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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-120 やはり偵察はバイクに限る


 T字路の2つ目でバイクを止める。

 周囲を窺うと、やはりゾンビの声が大きいのは病院区画になる。他の方角はそれほど大きくは聴こえない。


「どうした? 近くにいるのか」


「近くというか、かなりの数が病院区画にいますよ。外を歩くゾンビはいませんから、建物の中にいるのでしょうが、推定300体以上は間違いないかと」


「病院の利用を考え直さねばならんかもしれんな。この角を曲がって道なりに進めばエディ達と合流出来る。先ずは現状の偵察結果を知らせれば十分だろう」


 俺達だけで病院内のゾンビを掃討するのは無理がありそうだ。偵察部隊であれば状況を知らせるだけで十分ということかな?

 再びバイクを走らせ、ハンヴィーと合流する。

 ハンヴィーの隣にバイクを止めると、ニックがコーヒーカップを渡してくれた。


「どうだった?」


「周辺はそれほどではないんだけど、病院はそうでもない。少なくとも300以上はいるぞ」


「そんなにいるのか? そうなると俺達で対処ってことは出来ないだろうな」


「状況報告をレディさんがしているよ。まだ昼前だからなぁ。今日はこれで終わりとも思えないんだけどねぇ……」


 エディがハンヴィーから降りて来て、俺の隣に来るとタバコの箱を差し出してくれた。1本抜きとると、エディもタバコを摘まみだしジッポーで俺のタバコに火を点けてくれた。

 自分のタバコにも火を点けるとジッポーをポケットに仕舞いこむ。


「だいぶ長く話をしているな。厄介な指示じゃないと良いんだけど……」


「出来ることを出来るまですれば良いとウイル小父さんが言ってたよ。無理は禁物、まだ死にたくはないからね」


 俺の呟きにエディが俺の肩をポンと叩く。笑みを浮かべているところを見ると、考えることは同じということだろう。せっかくクリスと一緒に暮らしているんだからね。死に急ぐことは無い。


『了解した。状況が判明次第連絡する』


 どうやら、新たな指示が下ったようだ。

 バギーから降りてハンヴィーに歩いて来る。

 ハンヴィーに乗った連中も、窓を開けて次の指示を聞けるようにこちらに顔を向けているようだ。


「忙しいな。次は……」

 

 全員を集めてハンヴィーのボンネットに地図を広げる。

 次の偵察はゴルフ場と住宅街を分ける道路沿いに砂洲に入口近くまでのゾンビの動きを確認するとのことだ。


「1本道だから4台で真っ直ぐ向かえば良い。サミーがゾンビの動きに気付いたらその場で停止して引き返す。戦闘目的ではないからな。終点はこのマリーナだ。大きな駐車場があるが上空からの偵察では数体のゾンビが確認できたらしい。それは我等の獲物で良いだろう」


 それなら……。

 ハンドルの補強バーのように横むきに取り付けてある棒を2本外してネジで連結する。

 ネジ山が奥に刻んであるようで、結構深く入ったから折れたり曲がったりはしないだろう。

 長さ1.2mちょっと、重さは2㎏程度だろう。表面を黒い艶消し塗料で塗ってあるから反射して目立つこともない。


「それで行くのか?」


「2体ならこれで倒します。3体以上なら、ワルサーを使いますよ」


 背中のM4カービンをバイクの側面に設けたホルダーに収めて、ストックを幅広のマジックテープで止める。これで俺の運転でも途中で落としたりはしないはずだ。


 ワルサーのホルスターも今回はサプレッサーを付けないから、蓋の無い小ぶりのホルスターだ。マガジンケースは別に下げているから直ぐ左手で引き出せる。


「あまり無茶はしないでくれよ。バックアップは任せてほしい。軍曹! 準備は出来てるか?」


 レディさんの言葉に、軍曹が銃を掲げた。すでに出来てるということだろう。


「先行します!」


 バイクを西に向かって進める。

 速度を上げた方が安定するんだけど、時速40kmほどで諦めるしかなさそうだ。あまり速度を上げると、エンジン音が大きくなるからゾンビの声を聴き取りにくくなってしまう。

