H-101 ガソリンスタンドとコンビニに寄ってみた
昼食を取りながら、ジャックとランタンの炸裂を確認する。
ジャックの方は跳躍爆弾だから、音が聞こえるだけなんだよなぁ。ペットボトルにガソリンを入れて括り付けておけばどの辺りで炸裂したか分かるんだけどねぇ……。
ランランの方はしっかりと爆炎が広がるし、直ぐに何軒かの家が燃え出すからトロッコの上からでもどの辺りに設置したかが良く分かる。
生憎と、今日は風が弱いからなぁ。延焼は期待できそうもない。
「昼食が終わったら、いつものように後退しながらグレネード弾を撃ち込めば良いってことだろうな」
「たぶん、それはもっと後になりそうだ。例のガソリンスタンドが使えるかどうか確認するんじゃないかな」
「俺達はコンビニに志願するぞ!」
ニックの言葉に、俺とエディが笑みを浮かべて頷いた。
トロッコの荷台に反対側にいたレディさんが苦笑いを浮かべているから、容認して貰えそうだな。
「だそうだ。ウイル殿も、何か欲しいものを要求しておいた方が良いぞ」
「酒だ! 後は使えそうな食料になる。バックヤードも確認するんだぞ。レディ、何人か出してやってくれんか」
「了解だ。マリアン達を随行させよう。獲物次第では応援を出さねばなるまい」
「ドローンで上空から監視するが、敵地も良いところだからなぁ。トランシーバーの電源は入れといてくれよ」
2人の話を聞いている内に、だんだんと笑みが深くなっていくのが自分でも分かる。
どんな品があるんだろうか? チェーン店だから、それほど変わった品揃えではないんだろうけど、これで残り少なくなったタバコの補充が出来るかもしれないな。
食事の後の一服を楽しんでいると、トロッコに搭乗するよう指示が出る。
いよいよガソリンスタンドに向かうのかな?
タバコを咥えたままトロッコに飛び乗ると、直ぐにトロッコが動き出した。
「ドローンによる先行偵察では、周囲にゾンビはいないようだ。だが店の中には、いると思って行動するんだぞ!」
「了解です。集音器でガソリンスタンドとコンビニを外から調べてみます。少しは安心できるでしょう」
「やってくれるか。外から分かれば助かる話だが、それを当てにするなよ」
少なくとも、ドアの近くにいないことが分かるだけでも十分じゃないかな。
ガソリンスタンドのある踏切は直ぐ傍だから、急いで集音器を組み立てることにした。
踏切を横切ったところでトロッコを止める。
万が一の逃走方向は線路だけだ。少しガソリンスタンドが遠くなったけど、150mほどだ。コンビニはもっと近い。
上空に偵察用ドローンが飛び立つ。
全体監視はウイル小父さんがトランシーバー片手にドローンのモニターを見ながら行うようだな。
エンリケさんとテリーさん、それに俺とエディ、レディさんの5人がトロッコを降りてガソリンスタンドに向かう。
ガソリンスタンド前の道路に立つと、集音器を使ってゾンビの声を聴いてみた。
音がかなり小さいな。近くにはいないみたいだ。
銃を構えたエンリケさん達がガソリンスタンドの事務所に向かう。その後を少し離れてついて行く。
扉の前に立ったエンリケさんが俺を手招きしている。
中の確認と言う事だろう。
扉に集音器を押し付けるようにして、音を聞き取ろうとしたが殆ど音が聴こえない。集音器の向きを変えると音が聞こえるから、装置の故障と言う事ではないはずだ。
「扉近くには、居ないようです。ですが、用心してください」
「確実と言うわけではないってことか。だが、少しは安心できるな。テリー、突入するぞ……3……2……1……GO!」
ノブを回して少し扉を開いたかと思ったら、銃を構えてドアを足で蹴り開けた。
素早く2人が中に入ると銃を構えて室内を確認する。
「居なかったな。結構役に立つんじゃないか」
俺に笑みを浮かべてエンリケさんが親指を立てた握り拳を突き出した。
「後は任せて良いですか?」
「ああ、そっちはコンビニだったな。タバコを1カートンで良いぞ!」
沢山見付けないと、俺達の取り分が少なくなってしまいそうだ。
「エンリケ殿。3人やって来るそうだ。1人がトランシーバーを持って来る」
「了解! 次はこの扉の向こうだな。たぶん倉庫だろう。サミー、確認してからそっちの仕事に行ってくれ」
エンリケさんが指さした扉に集音器を先ほどと同じように近付ける。
微かに音が聞こえるな……、1体では無さそうだ。
「いますね。扉近くではありませんが、何体かいるようです。数は……、2体もしくは3体だと思うんですが」
「そこまで分かるのか! 扉近くではなく、数は3体程なんだな。援軍が来たら確認しよう。ありがとう! そっちも頑張れよ」
事務所を出ると、若い兵士がやって来るところだった。
ゾンビがいることを告げると銃を掲げて問題ないと言ってくれたけど、彼らに獲物を渡すようなことはエンリケさんはしないんじゃないかな。
「そこまで分かるとなれば特技を越えているな。コンビニでも上手くやって欲しいところだ」
「了解です。エディ、任せたからな」
レディさんに答えながら顔をエディ達に向けて注意しておく。
「すでにサプレッサーを付けてるよ。ニックもいるんだ。数体ならば問題ないぞ」
「サミーに銃を持たせるよりは信頼が高いと思うぞ。だけど、居るかどうかが分かるのはサミーだからな」
コンビニに1台車が停まっている。
