ロクサーヌ(9)
水、木と久々に偏頭痛がひどくて書くことができず、更新遅れました……。ごめんなさい。
王家親族の方々と晩餐会が行われることになった。
……人数を聞いて目が回りそうになる。
まず当然ながら、国王陛下ご夫妻。国外へ嫁がれた第二王女殿下は抜いて、第一王女殿下とご夫君、第三王女殿下とご夫君、そしてお子様が各一名ずつ(降嫁されたので、もう王女殿下ではないけれど)。
お二人の王弟殿下に令夫人とお子様、三名ずつ。王妹殿下(こちらも、もう殿下ではないわね)とご夫君、お子様二名。これに王妃様の兄君や弟君の奥様やお子様も加わるので……うわあ、27か28人?!
前世で、親戚の多い友人が「正月に田舎へ帰るたび、焦るのよ~!」と言っていたのをふと思い出す。甥姪の名前がこんがらかって大変らしい。よく分かる。親族だからか顔も髪色も似てて、年も近かったりすると……もう、大混乱だ。
わたくしは、前世も今世も何故か親類縁者が少ない家系に生まれている。これ、運が良かったのかも知れないわ……。
とはいえ、一応、王家親族全員の顔と名前は完璧に覚えている。王太子妃として、主要な貴族の顔に名前、身上も必ず覚えなければならないのだから当然だ。
しかし事前の予習は怠ることなかれ。だって甥姪より、女性陣がね……みな、流行りの化粧をするせいで、ビックリするくらいそっくりに見えて誰が誰か分からなくなるのよ。はー、化粧って怖いわぁ。まさに“化ける粧い”。わたくし、化粧が上手くないからコツを教えて欲しい……。
ちなみに、この晩餐会にカロリーヌ様は参加されない。
お会いしたかったな、カロリーヌ様……。
ただ。
情けない話だけど、夜想宮にいる間、何度も通っていた孤児院や施療院へは、王宮に移ってからは全く行っていない。王妃様のお茶会や買い物に付き合うより、そちらへ行く方が何倍も大切だと分かっているのに……なかなか言い出せない状況だ。
正直なところ、カロリーヌ様に会わせる顔がないとも言える。
さて、晩餐会は───有り体に言えば王妃様と王弟殿下達のバトルだった。
最初はやんわり遠回しに、次第に露骨に互いの行動を咎め合う。
「連日、商人を王宮へ呼びすぎではないのか?国庫を空にするつもりかと思われても仕方がないぞ」
「イヤだわ、まるで毎日買い物ばかりしているような言い方!商人どもが勝手に私に売り込みに来るだけですわ。そもそも私の宮の動向をあれこれ探るなど、なんて下品なのかしら。大した能もないのだから、領地経営にだけ全力を尽くされたらどう?国政は貴方達には荷が重いでしょう」
───王弟殿下は、王妃様の浪費癖が気に食わない。王妃様は、王弟殿下が陛下にあれこれ意見するのが気に食わない。要約するとそんな感じのようだ。
一方、陛下は眼前で繰り広げられるその不毛なバトルをまるで気にした様子もなく、淡々と食事をされていた。
なんというか……案外、王宮って俗物的なものね。これが国のトップかと思うと空しい気持ちになるわ。わたくしも結婚してこの中で数年過ごせば、いずれ染まるようになるのかしら?
うわあ、そうならないように気をつけなくちゃ……。
なお、この晩餐会ではそれ以上に憂鬱になることがあった。
マティアス様の隣に座るブリジット様が、やたら親しげにマティアス様と話すことだ。
マティアス様も、彼女相手の場合は他の人よりも気安く話をしているように見える。おかげで、わたくしはマティアス様と全く話すことが出来ない。
……ブリジット様は従妹よ。
嫉妬なんて、見苦しいわ。
うん、分かってる。
だけど、わたくしと二人の会話より遥かに弾んでいるようだと……胸が痛んでも仕方がないと思うの。
半分拷問のような晩餐会がようやく終わった。
わたくしは結局、その間ほぼ喋らなかった。というか、誰からも話しかけられなかったからだ。わたくしのお披露目みたいな意味もある晩餐会だと思っていたのだけれど。
それとも、わたくしから話すべきだったのかしら?
でもねえ、初めて参加したわたくしが、声を掛けられる前に自分からあっちこっちへ話し掛けるなんて……はしたないし、礼儀もなってないわよね?仕方ないので、ただただ大人しく食事をしていた。消化不良を起こしそうだわ。
さらに席から立ち上がるときには、目の合ったブリジット様がフッと口の端を歪めたのが見えた。ああ、わたくしを……嗤ったのね。
暗い気持ちで退出しかけたところ、マティアス様が追いかけてきて、わたくしの手を取った。
「マティアス様……」
「部屋まで送る」
「でも……」
後ろでブリジット様が「マティアスお兄様!」と潤んだ瞳でこちらを見ている。マティアス様は振り返ることなくわたくしを引っ張った。
「いいんだ。行こう」
いいのかしら……。
ブリジット様の殺意の篭った視線を背中に感じながら、ビクビクして廊下へ出る。
ところが廊下に出ても、簡単には部屋へ帰らせてもらえなかった。今度は王妹殿下のご夫君───バルビエ公爵がマティアス様を待ち構えていたからだ。
「マティアス。お前はもう少しまともな頭を持っていると思っていたんだがな。……あの男の孫に入れあげるとは」
「叔父上。言葉が過ぎます」
「そのうち、あの男に国を内側から壊されるぞ」
ギラッとバルビエ公爵から睨まれた。
お祖父様。
バルビエ公爵からこんなことを言われるだなんて……一体、何をなさっているの?
今回、書くのに調べたら……ご夫君の対義語ってご妻女なんですね。ご細君かと思っていました。
でもなんとなく“ご妻女”はこの世界観と合わないなぁと思ったので“令夫人”を採用。こっちも私としては微妙なんですけど。
西洋風の世界を書こうとすると、言葉の選択が難しい!





