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ヒューゴ

更新、遅くなりました……。

 父親が筆頭王宮魔術師というのは、便利なものだ。

 何故なら、魔術師は独自の情報網を構築している。それを、少々父の手伝いをすれば(といっても父の求める“少々”は、レベルがかなり高いのだが)内緒でこっそり利用させてくれるからだ。

 おかげで普通なら手に入らないか、時間の掛かる情報もあっという間に収拾できる。

 さて。

 そんな風にして以前、マティアスのために集めたロクサーヌ嬢の件で、気になるものがあった。

 彼女の祖父、オードリックがサッハラー王国の者と取り引きしている可能性があるというものだ。

 サッハラー王国は、油断のならない国である。間者をあちこちに潜り込ませ、国の内側から侵蝕するように侵略してゆく。

 もし、そんな国と取り引きしているようなら……見逃せない。

 父にもマティアスにも報告し、更に詳しく調べることになった。

 父いわく、オードリックは───あのおっとりしたロクサーヌ嬢と血が繋がっているとは思えないほど、名誉欲や金銭欲の強い御仁らしい。

 そんな厄介な人物が、マティアスの母である王妃様とも何やら絡みがあるらしく……正直、トラブルの予感しか見えない。面倒な事態に発展しないといいんだが……。


 調べれば調べるほど。

 オードリック・ゴティエという男は、ロクでもない男だった。

 10代で公爵位を継ぎ、傾きかけていた公爵家を立て直すのに、脅迫まがいのことをやっていたとか。相手の弱みを探り、それをネタに強引な売買をしていたらしい。

 ただ、相手方も弱みを握られているので、この話はあまり表には出てこない。

 とはいえ、マティアスがロクサーヌ嬢と婚約したとき一部で否定的意見が多かったのは、その辺りの件が多少は知られていたからだろう。

 一方、サッハラー王国とのやり取りについては、巧妙に隠蔽されていて詳しいことがなかなか分からなかった。

 ただ、もう一つ気掛かりな点がある。このところ急速にオードリック派になる者が増えているように見える点だ。オードリックは昔の件もあり、どちらかといえば近寄らずに済まそうとしている家が多い。それなのに、この派閥の広がり方は不気味ではないか?


「会話のコツ?」

「ああ。というより、何を話せばいいか教えて欲しい」

 オードリックの件を相談するためにマティアスと会ったら、真面目な顔でしょーもないことを頼まれた。

 どうも、ロクサーヌ嬢との会話で困っているらしい。

「そんなの、普通に自分の興味のあることを話せばいいだけだろ」

「剣術の話か?」

「……それはご令嬢にはつまらない可能性が高いな」

「だろう。……お祖母様からロキシーとはもっと話をしろと言われたんだが、ロキシーの好きそうな話題が思い付かなくてな」

 そもそもロクサーヌ嬢と話してこなかったんだから、分かるはずがない。

 そしてそれを何故、僕に聞くんだ。僕が女性経験豊富とでも思ってるのか?僕の婚約者はあのノエミだぞ。普通の女性とするような会話をしていると思うか?

 しかし、いつもマティアスに偉そうにあれこれ言っている以上、“そんなこと分かるか”とは言えない。

「まあ、あれだ。女性は自分の話ばかりする男より、話を聞いて共感してくれる男がいいらしいから。ムリに話さずにロクサーヌ嬢の方の話を聞きなよ」

「んんー……でも、お祖母様には自分のことを1つは話せ、と」

 さすがカロリーヌ様。この2人の問題を正確に把握しておられる。

「じゃあ、お前が一目惚れした話をしておけ」

「一目惚れ?!」

「ロクサーヌ嬢と初めて会って、すぐに婚約するって決めただろ。周りの反対も押し切るくらいに。あれを一目惚れと言わずしてどうする」

「そうか。一目惚れ……」

 自覚がなかったのか?

「他のご令嬢と違ってどこが印象に残ったか、ちゃんと思い出して伝えろよ」

「分かった。ありがとう、ヒューゴ。やっぱりお前は頼りになるな」

 くっ……無邪気に礼を言うな。

 

 マティアスの方は、他にも色々と動いているらしい。

 ロクサーヌ嬢の父、エルネストにも会っているようだ。

「父親の方もどうにかするつもりなのか?」

「事が大きくなる可能性がある。今後のことを考えると、エルネストを動かしておいた方が良いと思う。オードリックとは疎遠のようだからな。念のための布石だ。一応、次期公爵となるシモンも探ってみるつもりではいる」

 恋愛はポンコツだが、他はよく見えているんだな。流石だ。

 そういえば戦略戦術授業でも、いつもマティアスはトップの成績だった。僕も悪くはないのだが、どうしてもマティアスには敵わない。僕が父の跡を継いでもいいかと思えたのは、案外、マティアスのせいかも知れない。マティアスにならば……仕えるのも悪くない。

 

 ロクサーヌ嬢が夜想宮で暮らし始めてそろそろ2か月を迎えようかという頃。

 ロクサーヌ嬢も笑顔が多くなり、明るくなってきた。ただ、僕とノエミのデートに付いて行きたいと言い出すなど、恋愛ポンコツぶりはある意味、マティアスとお似合いである。

 他方で、恐れていたことが現実になってしまった。

 オードリックは、どうも薬物に手を出しているらしいのだ。サッハラー王国から麻薬効果のある茶を仕入れ、売り捌いている。

 これは、完全に重罪だ。

 明らかになれば、ロクサーヌ嬢も連座にならざるを得ない。しかももっと最悪なのは、王妃様も加わっているという点だった。これでは……マティアスも無事には済まないじゃないか。

 何故なら。

 王弟殿下が絶対に引き下がらないからだ。

 国王をその座から下ろし、マティアスの王位継承権を放棄させ、自身が王位を継ごうとするに決まっている。あの、自分のことしか考えていない虚飾の男が。

 ───王弟殿下は、前王の側妃の子である。カロリーヌ様は現王と、もう1人男児を出産されたが、その子は3歳で亡くなったらしい。そのため、周囲は側妃を娶るよう前王を説得したと言う。

 前王は、父いわく賢王だったそうだが……残念ながらその血を引く子供たちは、(現王を含め)王の器ではない者ばかり。唯一、マティアスだけが希望と言えるだろう。なのに……オードリックめ。王妃を巻き込むなんて、とんでもないことをしでかしてくれたな?!


 ところが、父は落ち着いたものだった。

「ちょうど良いな。この機会に全部、整理してしまおう」

「どう……やって…………」

「お前もまだまだ青いなぁ。マティアス殿下は、私が話す前から分かっていたぞ?……まあ、流石に逡巡はされていたが。しかし、私を含め諸大臣の総意だと申し上げると、決断なされた」

 父の立てた計画は───決して誉められたものではない。それでも、この国を守るためにはやるしかない方法だった。

 マティアスはそのためにロクサーヌ嬢を王宮へ移すらしい。リゼットにも協力を頼んだようだ。

 マティアスが腹をくくった以上、僕も清濁あわせ飲む覚悟を決めるしかない。事は、秘密裏に……拙速に動く必要がある。

 

 ───着々と準備を整えるなか、ロクサーヌ嬢がゴティエ家のタウンハウスに来たという一報がノエミから入った。ノエミも焦っているらしい、言ってる内容がいまいち分からない。

 ロクサーヌ嬢が何故……。

 そのすぐあとには、オードリックが危ない動きをしているという続報。

 猶予はなかった。僕とマティアスは、もう1人の人物を連れて大急ぎで出発をした───。

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