表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/51

ロクサーヌ(7)

 王妃様主催のお茶会が開かれることになった。もちろん、わたくしも参加しなくてはならない。

 参加される方の名簿に目を通させてもらえたけれど、オフェリー様やマノン様、ヴァレリー様の名はなかった。つまり、わたくしの知っている人はいないということなので(マティアス様も公務があるので来られない)、かなり気合いを入れなければならない。

 ただ、前にマノン様に教えてもらった情報が多少は役に立ちそうだ。……参加されるほとんどの方が、派手でゴシップ大好きという点。

 うう、わたくし、その中で当たり障りない会話をできる気がしないわ~。

 

 お茶会前日に、マティアス様から美しい翠の宝石があしらわれたネックレスを頂いた。

「もっと早くにこういうものを贈っておくべきだったんだが。茶会に着けていって欲しい」

 思わぬ贈り物に、目を見張る。

「次までには、髪飾りも用意する。ただ、ロキシーの好みが分からないから……一度、一緒に店へ行こう」

 わたくしが王宮へ移ってから、マティアス様ってば気遣いが加速しているのではなくて?ど、どうしたのかしら……。こんなにマメにあれこれして頂いたら、かえって不安になってしまうわ。

 浮気を心配しているわけではないけれど。何か、後ろめたいことでもあるの?みたいな。

 

 さすが王妃様主催というべきなのだろうか。

 お茶会の参加者は30人超。わたくしは少人数のお茶会しか知らないので……広い薔薇園に幾つもテーブルが並ぶ光景に圧倒される。

 なお、席は決まっている。わたくしは王妃様が特に親しくしている年配の侯爵夫人達4人と同じテーブルだ。

 ……はぁ、緊張する。

「あら。見事なネックレスですわね、ロクサーヌ様」

 全員と軽く挨拶を済ませるなり、すぐにわたくしへ質問が始まった。

「ありがとうございます、ダビ侯爵夫人。マティアス様から頂きました」

「あらあらまあ。学院卒業時には、殿下から素敵なプロポーズをされたとか?仲がお悪いというウワサは出鱈目だったようですわね」

「ん~、若いっていいわねェ。デートもよく行くのかしら?どういうところへ?」

「ホホホ、ピエレット様、野暮なことをお聞きになってはいけないわ」

「あ~ら~、あの無口な殿下がどのような話をなさるか、あたくしは聞いてみたいわぁ。ロクサーヌ様もおしゃべり好きというワケではなさそうですし?」

「そうですわねェ。それともロクサーヌ様は、殿下とならたくさん話されるのかしらぁ」

 ……うわぁ。マノン様達と練習しておいて良かったかも。

 一斉尋問に少し余裕をもって対応できるわ。

「マティアス様は、お忙しいですから。デートする時間はほとんどありません。話も、日々の出来事をお互いに話すくらいです」

 そう答え、そっと目を伏せる。

「わたくし、お恥ずかしいことに気のきいた話が全然できなくて……できましたら、皆様に教えていただけると嬉しいのですが……」

「まあ」

 ペリン侯爵夫人が少し満足げに笑みをもらした。

「未来の王太子妃がそんなでは、いけませんわねぇ。殿方を楽しませる会話くらいできなくては」

 ───そこから延々とご夫人方の会話術指南が始まった。

 うーん、失敗したかも。違う話を振った方が良かったかしら。

 

 しばらくして、他のテーブルにも挨拶に回る。

 男の人も数人、混じっていた。公務から引退したお年の方が多いけれど、若い人も2人ほどいるようだ。

 王妃様もどういう心積りなのだろう。マティアス様も陛下もおられない茶会の席に男性を招くなんて。

 それでも、表面上は何も出さずににこやかな笑顔を貼り付ける。

「ゴティエ公爵には、お世話になっておりますでなぁ。ロクサーヌ様とも面識ができて、光栄のいたり……」

 少々締まりのないお腹の伯爵から熱烈な挨拶をされた。

 公爵って……お父様のことかしら?それとも、まさかお祖父様?

 この茶会の席で、しばしば“ゴティエ公爵”の言葉が上る。それが、どうも祖父を指しているようで気持ちが悪い。

 お祖父様は、とっくに公爵位をお父様に譲っている。公の場に父はほとんど出ていないとはいえ、“ゴティエ公爵”は父だ。お祖父様は“前公爵”か、“ロバン侯爵”と呼ばれるべきなのに(祖父は複数の爵位を持っている)。

 お祖父様よりも10才以上は年上のその伯爵は、なおもあれこれわたくしのことを誉め称えた。同じことを3回か4回は言われたような気がする。

 失礼だけど、ちょっとボケてない?なんだか目も虚ろだし。大丈夫かしら。

 若い男性も(といっても、1人は20代前半だが、もう1人は30代半ばくらいだ)、やたらわたくしを誉めた。

 20代前半くらいのアルマン・ミュレ男爵令息なんて、恭しく手の甲にキスまでしてくるので、つい平手を食らわそうかと思ってしまった。

 少しマティアス様に似た風貌をしているからって、自分は格好いい、モテてるって勘違いしてそう。

 ……ただ、よくよく見ると、男性陣は王妃様にも大袈裟なほど賛美をしていた。

 なるほど。わたくしも王妃様と同類と思われているのね。

 不愉快だわ。

リアルでは爵位は生前贈与しないようですが、この世界においては主とする爵位の生前贈与はアリという設定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミーティアノベルス様より、電子書籍化です!
第1巻:2025/03/06~
第2巻:2025/04/03~
「悪役令嬢は穏便に別れたい」
bri35okg5l665uruix5j354gmfq7_17l2_6g_94_10r4.jpg


3gwyfsed9ahukfr6csejiz4a6n5e_i3l_6g_94_16b0.jpg


第1巻では、ロクサーヌとマティアスの出会い編や、マティアスの女子寮忍び込み事件の詳細を書き下ろしています
第2巻の書き下ろしは、ロクサーヌとマティアスの愛(?)の交換日記などなど
(書影をクリックすると、amazonのページが開きます)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