H-117 ベルトの色で実力が分かるらしい
11月1日にサンフランシスコを2つの大船団が出発した。
先行した船団を率いるのは原子力空母ロナルド・レーガン。随行するミサイル艦は6隻だ。バンクーバーの強硬偵察が目的だけど、ミサイル艦3隻をアンカレッジに向かわせるようだ。生存者がいると良いんだけどね……。
サンディエゴに向かう船団は原子力空母ニミッツに強襲揚陸艦が3隻、ミサイル艦が8隻に揚陸指揮艦と補給艦等の18隻になる。
原子力潜水艦もあるらしいけど、さすがに必要はないだろう。今回はサンフランシスコで留守番を務めるらしい。
サンフランシスコを発って5時間後。俺達は揚陸指揮艦から強襲揚陸艦へとヘリで移動することになった。
七海さん達は引き続き揚陸指揮艦で作戦に従事することになるけど、俺達は先行偵察部隊の1つだからね。
小さな空母に見える強襲揚陸艦だけど、お腹に2隻のエアフロート揚陸艇を搭載しているらしい。揚陸艦の1隻はヘリボーン専用らしいのだが、今回は陸軍の大砲を甲板に並べた砲台として使われるとの事だ。
「それにしても、参加する艦船が多いよなぁ。サンフランシスコには数隻しか残っていないんじゃないか?」
「一気に島のゾンビを掃討することになるからなぁ。事前に攻撃をするとは言っても、かなり限定された攻撃になるみたいだよ」
船尾甲板で一服しながら、周りの軍艦を厭きることなく眺めている。
兵士の邪魔にならない場所で解放感があると言ったら、ここしかないらしい。直ぐ下の階では揚陸艇や荷物の点検が忙しく行われている。
揚陸艇に乗り組む海兵隊員達は、今頃作戦のブリーフィングを受けてるのかもしれないな。
「明日はいよいよだな。ヘリボーンも自信が付いたけど、大事なところで失敗する連中が必ずいると軍曹が言ってたんだよなぁ」
「訓練だと思えば良いよ。それに明日のヘリボーンは訓練した時よりも低いらしいよ。2階から降りるようなものだとレディさんが言ってた」
「それなら、あれほど高い場所から降りる訓練をしないでも良かったんじゃないか?」
ニックの言葉に俺達もコクコクと頷いて同意する。
だけど状況如何では、あれより高い場所から降下することだってあるかもしれない。今回はたまたま低い場所からの降下になるだけと考えた方が良いのだろう。
「なら、何の問題もないよ。装備が重いからなぁ。ちょっと心配だったんだ」
装備の重量は20㎏近いんじゃないかな?
予備の銃弾や食料をハンヴィーに搭載しているから、それでも軽いと軍曹が教えてくれたんだよね。俺達が初心者集団だということなんだろうけど、一緒にヘリボーンをする海兵隊の連中はどれほどの重さになるんだろう……。
「夕食は一般兵と同じってことだから少し楽しみだね」
「味は落ちるかもしれないぞ。だけど量は多いんだろうな」
レディさん達も俺達と付き合ってくれるらしい。
俺はそれほど変わらないと思うんだけどなぁ。この状況下で一部の人間だけが贅沢をするようならば士気が下がりそうだ。
強襲揚陸艦と揚陸艦の区別がつかないんだが、隣を航行する船がそうだとヘリの整備をしていた兵士が教えてくれた。小型空母に見えるのが強襲揚陸艦で、大砲を積んでない船が揚陸艦と言うことになるのかな。
双眼鏡で眺めていると、同じように見えてもちょっと違うところが合ったりと、見ていて退屈しない。
15時を過ぎた頃に、空母からたくさんの飛行機が南に向かって飛んでいく。
明日の上陸に備えての攻撃と言う事かな?
さてそろそろ船内に戻るか。
揚陸艦の中では、海兵隊員はお客さんだからね。居住区も揚陸艦の要員とは別に揚陸艇を格納したデッキの直ぐ隣にある。
1個中隊が居住できる区画には士官室のような娯楽室がある。ここは供用区画だから、大勢の海兵隊員がチェスやビリヤード、それにトランプをしたり出来る場所だ。
部屋の片隅にはコーヒーが何時でも飲めるように、コーヒーポットがホットプレートの上に乗っている。ちょっと薄めなのがありがたいところだ。
女性兵士の姿もちらほら見える。
そんな中、俺達に手を振っているのは……、マリアンさん達だな。
隣のテーブルには一緒にデンバーに出掛けた3人組もいるようだ。
さすがにマリアンさん達のテーブルに着くのは問題がありそうだから、隣のテーブルに座る。コーヒーカップ持参だから、夕食までは此処で世間話でも聞くことにしよう。
「彼がサミーなの。私よりも若いんだけど伍長なのよねぇ」
「日系人かしら? でも市民権が無いと海兵隊には入れないわね」
「日系人で良いのかな? 多分それで良いはずよ。彼らの凄いところは、銃を使わないでゾンビを倒せるのよ」
聞いている女性達が俺達に顔を向ける。視線が合ったから、軽く頭を下げておいた。
確かに棒で殴って倒したけど、聞いてる方は素手で頭蓋骨を割ったように思うんじゃないかな。説明はきちんとしないと誤解されかねない。
「ほう……。本当なのか?」
やはり聞いていた人がいたようだ。俺の傍に近寄ってきたんだけど、何時から海兵隊はグリズリーの志願を受け付けるようになったんだろう。
そんな思いが浮かぶ程人間離れした肉体の持ち主だった。ウイル小父さんを一回り大きくした感じなんだよなぁ。
「後ろから近づいて頭を棒でポカリ……、それでゾンビは動きを止めます」
「そういう事か……。だが、簡単ではないぞ。それが出来るということは、それなりの腕があるということだ。上等兵ならまだしも伍長ならば、少しは出来るだろう。ちょっとこい!」
ヒョイと摘まみ上げられてしまった。
とんでもない腕力だな。
しょうがないと思いつつ言われるままに後ろについて行くと、10m四方ほどの空間がぽっかりと開いている。
腕自慢達がここで対戦するのかな?
