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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-131 状況証拠だけなんだよなぁ


 夕食後に小隊長の執務室に部隊長達が集まる。

 俺がいるのが場違いに思えるんだが、ワトソン少尉から参加するようにと指示を受けてしまった。

 エディ達と一緒にエントランスでのんびりしていたかったんだけどなぁ……。

 さすがに夜は寒いから、部屋にはどこからか調達してきた石油ストーブが置いてあった。コーヒーを淹れる為なんだろう、ストーブの上に乗せてあるポットが湯気を上げている。


「さすがは精鋭揃いということになるだろう。到着早々4棟のゾンビを掃討出来たし、統率型ゾンビを2体倒すことが出来た。大佐殿が感心してくれたよ。夕刻時にやって来た連絡機で届けてくれたワインだ。エントランスの連中にも配っておいたから、これは我等で楽しんでも問題はない。キャルル、配ってくれないか」

 

 キャルルさんが小さなグラスに入れたワインを俺達の前に置いてくれた。1個グラスがのこっているのは、キャルルさんの分なのかな?

 全員の無事を祈ってグラスを掲げて一気に飲み干す。

 3本のボトルがテーブルに残っているから、後は適当にと言うことなんだろうな。


「変な奴らが加わったと思っていたが、とんでもない技量を持っているぞ。扉の外から部屋の中のゾンビの数と位置を教えてくれるんだからな」


「俺達もハンタードローンの使い方を教えて貰ったよ。あれほど位置が特定出来るとはなぁ。1つ問題があるとするなら、飛行時間が限られていることだ。偵察用ドローンにあれを搭載出来たら役立つと思うんだがなぁ」


「ハンタードローンから迫撃砲弾を取り外せば、その分バッテリーを強化できるぞ。確かもう1台あったはずだ。あれを改良すれば良いんじゃないか?」


 現場でその場のニーズに合った改良が出来る部隊ということかな?

 それも良いアイデアだと思うんだけど、それならゾンビそのものを探索できるようにした方が良いのかもしれない。

 周波数帯と帯域幅が少し違うから、それを同じ画面に表示して色を変えられればゾンビと統率型ゾンビの区別が出来るかもしれないな……。

 そうだ! 重大な事を忘れていたぞ。

 武器を持ったゾンビがいたんだっけ。あのゾンビの声を確認するのを忘れてたんだよなぁ……。


「どうしたサミー。溜息などお前らしくもない」


「大きな失敗を悔やんでたんです。これは本部と共に東海岸にも知らせた方が良いかもしれません。今日、初めて武器を持ったゾンビを確認しました」


 俺の言葉に全員の視線が突き刺さる。

 レディさんも報告を忘れていたのかもしれないな。


「どういうことだ?」


 少尉の問いに、突入前の状況と結果を報告する。


「なるほど、だがパイプを振り上げたところは見ていないんだな?」


「スタングレネードを使いましたから、その時に手放したとも考えられます。ゾンビの近くに鉄パイプが落ちていました」


「とりあえずはサンプルを送っているのだから問題は無さそうだが、現状では推定の域を出ないということか。とはいえサミー伍長がパイプを引き摺る音を確認しているとなれば信憑性は極めて高いことになる。ボルトン、これは本部には奉公しておいた方が良さそうだな。統合作戦本部には、その姿を見てからでも遅くはないだろう。案外あの島でそんなゾンビに出会う可能性もありそうだ」


「大規模な作戦を遂行しているのは我等だけでしょうからな。直ぐに連絡をしましょう」


 これで肩の荷が1つ下りた感じだ。

 タバコを取り出して火を点ける。後は指示に従えば良いだろう。


「全く彼には驚かされたよ。今回彼はM4カービンを背中に背負ったままだったぞ。あの鉄パイプでゾンビを倒すんだからなぁ。ゾンビ相手に白兵戦を挑むとは……。動きも良い。部屋に飛び込みながら受け身を取るんだ。その時に鉄パイプでゾンビを横なぎして倒したところで身を起こして頭に一撃だ。明日以降サミーと同行する際はヘルメットにカメラを付けておけよ。部下を指導するときの参考になりそうだ。少尉殿、ここにプロジェクターはあるのでしょうか?」


