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ロクサーヌ(10)

 秋学期の終わり頃に月華祭というものが行われる。前世の文化祭に似たものだ。学生は歌や楽器演奏、踊りなどを舞台で披露しなくてはならない。

 これは我が国では、芸事に優れていることが長所の1つに数えられるためだ。つまり必須教養というわけ。

 わたくしは、幼い頃から習わされていたリュートを弾く。さほど上手くはないが、下手でもない。他に得意なものがないのだから仕方がない。

 一方リゼットは何をするのかというと……歌うそうだ。愛らしい声はよく通るので、きっと皆が聞き惚れるだろう。

「ロキシー様。よろしければ、わたしと一緒に出てくれませんか?」

 秋学期が始まって間もない頃、リゼットからそんな提案をされた。

 ちなみに、ロキシーとはわたくしの愛称だ。わたくしを愛称で呼んでくれる友人がいるなんて、夢のようである。

「まあ!それは嬉しいわ。一人だととても緊張するから……」

「うふふ、わたしの方がもっと緊張すると思います。ロキシー様の足を引っ張るかもしれませんが……」

「いいえ、ぜひ、わたくしと一緒に出て欲しいわ」

 今まで、月華祭が楽しみだったことはないけれど、友人と一緒に出るならとっても楽しみ!


 放課後、リゼットと月華祭に向けての練習を始めた。リゼットの歌声は、予想以上に素晴らしい。さすがヒロイン。

 そんなある日、リゼットが恐る恐る尋ねてきた。

「あの、ロキシー様。夏からわたしと過ごす時間が多いのですが、婚約者のマティアス王太子殿下とのお時間は大丈夫ですか?」

 まあ!

 わたくしの方からマティアス様との進展具合を聞くつもりだったのに、リゼットから話を振ってくれたわ。これは絶好の機会ね。

「マティアス様とは、以前から一緒に過ごすことはなかったので、問題ありませんわ。リゼットの方こそ、あの……デートとか、ランチとか行かれても構わないので遠慮なく仰ってね」

「え?ええ?!そ、そんな相手、わたしにはいませんよ~」

「うふふ、わたくしはリゼットの親友ですもの。リゼットの恋は応援していますからね」

 今までこの話をしていなかったのだから、いきなり、わたくしに打ち明けるのは難しいわよね。まずはマティアス様とわたくしの間に愛はないことを徐々に知ってもらえばいいわ。

「あ、ありがとうございます?」

「ちなみに、リゼットはマティアス様のこと、どう思っていますの?」

 恋ばなってドキドキするわ~。

「え~と……王太子殿下はステキな方だと思います。文武両道ですし、わたしのような平民出身の者にも気を掛けていただきますし。何より、ロキシー様ととっても!お似合いだと思います!」

「ええ?!どこが?!」

「どこが?!……お二人とも美男美女で並んで立つだけで絵になるじゃないですか。王太子殿下は少し厳格な雰囲気なので、お優しいロキシー様がお側にいるとピッタリですね」

 リゼット……そんなに必死に誤魔化さなくていいのに……。

「わたくしみたいな陰気な女は、マティアス様に似合わないでしょう。……リゼットのような可愛らしい人が相応しいとずっと思っていますのよ」

 “ような”ではなく、“リゼット本人”が、ですけど。

「とんでもない!王太子殿下の隣は、絶対にロキシー様以外、考えられません!」

 んもう。

 リゼットってば、本当に気遣いの人なんだから。

 ま、今日はこれ以上、話を広げるのは止めておきましょう。


 休日にリゼットと街へ学用品を買いに行く約束をしていたが、当日に申し訳なさそうに「今日、少し具合が悪くて……」と言われた。

「大変!部屋に帰ってすぐにお医者様を呼びましょう!」

「あ、あ、それは大丈夫です。寝ていれば治ります。ただ、今日、一緒に買い物へ行くのは……」

「そんなことは気にしなくていいわ。じゃあ、わたくしが看病いたします。さ、部屋へ行きましょう」

 大切な友人が苦しんでいるのに、買い物なんて。

「いえ、わたしのことは気にせず、ロキシー様は街へ行ってください。新しいノートを買わないと、来週まで持たないのではありませんか?ついでに、本当に申し訳ないのですが、わたしにインクも買ってきていただけると助かります」

 うう、そうね……学用品は買いに行かなければいけないわ。この学院、購買部がないんですもの。

「わかりました。では、すぐに行って帰ってきます」

 走っていこう!と決意を固めたら、リゼットが大慌てで手を振った。

「せっかくなんですから、ゆっくりしてきてください!わたし、たぶん、このあと夕方まで寝ます。ランチして、ウィンドウショッピングもして、休日を満喫してください」

「友達が寝込んでいるのに、そんなことは出来ないわ」

「いえいえ。あとでロキシー様から良かったお店を教えてもらうのを楽しみにしていますから。あ、四ツ葉とミツバチ亭のハチミツのど飴を買ってきていただけると嬉しいかも」

 ふむふむ。月華祭も控えているから、のど飴はあった方がいいわよね。

「分かったわ……他にもリゼットに差し入れられるものがないか、探してくるわね」

「ありがとうございます。本当に本当に、わたしのことは気にせず、街を満喫してきてくださいね」

 ぼっちで楽しめるはずもないのに。

 でも、リゼットが気に病んでも困るから、少しは楽しい話題を持って帰らなくちゃ。

今週も月水金更新予定で。

次くらいから甘くなる……ハズです。たぶん。


誤字報告、ありがとうございます!

言い訳みたいでカッコ悪いですが、「周る」がよく「回る」になっています。

分かっているんです……でも何故か、この間違いが減らないんです……!

ううう、「まわる」に対する意識が低いんですかね……。

そして、最近は「かたい」の変換に毎回、悩んでます。

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