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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-102 そんなに下手に見えるのかな


『「状況からの推察能力をこれほど持った人物がいるとは」と教授や博士達が感心してたわよ。前に4種類の遺伝子が組み込まれているようだと教えたけど、更に組み込まれている遺伝子が増えていたわ。初めて見た遺伝子だと言っていたから、特定するまではまだまだ時間

が掛かるみたい。

 ちょっとしたミーティングが研究所を巻き込んだ会議になってしまったけど、サミーの推測に皆が頷いていたから、信憑性が高まった感じね。

 添付された画像を見て、それを推察するんだから私も鼻が高いわ。

 ゾンビの動きがここまで変わるとなれば、進化の話にも納得するしかないという話になったけど、その進化の方向が問題になったわ。

 状況報告はレディの報告書で十分だけど、サミーの疑問とその答えは推測でも良いから聞かせて頂戴。

 ハイスクールの男女を助手にしてるけど、サミー達とは雲泥の差があるわ。

 とは言っても少しは動けるようになってきたから、毎日の散歩は欠かさないわよ。

 皆にも、元気だと伝えて頂戴……』


 山小屋に帰って直ぐにオリーさんにメールを送ったんだけど、5日程して返事が返ってきた。

 やはり俺の危惧は当たっていたという事かな。

 知的生物に進化するとなれば、厄介になって来るなぁ。

 統率型ゾンビが知性を持つのは何となく納得しないでもないが、そうなると通常ゾンビはどんな進化をするんだろう。さすがに知性に特化することは無いだろうが……。

 

 火のない薪ストーブ傍のベンチに腰を下ろして、キャシーお婆さんが入れてくれたコーヒーを飲む。

 一口飲んで、その美味さに頷くとストーブをテーブル代わりにして乗せる。


「のんびりしてるなぁ。休憩を終えたら手伝ってくれないか?」


「良いけど、何をしてるんだい」


「車の整備だよ。そういえば、サミーはバイクを調達してきたんじゃなかったか? あれはどうするんだい」


 シーソートロッコにエンジンを付けようとしてバイクを調達して来たんだっけ……。

 何台か運んだんだけど、ライルお爺さんが選んだのはホンダだったんだよなぁ。ヤマハは嫌いなのかな?

 あれだって良いバイクだと思うんだけどなぁ。


「俺が使わせて貰おうかな? やはり夏はバイクだからね」


「なら、整備した方が良いぞ。ウイルさんやライル爺さん達も整備をしているから、分からないところは教えて貰えるからね」


 バイクならトロッコに乗せて行けそうだな。

 周辺偵察を行うにも都合が良いだろう。ゾンビの声を聴く例の装置も、小型化出来たようだから次の輸送便で送って来るとレディさんが教えてくれた。

 ヘッドセットとヘッドホンをヘルメットに付ければ、統括型ゾンビを単騎で狩ることもできそうだ。

 

 エディ達がコーヒーブレークを終えたところで、一緒にトンネルの駐車場に向かう。

 バイクは……、シートを捲るとちゃんとあった。


「今度はバイクか! 偵察部隊の中でそんな部隊があったな」


「命知らずの連中ばかりじゃったな。だが貴重な情報を届けてくれる連中じゃったぞ」


「これならトロッコに乗せられるでしょうから、近場の偵察に使えると思いまして……」


 俺の言葉に、ライル小父さん達が顔を見合わせて頷いている。

 可能だと判断したんだろうな。


「サミーに任せると、動くものが動かなくなってしまいそうじゃ。ワシ等に任せて、お前さんはジープで町を3周してこい。ジュニアスクールの連中だって、もっとましな運転をするぞ」


 追い出されてしまった。だけど皆で笑うことは無いと思うんだけどなぁ。

 ギヤチェンジの指差し確認もしているし、カーブの手前ではちゃんとブレーキを踏んでいる。

 今年に入ってぶつけたのは道路脇の表示板のポールだけだ。

 次の日に通りかかったら、ぶつけた日時と俺の名の看板が下がってたんだよなぁ。

 まだ数枚だけど、もう今年の追加は無いんじゃないかな。


 言われるままに、一旦自室に戻りジープのエンジンキーを手に取って広場に向かった。かつてバリーさん達が住んでいたキャンピングトレーラーを入れた小屋が普段使いの車の車庫になっている。

 3つ作った小屋だけど、今ではマリアンさん達の住むキャンピングトレーラーの入った小屋だけが当時のままだ。もう1つの小屋は温室になって野菜を育てている。


 ジープのエンジンを掛けると、しっかりとシートベルトをする。何故かジープに乗る時はヘルメットを付けろと言われてるんだけど、渡されたヘルメットは戦場で使う品ではなくオートバイ用のものだった。


 さて、出掛けて来るか!

 トンネル駐車場から、俺の様子を見ているエディ達に手を振ってジープを国道に向かって走らせる。

 良い感じだ。このまま行けばレーサーにも慣れそうな気がするな。


 グランビーへの道の途中ですれ違ったピックアップトラックが大慌てで左の端に車を寄せている。

 ちらりと見た姿はレディさんのようだな。

 俺の華麗な運転にハンドル操作を誤ったかな?


 言われるままに、グランビーの町を適当に3周して山小屋に戻ってきた。

 慎重に車庫入れをして、エンジンを切る。

 ヘルメットを助手席に放り出してジープから降りるとエディ達の様子を見ようとトンネル駐車場に足を向けたんだが、誰もいないようだ。時計を見ると16時半を過ぎている。今日の作業を終えたのかな?


