲しい」
ポケットから数枚の文書を取り出して中隊長と小隊長に手渡している。
後で教えて貰えそうだな。ちらっと読んだだけで驚いているからね。
大佐が席を立ったところで俺達も席を立ち互いに敬礼をして大佐を送り出す。
これで終わりかな?
席に着くと、中隊長が奥にいた女性兵士を手招きしてコーヒーを頼んでいる。
改めて明日からの予定を此処で話し合うということなんだろう。
「それにしても驚いた。これほど物資がこの基地にあるとはね」
「確かに実弾訓練やヘリの訓練もしていましたから、それなりの量は用意してあったのでしょうが、これは大型補給船数隻分にもなりますよ」
「燃料備蓄も空軍並みじゃないか。まぁオスプレイの燃費が悪いってこともあるんだろうけどなぁ。今の司令官の代だけでは出来るものではない。かなり前からため込んでいたんじゃないか」
「ゾンビ騒動が無かったなら、何の為に準備していたのでしょう?」
レディさんの素朴な問いに、中隊長が俺達に顔を向ける。
「東ヨーロッパ、もしくは東南アジアと言うことなんだろう。俺達は精鋭を自負しているが、それは兵站があってのことだ。継戦能力はすなわち兵站能力でもある。途絶えたなら敗走が始まりかねない」
俺が平和ボケしているだけなのかもしれないけど、考える人は考えているんだろうな。実際にそれを準備していたんだからね。
「これを俺達に渡したということは……、他の軍には知らせていないということなんだろう。これは武装偵察隊に頼むしかなさそうだ」
「了解しました。それにしても良くも隠蔽したものですね。射撃場の地下に弾薬庫があるなんて誰も思いませんよ」
「1つ、問題があるぞ。さすがに弾薬庫の中でゾンビを銃撃するのはまずい。外におびき出して倒してくれ」
ん? 似たような話を聞いたことがあるな。
あれは海軍の倉庫だったか。
何が入っているか分かないと言うことだったんだよなぁ。さすがに海兵隊中まで弱装弾を使わせようなんてことはしないだろうし、数が少ないなら最初から鉄パイプで相手をしよう。
「1つ確認してもよろしいでしょうか?」
「サミー伍長は大佐殿もだいぶかっているからなぁ。今の話で何か気になることがあるのか?」
「はい。先ほどから話を聞いてるのですが、それらの資材を補完している倉庫はどれほどの大きさなんでしょうか? それともう1つ。その倉庫の出入りは制限されていたのかどうか……」
俺の問いに部屋に残った数人ほどが、互いにか尾を見合わせながら首を捻っている。
分からないということが良く分かった。
「それを確認するということは、ゾンビがいた場合の推定数と言うことになるのか……。大佐殿は、あまり表に出したくない様子だった。俺達がこの基地で暮らしたのは1度や2度ではないんだが、射撃場の下に倉庫があるとは今日初めて知ったぐらいだからなぁ」
「行ってみないと分からないというのが答えになりそうだ。それで十分かな?」
「はい。ゾンビの数は少ないと推定できました。十分です。5体以下なら銃を使わずに倒せます」
俺の言葉に、ロバートさんがジロリとワトソンさんに視線を向ける。
「1度だけ見ましたが、私達と白兵戦の仕方が異なるようです。レディ軍曹達の仲間も銃を使わずにだいぶゾンビを倒していると聞いております……。なるほど……、レディ殿達にこれを任せるということでしょうか?」
「我等は銃を使いたくなるからなぁ。ゾンビが飛び出してきたなら、迷うことなく乱射してしまいそうだ。レディ軍曹、頼めるかね?」
「了解しました。ですが、まだ建屋内のゾンビの推定が出来ていないものがかなりあります。そちらも継続するということで、倉庫の確認は時間が掛かると思いますが」
中隊長と小隊長が同じように笑みを浮かべているのは、大きな間違いを起こさずに済むという安心感なのかもしれない。
そうなると、俺達が苦労することになるんだよなぁ。
どんな形で進めるのか、帰ったら皆で考えることになりそうだ。