 相変わらずのコオロギの音だ。草原を走っているような錯覚に陥るけど、やはり音が遠い気がするな。

 とは言っても、音が小さいだけで数はかなりのものだ。今のところ統率型ゾンビの声は聴こえない……。


 前方に2体のゾンビが道の左を歩いている。どこへ行くのだろう? ふらふらと歩いているからこの辺りを徘徊しているだけなのかな。


『前方に2体。1体は始末します。残った方はお願いしますよ!』


 トランシーバーでレディさんに連絡を入れ、『了解!』と返事が返ってきた途端、バイクの速度を上げる!

 前輪が高く上がるからその場で立ち上がってバランスを取ると、左手に持った棒を長く構えた。

 ゾンビの横を通りすぎながら棒を振るうと、ゾンビの頭部が空を飛んでいく。

 やはりバイクの速度が加わると威力が上がるな。

 かなり遅れて、銃声が聞こえてきた。もう1体をレディさんが始末してくれたのだろう。

 その場でバイクを半回転させながら止めて後方を見る。

 ちょっと唖然とした顔をしたレディさんがバギーで近づいて来る。

 ついでにと、周囲の音を確かめる。

 やはり近場にいたのは先ほどの2体だけのようだ。再び道なりにバイクを走らせる。


『サミーからレディさんへ。近くにゾンビはいないようです。先程カーブを曲がってから北側だけでなく南西方向からも声が聞こえますが、かなり遠くだと推測します』


『了解だ……。となると、あのホテル群が怪しいということになるんだろう。この先がマリーナの駐車場だ。駐車場で休憩しながら状況報告を行う。その前に再度周辺を確認して欲しい』


『了解!』と返事を送る。

 あの大きなホテルということなのかな? もったいないけど破壊した方が良さそうだ。部屋数だって100以上あるんじゃないかな。それが1つじゃないんだからなぁ。

 前方右手に駐車場が見えて来た。駐車場の奥にヨットやボートがあるから、あの駐車場が目的地ということだろう。

 だけど……。いるなぁ。ちらりと見ただけでも2体いたからね。群れてはいないけど駐車場に停めてある車を全部確認しておいた方が良さそうだ。


『サミーからレディさんへ。駐車場にゾンビがいますよ。先に倒しましょうか?』


『今回は軍曹達に譲ろう。私から連絡しておく。サミーは少し先の交差点まで進出して状況確認をしてから合流して欲しい』


 それほど先では無さそうだ。遠くに信号機が見えているからね。それより信号機が点灯していることに驚いてしまった。まだ電力が途絶えていないということなんだろう。

 火力発電所は全て止まっているはずなんだが……。


 駐車場の入り口を素通りしてそのまま進む。

 まったく自動車が走っていないから、安心してバイクを走らせることが出来る。道を彷徨うゾンビもあれから見ることはない。

 

 交差点のど真ん中でバイクを止め、周囲を観察する。北へ続く道の奥に車が渋滞しているようだ。あの辺りでゾンビに襲われたのかな?

 ちらほらゾンビの姿も北には見えるけど、距離はかなりある。

 聞こえて来るゾンビの声は、住宅街の奥からだな。もう1つは……、やはりホテルの方角だ。住宅街並みに聞こえるんだから数はかなり多いに違いない。

 ヘルメットを付けたまま周囲を眺めることで、ヘルメットの小型カメラが俺と同じ視野を記録することが出来るらしい。メモリーを回収して中隊に届ければ、俺が見逃したものまで見付けてくれるだろう。