 山小屋のリビングに入ると、薪ストーブの周りに皆が集まっていた。

 俺を手招きしているから、開いていたエンリケさんの隣に腰を下ろす。


「無事に帰ってきたな。レディから蛇行しながら凄いスピードでグランビーに向かって行ったと聞いて、心配してたんだぞ」


「やはりレディさんでしたか。慌てて左側に車を寄せてたんですよねぇ。それほど華麗な運転ではないんですけど……」


 俺の言葉に皆が呆れた表情をしてるんだよなぁ。違ったのか?


「確認するが、今でもギヤチェンジの度にギヤの位置を指差ししながら確認しているのか?」


「その方が確実ですからね。現在のギヤ位置が分かれば安心できますし」


 エディの問いに答えたら、今度は同情するように俺を見てるんだよなぁ。


「サミー。お前が慎重であることは誰もが知っている。だがなぁ……。ギヤチェンジは右手の感触で知ることを覚えないといけないぞ」


「感触だけで、ですか? ……やってみます」


「ナナに教えた方が良いんじゃないか? 戦車ならともかく、サミーに自動車を運転させるのはゾンビよりも脅威に思えて来るんだが」


「その内に慣れるとは思っていたんだがなぁ。もう少し様子を見て、見込みが無さそうならその方が安心できそうだ」


 そんなにひどい運転なのかな? 自分では自分の制御範囲にいつもジープを置いているように思えるんだけどねぇ。


「とりあえず練習あるのみじゃな。燃料は補給の目途も付いたようじゃから、山小屋にいる時は1日1回以上は運転してみる事じゃ。それとバイクの整備は終わったぞ。明日にでも調子を見て来るが良い」


「ありがとうございます!」


 朗報だ。やはり男たるものバイクに乗れて一人前だからね。


「そうそう、オリーさんから返信がありました。可能性は高いということですから、少なくとも統率型ゾンビは俺達と同じように考えることが出来るという前提で進めた方が良さそうです。そうなると通常型がどのような進化をするのか分からないのが問題ですね」


「罠を見破ることも出来るという事か? 知恵比べになりそうだぞ」


「私からは朗報だ。ゾンビの声を聴く装置と、その位置を表示する装置、どちらも小型化された物が届いた。5セット到着したので2セットを運んで来たぞ。もう1つはサミーの考えた集団を作る前に統率型を葬る方だが運搬用ドローンを改造したようだな。上空からエンリケ殿が見たような画像を得ることが出来る。そしてその位置が分かれば、搭載した60mm迫撃砲弾を落とすことが可能だ。搭載する砲弾の数は4発だから位置が特定できたなら、かなりの確率で葬ることが出来そうだ。こちらは試作も良いところだから1台のみになる」


「群れを作る前に倒せるんだな? 明後日にデンバーに向かう。試してみよう」


 試作とは言え、名前がいるだろうということで統率型ゾンビを狩るドローンには『ハンタードローン』という名前を付けることになった。

 だけど、ハンターと言うよりボンバーなんじゃないかな?

 そんな疑問がわいたけど、ここは黙っていよう。


 ドローンが3台出動することもあり得るとのことで、各ドローンの画像をモニターに映すためのコントローラーまで付いている。2台のモニターの映像を選択できるらしいから、常時上空からの監視画像を表示できるのはありがたい。

客車の屋根にも固定アンテナが付けられ、ドローンの操作は客車内で行うことにするらしい。手元のコントローラでは画像が小さいとのことで、客車内に20インチのモニターが3台設けられるそうだ。

 明日はドローンの訓練で、七海さん達は忙しくなるに違いない。


メイ小母さん達がコーヒーを運んでくれたので、ここからは雑談になりそうだ。

 オリーさんからのメールのプリントをパット達に渡すと、3人で身を寄せ合って読んでいる。


「助手が2人も付いたの! やはり出来る女性と言う感じがしてたものね」


「さすがにジュニアスクールは無かったみたい。とは言っても、子供達にも仕事をさせているのかしら。私達と比べれば向こうは都会も良いところに思えるんだけど……」


「研究者と言う感じですね。毎日の散歩を欠かせないというのも、きっと激務から少し離れたいという事かもしれません」


 七海さん達の声を聴きながら、レディさんが苦笑いを浮かべているんだよなぁ。

 違うってことなんだろうか?


「オリーはメールを送ってくれるが、ワシ等の同志はどうしておるかのう?」


「他のコロニーと合流したらしい。合流前に連絡してくれたんだが、その後は何もない。あいつらの事だからしぶとく生き残っているとは思うんだが……」


 島でコロニーを作っていた人達と一緒になったらしいから、毎日畑仕事にいそしんでいるかもしれないな。

 今のところゾンビは水を嫌っているようだからね。

 進化の方向次第では、水がゾンビの障害とならなくなるかもしれないけど、それはずっと先の事だろう。

 先ずは生存圏を確立することが大切だ。

 それを考えると、ここは農業が難しいんだよなぁ。

 今年も、ジャガイモとトウモロコシを撒いたみたいだけど、全員が1年食べる量には程遠いからね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 自分は運転が上手く、そして慎重で問題ないと思っている初心者は、最も運転させてはいけない人種だ(笑) あれだけ洞察力があるのに、なぜ運転の客観視ができない(笑) 身体バランスはいいみた…
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