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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-011 電磁パルス……、落としたってことらしい


 13時30分過ぎにウイル小父さん達は帰ってきた。

 生憎とスズキの四駆は無かったみたいだな。その代りにトヨタのピックアップトラックを頂いて来たそうだ。

 2台とも燃料タンクは満タンにしてきたらしいし、携帯燃料缶4つにもたっぷりと入れて来たと教えてくれた。


「これでしばらくは燃料の心配は無いんじゃないか? ガソリンはそれ以外にドラム缶に2本用意してあるんだからな」


「さすがに売店のパンは持ってこれませんでしたけど、小麦粉は5袋を積んで帰りましたよ。香辛料と塩に砂糖、ウイスキーとビールも運んで来てます」


 ニックが俺に視線を向けて小さく頷いているのは、俺達の分は別に用意しているってことだな?

 部屋で3人で飲むのは、ビールかな? それともワインかもしれないな。


「これが届きました。ここを名指しで呼んだのはこれだけですが、あの返事はしませんでした」


「了解だ。今夜にでも、俺の方から送るよ。それで、ラジオの方は?」


「大陸横断の主要な幹線を封鎖しているようじゃな。マイヤーはシャイアンから引き返しているぐらいだ。ほぼ中央までゾンビ共が移動しているということになるんじゃが……」


 早すぎるということなんだろう。

 やはり軽く噛まれたということで申告せずに後方に戻る兵士が多いということになるんだろうか。


「だいぶ広がってしまったな。これだと、大西洋に達するまでにあと10日程度になってしまうぞ。それにだ、町にもかなりのゾンビがいた。邪魔なゾンビは倒してきたが、奴らがあのままでいるとも思えない。その内にやって来るかもしれんな」


 隣のニックが小声で十数体を倒したと教えてくれた。

 やはり頭に銃弾を受ければ、それ以上動くことは無いらしい。

 

「やってくる前に、1本道に柵を作るつもりだ。空堀でも良いだろうが、そうすると俺達が車で移動できなくなるからな。柵で足止めしている間に始末できるだろう」


「数体ならそれで十分じゃろうが、纏まると厄介じゃな」


 元々グランドレイクの町の住民の数はそれほど多くは無いらしい。2千人には届かないと言っていたし、中には避難した住民もいるだろう。

 町のゾンビが同時に襲ってきたら覚悟を決めないといけないかもしれないが、ニックの話では街中で遭遇したゾンビは大きな群れを作っていないようだ。


 少し遅めの昼食を取りながらの会話がゾンビの話になってしまった。

 ちょっと食欲がなくなるけど、しっかり食べないとな。明日は柵作りで汗を流しそうだ。


 昼食が終わると、ウイル小父さん達が女性達に銃に撃ち方を教えるらしい。

 サプレッサーを付ければ銃声がかなり抑えられるとはいうものの、結構遠くにまで聞こえるんじゃないかな?

 そんな心配をしていると、エディが山に反響して位置を特定するのは無理だと教えてくれた。

 そういうことか! それなら俺も、後で教えて貰おう。


 夕食は、ライルお爺さんが山荘に来て早々に仕留めたシカ肉のステーキだった。

 俺達より5日ほど前に到着したらしいけど、その時はまだ町は住民がそれなりにいたらしい。

 今日の話を聞く限りでは、その時の住民は全てゾンビになってしまったということになるんだろう。

 如何にして他人との距離を迅速に取れたかが、生死を分ける事態になったと言ことなんだろうな。

 俺達も例え避難者が来たとしても、容易に扉を開けることが無いようにしなければなるまい。

                ・

                ・

                ・

 グランビイ湖にやって来て5日も過ぎると、ここの生活にだいぶ馴染んできた。

 毎日町に出ては、使えそうな品を物色して持ち帰るんだけど、今日は家庭菜園用のビニルハウスを手に入れた。

 野菜を作るにはこれを使わないと駄目らしいけど、一緒に土や肥料まで運ぶことになってしまった。

 野菜の種を沢山積んできたけど、全て作るには大農場になってしまいそうだ。


「携行缶にガソリンは集めたし、灯油もあるだけ運んだからな。これで冬は乗り越えられるだろう」


 スポーツ用品店のバックヤードでスキーウエアも集めてきたからね。

 たくさん集めた品物は、トンネル奥の倉庫に仕舞いこんだ。プラスチックのコンテナに入れてラベルを張っておいたから、トンネル内で店開きしないで済むだろう。


「来るたびにゾンビを倒しているけど、減った気がしないんだよなぁ」


「倒したと言っても10体程だからなぁ。目に見えて減るということは無いだろう」


 荷物を荷台に積み込みながら、エディとニックが話をしている。

 今のところ遭遇するゾンビの数が少ないからホッケーのスティックが大活躍だ。

 頭に振り下ろせば一撃で倒せるからね。

 そのスティックも予備として10本近く集めたし、おれは町のアウトドアショップでつなぐと長くなるスコップを手に入れた。スコップはどうでも良いんだが、30cmほどの長さの金属製のパイプについているネジを使って連結できるんだよね。セット2つを使って1.5mほどの棒にした。

