ロクサーヌ(12)
区切りの関係で少し文章量少なめです。
文具店のあとは、武具屋へ。
ちなみに、ガラスペンはマティアス様が2つとも買ってしまわれた……。
「ご自分で剣の手入れをなさるんですか?」
「これも授業の一環なんだ。命を預ける武器は自分で手入れをする」
マティアス様が武具屋で購入したのは、剣の手入れ用具だ。
他に展示してある剣をわたくしも手に取って見てみたけれど、想像以上に重くてびっくりする。
「こ、こんな重いものを持って戦うのですか?!」
「重さに慣れることと体力作りのため、最初の頃はひたすら素振りだな。初めての者は、終わればスプーンすら持ち上げるのが辛くなる」
「わたくしでは、持って歩くだけでヘトヘトになりますわね。マティアス様、すごいですわ」
持って歩くといっても、両手が必要だ。とても戦えそうにない。
マティアス様は声を上げて笑われた。
「ロクサーヌは大人しく守られていればいい。そもそも、戦争を起こさないことが一番だが」
確かに。
ふと、目の前のマティアス様の二の腕に触れてみた。
固い。
「うわあ。わたくしのプヨプヨな腕とはまったく違いますね」
とても同じ成分(?)でできているとは思えない。感動していたら、マティアス様が真っ赤になって片手で顔を覆ってしまわれた。
あら?
───リゼットに頼まれていたハチミツのど飴を買うために、四ツ葉とミツバチ亭へ。
せっかくなので、ここでランチを食べることになった。
外のテラス席で頂く。
ランチセットは、わりとボリュームたっぷりだ。
「多いですわ……」
「そうか?俺には少し物足りないかな?」
そうね、マティアス様は背も高いし、あんなに立派な筋肉だもの。しっかり食べなければ足りないわ。
わたくしは自分の皿の肉を半分、マティアス様の皿へ移す。
普段ならこんなマナー違反はしないけれど、下町のお店なら皆が気にせずやっていること。
でも、マティアス様はまた赤くなって顔を覆われてしまった。
いやだ。
そんな反応されたら、わたくしもつられて赤くなってしまうじゃない。こ、これは別に友人同士なら普通のことなのに。
最後にデザートが出てきた。たっぷりのハチミツがかかったパンケーキ。
そう、これこれ、四ツ葉とミツバチ亭はこれよね!
わたくしがうっとりとしていたら、マティアス様は眉を寄せられた。
「ハチミツが多すぎる……」
「まあ!それがいいのではないですか」
わたくしの抗議に、マティアス様は翠石色の瞳をいたずらっぽく光らせる。
「俺は甘いものは苦手だ。ロクサーヌ、肉の礼に半分食べてくれ」
あら、それは嬉しいお礼…………ちょ、ちょっと待ってくださいな!?あーんはダメ、それは恋人の……
「うまいか?」
むぐぐ。た、食べてしまった……。
「ああ、一口分が少し大きかったようだな」
マティアス様の手が伸びてきた。
唇を優しくそっと拭われる。そしてマティアス様は指についたハチミツをペロリと舐め──いやぁぁぁっ!!そんな艶然と微笑まないでぇ!!!
心臓に悪いやり直しデートから数日が経った。
マティアス様とのデートはかなりドキドキしたけれど、同時にとても楽しくて……リゼットに悪い気持ちになる。
しかしリゼットは、わたくしがマティアス様と共に買い物をしたと知っても「良かったです」とニコニコ。それを見て、ふと、哀しい気持ちになった。
だって、リゼットは何も言わないけれど、ときどきマティアス様と会っているのを わたくしは知っている。
……2人の仲は、とても順調なのだ。わたくしがたった1回デートしたくらいで妬く必要もないくらい。
どうしてだろう、マティアス様とリゼットが将来結ばれることは十分理解しているのに……胸が少し痛い。
わたくしは唇を噛み締め、その痛みからそっと目を逸らした。
ようやく、ちょっと甘いのが書けたかも?!
でも、これだけなのに砂吐きそう……(꒪ཀ꒪)
さて、予定では15話程度でまとめるつもりでしたが、もうちょっと掛かりそうです。
とはいえ、そろそろ終盤に入ります。