「さて、部隊は……、あまり聞かぬ部隊だな。ゾンビを銃を使わずに倒した男だ。誰か挑戦する者はいないのか?」
「バレット、お前にしてはよく思いとどまった。俺が相手をするよ。それで力量が分かるだろう」
「エルビン軍曹殿ですか! さすがに軍曹が相手をするのは……」
「そうでもないぞ。バレットが良く手を出さなかったと感心しているぐらいだからなぁ」
何の話だろう?
首を傾げていると、エルビン軍曹と呼ばれた人物がベルトを指差す。俺の閉めてるベルトと違って茶色だ。俺はカーキ色だし、他の連中のベルトをよく見ると色んな色を付けている。でも茶色は目の前の人物だけだ。
「柔道に黒帯と言うのがあるだろう? マーシャルアーツの技量はこのベルトで示されるんだ。初心者で銃を使わずにゾンビを倒したなら少しは実力があるはずだ。お前を連れて来たバレットは俺の1つ下の腕を持つ。俺が見る限り、バレットでは無理だと思ってな」
「それほどでもありませんが、合気道の有段者です。それと古式を少し……」
俺の言葉を聞いて、にやりと笑みを浮かべる。
「バレット、そういうことだ。合気道の有段者は中々いないぞ。お前に感謝しないといけないな。……それでは始めようか。骨を折るのは無しだ。アザは……、諦めてくれよ!」
装備ベルトを外して、近くのテーブルに置く。
エディ達も俺達を囲む兵士の中に入って前に出ようとしているみたいだ。マリアンさん達は……、テーブルの上に立って、俺達を見ている。
互いに1歩下がって構えを取る。
俺の場合は自然体だが、エルビンさんは空手の構えだな。相手の横に出ようと、互いにぐるぐるとゆっくりと回っていたが、俺が隙を見せた瞬間エルビンさんが間を詰めた。
鋭い左の突きが俺に迫る。
これを払いのけたなら、右手のカウンターが入るだろうし体を返せば回し蹴りが腹に入って来るだろう。
膝を折って体を下げると、俺の頭上を風を切りながら左の抜き手が通り過ぎる。
避けなかったら、明日は先行偵察など出来ずに医務室で唸っていたに違いない。
空振りになってしまったから、エルビンさんの体が前のめりになる。
合気道ならこの機会を逃すことは無いんだが、いやな感じがするんだよなぁ。
左手でエルビンさんの背中を叩くようにして、その場でジャンプする。
空中で一回転しながらバレットさんを見ると、右足が大きく回っている。倒れながらも次の攻撃に移っているんだが、生憎とその場に俺はいないからね。
素早く頭を動かして俺の位置を確認しているところに、落下する勢いを付けてエルビンさんの背中に足蹴りを撃ち込んだ。
着地と同時に、ドサリ! とエルビンさんの倒れる音がした。
近寄って両肩を持ち上半身を起こすと、エルビンさんがキョロキョロと辺りを見渡している。
「やはり勝負にならんか……。合気道以外に古武道と言っていたな。そっちを詳しく聞いてからやるべきだった。……だが、稽古を付けてくれてありがとう。感謝するぞ」
2人で立ち上がったところで握手を交わすと、娯楽室が爆発したかと思うような歓声が上がった。
海兵隊に悪い人間はいないとウイル小父さんが言ってたけど、根に持たれるということは無いようだ。
「それで、明日は上陸だが、俺達と一緒なのか?」
「一足先の先行偵察を仰せつかりました」
「残念だな。だが、何かあったなら俺を呼べ。必ず駆けつけるからな」
そのまま拉致されるように食堂に向かい、皆と一緒に夕食を取る。
思った通り量が多いんだよなぁ。味は良いんだけど、俺は半分で十分に思える。
お腹いっぱいの食事が終わると、ワインが出てくる。明日はいよいよ実戦だからかな?
グラス1杯のワインで大騒ぎをするんだから、結構面白い職場だと思ってしまった。
食堂から娯楽室に移動しても騒ぎは収まらないんだよなぁ。
その原因が俺とエルビンさんの試合の記録映像だった。ほぼ一瞬と言って良いほどの動きなんだけど、スローで再生しながら、俺達の動きを批評し合っている。参考にしようと考えているみたいだから向上心はかなりあるに違いない。
「何の騒ぎかと思っていたんだが、早速始めたか……」
「何度見てもあの動きは理解できませんな。まるで映画でも見ているようです」
遠くからレディさんの諦めきった呟きが聞こえてきた。
「あんな動きを見たことがあるぞ。だけどジャパニーズアニメの中だった記憶があるんだが……。そうだ! あれは『ニンジャ』そのものだ!!」
誰かが叫んでいた『忍者』という言葉に案外近いのかもしれないな。修験道の人達が編み出した武術らしいからね。それに『伊賀』、『甲賀』という忍びの集団があったことも確かだし、御祖父さんの話では『雑賀』と呼ばれる用兵集団も、同じ括りになるらしい。
もっとも雑賀は鉄砲傭兵で名を上げることになったらしいんだけど……。
大騒ぎをしたから、今夜は良く眠れそうだ。明日は朝か焼くに起きなければならない。
ベッドで目を閉じると、直ぐに睡魔が襲って来た……。




