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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-132 中隊長への状況報告だと思ったら大佐がいた


 そもそもペンデルトン基地が大きすぎて、全体を把握するのが俺には難しいんだよなぁ。

 エディ達はそんなんものだと納得しているんだけど、道路際にあるフェンスが基地の境界を示すものではないらしい。

 それなら、道路に警備所ぐらいあるのかと思ったら、全ての道路にあるわけでもないらしい。それぐらい大きいんだと言われてしまえばそれまでだけど、一般人が紛れ込むことは無いんだろうか?

 実弾を使った射撃場だけでも片手では足りないぐらいだし、大砲を撃つ射撃場所もあるみたいだ。

 大きな道路にはこの先に基地があると書かれているし、地図にもしっかりと基地の範囲を図示している以上、基地内に紛れ込んだ一般人が被害に会っても自己責任ということなんだろう。

 パトロールはしているみたいだけど、もし基地内で捕まったらどうなるんだろう? 

 罰金だけでは済まされない気もするんだよなぁ……。


 そんな基地に降り立って5日目を過ぎると、飛行場の南東部のバンデグリフトと呼ばれる通りの内側の建物についてはゾンビを掃討することが出来た。

 飛行場から北にはいくつもの建物や小さな町が点在しているし、バンデグリフト通りに沿って伸びている関連施設はかなりの広がりを持っている。

 先ずは、ここまでを一区切りとするようだ。

 残った施設からゾンビを掃討するには、何より戦力が足りない。

 少なくとも2個中隊は欲しくなる。


「ここで一休みと言うことですか?」


「さすがにこの先を進めるとなれば、戦力不足が表面化してしまいそうだ。現在進行中のコロナド島奪回作戦の終わりが見えて来たらしい。3日ほどの休暇を与えて、1個中隊をペンデルトンに派遣するそうだ」


「交代ということですか。最後まで行いたかったものですな」


「交代というよりは、本来の仕事に戻るということになるのだろう。ペンデルトンには施設が点在している。そんな施設は我等が担当することになるだろう。それにいくつかの道路が基地外に通じていることも確かだ。それらに監視装置を取り付けて、新たなゾンビの侵入を阻止しなければならん」


「あの研修施設が集合した小さな町は、中隊の連中に任せられるということですか?」


「その方が助かるだろう? 個別建屋なら我等の仕事だろうが、それが集合しているとなれば我等の仕事は威力偵察ぐらいなものだ。それに、それぐらいの事ならドローンでジャックを運べば十分だ。

 ということで、周囲の警戒を分隊単位で行うことにすれば3日間ここでのんびりできるぞ」


 小隊長の言葉に、軍曹達から笑みが零れる。

 緊張し通しだっただろうからねぇ。ちょっとした息抜きは必要に違いない。


「とはいえ、酒はほどほどにしてほしい。サミー伍長の話では、遠くにゾンビが沢山いることは確かなようだ」


「了解です。非番ならカップ1杯を大目に見ると伝えましょう」


 何をカップ1杯なのかは言わないようだ。

 多分、ウイスキーかブランディ―辺りだろうな。絶対ワインではないことは確かだ。


「レディ軍曹達もしばらくは此処にいて欲しいそうだ。海軍から協力依頼が来たらしいけど、上が断ったそうだよ。ミラマー海軍基地の方は陸軍のレンジャーが活躍しているようだが、犠牲者も出ているようだ。まだ滑走路周辺の建物を4つ程奪還したに過ぎないらしい」


「我々が順調すぎると?」


「そう思われたくないということなんだろうな。同じ軍なら問題も無いんだろうけどね。他の軍が一緒だから上の方も苦労してるみたいだな」


 例の件がある以上、海兵隊は海軍に俺達を派遣することは無いんじゃないかな。もしあるとなれば、かなりの代価を支払うことになりかねない。上級仕官になればなるほど名誉を重んじるらしいからね。

