ロクサーヌ(13)
黒尽くめの男達は、動くのが早かった。
シモンもわたくしも、いつの間にか後ろ手に縛られ、ノエミ様もあっという間に捕まって縛られた。
「ううう、何か攻撃系の魔道具を開発しておくんだった!」
ジタバタしながら、ノエミ様が悔しそうに呟く。
……どういう経緯か分からないけど。ノエミ様、わたくしを助けようと来てくれたのよね?
「あ、あの、すみません、ノエミ様。なんだかとんでもないことに巻き込んでしまったみたいで」
「あ、ロクサーヌ様。いいんです、これはロクサーヌ様のせいじゃないですもん。こんなヤバくなるなんて、事前説明がなかった誰かさんのせいですからね。あとできっちり責任取らせます!」
それはヒューゴ様のことだろうか?
さっき、ノエミ様は“すぐに捕縛される”と言った。ということは、今はノエミ様一人だけど、ヒューゴ様とかに連絡してるってことよね?
だけど、わたくし達を縛ってお祖父様や黒尽くめの男達はどこかへ行き―――すぐに戻ってきて、裏口に横付けされた馬車に荷物のように押し込まれた。
「まったく。どんどん事が大きくなるではないか。……こうなってくると、もう少しきちんとした筋立てを考えねばならんな」
「お祖父様。ノエミ様を今すぐ解放してください。これ以上の罪は重ねないで」
猿轡はされなかったので、転がるわたくし達の前に座るお祖父様に、わたくしは必死で懇願する。
もう、わたくしは処刑確実だ。
ゴティエ公爵家だってお取り潰し決定だろう。
お祖父様がこんなとんでもない人だったと気付かなかったのだから、仕方がない。
でもせめて。無関係なノエミ様は助けたい。どう言えば、お祖父様は止めてくれるの?
冷ややかな視線を浴びて、わたくしは無力感をひしひしと感じながら、言葉を紡ぎ続けた───。
馬車は郊外の農作業小屋っぽいところで止まり、わたくし達は再び荷物のように運び込まれた。
中には……フードを被った人物が立っていた。その後ろには、黒尽くめの男が2人。
「面倒な事態になったようデスね」
「問題ない。ベルトランは厄介だったからな。この小娘がこちらの手に入ったことは僥倖だ。あやつらを崩す駒になる」
フードの人物は……外国人?イントネーションが独特だ。
パサリとフードを後ろに払い、現れたのは。
―――予想通りと言えるだろう。
浅黒い肌、黒い髪、赤い瞳。サッハラー王国人!
「デハ。ワタシが暗示を掛けまショウ。どういう内容にしますカ?」
「ああ、例の茶を、家族や婚約者に飲ませるようにさせるだけでいい。……その前に、何を探っていたか聞き出した方がいいな」
「ソウですネ」
赤い瞳が、不吉な三日月に形になった。笑っている……ようだけど、怖い。
唇を噛み締め、青くなっているノエミ様と2人で寄り添う。
男の右手が上がり、その上にゆらりと紫の炎が上がった。なすすべもなくて、わたくしはぎゅっと目を瞑った───。
歌のような、遠い波の音のような───不思議な旋律が辺りに広がる。
男の呪文がうわんうわんと何重にも頭の中に響いて、わたくしは次第に意識がぼんやりし始めた。
もう……ダメ…………。
ぐらりと体が揺れる。
倒れる、と思ったそのとき。
ドカン!と激しい音がして、小屋の扉が粉砕された。
え?
「ノエミ!」
「突っ走るな、ヒューゴ!」
ヒューゴ様と……マティアス様?!
ハッとお祖父様が目を見張って腰を浮かし、眼前のサッハラー人は紫の炎を消してすぐさま別の印を空に描こうとする。
が。
風のような速さでマティアス様がサッハラー人の背後に回り、腕を捻り上げていた。
「そこまでだ。抵抗するようなら、遠慮なく腕を切り落とすぞ」
「くっ……ナゼ、王太子本人がココに……」
その後ろで、ドサドサッと人の倒れる音がする。黒尽くめの男達が倒れたのだ。
まだ白く霞む視界で、わたくしは男達の横に立つ人物をなんとか確認した。
シャルル・ベルトラン公爵。
ヒューゴ様のお父様で筆頭王宮魔術師。
ああ……わたくしやノエミ様は、助かったのね…………。
すみません……土日は用事があるのでお休みして、月曜日に再開します……。