「撮ったのか? おもしろそうだな。準備は出来ているぞ」


 ちょっとした映写会になってしまった。

 動きが速すぎるとの言葉に、スローで再生しながら何度も食い入るように見るんだからなぁ。俺の方が恥ずかしくなってしまう。


「この動きを人間が出来るのか?」


「実際に出来てるじゃないか。だが真似は出来んな。良くも我等の先祖達は日本軍と戦えたものだ……」


「白兵戦に持ち込まれるのを避けたから勝てたようなものだ。装備が同じであるなら敗退していただろうな。硫黄島の記録を見ただろう。戦傷者数の数は我等の方が遥かに多いのだからな」


「その末裔が、ここにいるのか……」


 ポツリポツリと言葉が紡がれる。

 それだけ体を鍛えたからだと思うんだけどねぇ。日本人すべてが同じ動きが出来るとは思えないな。


「少尉殿。絶対に手放してはいけませんよ。上手い具合に武装偵察部隊として登録されているようですからね」


 厳しい目でブラッドさんがワトソンさんに詰め寄っている。

 苦笑いを浮かべながら頷いているのは、そのつもりであっても上の意向には逆らえないということなんだろうな。


「さて、それでは明日以降の計画を立てねばならん。当初の計画よりもゾンビの掃討が容易であることが分かったが、これはサミー伍長の功績が大きいことも確かだ。

 この管制建屋周辺から始めるとして、明日の午前中にサミー伍長に周辺建屋内にいるゾンビの概数を確認して貰うつもりでいる。

 建屋内にいるゾンビの数が分かるだけでも、突入時の不安が軽減されるだろう。その場にサミー伍長がいるなら、突入する扉の内側の様子まで分かるのだが、サミー伍長は1人しかいないからなぁ……。

 サミー伍長に偵察により確認されたゾンビの数が10体以下の建屋ならサミー伍長に世話にならずとも良いだろう。10体を越える建屋については突入前にサミー伍長に立ち会って貰う。50体を越える建屋であればサミー伍長が同行する。これで進めたい。

 最後に、オリバン軍曹達には、偵察ドローンで周辺のゾンビの同行を確認して貰いたい。

 建屋外を徘徊するゾンビがいるようだからな。排除を頼みたい。それと今日確認を終えた、この格納庫で整備兵達が機体の整備を始める。彼らの護衛もよろしく頼む」


 オリバンさんが小隊長に軽く頭を下げる。

 エディ達ならドローンを使えるから丁度良さそうだな。


「ペンデルトンは大規模な基地です。更なる増援は期待できるのでしょうか?」


「島の状況次第というところだ。海兵隊の担当は島の南の住宅街だから、それほど時間も掛からないだろう。そのままサンディエゴに滞在するとのことだから、状況を見てこちらに増援を派遣してくれるだろう。大佐もこの基地で訓練を受けたはずだ。規模は私達よりも詳しいだろう」


 大きい基地と言うより、大きすぎる基地と表現した方が間違いなさそうだ。いくらアメリカ人が大きいのが好きだと言っても限度があると思うんだよなぁ。

 そもそも基地の中に町を作るんだからねぇ……。あの町も気になるところだ。基地に詳しい人間なら、今でも生存している可能性があるかもしれない。


 明日の概要が定まったところで、先行偵察を行う建物が決められていく。

 しっかりとレディさんがメモに残しているから、レディさんの指示に従って偵察を進めて行けば良いはずだ。


「15建屋ですか!」


「各分隊共に3建屋を基本としたい。とはいえ、中のゾンビ次第であることは確かだ。数を優先せずに確実に行って欲しい。どの分隊がどこの施設を担当するかについてはサミー伍長達の偵察を基に判断する。レディ、朝食前に出掛けてくれんか?」