 海軍からの協力打診も、あの一件を知らない人物からなんだろうな。

 だけど、あの落とし前を海軍はどうやって清算するつもりなんだろう。艦を沈めるような話をしていたけど、まさかそこまではしないだろう。せっかく生き残った貴重な軍人でもある。ちょっとカルトに染まってはいるようだけど、俺達に実害が無かったんだからあまり無茶なことはしないと思うんだけどなぁ……。

                ・

                ・

                ・

 1個中隊が新たにペンデルトン基地にやって来たのは、小隊長から話を聞いて5日目の事だった。

 新たにやって来た海兵隊の中隊長は大尉だから、ワトソン少尉が管制建屋を明け渡そうとしたら、研修建屋に入ることにしたそうだ。

 200人近い大所帯だからねぇ。管制建屋に全員を収容しきれないからだろう。

 俺達が中を確認し終えた建屋とまだ確認は終えていないけど中のゾンビの概数を記載した地図を持ってワトソンさんが副官のボルトンさんと一緒に研修建屋に出掛けて行った。

 今日中には明日からの俺達の仕事がはっきりと見えて来るに違いない。

 武装偵察部隊の2個分隊がハンヴィーに乗って基地外に繋がる道路に警報装置と監視装置を取り付けに出掛けて行った。

 手伝おうと申し出たんだけど、のんびりしていると言われてしまったんだよなぁ。

 手持無沙汰だから、朝からエディ達と銃の手入れをしているんだが……。


「冬の山小屋は退屈だと思ったけど、こっちの方が退屈だとは思わなかったよ」


「サウナが懐かしいね。3日前からシャワーが使えるようになったけど、やはりサウナが一番だ」


「皆どうしてるんだろう……、来月はクリスマスだろうから準備を始めてるのかな?」


 今年は誰がモミの木を採りに出掛けるのか。ケーキは去年と同じく競作になるのか……。

 しばらくそんな話で盛り上がる。

 銃を組み上げて、ストーブの上に置いてあるポットからコーヒーをシェラカップに注ぐ。

 タバコを取り出し、コーヒーが冷めるまで先ずは一服だ。


「ん? あれは双発機の音だな」


「島の飛行場も使えるようになったから、燃費の悪いヘリは使われなくなるんじゃないかな?」


「そうだろうけど、小型双発機は2個個分隊を運べないからなぁ。それに搭載貨物だって1tぐらいじゃないのか?」


 リトルジャックを運んで来たのかな? 1台15kg程らしいから20個でも300㎏だからね。

 サンディエゴの海軍基地の方にも使われるんだろうけど、当座は海軍基地を囲む住宅や商業施設のゾンビの数を減らすためにジャックを使い続けるだろう。


「誰かやって来たみたいだね。状況視察と言う奴かな? 荷下ろしはそれほどでもなさそうだ。バギーで運ぶ荷台2個分ほどだよ」


「誰が来たんだろう? この建屋に来るのかな」


「いや、ハンヴィーが1台停まっていた。研修建屋に案内するんじゃないかな」


 ここに来なければ関係ないという顔をして、ニックがだいぶ温くなったコーヒーを飲み始めた。

 席を立ってポットを持ってくると皆のカップに注いであげる。

 温いコーヒーが好きな人もいるようだけど、限度があるだろうからね。


 滑走路へランニングに出掛けたマリアンさん達が戻って来ると、コーヒーを飲みながら山小屋のクリスマスの話題で再び盛り上がる。

 マリアンさん達にとっても思い出深いと言うことなんだろうな。

 

