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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-012 今年最後の町からの調達


 ゾンビを見てから既に1カ月が過ぎようとしている。

 東に見える尾根には早くも冠雪が見られるから、1カ月先にはこの辺りは雪に埋もれるに違いない。

 朝晩は冷えるようになってきたからね。薪ストーブだけでなく、朝晩にはリビングの真ん中にある暖炉に火を点けるぐらいだ。

 とはいえ、これを暖炉と呼んで良いんだろうか?

 テーブルを退かした後には、焚火用に丸く円を描くように並べられた石積みが現れたからなぁ。

 まるで外で焚火を囲む感じなんだが、煙は焚火の上に設けられた傘のような煙突の中に吸い込まれていく。

 丸く囲んだ石は直径2m近いし、その周りを石畳のような感じに石を並べているから、火事にはならないんだろうけどねぇ。

 アメリカ人の考えることが理解できないときもあるんだよなぁ。

 ニック達は喜んでいたけど、俺とナナは呆れた表情で眺めていたのを覚えている。


「これならかなり暖かく過ごせそうだな」


「アメリカ人は冬でもTシャツで暮らすと聞いたことがあるよ。だけど、ちょっとやり過ぎなんじゃないか?」


「2階もこれで温めるんだ。冬の寒さ厳しいぞ。そのバケツに何時でも水を入れといてくれよ。場合によっては直ぐに消さねばならん」


 ウイル小父さんの言葉に、壁際に2つ並んだバケツに視線を向ける。

 消火用ということだな。何故バケツを置いとくのか、これで分かったぞ。


「まだ油断は出来ん。国道34号は、通常なら来月の中旬には閉鎖される。ロッキーの冬は甘くはないからな。来春の雪解け後に開通するんだが……、冬季にわざわざここに来る連中がいることも確かだ。もっとも来るときにはヘリを使うらしい」


 酷いところでは身長近くまで雪が降るともなれば、通常の車では来たくとも来れないからね。長い道だから、スノーモービルを使っても1日で踏破できないだろう。まさしく隔絶された地帯ということになる。


「核は十数発使われたらしい。国内のアマチュア無線家からの情報だからどこまで信用できるか疑問はある。俺達の仲間は既に待機所に籠っているからなぁ。無線機で知りえた情報を送ってくれてはいるんだが」


「18人中、上手く拠点に避難できたのは14人じゃったか。家族を含めて仲間は50人を超えている。合流はまだ先になりそうじゃな」


「半年分の食料は確保されているはずだ。少しは持ち寄っただろうし、近所からも集められるだろう。先ずは1年を上手く越さねばなるまい。ニック達に、これから一番大事な事を教えておく。

良いか……、俺達が一番恐れるものは、ゾンビではなく人間だ。ゾンビは力はあるかもしれんが知性は無さそうだ。だが人間は違うぞ。極限状態に陥った人間は自分達を守るために相手を襲うからな。

例え顔見知りだとしても信用は出来ん。ニック達が信用できる相手は、この山小屋に集まった仲間と無線の向こうにいる俺の戦友達だ」


「ああ、しっかりと頭に刻んでおくよ」


「そうしてくれよ。俺に万が一の事があれば、お前達3人が母さん達を守ることになるんだからな」


 ゾンビの攻撃から逃れて、かつ核の洗礼から逃れた人達は、小さな集団を作ることになるんだろう。

 人間は1人では生きられないからね。

 軍隊がそんな集団の統制を行っているのであれば無茶なことは出来ないだろうけど、軍隊だって限りがあるからなぁ。アメリカに暮らす3億3千万人もの人々を全て守ることは出来ないだろう。

 今までにどれぐらいの被害を受けたんだろうか?

 まさか、半分ってことは無いと思うんだけどね。


「生き残った連中が食料をどれほど集められるかで状況が変わってくるだろう。都市部なら持って3カ月。農業地帯なら1年と見るべきだろう。少なくとも雪解け前に状況は変化するはずだ」

                ・

                ・

                ・

 初雪が降ったのは11月5日の事だった。さすがに直ぐに融けてしまったが、朝晩に冷え込みは厳しくなってきたからなぁ。外に出て朝の一服を楽しむのはそろそろ止めた方が良いのかもしれない。

 リビングの真ん中の焚火に太い丸太を2本追加して、焚火の周りに置いたクッションに座る。ベンチもあるんだけど、やはりクッションに腰を下ろして足先を温めるのが一番だ。


「サミーは何時も早いのね。ニックは家だと起こさないと起きないのよ」


「もうしばらくすればここに来ると思いますよ。さっきパットに会いましたから」


「いっその事、パットと同じ部屋にさせようかしら? でも……、まだお婆さんになるのは早いわよね」


 メイ小母さんが自分の世界に入ってしまった。

 きっと膝で笑いかえる孫の姿を想像しているんじゃないかな?

