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ロクサーヌ(2)

 翌日の昼。

 わたくしは、さっそく計画を実行することにした。計画といっても、マティアス様に直接、婚約解消の申し出をするという単純なものだ。案外、単純な手の方がさっと進むかも知れないものね?

 昼休み、マティアス様は学園の裏庭にあるクルムの木の下にいることが多い。そこで一人、本を読んでいるのだ。

 そして、いじめにあって裏庭で泣くリゼットと話をする。これは夏前くらいに起きるイベントだっただろうか。

 裏庭へ行くと、予想通り、マティアス様は本を読んでいた。

 良かった。

 ドキドキしながら近付いて声をかけた。

「マティアス様」

「……ロクサーヌ?」

 美しい翠石色の瞳が怪訝そうに細まった。

 鮮やかな金色の髪がさらさらと風になびく。ああ、暗い色合いのわたくしとは正反対の光の塊みたいな方だわ。

「あの。読書中に申し訳ないのですが、とても大切な話をしたいのです」

「…………」

 マティアス様の眉が寄った。

 今は邪魔だと言われてしまったら困るので、何かを言われる前に急いで要件を告げる。

「マティアス様、婚約解消しましょう」

「は?……いきなり、何故?」

「わたくし達の間に愛はありません。そのうえ、氷像の令嬢と言われるほどわたくしは表情に乏しく、社交的ではない。これでは王太子妃にはふさわしくないと思ったのです」

「誰かに言われたのか」

「いえ。いろいろと自分なりに考えた結果です」

 マティアス様の前で正座し、きちんと目を見つめて言う。

 そういえば、マティアス様と視線を合わせて話すなんて初めてくらいかしら?こんなに長くセリフを言ったこともなかった気がする。

 マティアス様もそう思ったのだろう。

 なんだか不思議そうに目をぱちぱちさせた。

「俺達の間で愛など必要ないだろう。それと、王妃教育でお前は特に問題ないと聞いている。多少、社交が苦手でも周りがフォローする。変に社交的に活動されるよりそちらの方がいい」

 ……超社交的な姉王女達のことを思い浮かべているようだ。

 わたくしは唇を噛みしめながら、言葉をつないだ。

「でも……わたくし、王妃教育で褒められたことはございません。ぎりぎり及第点ということではありませんか?今のうちなら、わたくしよりもっとマティアス様に相応しい、未来の王妃たるべき方がおられると思うのです」

 というか本当に急がないと、すでに多くのご令嬢方は婚約済みだ。まあ、リゼットがいるから問題ないでしょうけど。

「まったく理由にならないな。そんなことで王やゴティエ公爵は納得しないぞ。……本音を言え。何故、急に婚約を解消したいと言い出したんだ」

 はあ。

 出会ったときからマティアス様はわたくしのことが好きではなさそうだから、簡単に話は済むかと思ったけど……そうはいかないのね。まあ、当然よね、王太子だもの。やはり責任感がおありになるのだわ。

「では、一度、2人でデートをしてみませんか?わたくし達、あまり一緒に過ごしたことがございません。夫婦になれば一緒に行動することも増えましょう?お試しデートで相性が悪いと判明するかも知れませんわ」

「……だから、相性が良かろうが悪かろうが…………」

「ある日いきなり、真実の愛を見つけたといって婚約破棄されたくないのです」

「真実の愛?」

「はい。今なら傷が浅くて済みますから」

 マティアス様は考えこまれた。

 そんなに難しく考えるほどの話ではないのに……。

「……側妃を持つなと言うことか?」

「違います。結婚して子が出来なければ、側妃も必要でございましょう。……そうではなく、マティアス様が心からお慕いする方が現れて、わたくしは邪魔だと切り捨てられる未来がイヤなのです」

「意味のない仮定だな。というか、お前の方に心から慕う誰かが出来たから婚約解消したいんじゃないのか?」

「まあ!もし、わたくしにそんな方がいたら、婚約解消していただけるのですか?」

 だったら、適当な相手を探してみても良いのだけど。まさかわたくしに慕う相手がいたら解消してもらえるなんて、考えてもいなかったわ。

 ところが、マティアス様は慌てたようにそれまで開きっぱなしだった本を閉じて、わたくしを覗きこんだ。

「馬鹿を言うな。これは俺やお前個人の好き嫌いで決める話ではないんだ。……もういい、とりあえずデートすれば納得するな?次の休みの日に行くぞ」

「わかりました。ありがとうございます」

 うーん、手強い。

 でも、これで次の作戦に取りかかれるわ。

 次の作戦は……ケバケバ女作戦よ!

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