 肉厚のパイプだけど、それほど重くはない。これなら棒術のように使えるはずだ。


「棒も良さそうだが、殴るんならスコップだぞ! 第一次世界大戦で一番活躍したのがスコップらしいからな」


 エディがそう言って柄の長さが60cmほどのスコップを荷台に放り込んでいた。

 それを使うなら、ホッケーのスティックの方がマシに思えるんだけどなぁ。


 その日の夕食を終えて、リビングで皆と寛いでいた時だった。

 突然ラジオの放送が停まり、ノイズだけが聞こえてくる。慌ててウイル小父さんが通信機に向かうとデコーダーの表示を確認する。

 ジッとデコーダーを眺めていたウイル小父さんが、その場で深く溜息をもらす。


「落としたぞ……、核だ。電磁パルスの影響範囲がどこまで広がったのか……」


「上空での爆発とは思えんな。地表付近であれば効果は限定的だ。ここの明かりは点いておるからのう」


「都市部ってことかしら? それほど被害が広がってるの?」


 小父さん達の会話が続くが、その表情はこわばっている。さすがに核を使ったということは事態がかなり悪くなっているということに違いない。


「明日は町に向かわずに柵作りを急ぐことにしょう。避難者が目指すのは核の影響の少ない地方だ」


「北西の風の季節じゃ。ロッキーの大都市は……、ソルトレイクぐらいじゃろう。あれは南西方向じゃから、こっちにフォールアウトは来ないじゃろう。備えはある筈じゃが?」


「今晩用意しておく。GMカウンターに防護複。それと全面マスクで良いだろう。皆も、しばらくは外に出ないでくれよ。部屋の窓もしっかりと閉ざしておいてくれ」


 大変なことになってしまった。

 ウイル小父さん達の話を聞く限りでは、直ぐに影響は無いようだけど確認は必要ってことに違いない。


 明日に備えて、早めに部屋に戻る。

 直ぐにベッドの入らず、床に座って町への遠征で手に入れたワインをシェラカップに注いで3人で飲み始めた。

 結構甘口だから俺にも飲めるんだよね。ビールよりこっちの方が俺にはありがたい。


「ウイル小父さん達が心配してるのは、放射能ってやつだろう? 使ったのはどう考えても大陸中央部辺りに違いないが、ここまで影響があるんだろうか?」


「それが分からないから、親父達がGM管で調べるんじゃないかな? ライルお爺さんの話ではそれほど心配は無さそうだけどね」


「心配はもう1つあるよ。放射能を浴びた人達の避難先だ。ゾンビは西から東だけど、放射能を運ぶ風は北西らしい。となると、ゾンビに逆らって避難することになる」


 さすがにゾンビは避難民として受け入れられないだろうけど、怪我をした人間なら受け入れたくなるのが人情だ。

 ゾンビに噛まれたか、それとも単なる怪我なのか分からない人間が押し寄せて来たなら、まだ生き残っている俺達のような小さな集団がたちまちゾンビ化してしまいかねない。

 俺達が明日行う柵作りは、ゾンビ以外の侵入も阻止するために違いない。


「だいぶ運んだからなぁ。2冬は越せるんじゃないか?」


「嵐が過ぎるのをじっと待つアライグマの気持ちだよ」


「「確かにな!!」」


 まだまだ俺達は元気だし、悲観もしていない。

 嵐が過ぎれば、元の生活にこの国を戻そうとする気力も持っている。


 翌日。いつものように3人揃ってリビングに向かうと、通信機に齧りついているウイル小父さんの姿があった。

 ライルお爺さんの隣のベンチに腰を下ろすと、台所からナナが俺達にコーヒーを運んでくれた。

 とりあえず朝の一服を楽しんでいると、ライル小父さんが俺達に笑みを向ける。


「フォールアウトは無いようじゃな。朝晩しばらく確認せねばなるまいが、先ずは一安心じゃ。通信はまだ復旧せんよ。ウイルはカナダと通信をしておるようじゃ。国内の大きな通信施設は被害が深刻ということなんじゃろうな」


「修理すれば何とか……、ということでしょうか?」


「たぶんそうじゃろうが、果たして修理できる者がどれほどいるのか……。原理は知らなくとも使う事は出来る。そんな連中が多いからのう」


 単なる通信電波の阻害ではなく通信機本体の影響もあるってことか。

 そうなると次の通信が送られてくるのは、かなり先になりそうだ。


「どうやら大平原辺りに十数発落としたようだ。ミシシッピイの橋を全て閉鎖して東岸を軍が監視しているらしい。渡ろうとする者は警告なしで射殺という事らしいぞ。だいぶ思い切った行動に出たな」


 ウイル小父さんが俺達のところにやってくると、投げやりな口調で呟きながら椅子に腰を下ろした。

 あまり顔色も良くないな。

 ジッと薪ストーブの中で燃える炎を見つめながらタバコに火を点けている。いつもの愉快な小父さんとは異なる人物に見えてしまう。


「西岸は避難員で溢れとるんじゃないか? そうなると暴動で済むとは思えんがのう」


「さすがに食料援助は行うだろうな。場合によってはゾンビに対する防衛手段を提供することになるだろうが、銃口をゾンビではなく橋を塞いでいる兵士達に向ける可能性もありそうだ」


 ミシシッピー河を境に、東西で対立することになってしまうのだろうか?


「陸軍は割れるじゃろうな。海軍と空軍は大統領の指揮下に入るじゃろうが、州兵となると面倒なことになりかねん」


「この辺りにも飛び火するってことなの?」


 ニックの問いに、ウイル小父さん達が俺達に顔を向けた。

 溜息を洩らしたぐらいだから、あまり希望を持てないってことかな?


「この辺りにまでやってくるとしたなら、小隊規模だろう。既に国道には仕掛けをしてあるから、やって来れば直ぐに分かる。当座はここで沈黙するさ。今日、柵作りをしながら少し偽装もしておいたほうが良さそうじゃ」


 此方から接触は求めないけど、向こうがやって来たなら銃撃戦もあり得るということかな?

 思わず3人で顔を見合わせてしまった。

 銃を撃つことは出来るけど、正規兵相手では俺達は足を引っ張りかねないからなぁ。

 それに、ゾンビならともかく、州兵に銃を向けると、後々の問題も出てきそうだ。

 しっかりと戸締りをして、身を潜めるしかなさそうだな。


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