表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/51

ロクサーヌ(13)

 月華祭が始まった。

 この国の主祭神である太陽神ローア様の妻は月神ティアルーサ様。

 ティアルーサ様は夜毎にこの世界を浄化する歌を歌っている。そのため、御力が弱くなり月は欠けてゆく。

 なので、神殿では新月の日に歌や舞を奉納してティアルーサ様へ祈りを届ける。実りの秋の新月の日は、特に感謝の念をこめて盛大な豊穣祭を行い、民もみな歌や舞を奉納するのだ。

 我が学院で行う月華祭も、それと同じ。

「ドキドキしますね!」

 楽譜を手に、リゼットが落ち着かなげに言う。

 今年で3回目のわたくしでも緊張するので、リゼットはそれ以上だろう。もう完璧に覚えているはずなのに、昨日から何度も楽譜を見直している。

 わたくし達の出番は、後半だ。夕方近い。

 それまでは他の学生の舞台を見たり、校庭で賑わっている屋台を巡って過ごす。

 そして昼過ぎに一度寮へ戻った。揃いの衣装に着替えるのだ。

 しかし、リゼットは着替えずに青い顔をして わたくしの部屋に現れた。

「どうしたの?」

「ロキシー様……」

 泣きそうなリゼットに付いて彼女の部屋へ行くと―――無惨に裂かれた衣装。

 スカート部分が2ヶ所も裂かれている。

「……!!」

 ひどい。誰がこんなことを……!

「申し訳ありません……ロキシー様だけ、舞台に出てください……」

「そんな。月華祭に出ないと、成績にも影響するわ。……では、制服で出ましょう。別に衣装など、月華祭には関係ありませんもの」

 リゼットはぶんぶんと首を振った。

「ダメです、ロキシー様ほどの方が制服で出るなんて!あ、では、わたしは制服で出ます。ロキシー様はあの衣装を着てください」

「それこそ、もっと駄目よ!」

 それでは、リゼットがわたくしの引き立て役みたいじゃない。わたくしよりも、ヒロインのリゼットの方が目立つべきなのに。

 ……だけど、今から他の衣装の用意など出来ない。

 わたくしは頭を絞った。

 そうだ!午前中に見た、あの子達に頼んでみたら……。

「リゼット。少し、待っていてちょうだい」

 わたくしはリゼットの返事も待たず、寮を飛び出した。

 

 中庭を走っていたら、マティアス様に声を掛けられた。

「どうした、ロクサーヌ」

「あ、マティアス様!あの、1年生のエマ・フォーレ様を見掛けませんでしたか?」

 すると、マティアス様の横にいたヒューゴ様が校舎を指した。

「教室で、屋台で買ったものを食べていたと思うよ」

「ありがとうございます!」

 良かった、出番までに間に合いそうだわ。


 ───大急ぎで衣装を整え、わたくしとリゼットは会場へ向かった。

 ギリギリで舞台に上がる。

 トラブルと緊張のダブルパンチのためか、舞台へ上がったときにはリゼットの顔は真っ青だった。

「リゼット。大丈夫?」

 小声で話し掛ける。

 リゼットは、青い顔のまま、コクコクと頷いた。本当に大丈夫かしら?

 心配しながらも、わたくしは用意されていた椅子に座りリュートを構える。どちらにせよ、もう舞台に上がってしまった。始めなければならない。

 深呼吸をし、ゆっくりとリュートを奏でる。

 前奏が終わり、リゼットが歌い始め……なかった。はくはくと口だけが動き、目が絶望に天を仰ぐ。

(まさか緊張しすぎて、声が出ないの?!)

 どうしよう!

 わたくしもスーッと血の気が引いてゆく。

 これでは、駄目だ。

 渇いた唇を舐め、わたくしは恐る恐る歌い始めた。リゼットほど声量はないし、上手くもないけど、歌が苦手なわけではない。

 わたくしの歌に、リゼットが驚いた視線を向ける。それへ頷いたら、リゼットは何度かすうっと息を吸って、わたくしに合わせて歌い出した。

 ……うん。もう、大丈夫。


「ありがとうございました。舞台に上がったら、頭が真っ白になっちゃって」

わたくし達の演目が終わり、舞台を降りるなりリゼットが深々と頭を下げた。

「あんなにバタバタして出たんですもの。当然ですわ。気にしないで」

「ふふ、でも、ロキシー様の歌を聞ける特別な体験ができたから良かったです」

「いやだ!その記憶はすぐに消してちょうだい。会場にいた方も、リゼットの歌だけ覚えていますように~」

咄嗟の行動とはいえ、リゼットと一緒に歌うなんて。差が大きすぎて恥ずかしいにも程がある。

「何を仰られるんですか。ロキシー様の澄んだお声は、体に染み込んでくるみたいでした。こんなことなら、2人で歌いたかったです」

ううう、上手い人に誉められてもお世辞にしか聞こえないわあ。わたくしが真っ赤になって両手で顔を覆っていたら、パタパタと走ってくる足音が聞こえた。

そちらを見ると……エマ・フォーレ様だ。

フォーレ伯爵の三女、だったかしら?わたくしと同じクラスのソレーヌ様(エマ様のお姉様ね)とよく似ていらっしゃるから、とても覚えやすかった方だ。

「あ、あの、ロクサーヌ様。とても素晴らしい演奏と歌でした」

「ありがとう。それと、このベールも。無理を言って申し訳なかったわ」

「いいえ!お役に立てて良かったです!」

エマ様はうっとりと上気した顔で手を握ってきた。ん?

「まさかロクサーヌ様からお声をかけていただけるなんて夢のようで。それに……お歌もステキでした!」

い、いや、だから わたくしの歌は忘れて……!恥ずかしくって顔から火が出そうだわ。

「ええーと、あの……貸していただいたベール、洗ってお返ししますね?」

「ベールなんて、いくらでも差し上げます。いえ、返していただけるなら、洗濯しないでそのまま……」

……エマ様の目が少し怖いんですけど。

ま、まあ、きちんと洗濯して、お礼の品もつけて、後日、改めて伺おう。

 ───5人で創作舞踊を舞われたエマ様達は、衣装に長いベールを使われていた。ヒラヒラと宙を舞うベールがとても印象的で美しい舞だ。

その、グラデーションのかかった青色の薄い生地の大きなベール。わたくしはそれを借りて、二重に重ねてリゼットのスカートの破れを隠したのだ。もちろん、わたくしも同じようにベールを腰に巻いた。

わたくし達の衣装は淡い藤色。ちょうど色味も合って、急拵えには見えなかっただろう。

なかなか書き進められないんですが、そろそろ完結したいので、今週は一応、毎日更新する予定です。

筋は決まっているのに、書けないときはどうしても上手く書けない~……。

とりあえず、ここで宣言して自分を追い込みます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミーティアノベルス様より、電子書籍化です!
第1巻:2025/03/06~
第2巻:2025/04/03~
「悪役令嬢は穏便に別れたい」
bri35okg5l665uruix5j354gmfq7_17l2_6g_94_10r4.jpg


3gwyfsed9ahukfr6csejiz4a6n5e_i3l_6g_94_16b0.jpg


第1巻では、ロクサーヌとマティアスの出会い編や、マティアスの女子寮忍び込み事件の詳細を書き下ろしています
第2巻の書き下ろしは、ロクサーヌとマティアスの愛(?)の交換日記などなど
(書影をクリックすると、amazonのページが開きます)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