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ロクサーヌ(1)

唐突に、発作的に、甘い話を書いてみたくなりました。

恋愛偏差値が低いので、書けるかどうか分かりませんが……無謀チャレンジに取り組みます!

 薄桃色の美しい花びらがヒラヒラと舞い散っている。そのそばで、わたくしの婚約者である王太子殿下が、ピンクブロンドの髪の可愛らしい少女を抱き留めた。ふわふわの髪をしたその少女が、咲き誇るサーラの花に気をとられて転びそうになったからだ。

 その瞬間。

 わたくしは前世の記憶を思い出した。

(あ。わたくし、死ぬの?)

 ───この世界は乙女ゲーム『星の乙女の祈り』、そしてわたくしは悪役令嬢のロクサーヌ・ゴティエ……。


 急に記憶を取り戻して気分の悪くなったわたくしは、学園の医務室で休ませてもらっていた。

 実際、顔色が真っ青になっていたらしく、周りからも「大丈夫?」とかなり心配された。正直、全然大丈夫じゃない……。

 とりあえず、状況を整理しなくては。

 わたくしは、ゴティエ公爵の一人娘、ロクサーヌ。ストレートの黒髪、薄青の瞳の……自分で言うのも何だけど、グラマラスな美人だ。

 ただ、氷像の令嬢と呼ばれるほど、いつも冷たい無表情な顔をしている。

 8才のとき、この国、ベルフォーレ王国の王太子マティアス・ルロワ様と婚約した。マティアス様との仲は……はっきりいって良くはない。わたくしは無表情であまり話さないし、マティアス様も愛想が良くないからだ。

 でもゲームのことを思い出した今なら、その理由が分かる。マティアス様は、“女嫌い”という設定だからだ。幼い頃から常に多くのご令嬢に迫られているせいもあるし、王妃殿下と3人の姉王女がみな強烈な性格なので、すっかり女性不信になってしまった、ということらしい。

 しかし、王立魔法学園に入学し、無邪気で明るいヒロインのリゼット・マルタンと出会う。他の女性と違い、裏表がなく愛らしい少女にマティアス様は少しずつ惹かれる。やがて二人は愛しあうようになり───

婚約者を取られたくないわたくし・ロクサーヌは、ありきたりだけどリゼット暗殺を企ててしまうというわけだ。で、マティアス様はそれを未然に防ぎ、わたくしを処刑してリゼットと結ばれる、という筋。

 ……いやいやいや!

 処刑て!

 実行してからではなく計画段階で捕まえるし、わたくしは公爵令嬢なのだから、せめて修道院行きで許してくれないの?

 ちなみに、宰相の息子や騎士団長の息子など、他ルートでも何故かわたくしは死ぬ。リゼットが飲むはずだった毒入りワインをたまたま間違えてわたくしが飲んだり、学園に侵入した魔獣に噛み殺されたり。火事に巻き込まれて死ぬのもあったような。

 シナリオライターは、殺したいほど憎い相手の面影をわたくしに投影して書いたのかしら?と思ってしまう。でも、さっき、正門で抱き合うマティアス様とリゼットを見てしまった。あれが起きたということは、マティアス様ルートに入った可能性が高い。夏休みまでは確定ではないけれど……でも、基本的にわたくしには死ぬしかない未来、一体どうやって回避したらいいのかしら?


 少し落ち着いたので、教室に戻った。

 今、わたくしは王立魔法学園にいる。この国の貴族は12才から15才まで、この魔法学園に入るのが一般的だ。

 わたくしは、ちょうど最終学年になったばかり。初日の今日は、授業がなくガイダンスのみだ。

 教室へ行くと、もう、ほとんど終わりかけだった。

 結局、配付された教科書や書類だけをもらう。

 同じクラスのマティアス様は、礼儀として「大丈夫か」と聞いてくれたが、わたくしが頷くとさっさとご学友とともに去ってしまった。

 わたくしは荷物を持ってとぼとぼと寮へ向かう。氷像の令嬢に、親しい友人はいない。

 ……わたくしの前世の最後の記憶は、階段から落ちるところだった。

 中流家庭で普通に育ち、容姿も頭の中身も普通。短大を卒業し、正社員になるまでに少し苦労はしたけれど、別にブラックではない会社に就職し、まあまあ普通に働いていた。ただ男運はなくて、彼氏が出来たことはなかった……。

 悲しいことに乙女ゲームくらいしか趣味はなく、(こんな風にトキメく彼氏がいたらな~)と妄想する日々だったっけ。そして、あと1週間ほどで30才を迎える───という日にたまたま風邪をひいて、病院の帰りにふらつき階段から落ちたのだ……。

 あれで、あっさり死んでしまうなんて。なんだか、わたくしの前世って面白みも何もない人生よね……。

 ちょっとタメ息が出ちゃうわ。

 寮の部屋に入って荷物を置き、ベッドに寝転んだ。制服に皺がつくけど、着替える気分にならない。

 わたくしは爵位が高いので、一人部屋だ。混乱している今は、とてもありがたい。

 はあ、それにしても……どのルートも待つのは死かぁ……。

 寮へ戻る道々、ずっと考えていたけど、何もいい案が思いつかない。

 なんとか修道院送りにならないかしら?前世の知識で役立ちそうなものは持ってないし、今世はぬくぬくと公爵の娘として育ってきたので追放になっても平民落ちになっても、わたくしは生きていけない自信がある。

 ……そうだ。

 さっさとマティアス様に婚約破棄してもらったらどうかしら?

 今なら、リゼット暗殺なんて計画はないのだもの、今のうちの婚約破棄なら、確実にマティアス様ルートの処刑は免れる。

 で、王太子殿下との婚約破棄は、体面を気にするお祖父様が絶対に怒る案件だ。こんな恥ずかしい孫娘は表には出しておけないと、すぐに学園を退学させられて、田舎の領地か修道院へ閉じ込めるんじゃないかしら。そもそもお祖父様は、わたくしのことが大嫌いだもの。マティアス様との婚約がなければ、今も田舎の領地に閉じ込められたままだったわ。

 うん。

 いいんじゃない?急いで婚約破棄をしましょう!

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第1巻:2025/03/06~
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「悪役令嬢は穏便に別れたい」
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第1巻では、ロクサーヌとマティアスの出会い編や、マティアスの女子寮忍び込み事件の詳細を書き下ろしています
第2巻の書き下ろしは、ロクサーヌとマティアスの愛(?)の交換日記などなど
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