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リゼット

 ある日、いつものように神殿でお祈りをしていたら、急に眩い光が溢れました。

 わたしの人生は、その瞬間、一変しました───。


 わたしは、貴重な光魔法の使い手なんだそうです。それまでただのリゼットだったのに、そのことが判明してから、あれよあれよと言う間に子爵家への養子が決まり、リゼット・マルタンになりました。

 そして礼儀作法や貴族の常識や考え方、生き方を一気に叩き込まれました。頭が爆発しそうな怒涛の日々を過ごし、ついには王立魔法学院に入学。こんな付け焼き刃で最終学年に編入なんて、不安しかない……と門をくぐった日のことは、一生忘れられないでしょう。

 だけど、キレイな花に見とれて つまずきかけたわたしを、金の髪の美しい王子さまが支えてくれました。

 不安が一瞬で溶けてしまうほど、まるで夢みたいな学院生活のスタートでした。


 わたしを助けてくれたマティアス王太子殿下は、本当にステキな人です。

 少々寡黙ですが、わたしのような身分の低い者も、高位の貴族の方も分け隔てなく接してくださいます。

 もちろん勉学、剣技、魔法、どの成績も優秀。そして……わたしが困っているときに、さりげなく助けてくださる。

 これで好きにならないはずがない。

 だから不躾かな、とは思わないではなかったけれど、あるとき、調理実習で作ったクッキーをお礼に渡すことにしたのです。

 緊張しながらクッキーを差し出したら……殿下はほんの少しだけ眉を寄せられました。

「俺には婚約者がいる。そういう人間に、周りが誤解するような贈り物はしない方がいい」

「あ……す、すみませんでした……」

 そっか。軽いお礼の気持ちでも良くないんだ……。


 殿下の婚約者、ロクサーヌ・ゴティエ様は、氷像の令嬢とも呼ばれている方でした。

 とても美しく凛とした方で、近寄りがたい雰囲気があります。やっぱり殿下の婚約者は、わたしみたいな庶民とは違う世界の人だなぁと実感します。

 わたしとは縁のない方だと思っていましたが……どうしてなのでしょう。わたし、ロクサーヌ様とよくトラブルを起こすようになりました。

 ぶつかることは日常茶飯事。わたしの破けた教科書はいつの間にかロクサーヌ様の机に移動してる、ペンが転がって勝手にロクサーヌ様の前で壊れる、水を掛けられる、御前の何もないところで つまずいて手に持っていた物を壊すなどなど……。

 しかも、これ、ロクサーヌ様がいるときだけなのです。他はそんなことはないんです。

 さらに、そんな場面を必ず王太子殿下に見られてしまう。

 ああああ~、これじゃ、わたしがロクサーヌ様に絡んで殿下の気を引こうとしてるみたい!そんなつもりは、全然ないのに~。

 だけどロクサーヌ様は、これだけ迷惑をかけているのにお怒りになられたことは1度もなく、毎回、丁寧に頭を下げてくださる。ううう、こっちが申し訳ないよう~。


 夏休み前。

 さすがに見かねたのでしょう。

 王太子殿下から注意を受けました。

 ……ですよね。

 アヤシイですよね。

 でも、ホンットにわたしは何もしていないんです!


 今後はロクサーヌ様を見かけても絶対、そばへ近寄らないでおこうと思っていたのに。

 夏休みのバイトで、ロクサーヌ様と一緒になりました。

 え?公爵令嬢がバイトするの?

 しかも、ほっかむりして畑を耕すなんて。

 農家のおばさんのダサい格好も、ロクサーヌ様だとまるで最新ファッション……のようには、見えませんね~。長い黒髪を無造作に束ねて、ほっかむりで顔を隠していたら、もうそこらへんの使用人と同じ。そしてそれを気になさる様子もなく泥にまみれます。意外です。

 そして、お話ししてみると、案外楽しい方だと分かりました。

 氷像の令嬢なんてウソですね。すぐ顔に出るし、お人好しだし、単純だし……可愛いです。

 おかげで、あれだけ(避けよう)と固く決意していたのに、わたし達はあっという間に友達になってしまいました。だって本当にロクサーヌ様って良い方なんですもん。

 

 夏休みが終わり、しばらくしてヒューゴ様に声をかけられました。

 ヒューゴ・ベルトラン様。マティアス王太子殿下のお友達……。

「君。最近、ロクサーヌ嬢とよく一緒にいるみたいだね?」

「はい。おそれ多くも、友達と仰っていただいてます」

 これ言っておかないと、ロキシー様は悲しそうな顔をなさるのよね~。

「友達……。そうか」

 ヒューゴ様は口をへの字に曲げて、ブツブツ。

「───あ~、それで……友達のロクサーヌ嬢は、婚約者のマティアス殿下について何か言ってない?」

「王太子殿下のことを?」

 そういえば、ロキシー様から王太子殿下の話は聞いたことないなぁ。

 なので、正直にそう答えたら、ヒューゴ様はタメ息をつきました。

「なるほど。……では、ロクサーヌ嬢とマティアス殿下のために少し手を貸してくれないか、リゼット嬢。あの2人は奥ゆかしくってね。手伝ってあげないとデートも出来ないんだ」

 ふうん……王族の方ともなると、気軽には誘ったり誘われたりできないってことなのかしら?

 

 そんなわけでヒューゴ様と共謀して、ロキシー様と王太子殿下が街でデートできるよう誘導しました。わたし、すごくいい仕事をしましたよ!

 デートから帰ってきたロキシー様は、頬が赤くソワソワしてて、ほんと、お可愛かった~。こんなロキシー様じゃ、殿下もメロメロだろうなぁ。

 実は王太子殿下には最初、ちょっとポ~ッとなったのだけど、雲の上の人すぎるので……今は純粋にロキシー様とお幸せになって欲しいって思っています。あんなに実直で真面目な王子さまだもの。ロキシー様みたいな癒される奥さまがいた方が、絶対いい。公務とか大変だろうし、貴族の付き合いって気を使うばっかりだもんね?


 だけどロキシー様はときどき、よく分からない。明らかに王太子殿下のことが好きなのに、引こうとしているように見えるんです。

 ロキシー様は可愛いし、気遣いも完璧だし、勉強や刺繍、料理もできて、そのうえお優しい。なのに自己評価が低いんですよねえ。よく陰気でつまらない女だって言われる。

 そんなことないのにぃ!

 年に1度の重要な月華祭でも、また迷惑をかけたわたしに、少しも嫌な顔をせず助けてくださって……ああ、もう、申し訳なくって仕方ないわ……。

 せめて。

 どれくらい後押しになるか分からないけど、月華祭のフィナーレの花火を王太子殿下と見れるよう、なんとかしなくっちゃ。

 あと、ランチとか、もっと一緒に過ごす時間を増やしてさしあげないと。

 どうか、ロキシー様が殿下と結ばれますように……!

誤字報告(というより脱字?)、ありがとうございます!

いっぱい いっぱいでの更新なので、誤字脱字が増えてしまったらごめんなさい~!

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