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ロクサーヌ(8)

 マティアス様から月夜の散歩に誘われたけれど、翌週からは前期試験が始まり、忙しくなった。そして、これが終われば夏休みだ。

 ……ということで、次の学期が始まるまでマティアス様に会うことはないだろう。月夜の散歩もそれまでお預けのはず。ちょっとホッとする。

 夏休みは多くの学生が家に帰る。マティアス様ももちろん、王宮へ戻られる。冬の休みに比べると短い休みとはいえ、きっと王家の社交であれこれお忙しいことだろう。

 ちなみにわたくしは───学院に残る。

 何故なら家にわたくしの居場所はないからだ。

 父は、身分の低い男爵令嬢と恋仲になり、祖父の大反対を押し切り結婚した。その2年後、母はわたくしを産むが、産後の肥立ちが悪くて父の懸命な看病の甲斐なく亡くなる。父の嘆きは深く……そのため母によく似たわたくしを厭うようになった。恐らく、わたくしを産まなければ母は死なずに済んだと思っているのだろう。

 一方で祖父は、母を認めていなかった。さらに母の死ですっかり腑抜けになった父が情けないらしい。母そっくりのわたくしが余計に憎いようだ。記憶にある限り、祖父からは憎悪の念しか向けられたことはない。

 というわけで、わたくしは新年を迎えるときに義務的に2日ほど帰る以外は、学院の寮で過ごしている。長期休みは王宮で王妃教育もあるのだが、それも寮から通っている。

 学院に入るまで息を潜めるようにして屋敷で過ごしていたので、誰にも気を使わない寮生活は幸せだ。


 なお、夏休みに入る前、気になって裏庭のクルムの木にしばらく通った。

 やはりというべきか……ある日、マティアス様とリゼットの姿を見掛けた。

 ということは、マティアス様ルート確定ということだろう。

 はああ、全然うまく進まない婚約解消計画、次はどうすれば良いかしら……。


 さて夏休みになると、わたくしは魔法物理学と薬草学の先生の研究室へ通うようになった。

 わたくしの時間は有り余っているので、先生方の研究助手みたいなことをしているのだ。実験のデータを収集して集計をしたり、資料を書き写したり。黙々と作業をするだけだが、部屋で本を読んだり刺繍をするよりは有意義な過ごし方だと思う。一応、バイト料ももらっている。

 また週に何度かは、午前中に王宮で王妃教育だ。学院へ入学するまでにある程度は修了しているので、これはそんなに大変ではない。

 今日は朝から薬草畑だ。

 カミーユ先生から借りたモンペのようなボトムスにほっかむりをして、まずは畑を耕す。

「……何度見ても、違和感あるわぁ」

 カミーユ先生がわたくしを見てしみじみ仰った。これ、毎回、言われているのではないかしら。

 ちなみにカミーユ先生は30代半ばの女教師だ。独身らしい。もっさりしたチョコレート色の髪を適当にひっつめ、度の高い眼鏡を掛けている。たぶん、きちんとドレスアップすればかなりの美女に変身するタイプだ。

「そうですか?さすがに3年目になると、この格好に愛着が湧いてまいりました」

「まあ、アタシは助かるけどね。あ、午後からもう1人、手伝いが増えるから。このクソ暑い時期に屈んで苗植えはキツいしさー、バイトを追加することにした」

「この面積を先生と2人で植えるのは大変ですものね。人が増えるのはありがたいです」

 正直、肉体労働が苦手なわたくしも人手が増えることにホッとしたのだけれど───午後、バイトとして現れたのはなんとリゼットだった。


「ロクサーヌ様……?!」

 ほっかむりしたわたくしを見て、リゼットは顎が落ちそうなほど驚いた。

 まあ、公爵令嬢がこんな格好で畑を耕してたらビックリするでしょうね。

「ロクサーヌ嬢はベテランだ。彼女の指示に従うように」

 カミーユ先生はそう言って、苗の詰まった箱を指す。

「じゃ、ちゃちゃっと植えていくか~」

 ちゃちゃっと……と言われても、薬草畑は広い。結局、夕方までみっちり苗植えは続いた。

 ふ~、明日は確実に筋肉痛よねえ。


 リゼットがバイトをしているのは、自分が育った孤児院へ寄附するためだった。

 貴重な光魔法が使えると判明し、その孤児院のある領地の子爵家へ養子に入った彼女だが、子爵家のお金ではなく、自分で稼いだお金で恩返しをしたいらしい。

 なんて……いい子なんだろう。

 しかも。

「ロクサーヌ様には、これまで何度もご迷惑をおかけして……本当にごめんなさい。けっして、わざとじゃないんです……何故か、ロクサーヌ様のそばでは失敗ばかりしてしまって……」

と恐縮して謝ってくれた。

「いいの。気にしてないわ。わたくしの方こそ、お水を掛けてしまったり、ぶつかったり……ごめんなさいね。わたくしも決して貴方にいじわるをするつもりはないのだけど……気付けば不注意で失礼なことばかり。申し訳ないわ」

「いいえ、そんな。ロクサーヌ様はいつも、わたしに気遣ってくださっているのを分かっていましたから」

 よ、良かった!

 リゼットに悪い印象は持たれていないみたい。

 ん?

 ちょっと待って。

 これってすごく重要なことじゃない?

 だってリゼットと仲良くなれば、マティアス様ルートの断罪がなくなる……のでは。

 そうよ!これよ、これ。

 マティアス様が晴れてリゼットと結ばれるときには、さっと身を引けばいいだけじゃない。

 なんだか不可解なマティアス様に無理して付き合って、早めの婚約解消にこだわることないわ。

 さっそく、リゼットと親友になりましょう。

うーん、17時投稿に間に合わなかった……。

ちなみに今週は、月水金で投稿します。


さて、甘い話を書きたくて始めたのに、ぽんこつロクサーヌが見当違いの方向へ走り出しました。

修正できるかな、私……。

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