「了解しました。それほど時間は掛からないと思います」


 最後に残ったワインをもう一度皆のグラスに注いで乾杯をする。

 明日も忙しくなりそうだ。

 エントランスに降りてニック達と合流する。

さてどこで寝ようかと考えていると、3階の部屋を割り振られているとニックが教えてくれた。


「簡易ベッドが無いから床にマットを敷いて、寝袋になるらしいよ。ロッキーの山奥と違って、ここは暖かいからね。風邪をひくことは無いんじゃないかな」


「だが、まだ眠くはないだよなぁ。あれは、サミーじゃないのか?」


 エントランスに備えつけられたモニターに先ほど少尉の執務室で見た俺の姿が映っていた。

 よく見ると、少し位置が違うな。

 同行した隊員のヘルメットカメラがとらえた映像なんだろう。


「全く、お前の動きには恐れいるよ。まさか全部鉄パイプで倒したわけじゃないんだろう?」


「ワルサーを1マガジン半使ったよ。そうだ! 明日に備えて補給しとかないとな」


 背中の大きなポーチに入れといた9mmパラベラムの箱を取り出してマガジンに1発ずつ入れ始めた。


「俺達のベレッタなら1マガジンを使わないんだろうけどなぁ。不便じゃないのか?」


「終わった後の確認用だからね。離れて見て頭に外傷が無いようなら1発撃ち込むんだ。それなら間違いないからね」


「俺達もそうした方が良さそうだな。明日にでも軍曹に相談してみよう」


 一服するために窓近くのベンチに腰を下ろす。

 さすがに窓際は不用心だ。窓まで1m以上の距離があるなら噛まれる心配は無いだろう。


「基地の地図を見たんだけど、かなり大きいんだよなぁ。基地の中に小さな町が2つもあったぞ」


「海兵隊で一番大きな基地らしいよ。親父が何度か行ったことがあると聞いたことがあったな」


「全てこの人数で対処するんだろうか?」


「さすがに無理だろう。それに、そもそもが威力偵察なんだ。基地からゾンビを駆逐する作戦ではないんだよ……。とは言ってもなぁ。戦力次第で出来そうな気もするんだよね」


 俺達が集まって一服を楽しんでいると、マリアンさんがコーヒーを運んで来てくれた。


「サミーの事が評判よ。同じ部隊ということで私達にもあの動きを教えるように言われたんだけど、あれは無理だよねぇ。彼は特殊な人間だと言い聞かせたわ。皆から羨ましがられたけど、すでに定員一杯だと伝えたわ。

 船でもそうだったけど、身軽さが一番と言うことかしら? 私も少しダイエットしないと……」


 海兵隊員にダイエットは無理なんじゃないかな?

 そもそもの食事の量が多すぎるからなぁ。絶対にカロリーオーバーに違いない。それだけ海兵隊の任務が体力的にきついんだろうけど、普段からあれを食べるとなれば自主トレで余分なカロリーを燃焼させないといけないだろう。

 マリアンさん達はトレーニング嫌いさからなぁ。それでもその体型を維持しているんだから、凄いとしか言いようがないんだよなぁ。


「そうだ! ちょっと伝えたいことがあるんだ。通常ゾンビと統率型ゾンビ、今まではこの2種類だったけど……。3種類目が出て来た可能性があるんだ……」


 エディとマリアンさんに、研修建屋の3階で遭遇したゾンビの話をした。


「実際に確認したわけではないんだな?」


「ゾンビが持って襲って来たわけではない。扉越しに鉄パイプを引き摺る音を聞いたこと、それに倒したゾンビの直ぐ傍に鉄パイプが落ちていた。エディ達は今までホッケースティックモドキでゾンビに対処してきたこともあったけど、今後はなるべく避けた方が良さそうだ。射撃なら俺より上手いんだからね」


「了解だ。だが通常ゾンビが2、3体ならスティックの方が確実だし、大きな音を出さないからなぁ。バックアップが取れている時だけにするよ」


 一応危機感を覚えてくれるようだから安心できそうだな。

 だが、あの音は間違いなくパイプを引き摺る音だった。簡単な武器を手に持って襲って来るゾンビを見るのは、それほど遅くは無いんじゃないかな。


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