 バイクを駐車場に向けて走らせる。5分も経たずに駐車場の中央に車を止めたレディさん達に合流することが出来た。

 レディさんと軍曹がハンヴィーのボンネットに地図を広げていた。

 バイクを止めて傍に行くと、交差点の状況を説明する。


「そうか……、病院よりもゾンビが詰まっているということだな」


「近くの住宅街よりも間違いなく数は多いです。破壊をお勧めしたいところですが……」


「それを判断するのは上の連中だからなぁ。ゾンビ騒動が治まっても泊りに来るような客はいないだろうに……」


「そこは詮索せずにいた方が良さそうだ。親戚が経営しているホテルというわけでもないだろうが……」


 エディ達はどうしたんだろうと周りを見渡すと、遠くの方で車の中を確認しているようだ。


「直ぐにゾンビは始末したんだが、車の中にもいるかもしれんからなぁ。全数確認を終えるまでコーヒーは我慢してくれよ」


「ここで待っていてくれれば十分だ。それにしても驚いたぞ。いきなりゾンビの首が飛ぶんだからなぁ」


「俺も見てたよ。マリアン達が大騒ぎだったぞ。その棒でだろう? いったいどうやったら首を切断できるのやら……」


「バイクの速度と俺のスイング速度が重なりましたからね。とはいえ、俺も飛ぶとは思いませんでした」


 出来ると思ってやったとは言わないでおこう。

 刀を使えばかなり楽なんだろうけど、ここはアメリカだからなぁ。望んでも無理な話だ。


 エディ達が帰ってきたところで、昼食の準備を始める。

 レディさんが中隊本部に状況報告をすると、しばらくして俺達の所にドローンが飛んで来た。俺とレディさんのヘルメットに付けたカメラのメモリーを交換すると、直ぐにドローンが飛び立っていく。

 

「画像分析をしながら状況確認を行うようだな。しばらくは此処で待機になりそうだ」


「あまり長時間は待機したくないですね。サミー、ゾンビが近付く様なら直ぐに教えてくれよ」


「了解です。現状では近場にあまりいないようですよ。どこかに移動しているのかもしれません」


 俺の言葉に、レディさんと軍曹が顔を見合わせる。


「他の連中なら笑い飛ばすところだが、サミーがそれを言うとなれば問題だぞ」


「統率型ゾンビを探しているとは思えん……。となると、考えられるのは……」


「反攻と言うことになる!」


 大慌てで、レディさんが中隊に推測を伝えている。

 次にトランシーバーを使った連絡先は何処なんだろう?


『……という推測が可能であると伝えられました。住宅街にかなり接近していいますがゾンビの数は数えるほどです。それだけ戦闘ヘリでの攻撃が効果的であったともいえますが、サミーが伝えるところでは遠くにかなりの数がいるとの事でした。……そうです。ところで、病院区画と南西のホテル群ですが、かなりの数のゾンビが閉じ込められているようです。病院内では約300体以上、ホテルはそれより多いとのことでした。……了解です。その時には再度連絡いたします』


 連絡を終えて少しほっとしているようだ。


「ハンタードローンを数機出すらしい。南の揚陸部隊と北の連中にも情報を伝えると言っていたから同じようにハンタードローンを飛ばすだろうな。サミー、これで少しは状況が好転するかな?」


「遅れを取ることは無いかと……。それにしても、向こうは派手ですねぇ」


 ここまで砲声が聞こえて来るんだよなぁ。小さな砲声も混じっているようだけど、砂洲の付け根付近の住宅街を叩いているのだろう。


「サミーが勧めた砲艦だな。陸軍の連中が張り切っているのだろう。案外海兵隊の砲兵も混じっているのかもしれん。小さい音は艦砲だ。1インチ口径が小さいが、カノン砲だ。明日には更地になってしまうに違いない」


 10門以上ということらしい。それで砲撃を続けているなら、レディさんの言う通りゾンビもろとも住宅街は更地になってしまうだろう。

 中途半端な砲撃ではないからね。

 だけど俺が勧めたのは、東の海軍基地を囲む住宅街だったんだけどなぁ……。


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