ゆっくりと車に近づいて中を覗いてみると、誰も乗っていなかった。
買い物に来たという事ならば、店にゾンビになって残っていそうだな。
「いるかもしれないな。サミー、ちゃんと確認してくれよ」
「やることは同じだよ。それじゃあ、始めるよ」
ガソリンスタンドと同じように、集音器をガラスが一部破れた扉に近付けようとした時だった。
いきなり敗れたガラスの穴から腕が伸びてきたから、足で蹴りを放つ。
ガシャンとガラスが破れると、すぐ隣にエディの姿があった。
店内に向かって銃弾を放つ。
バシュ! と言うくぐもった音が1度だけ聞こえた。
「驚いたな。ゾンビは1体だけみたいだ」
「ありがとう。両手が塞がってたからなぁ。やはりこれも小型化しないとヤバイな」
レディさんとニックが店内に入り、素早く陳列棚の間を確認し始めた。
集音器からはゾンビの音がしないから、頭を撃ち抜かれたこのゾンビ1体だけだったようだ。
エディと一緒にカウンターの内側に入り、奥のバックヤードと繋がる扉の前に立つ。
集音器で扉の向こう側の音を聞いてみたけど、反応はないな。
「居ないようだけど、この扉は最後にした方が良さそうだ」
「それなら、この買い物籠に品物を集めないとな」
カウンターの後ろの棚とカウンターのすぐ下の扉を開いて、使えそうな品物をドンドン籠に放り込む。
タバコがたっぷりと見つかった。全て頂くことにしよう。
「これってメディカルセットだよな。コンビニでも売ってたんだ」
「猟に行くときは必携らしいぞ。バッグに入れとけば安心だ」
日本のコンビニとは品揃えが違うんだよなぁ。拳銃弾まで出てきたからね。
使えそうな品物をどんどん籠に放り込んでいると、マリアンさんとジュリーさんがやって来た。荷物運びを仰せつかったのかな?
カウンターに並べた籠を両手に持って直ぐに出て行ったからね。
「酒はボトルだから重いんだよねぇ」
ニックが2つの籠に沢山の酒瓶を入れたカウンターに持って来た。
「ウイル小父さんが喜びそうだね。まだあるの?」
「まだまだあるよ。レディさんは別を漁っている」
俺達も手伝った方が良さそうだな。
買い物籠を手に俺が向かった先は缶詰の棚だ。
端から籠に入れていく。缶詰なら日持ちがするだろう。果物の缶詰ならお菓子作りにも重宝しそうだ。
「前より増えてる!」
ジュリーさんが驚いている。
運び人が1人増えたみたいだな。
「どうやら今日はここまでのようだ。1人2つは籠を運べるだろう。次は運搬についても考えないといけないな」
ガソリンスタンドの方も撤収を始めたのかな。
あまり姿が見えないとはいえ、ゾンビが徘徊している土地だからね。
皆で買い物籠を両手に持ってコンビニを出たんだが、俺は集音器を持っているからと言って、ナップザックを背負わされた。
最後に近くの棚にあったチョコレートを、ポケットに入るだけ入れておく。
店を出ると、少し先に燃料缶を持ったエンリケさん達が歩いている。
ハンヴィーと機関車の燃料タンクを満杯にした上で、予備のジェリ缶にも給油しただろうから、少し燃料事情が改善したということになるのかな。
「コンビニ班、戻ってきました」
「ご苦労だった。これを見てくれ。まだ群れを作るとも思えんが集まってきている」
モニターには、どんどん集まるゾンビの姿が映し出されていた。
数はまだ500体にも達していないようだが、早めにこの場所を去った方が良さそうだ。
「すでに今回の目標は達成している。戻りながら線路近くの住宅にグレネード弾を撃ち込んでいくぞ」
全員がトロッコに乗っていることを確認したところで、トロッコが西に向かって進んでいく。
たまに近くの家に炸裂焼夷弾が撃ち込まれる。
燃え残りの住宅もだいぶ少なくなってきたように思えるな。結構見通しも良くなった気がする。
「俺達が撃ちこむ住宅がないんじゃないか?」
「それだけ計画通りと言うことなんだろう。HK69は肩に来るからなぁ。あまり撃ちたくないよ」
「一応大砲みたいなものだからなぁ。それだけ反動があるってことなんだろうね」
だけど小柄なジュリーさんは苦もなく撃ってるんだよなぁ。慣れもあるんだろうか。
住宅街を過ぎたところでトロッコが止まり、ドローンを飛ばす。
気になるのは、集まっていたゾンビのその後だ。俺達を追って来るようなら、あの音を見る装置を使って統括型ゾンビを始末しないといけない。
「これか! だいぶ纏まりが無くなっているな」
「群れを作るのを止めたということだな。我等が遠ざかったのが原因と言うことになるのだが……」
「それを知る手段があるということになりますね。統括型がそんな能力を持っているとも思えませんが……。ひょっとして、ゾンビの会話に原因があるのかもしれませんよ。『噂は直ぐに伝わる』と言われるぐらいです。ゾンビ間でそんな情報を共有していると考えればある程度納得できるんですが……」
「情報のネットワークと言う事か? それと脅威の強弱の判断と言うことだな。それが本当なら、ますますゾンビを合衆国から排除するのが難しくなるぞ」
彼らの会話にどれほどの情報量があるのか分からないからなぁ。だが、それが出来るという想定で行動しないといけないだろう。
ゾンビを動かしているメデューサの進化速度が速まっているのかもしれない。
山小屋に帰ったら、オリーさんにメールを送ってみよう。