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悪役令嬢は穏便に別れたい  作者: もののめ明
2章

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カロリーヌ

 隣国より嫁いできて……ああ、気が付けば40年以上経っているかしら。

 もう故国へ帰っても、きっと私の居場所なんてどこにもないのでしょうね。だけれど、この国においても私はあまり“ここが自分の場所だ”とは感じられない。いまだに余所者だという認識だ。

 私の一番の理解者だった穏やかで優しい夫が闘病のすえ、亡くなって10年。あの人が元気で生きていたら……何か違ったのだろうか?

 今、それを知ったところで、どうしようもないけれど。

 

 王家の決まりだと言うことで、子供は自分の手で育てさせてもらえなかった。

 おかげで親子の交わりは薄く、あまりあの子を抱き締めてあげた記憶がない。

 その代わりとでも言うのだろうか?何故か、孫が幼い時分から頻繁に私の宮へは遊びにやってきた。おかげで、いつの間にか腹を痛めて産んだあの子より孫の方が可愛い存在だ。少し言葉足らずで不器用なところなど、夫と似ているから余計かも知れない。

 さて、ある日、そんな孫が自身の婚約者を私の夜想宮に置きたいと言い出した。

 ───ロクサーヌ・ゴティエ。

 ゴティエ公爵家の令嬢。

 氷像の令嬢と噂されているのは聞いたことがある。しかしそれよりも、オードリック前ゴティエ公爵の孫という方が私には気掛かりだった。

 オードリックは、若くして公爵位を継ぎ、かなり強引な手段で傾いていた公爵家を立て直した男だ。野心に満ちたあの瞳は、もう何年も会っていないのにありありと思い出せる。

 正直、あの男の孫と、可愛いマティアスが婚約なんて……と婚約時に思ったものだ。

 あまり婚約者と親しく交流していないという噂もあったが、夜想宮に連れてきたいと言ったときのマティアスの眼差しは熱く、少し意外な心地がした。

「あら。あまり婚約者と仲が良くなさそうだという噂はデマだったみたいね」

「……いや、その。実際、あまり良くはなかった」

「そうなの?じゃあ、どうして心変わりしたのかしら?」

 マティアスは罰が悪そうに視線を逸らした。

「俺がちゃんとロクサーヌと向き合ってなかったせいなんだ。婚約を解消したいとも言われた」

 呆れた。

 女が逃げようとして、それで初めて相手をちゃんと見たってことかしら。

 ついつい説教したら、マティアスは項垂れてしまった。まあ、この子は周りがあまりに姦し過ぎて、先に全部、答えが用意されてしまうものね。人の気持ちを慮るのが少々下手なのは仕方がないとも言える。王となる者がそんなでは心配だけれど(とはいえ頼りになる親友がいるのは心強い限りだ)。

「で?あなたはもうすぐ、領地研修で王都を離れるでしょう?結婚まで間があるのに、何故、夜想宮に婚約者を置いておきたいの。浮気防止なんて、心が狭いわよ」

「……ロクサーヌを家に帰したくないんだ。どうも家族から長年冷たい仕打ちを受けていたらしい。ここでお祖母さまと心穏やかに過ごすことが出来れば、少し前向きな面が出るかと思って」

 ふむ?

 どんなお嬢さんか、気になってきたわね。マティアスがこんな手配をしなくてはならないと判断するほど、家族から冷たい仕打ちを受けるだなんて……。

 オードリック前公爵の冷たい視線が、ふと脳裡をよぎった。

 

 夜想宮へやってきたロクサーヌは、マティアスの懸念がすぐに理解できるほど、自己肯定力が低く、大人しい娘だった。

 人と接するのも苦手らしく、かなり引っ込み思案。これでは王妃という大役は厳しいかも知れない。

 しかし、ロクサーヌも多少は自覚があるらしい、変わらなければという思いはあるようだ。懸命に努力している姿はなかなか健気で可愛らしかった。

 彼女は私と音楽や読書の趣味も似ている。

 そのせいもあって、夜想宮に来て3日も経てば、我が娘かと思うほど一緒にいることに馴染んでしまった。これはもう……マティアスと無事に結婚できるよう、私も全面協力していかなければなるまい。

 ただ、色々と問題はある。

 マティアスは、自分が何も言わなくても周りが意を汲み取って動くので、それを当たり前に思っている節がある。一方、ロクサーヌは気を遣いすぎ、人の心を読み取って動こうとするのだが……どうも斜め上の解釈をしたり空回りしたりするクセがある。

 おかげで、2人の間は上手くいってるのか、いってないのか、微妙だ。

 見ているこっちが恥ずかしくなるほど、マティアスはロクサーヌに惚れ込んでいるものの、お互いの認識がズレたままでは……きっと年数が経つうちに齟齬が大きくなることだろう。

 もう少し、2人で話をして理解を深めていかなければ。

 どちらも素直で良い子だが、なんと手の掛かることか……。


 ようやくロクサーヌに笑顔も増え、喋ることも多くなったと思っていたのに。

 オードリックが突然、夜想宮にやってきた。

 その後、ロクサーヌから表情が消えた。……孤児院で似たような子供をたまに見かける。虐待を受けて育った子達。

 そうか。ロクサーヌの自己肯定力が極端に低いのは、“全部、自分が駄目なせい”だと刷り込まれて育ったせいか。

 マティアスが公爵家とも王宮とも離して、私の宮に彼女を匿った理由が分かった。

 この傷は深い。簡単には癒せないだろう。

 しかし───マティアスは、オードリックに従ってロクサーヌを王宮へ移すと言い出した。

「マティアス。まだ、ロクサーヌに王宮での生活は難しいでしょう」

「分かっています、お祖母様。でも、俺が王都を離れるまでに問題を減らしておきたい。それには、もしかすると……ロクサーヌが王宮にいる方がいいが知れない」

「あなた……何をするつもりなの」

「するのは、俺じゃありませんよ。オードリックです」

 何か、考えがあるのね?

 だけど、これ以上ロクサーヌが傷付くのは可哀想だわ。

「マティアス。……ロクサーヌは、肯定されることも誉められることもなく生きてきたの。そんな人間は、なかなか愛を素直に受け取れないものよ。あなたは過剰なくらい、彼女に気持ちを伝えなさい。いいわね、どれほどロクサーヌが否定的になっても、あなたは前向きに彼女を包んであげるのよ?」

「はい。大丈夫です、お祖母様。ヒューゴにいろいろ教えてもらっていますので!」

 ……自分で考えなさい、自分で。

 まったくもう、口下手なところは祖父似なんだから。

今回、マティアス視点はないかも知れません。

もしくは最後に1回くらい、入るかな……?

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第1巻:2025/03/06~
第2巻:2025/04/03~
「悪役令嬢は穏便に別れたい」
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第1巻では、ロクサーヌとマティアスの出会い編や、マティアスの女子寮忍び込み事件の詳細を書き下ろしています
第2巻の書き下ろしは、ロクサーヌとマティアスの愛(?)の交換日記などなど
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