 笑みがだんだん深まってくるから、ちょっと引いてしまうんだけど、今だに夢見る少女の心を持っている人なんだよね。

 だけど、俺達は今年18歳だからなぁ。アメリカという国はいろんな人がいるから10代で子持ちというのは珍しいとは言えないらしい。それほど多くは無いとは聞いたけどね。

 大学生同士の結婚は良くある話らしいから、早い人達は早いと言うことになるんだろう。その反対に、遅い人は遅いという例も沢山あるらしい。

 適齢期なんて考えはこの国ではないのかもしれないな。


 ニック達がリビングに入ってくると、さすがに自分の母親の様子が気になるようだ。

 俺に視線を向けてきたから、首を振ると小さく溜息をもらしている。


 突然メイ小母さんが辺りをキョロキョロ見て苦笑いを浮かべると、俺達に手を振って台所に歩いて行った。


「いつもの事だな。しばらくなかったんだが……」


「ニックが中々起きないと零していたぞ。パット起こしてくれるだろうと話を向けたら、ああなったんだ」


「どこまで妄想してたんだろう? サミーが庭で演武をしてたのを見た時は、結婚式に来ていくドレスを選ぶところまで行ったらしいぞ」


「それも凄いなぁ。俺のお袋は現実主義そのものだからね。話していてもつまらないんだよなぁ」


「まあ、病気ではないし、ちょっと行き過ぎるところはあるんだけど、おかげで小説の題材に困らないと言ってたよ。サミーを題材にした小説は電子出版でかなり潤ったらしいよ。『西から来た少年』ってやつだ」


「それって、クリスがいつも読んでる奴じゃないか! クリスに教えてやろうかな。『サミーに似てるんだよねぇ』っていつも言ってるぐらいだからなぁ」


 さすがにクリスも執筆者とその元ネタになった人物が自分のすぐそばにいるとは思っていないんじゃないかな?

 教えずに夢を持たせてあげれば良いと思うんだけどねぇ……。


 皆が集まると、焚火を囲んでの朝食になる。

 なんか屋内でキャンプを楽しんでいる感じだな。外はだいぶ物騒になっているんだけど。


「もう直ぐ雪に閉ざされる。今年最後の調達を町で行って来るぞ。ライル爺さんに女性達を頼んで俺とニック達で言って来る。エディはトヨタを運転してくれ。燃料ポンプを持っていけば、燃料も手に入るだろう。ガソリンはだいぶ集めたが、軽油はそれほどでもないからな」


「私も同行します。女性が必要になるものだってありますからね。医薬品も集められる時に集めておきませんと……」


 オリーさんの同行願いに、ウイル小父さんがしっかりと頷いた。

 現地で2つのグループに分かれての行動になるのかな?

 いつも携行しているリボルバーを置いて、今日はベレッタを借りて行こう。リボルバーにサプレッサーを付ける奴はいないと言われたんだよなぁ。

 説明を聞いて納得はしたんだけど、俺が撃っても当たる距離は20m以内だから今日はあのスコップの柄に活躍して貰おう。


 ウイル小父さん達の乗るピックアップトラックの後ろに、オリーさんの運転するトヨタのピックアップトラックが続く。俺はオリーさんの乗るトラックの助手席だ。

 30分も掛からずにグランドの町に到着すると、2手に分かれての物資調達を始める。

 俺達はドラッグストアと町の小さな診療所が目的だ。

 先ずはドラッグストアの駐車場に停めて、周囲をうかがう。


「2体だけですね。あの2体は前回倒したゾンビですか?」


「そうよ。形が残ってるのね。ずっと残ってるのも問題だわ」


 纏めて焼却することになりそうだな。まぁ、それは後でも良いんだろうけどね。

 トラックを下りて、荷台からスコップの柄を取り出す。

 いくら銃にサプレッサを付けているとはいえ、あまり音をたてたくないからね。とはいえ車内にはカービン銃とショットガンを乗せてある。たくさん出てきたら乱射して逃げ出すつもりだ。


 リュックを背負い、店の扉を開ける。

 既に電気が途絶しているから薄暗い店内をマグライトの明かりで素早く確認すると、奥で何かが動いた。


「1体、いますね。始末しますから、オリーさんは作業を始めてください」


「分かったわ。噛まれないでね」


 後ろを振り返ってオリーさんに頷くと、スコップの柄を握りしめゆっくりとゾンビに向かって歩いていく。

 足音を立てずに近付いたところで、大上段に構えたスコップの柄をゾンビの頭に叩き込む。

 ガツン! と良い音がしてゾンビが崩れ落ちた。

 音がすると集まるからなぁ。結構良い音がしたんだけど、大丈夫かな?


 オリーさんに手を振って、ゾンビを始末したことを告げる。直ぐにオリーさんが棚に向かって行き手、元のメモを見ながら薬の箱を買い物籠に入れている。

 近づいた俺に気付いて、ふりかえる。


「終わったわ。バックヤードを確認したいんだけど」


「良いですよ。直ぐに向かいますか?」


「こっちが済んでからで良いわ。カウンターの中を調べてみたら? タバコがあるかもしれないわよ」


 そういえばドラッグストアでもタバコを扱っていたんだよな。

 オリーさんに笑みを浮かべて頷くと、カウンターに向かった。カウンター越しに中を見ると、ゾンビは隠れていないようだ。

跳ね上げ式の扉を通って中に入ると、カウンターの下にある引き出しを開く。

 思わず笑みが浮かぶのは仕方がないよなぁ。

 近くにあった買い物籠に、タバコを詰め込む。20カートンあれば十分だろう。ついでにライルお爺さん用にパイプ用のタバコも入れておく。最後に使い捨てライターの小箱とジッポーライターそれにオイル缶を入れた。今使っている使い捨てライターのガスが切れても困ることは無い。

 カウンターを出る時にガムとキャンディを見付けたので、新たな買い物籠を取ってくると入るだけ詰め込んだ。


 カウンターから出ると、オリーさんが両手に買い物籠を持ってやってきた。先ずはこれをトラックに積み込んで、次を運び込もう。


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