 突然、胸ポケットに入れてあるトランシーバーが音を立てる。

 送受信モードに切り替えると、レディさんからの呼び出しのようだ。


『直ぐに研修棟に来てほしい。状況説明となればサミーが一番だからな』


『了解しました。直ぐに行きますけど、研修棟のどの部屋に向かえば?』


『玄関で案内人を待たせておくぞ!』


 思わずため息が出る。

 また面倒な話にならなければ良いんだが……。


「早く出掛けた方が良いぞ。上の連中程待たされるのを嫌がるからな」


「そうするよ。何か分かったら教えるからね!」


 防寒ジャンパーを羽織ると、玄関を飛び出しバイクに乗って研修棟へと向かう。

 やはり南だとはいえ、風を切りながら走ると体が冷えてしまう。


 研修棟の玄関横にバイクを止めると、直ぐに女性兵士が俺に向かって歩いてきた。


「サミー伍長でしょうか?」


「そうですが……。貴方が案内してくれると?」


「エミリー伍長です。ご案内いたします」


 そう言って早足で研修建屋に入っていく。

 後を急いで追いかける。そうでないと見失ってしまいそうだ。


 4階建ての研修建屋の最上階らしい。エレベーターが使えたからちょっと楽が出来た。

 この建屋のゾンビを駆逐したのがつい昨日のようだ。

 すでにゾンビは始末してあるようだけど、どこに埋めたんだろう?

 通路を歩いていたエミリーさんの足が止まる。

 軽くノックをして扉を開けると、俺を中に入れてくれた。

 正面でテーブルの地図を覗き込んでいた人物はロバート大佐だ。他の軍との調整で忙しいんじゃなかったのかな?


「敬礼は良いよ。こっちに来てくれ」


 答礼が面倒だったのかな? それとも仲間内では面倒なことは省くんだろうか?

 言われるままにテーブルに近づき、レディさんの隣の席に腰を下ろす。


「ここまで順調だとはねぇ……。他の軍隊に自慢したくなるね。私にとってもペンデルトンは思い出の地でもある。なるべく破壊をせずにゾンビを掃討してくれるのはありがたいことではあるんだが……。

 オーベル大尉。これからはそうもいかんぞ。大切なのは基地でも資材でもない、人材なのだ。ゾンビとの戦いは負傷者が極端に少ない。戦死者が殆どだからな。陸軍は正面から挑んで多くの兵士を失っているのだからな。屋内でのリトルジャックはかなり有効であることが分かっている。ゾンビの数が多いと判断したなら、直ぐに撤退してリトルジャックを送り込め」


「了解です。それでこの数字はどれほどの誤差を持っているのでしょうか?」


 答えたのは、新たにやって来た中隊長なんだろう。その問いを聞いて大佐が俺に視線を向けた。

 答えないといけないのかな?

 レディさんが肘で俺を突いているから早く答えろということなんだろう。


「サミー伍長です。先程の問いですが、その数字を出したのは俺ですから、俺が答えます。

 5までの数字はかなり確度が高い数字です。その個体数で間違いはないでしょう。5という数字については5体から10体の間。10については数体多いかもしれません。20以上に数字についてはその上の数字には達しないと考えてください。注意すべきは100です。たとえ千体以上のゾンビが建屋にいたとしても100と記載してあります」


「かなりいい加減にも思えるのだが?」


「建屋の外からゾンビの話声を聞いて推定した数字です。実際に見たわけではありませんので、概数と言うことで納得した戴きたいところです」


「あのノイズで確認した数字だと?」


 信用ならないってことかな?

 まぁ、それなら自分達で確認することになってしまうんだけどねぇ……。


「彼の告げる数字は、ゾンビの群れに近い程正確になるようだ。この建屋を制圧した時は部屋の中にいるゾンビの数と位置までも教えてくれたよ。おかげで犠牲者は今のところ出ていない」


「声で数を推定する以上、その数字は突入時の判断材料にしかならんだろう。だが、それでも無いよりは遥かにましだ」


「了解しました。彼を我等の先行偵察部隊に加えて貰うわけにはいかないでしょうか?」


「それは無理ですね。ペンデルトン基地には建屋が点在しています。それを彼に探って貰わねばなりません。通常部隊で対処できないポイントの威力偵察が我等武装偵察部隊の仕事ですからね」


 なるほど、新たにやって来た中隊との調整に大佐が来たということか。

 それほど重要な人材ではないと思うんだけどねぇ。

 目の前に何時の間にか置かれていたコーヒーを頂きながら、どうなることか傍観していよう。


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